2008-2009 日本選手権 対 帝京大学

2009.02.07

「完敗です。結果的に勝つことはできたけど、僕は負けたと思っています」

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 この試合、主将を務めたHO滝澤佳之は、記者会見の席でこう言い放つ。マイクを置いた。

2009年2月7日、秩父宮ラグビー場で行われた日本選手権1回戦。

リコーブラックラムズは大学選手権準優勝の帝京大学(帝京大)と対戦し、25対25の引き分け。3対2と、トライ数1の差で辛くも2回戦へ進出した。

とはいえ、自らを準備不足と認める学生相手に苦戦をしたことは事実だった。会見で、滝澤はこう続ける。

「(チームの)みんなには日本選手権を闘うのか、考えてもらいたい」

相手への軽視は皆無である。リコーは帝京大と夏に実践形式の練習をしており、秋もスクラム練習を合同で行った。

滝澤は「スクラムは歯が立たなかった。FWが強いチーム」と振り返り、「(帝京大を)学生というより、ひとつのチームとして考えている」。

が、日本選手権出場を決めたホンダヒート戦以降の2週間、トッド・ローデンHCらは最初の1週目、トレーニングを少し軽くする。WTB池上真介は言う。試合に向けてギアを上げるはずの2週目も、「最初の1週で一息ついた感じで、(2週目に対するモチベーションの維持が)難しかった」。

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 最大時は1日に3度の練習をこなしていたチームにとって、極端な負荷の軽さは違和感になった。

練習を行う人数も、いつもと違った。これまで、試合に出場する『ブラックチーム』と控え選手主体の『ホワイトチーム』は、同じグラウンド上で切磋琢磨していた。が、日本選手権前から、それぞれ別個で練習することになる。

選手側からの声もあり、途中から以前の形式に戻るも、その間のやりとり自体、ちぐはぐさを覗かせた。

ローデンHCは「日本選手権は選手のもの」と公言し、ここ最近は来季以降の準備に注力している様子。今回も、首を捻る選手らの様子をただ、静観していた。
「コーチらと『この試合、(パフォーマンスは)落ちる』と予想していた」

会見でこう明かすも、試合のハーフタイムまで合いの手をさしのべなかった。それとて、「渇」と呼べるものではなかったという。

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 12時キックオフ。リコーは前半2分のSO河野好光副将のPGで先制も、15分、帝京大FB船津 光に40メートルの距離からPGを返される。スコアは3対3。

ポイントだったスクラムでも、滝澤曰く「ウチが弱かった」。17分、リコーは自陣ゴール前、帝京ボールスクラムを押されたのを契機に、オフサイドの反則を犯す。クイックスタートから左右にボールを振った帝京大に、スコアを3対8とされた。

直後の22分、CTB金澤良がトライラインを越えるなどして逆転も、28、36分と、船津のキックで3点ずつ、刻まれていく。10対14。

39分、河野の2本目のPGで点差は詰まったが、41分に船津の4本目のPGで、14対17。リコーはビハインドを背負い、前半終了を迎えた。

「勝ちたいのか、勝ちたくないのか、ハッキリしろ!」

滝澤の強い口調とともに後半に臨んだが、グラウンドでの消化不良は最後まで改善されなかった。

スクラムと同じく焦点だったブレイクダウン(ボール争奪局面)でも、後手を踏む。「帝京がひたむきに仕掛けていた」と、NO8として先発の後藤慶悟も振り返った。FL磯岡和則が「(飛びたいところに)張られていた」と分析するラインアウトでのボール喪失も、痛かった。

後半10分、金澤が2トライ目を奪い、河野もコンバージョンを成功させ18対17とするが、14分、帝京大WTB野田 創の快走で、再逆転を許す。18対22。

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 滝澤の述懐。

――ビハインド時の心境は?

「人任せだった。『自分から取り返してやろう』という気持ちは少なく、『誰かが取るだろう』と。(敗戦という)嫌な予感が(頭を)よぎったのも事実」

31分、ゴール前のラックサイドをLO相 亮太が詰め、河野のコンバージョンと相まって25対22と勝ち越すが、36分、リコーはピックアップの反則を犯す。

帝京大はPGを選択。船津が好調な右足で楕円球を蹴る。25対25。

さらに40分、10メートルライン上やや右で、再びPGの機会を得た。

ラストワンプレー。相は「死んだ気になった」。

が、ここで学生たちの悲運があった。船津が足を攣り、退場、代役キッカーの放つ弾道は、ポールには僅か及ばなかった。

リコーは何とか、同点でノーサイドを迎える。

「今年のチームの良いところはみんなで毎試合、学んできたところ。チームは若手も多く、個人的に今日の結果を重く受け止めていることは満足しています」

会見。ローデンHCは選手の成長を促しつつ、前向きな発言を続ける。このゲームで学んだことについては、「また"attitude"に立ち返る」。

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 滝澤は、厳しい口調で次戦を臨んだ。

「次、闘うかどうかを(選手全員で)話し合って決めたい。今日、悔しければやる、悔しくなければやらない、と」

PR長江有祐も言う。

「ここで結果を残せないと、『学生相手に同点だった』とナメられる。(チャレンジシリーズで下した)マツダ、ホンダにも申し訳ない。(そういう意味も込めて)次は、勝つことを目指していきます」

同日、近鉄花園ラグビー場で、リコーの2回戦の相手が決まった。トップリーグ(TL)5位、NECグリーンロケッツだ。

シーズン開始当初から、日本選手権でTL上位陣と対戦することを視野に入れていたチームにとって、次戦は「勝ちたい」というより「勝たなければいけない」ものになった。

(文 ・ 向 風見也)

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