2008-2009 日本選手権 対 NECグリーンロケッツ

2009.02.14

 終了間際にトライとゴールを奪われ、ノーサイドを迎える。しかし、リコーブラックラムズの面々は拳を突き上げた。

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 24対23。2009年2月15日、秩父宮ラグビー場で行われた日本選手権2回戦で、トップリーグ(TL)5位のNECグリーンロケッツに勝利する。TL創設の03年度以降、学生を含めた下部リーグのチームが同リーグ勢を破るのは3度目のことだった。

ゲーム主将を務めたHO滝澤佳之は、試合後の記者会見を終え、鉛のような「疲れた」という声を漏らす。「今日はリーダーが沢山いた。こういう時は、やっぱり強いですよね」と言い残し、アフターマッチファンクションへ向かった。

2月7日、リコーは選手権1回戦で学生の帝京大学相手に25対25の同点、苦戦を強いられた。

トライ数差で何とか2回戦進出を決めたが、滝澤は試合後の会見で「次、闘うかどうかを(選手全員で)話し合って決めたい」と言い放つ。自身も含め、一人ひとりが「人任せ」だったことが何より気になった。

その滝澤を乗せずに出発した帰りのバスで、トッド・ローデンHCも選手に辛辣な言葉を発す。週明けのミーティングでも、「ここまで充分いいシーズンだった。止めたい奴は止めていい」と言ったという。

選手は奮起する。WTB小松大祐は言った。「特にタキさん(滝澤)の言葉が頭に残っている。やらなきゃ、と思いました」と。

また、帝京大戦前はローデンHC曰く「戦術の確認をしたかったから」と、出場メンバーら『ブラックチーム』と控え選手ら『ホワイトチーム』を分けてトレーニングする日が多かった。練習量の軽い日もあった。が、NEC戦に向けては、もはや通例となったハードな日々を皆で送る。滝澤によれば「このチームは気持ちがすべて」。練習を全員で行い、連帯感を高める事に、大きな意義があった。

2日前の練習。『ブラック』と『ホワイト』で、試合形式の練習を繰り返していた。プレーの合間には指示が飛び交う。誰かがいい動きを見せれば、それを「ナイス!」と称える声も出る。

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 選手個々のリーダーシップを促したいからと、最近は練習にあまり口を挟まないローデンHCは、振り返った。

「Happy very well! (NEC戦は)この前(帝京大戦)とは全く違ったチームが見られると思います」

前回は主将という役割もあって「周りを気にしすぎた」という滝澤も、自身の働きに集中した。食らいつく相手を引きずり、トライラインへと足を掻く。試合さながらの熱量を示した。

――次はどんな試合にしたいですか。

「結果はどうあれ、出た選手が、終わったときに胸を張れるようにしたいです」

試合直前。心の中で再度、反芻した。「人任せにしない。勝ち負けではなく、試合に出られないメンバーやファンの人にしっかりしたプレーを観て貰いたい」。ウォーミングアップ場からロッカールームへの薄暗い通路、ベンチ外メンバーの花道を、涙を浮かべて通過した。

公式記録によれば『観客数11257人』『天候くもり時々晴れ/弱風』。

12時1分、キックオフ。

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 前半2分、NECのNO8箕内拓郎がリコー陣22メートルエリアでボールを持ち出す。タックラーを背負ってバックフリップパス。ボールはFLグレン・マーシュ、CTB水田雄也と繋がる。NECが先制した。スコアは0対7。さらに13分、SO松尾建のPGで0対10となる。

リコーはLOヘラルド・ヒューマンの負傷退場で、CTBからFLへとポジションを変えたジョエル・ウィルソンが17分、相手が放った山なりのパスをインターセプトする。トライラインを駆け抜けた。ゴールも決まり7対10。

このゲーム、リコーの焦点はブレイクダウン(ボール争奪局面)での守備だった。タックルに入る。相手が抱えるボールにすかさず腕を巻き込む。春先から繰り返していたプレーを、この試合で特に注力した。特に箕内らFW第3列を「ターゲット」とした。

準備は実った。11分、インゴールに侵入した箕内に、リコーは2人がかりで絡みつく。グラウンディングを防いだ。26分、ゴール前で突進を図るマーシュを取り囲み、アンプレアブル(プレーを継続できない状態にする)の反則を誘った。22、38分とPGを決められ点差を7対16とされるも、スコアボードに左右されない癖が備わっていた。LO田沼広之は言う。

「練習でしてきた事の実行レベルが高かったですね。ミスが起きてもカバーできたし、いつ、どんな場面でも変わらずプレーできた」
それは38分、FL相亮太がシンビンとなった時も同様だったという。

「あいつは『ゴメン』って言ったけど、『ゴメンはいい。次(復帰できる10分後にプレーする事)を考えろ』と」

相本人も、残されたチームメイトを「信じてた」。

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 14人のリコーは後半1分、SO河野好光が相手守備を崩して点差を詰める。14対16。相の復帰直後の9分、河野はPGも決めた。17対16。以降、ブラックジャージはリードを保った。

終盤も、ボールに絡みつく守備を徹底した。24、27、31分と、続けてターンオーバー、または相手の反則を奪う。そのたびに、全員で喜びを表現し合った。チームスローガン『TAFU』の『U』、『UNITY』も覗かせたのだ。35分、CTB金澤良がタックル。こぼれ球を小松が拾い、約70メートルを走りきった。24対16。ゴールエリアで歓喜の輪ができる。勝負は決まった。

「まず、先週の帝京大に感謝したい。目を覚まさせてくれた。今週、よりよい1週間を、いい"attitude"で過ごせた。ファイナルレベルでは守備が重要。今日の守備はよかったと思います。相手が息苦しくなるほどつぶし続けていた」

会見。ローデンHCはこう振り返った。

――「日本選手権は選手のもの」と言っていた指揮官から見て、この試合で選手は何を学んだと思いますか。

この問いには「基本に戻った」と即答。猛練習で一丸となり、本番で普段通りのプレーをするという、今季のリコーのサイクルを再び見いだした。決勝点を挙げた小松も言う。「自分たちのラグビーをすれば、と、相手をあまり意識することはなかった」。確かに相手の第3列に狙いを絞ってはいたが、根っこには練習通りのプレーをするという発想があったのだ。

つまりリコーは、一人ひとりが主体性を持ち、練習の成果を愚直に表現する姿勢を見せた。「下部リーグで久々のTL勢に勝利」と語られるこの試合は、きっと「大金星」ではない。

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 ちなみに。チームメイトの弁を借りれば、滝澤は「外向けの言葉を使わない」。その口調は、会見場を湧かせた。

――22日、花園ラグビー場での準決勝、三洋電機ワイルドナイツ戦への抱負を。

「次はですね・・・。正直疲れまして。多少燃え尽きた感はある。ただ、このチームは気持ちがすべてですので、今日、みんなと話して次に向かいたいと思います」

(文 ・ 向 風見也)

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