2008-2009 トップイースト11リーグ第6節 対 東京ガス

2008.11.17

リコーブラックラムズの面々は必ず相手よりも速く、危険地帯をすっ、と埋める。

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 たとえば相手ボールのラインアウトの時、敵の投げ手がその地点に足を向けると同時に、最低2人はライン上で中腰になっている。クイックスロー(ジャンパーを並べずにタッチラインから直接パスを放るプレー)を警戒しての動きだ。

相手よりも速く危機察知するこの姿勢は、日頃の鍛錬で癖付けされた。しばし行う練習メニューに"ノーレストゲーム"がある。ゲーム形式のトレーニングで、"反則があればすべてタップキックから、タッチに出た場合はすべてクイックスローからリスタート"というルールで行われるものだ。このルールだと守備側は常に、攻撃側の出足を警戒し続けなればならない。おかげで普段の試合でも、選手に「すぐ位置につかなきゃ」との意識が働くのだ。

素早いセットの背景には意識だけでなく、無論、春先から走り込んで身につけたフィットネスもある。

LO相亮太の実感――。

「これまでの練習で走っているから、試合の後半でも、ロスタイムでも足が動く」

2008年11月15日、ニッパツ三ツ沢球技場。東京ガスとのトップイースト(TE)第6戦の後半ロスタイム、敵陣ゴール前での相手のペナルティに対し、相はボールをちょこんと蹴り上げ、一気に走りきった。

この試合6つ目のトライで42対14とし、ノーサイドを迎える。

終盤まで集中力、体力を持続させた結果だった。

11月9日のTE日本航空(JAL)戦を終えて、トッド・ローデンヘッドコーチ(ローデンHC)はここから先の試合を"クライマックス"と位置づけた。伊藤鐘史主将 曰く「トーナメントの決勝、負けたら終わりという意識」を、チーム全体にしみこませた。

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 たとえばミーティングで、過去の「決勝戦」の映像を全員に観させる。ラグビーだけでなく、アメリカンフットボールなど他競技のゲームも。共通点は「残りわずかな時間での逆転劇があったもの」。最後まで何が起こるかわからない、開始から終了までチームの合言葉である"attitude(どんな姿勢でもぶれずに立ち向かう姿勢)"を持ち続けろ――。その意を示したかった。

さらに、1試合の時間を80分ではなく「90分」と捉えるようにさせた。FL後藤慶悟はこう言葉を足す。

「ハーフタイムの10分間を含めた90分間、ずっと気持ちを切らすな、と」

結果、この「90分」に加えてロスタイムも闘いきったのだ。後藤も前半5分に相手選手と接触し負傷、交替選手も用意されたが、フル出場した。

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 技術面では「守備のテクニック」に、指揮官は焦点を絞った。先のJAL戦直後、「人のいるところにアタックしてしまっていた」ことも課題に挙げていたが、その克服はもう少し時間がかかるらしい。もうひとつ示していた「守備でのスペーシング」、つまり守備時の選手間の距離を調整することに心血を注いだのだ。選手の立ち位置を微調整することで、敵からみて「虫が涌いてくるような」守備を完成させようとした。

その成果も具体的に現れる。リコーが5対0のリードで迎えた前半25分。敵陣ゴール前右の相手ボールラインアウトからのボールを東京ガスのSOが大きく蹴り出すところ、リコーのNO8ピーティー・フェレラとPR高橋英明がそのコースを塞ぐようにチェイスする。プレッシャーを受けてのキックは手前側の22メートルラインまでしか伸びず、リコーにとってはその位置でマイボールラインアウトというチャンスに繋がった。

ここから2つフェイズをつくり、最後はSO河野好光がDGを決める。湧き出る虫のような守備が、攻撃に直結したと言える。その他、相手の不利な体勢でキックをキャッチさせ、複数人で囲い込んでボールを奪いに行く場面を数多く創った。

攻撃面でも、リコーは相手を凌駕する。徐々に足が止まる東京ガスを置き去りにするかのように、右へ、左へ、素早い展開からのトライを前半30、35分、後半も8、22分に決めた。

8分のシーンは、河野が相手守備の裏をつくために蹴り続けていたキックがインゴールに入り、WTB池上真介が走り込む、という形だった。夏場から指揮官が掲げる、意図したキックで効果的に陣地を奪う "スマートラグビー"も、皆しっかりと理解している。

試合を終え、スタンド下にあるスペースでクールダウンする黒ジャージの面々を見て、ローデンHCは言った。

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「Nice game!」

当然、快勝したとはいえ課題はつきものだ。そう、今リコーは、勝って反省するサイクルにある。「アタックでの最後のフィニッシュ、ゴールキック…。最後にスコアを取るところが課題。(この試合でも)もっと取れたはず」と、ローデンHCは口にするのだ。

フィニッシュの精度アップの鍵はおそらく、スキル云々とは別のところにある。実は何本か決定機を逃してもいた池上は言う。「もっと落ち着いていかないと」と。

クールかつ、熱いハートでトライを量産する――。言うは易し行うは難しの理想の状態にたどり着くために、指揮官はどんな策を用いるのか。

いずれにせよ心身ともにレベルを上げたチームで、TE残り4試合に臨む。

(文 ・ 向 風見也)

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