2008-2009 トップイースト11リーグ第4節 対 サントリーフーズ

2008.10.28

 秩父宮ラグビー場は、リコーブラックラムズにとって2008年1月26日、昨季トップリーグ(TL)第12節・九州電力キューデンヴォルテクス戦以来だった。17対20で敗れ、事実上のTL降格が決まった時である。

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「あ、あれ振り(以来)か。そんなことを忘れるくらい、プレーに集中していました」

FL伊藤鐘史主将は言った。その時とは、心身ともに違うと自負する。

10月25日、リコーはトップイースト(TE)第4戦、昨季同リーグ4位のサントリーフーズとの試合に臨む。TEには珍しく、ラグビーファンにとって最もなじみの深い秩父宮で行われた。

スコアは70対12。「あまりスコアにこだわっていない」という伊藤も「内容がよかった。最後まで声が途切れなかった」と振り返る。

LO相亮太曰く「久々のホームって感じ」で闘ったリコーは、先制トライを前半5分に挙げた。相手ゴール前右のラインアウトからポイントを作り、その左側、またその左側にFWが飛びこむ。最後は相が決めた。スコアは7対0に。

SO河野好光副将は「前半は相手のプレッシャーもあった」と言う。ゆえに先制点を挙げた後のリコーはミスを重ねるも、停滞は最小限に抑えた。

16分、またも相手ゴール前、今度は左サイド、WTB池上真介のキックを蹴り返そうとする相手に、CTB小松大祐がチャージ、ボールは素早く右に。反対側のWTB金澤良がゴールラインを割る。

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 27分には河野がPGを、33分にはFL後藤慶悟、終了間際にはCTBジョエル・ウィルソンが、それぞれトライした。スコアは27対0に。

後半も取りまくった。15分、相手22メートルエリア中盤、やや左のスクラムから、後半に投入のSOスティーブン・ラーカムがシャープなパス。FB小吹祐介が快走、最後は金澤が駆け抜けた。24分には相手ゴール前でFWがポイントの右へ、右へと激しく攻め続け、左に空いたスペースにNO8ピーティー・フェレラが飛び込んだ。

「世界的プレーヤー、秩父宮に上陸」と周囲に注目され、結果後半の先手を演出したラーカムは自らも27分に、途中交代のWTB横山伸一も30分、42分に快足を飛ばし2本、先制点を決めた相も37分に再びと、それぞれトライ。ノーサイドの瞬間、大量得点差という結果が待っていた。

得点の過程では、相手守備よりもひとり以上多い状況を作って止めを刺す場面が多かった。ブレイクダウン(ボール争奪局面)周辺への縦突進で相手を引き付け、できたスペースに素早く回す――。この意図を全選手が共有していた。

「攻める方向を全員で理解出来ているから」と伊藤は言う。そもそも鍛錬の積み重ねで、求められたポジショニングを遂行し続ける体力が各選手に備わっている。これも奏功した。

チームは今季2番目に多い得点を挙げた。実はトッド・ローデンヘッドコーチ(HC)が前戦終了後に問題視していた「メンタルブロック」に、打ち勝った。

 過去3試合、最高の立ち上がりでリードを奪った後に停滞してしまう癖が、チームの課題となっていた。その根源には"もっと点数を取れそう""取らなければ"という各人の気負い、つまり「メンタルブロック」があった。

昨季までTLにいたチームに対し、"全勝必須"と言う人間は数多くいて、その声は選手本人も耳にしている。ベテランLO田沼広之も頷いた。「もちろん、そう言われたことはあるし、そのつもりでやっていた」と。

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 しかも、今季TEは波乱続きだ。戦前にリコーと上位争いをすると見られたチームが、思わぬ苦戦を強いられている。

「ラグビーは素の力が現れるといいながら、(TEで)ここまで番狂わせがある。これを自分たちに置き換えたこともあった」

百戦錬磨の田沼まで、そう考えていたのだ。

選手たちの「ブロック」を解消するために、ローデンHCは「enjoy」を勧めた。

「もう一度原点に返ってほしい。ラグビーをやる楽しさを思い出してほしい。ウチとやるすべてのチームが"倒したい"と臨んでくる。それでも、『チャレンジを楽しみましょう』と」

従来通りハードな練習を課すなかでも、楽しみながら行えるメニューを加える。チームを重圧から解き放つ工夫を施したのだ。

結果、秩父宮に立った選手からは、トライを取って皆で喜ぶ姿、試合が途切れるたびに互いのプレーを確認しあう姿が見られた。

「Unityが高まった。これをやりながら(プレーの)スタンダードを高めていきたい」

試合後の共同会見、指揮官はチームスローガンの"TAFU"の"U"を用いてこう語った。

「楽しめ」と言われた時、田沼は「勝ちたいと言っているなか、楽しむことを忘れていたのかな」と再確認した。ただ、別のことも示唆する。アドバイスの裏には繊細さがあったことを。

「トッド(ローデンHC)には『自分の言ったことはちゃんと伝わっているのだろうか』と聞かれた。『ちゃんと伝わっていると思う』と返しました」

そう。この指揮官は、ただ厳しいだけではない。

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 とはいえ会見に臨んだローデンHCは、「あれだけトライをとれれば十分」と振り返りつつ、やはり課題も指摘した。

「(事前のプランに対する)実行レベルは高くない。プレッシャーを受けている状態でのパスを練習していたが、(それができず)自分がカウントしていた中では7 トライは潰していた」

秋のテーマには"小さな積み重ねで大きな成果を"と掲げた。現在の立ち位置「10ステージ中7」から先の急斜面を、徹底した細かなプレーの再確認で乗り越えたい。

(文 ・ 向 風見也)

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