2008-2009 網走合宿レポート

2008.08.20

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 キーワードは "attitude"。

2008年8月13日、北海道・網走で行われたリコーブラックラムズ2008年度夏合宿のトレーニングが、すべて終了した。

最高気温は28度。網走スポーツトレーニングフィールドは、地元住民としては「蒸す」、都会の人間としては涼しい気候だ。合宿最後に行われた横河電機アトラスターズ(横河)との練習試合を見届け、トッド・ローデンヘッドコーチ(HC)はその地を満足げに引き上げる。翌日、チームは帰京した。

"attitude"――。辞書的な意味は「姿勢・身構え・態度」だ。これを合宿のテーマとするにあたり、ローデンHCは「絶対にあきらめない、どんな状況でもベストを出す」という意味合いを、さらに付け加えた。

「ここ何年か、(リコーは時間帯などによって)安定したプレーができないという課題があった。しっかりとした"attitude"を持っていれば余計なものに惑わされず、安定感のあるプレーができるようになるはずだ」

前半の4日間が"トレーニングフォーカス"、残りが"ゲームフォーカス"となった。特に前半はハードだった。

朝6時30分から早朝練習。朝食と数十分の休憩を経て、9時から午前練習。午後は少し長めの休憩の後、15時からトレーニング。1日3度の練習、いわゆる"3部練"だ。

ましてや宿舎からグラウンド間の約3キロの道のりを、選手は徒歩で移動する。「トッド(ローデンHC)は、本当は走って来て欲しかったみたい。それはあまりにもきついから、早めに宿舎を出て歩いて移動していました」。こう振り返ったのは、CTB金澤良である。

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"ゲームフォーカス"と位置づけられた合宿後半では10日、13日にそれぞれ行われた練習試合に向けて早朝練習がなくなった。が、依然として "2部練"は続く。

これも昨年の合宿で「きつい」とされていたスケジュールだ。それでもと、伊藤鐘史主将は笑うのだった。

「後半は普通の"2部練"になったというだけで全然違います。人って不思議ですね。きつい練習も、続けていけばそれに身体が合ってくるんです」

ハードと言えば、PR陣は合宿直前、普段チームが練習をする砧でさらなる特別合宿をこなしていた。PR中村浩二曰く「PR合宿は早朝、朝、午後2本の"4部練"」だ。それだけではない。春から初夏にかけて早朝練習も課されていた。

「ルールも変わり、(スクラムが主な仕事の)PRにより走力が求められる」

ローデンHCはこう考えていた。

 夏合宿の、またそれ以前からのトレーニングは、選手の体力を大幅に引き上げる。

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 合宿6日目の8月10日。北見市東陵運動公園で行われたワールドファイティングブル(ワールド)戦では、リコーが体力面で相手を凌駕した。

前半を7対7で折り返すも、後半は大量得点を奪う。特に、残り10分を切ってから3連続トライ。42対7で勝った。前半に出場した金澤曰く、「トライを取った後も、リコーはジョグで(定位置に)戻るのに対して、ワールドは膝に手をついていた」。

「課題は常にある」と言いながらも「今まであった悪いクセ、後半20分以降に点を取られることはなくなった」とローデンHCは振り返り、伊藤も満足そうにこう言った。
「試合内容が良かった。前半も試合をコントロールできたから、後半にスコアできたんです。自分たちのフィットネスが勝っていた」

試合のコントロールという意味では、合宿から取り組んだ"スマートラグビー"も奏効した。

ラグビーには陣地取りゲームの側面がある。前にボールを投げられない以上、最も効率よく陣地を奪うには、キックの飛距離と精度がものを言う。

敵のいないエリアに蹴る。そのボールを拾った相手の選択肢を奪うべく、果敢にプレッシャーをかける。これら、効果的なキックの使い方とそれに準ずる動きを、ローデンHCは選手たちに身体で覚えさせた。それを"スマートラグビー"と名付けたのだ。

伊藤も述懐する。

「今まではキックを(ピンチから)逃げるために使っていた。だからあまり陣地も取れない。今はこっちから狙って攻撃的なキックを蹴っている。キックの使い方、うまくなってます」

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 また、"attitude"をキーワードとした合宿は、練習試合のスコア以外にも好影響をもたらした。選手個々の姿勢である。

9日目の午後の練習。15時からの練習に、ローデンを含めたスタッフ、伊藤がわざと遅れてグラウンド入りした。先に準備を整えていた選手たちは、最初こそ「まだ来ないのか?」と待ちぼうけを食っていたが、10分も経てばおのずと練習を開始した。

練習開始から約40分後に登場したローデンHCも、その様子に目を細める。

「ここでも"attitude"が見たかった。過去だったら(練習は)スタートしなかっただろうなと、テストをしたのです。テストは合格? そうですね」

その後。10日目の試合を残していたが、チームは一足早く集合写真を撮影した。

ローデンHCの「新しく生まれ変わった自信を見せて下さい」という掛け声とともに、選手たちは上着を脱ぐ。

日焼けし、均整の取れた筋肉が、ファインダーに収められた。

(文 ・ 向 風見也)

 今季トップリーグに昇格する横河との試合は、40分×3本の変則マッチで行われた。

多くの選手を試す意図があった。ローデンHCら首脳陣は、9月14日のトップイースト開幕に向けてフラットな目線でメンバー選考をしたかったのだ。チームのためになる選手が誰なのか――。過去の実績は考慮に入れない。昨年までは不動のレギュラーだった金澤も試合前日、危機感を募らせていた。

「(自分がレギュラーだという意識は)去年までは正直、ありました。でも、今年は若手がいいですからね。明日もホント、怖いですよ」

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 試合当日、13時30分キックオフ。リコーは3本とも風下陣地で試合を行った。

1本目。FBで出場のルーキー横山伸一の軽快な突破など見せ場は作ったが、ラインアウトをはじめミスを連発。7対12で落とした。

2本目。今度は立ち上がりからペースを握った。5分に坂本明樹、11分にエモシ・カウヘンガと、両LOがそれぞれトライを奪う。13分には、ポジションをWTBにした横山がビッグゲイン。FB星野将利がとどめを刺した。終了間際にもFL川上力也のトライが生まれる。リコーが26対5とリードした。

3本目。16分に先制を許す。が、運動量に勝るFW陣のすばやいプレッシャーで、相手のミスを誘った。敵陣、相手のクイックスロー(タッチに出た際、ラインアウトを待たずにボールを投げ入れること)に対し、星野がすばやくチェック。他の選手がそれに呼応し、ゴール前まで追い込んだ。相手が苦し紛れに放る山なりのパスを、WTB池上真介がインターセプト。右中間にトライした。ゴールも成功。スコアは7対7、ドローとなった。

3本合計で40対24。伊藤曰く「練習でやっていることができて、みんなが意図通りのプレーをやろうとしている。(ラウンドごとのスコアの違いは)その上でのミスが多いか少ないかというだけの話」。負傷者の関係で都合100分弱グラウンドに立った金澤をはじめ、各自の充実ぶりが垣間見えた。特別合宿などで走り込んだPR陣の献身ぶりも光った。リコーにとって、実り多き勝利だった。

青空に包まれる深緑の芝の上。リコーは大きな円陣を組む。

しばし用いる「ステージ」という喩えを用い、ローデンHCは言った。

「この合宿でステージ5.5まで来ました。8月末までには6まで行く。(チームスローガンである)TAFUの意味もわかり始めてきている。すばらしい合宿になったと思います」

円陣が解けた後は、こうも続けた。

「ステージ5.5と6の違い? 技術的なこと。クリーンアウト(ボール周辺の相手選手を後ろへ押し込むプレー)、戦術を踏まえての技術などです」

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 過去、ステージ1や2の際に議論されていた"戦術理解"や"体力向上"などは、ある程度クリアしたということか。ベクトルが"技術面"に特化されていた。

合宿前半の"3部練"についても質問が飛ぶ。ローデンHCは「選手に聞いた方がいいですね」と、近くで座っていた金澤を呼んだ。「トレーニング、ハードでしたか?」。金澤は「うん。でも、そうじゃなきゃあかんと思う。俺は」と答える。「ハードトレーニングは好きですか」、「俺、Mやもん」、「Hahaha・・・」。

本番の開幕まで残り1ヵ月を切った。舞台がトップイーストのためか。周囲からは「全勝も当然」との視線がチームに向けられ、伊藤は「色んなところでプレッシャーをかけてくれていますね」と苦笑するしかない。しかし、合宿の成果に安堵の表情を見せるのだ。

「先が見えてきたなぁ」

新指揮官の就任からわずか2ヵ月半で、体力、個々の意識が激変した。

さらには伊藤が「合宿で伸びた選手? 全員。個人だけが伸びるのではなく、チーム全体に成長がなきゃ」と口にできるほど、一体感も醸成されつつある。
さらなるトレーニングと8月下旬予定の練習試合を経て、リコーは虎視眈々と勝負の時を迎える。

(文 ・ 向 風見也)

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