リコーブラックラムズ 夏合宿・NEC戦

2007.08.28

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背中に汗がにじむ、最高気温35度の猛暑。2007年8月15日14時ごろの網走は、東京と変わらぬ強い日差しと厳しい暑さに見舞われていた。

あたりは見渡す限り大草原の緑と青空だ。グラウンドの周辺にも緑はしばらく続き、さらに向こう側にはトラックの車輪のような枯れ草の束も見受けられる。場所は網走トレーニングフィールド第2グラウンド。ブラックラムズの網走合宿の締めくくり、NECグリーンロケッツ(グリーンロケッツ)との練習試合が、まもなく行われるのである。

佐藤寿晃監督の思惑はこうだ。キックオフの約3時間前、宿舎のロビーにて聞く。

「去年は僕が就任した時点ですでに(春から夏の)マッチメイクがされていたので、強いところと試合ができなかったんです。今年は(対戦相手の)タイプをいろいろ考えて、強いチームとやろうと。NECはディフェンスが堅くてFW周辺を攻めてくるタイプ。こういうチームにどこまでできるか……」

合宿の成果、この時点でのチームの完成度、試合を見ればわかってくると、佐藤監督は考えているのだ。

チームを引っ張る伊藤鐘史主将は、リコー社内報の取材を受けていた。試合前日の夜、同じく宿舎のロビーにオレンジのタンクトップにグレーのハーフパンツといういでたちで現れた。同席したカメラマンに向かって「カッコ悪いんで撮らんといてください」と笑うが、焼けた肌と余分な肉のない上腕から、合宿での鍛錬が伺える。

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まずは、春からの足跡を語った。今季のブラックラムズは日本一を志すべく、ブレイクダウンの激しさを原点に置いた。低く鋭いラックで相手守備を内側に集中させ、数的優位を作ったBKラインのスピード感で勝負を仕掛ける。方向性がシンプルになったという印象があるが……

「うーん……方向性というより手法がシンプルになりましたよね。練習の手法が」

たとえば、ポイントができる。その時1人目はこう入って、2人目はこう入る、そうすればいいボールが出せる。こうしたベーシックなプレーを繰り返し、チーム全体に涵養させた。小難しい練習をあれこれ手を付けるのではなく、シンプルな練習を繰り返した。「やることはやれていると思います」。

そして、合宿。焦点は攻撃面と守備面でそれぞれ「サインプレー」、「ドリフトディフェンスの完成」だと言う。「春から“日本一の練習をしよう”とスタートして、それに何が必要かと“ゲインラインアタック”が必要と、練習を重ねてきました。合宿は、春からやってきたことの応用ですね」。“日本一の練習”をさらに深化させようと、合宿を過ごしていたのだ。

“日本一の練習をしよう”―これは、伊藤が毎日練習前に発する掛け声である。目標はあくまで日本一、その実現のためには日本一の練習を毎日すればいい。こんなことから、この慣習が始まったのだ。「毎日声に出して言っているんで、一人ひとりの意識は変わってきていると思います。でも……」。

でも、日本一の練習はあくまで結果論でしかない、というのだ。

「だってそうでしょ?僕らは日本一になったこともないし、日本一がどんなものかも知らない。だから実際“日本一の練習”が何なのかもわからない。きっとシーズンが終わって日本一になっていたとしたら、今やっていることは“日本一の練習”と言えるし、日本一になれなかったら“日本一の練習”はしていなかったということになる……」

その真偽が問われる最初の関門が、グリーンロケッツとの練習試合ということになる。同チームは2005年、本当に日本一になっているのだから――

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試合は序盤、ブラックラムズのペースでスタートした。前半10分にゴール前左ラインアウトからのモールを押し込み、そこから抜け出したHO滝澤佳之がトライ。観戦していたリコー社員から「幸先いいね!」の声が上がる。ワンラインで押し上げつつ外へドリフトする組織的なドリフトディフェンスも機能し、グリーンロケッツの出足を鈍らせていた。

そして前半36分、自陣右中間の10メーターライン付近でのラックから、数的優位に立ったBKラインが左にすばやい展開を仕掛ける。ほぼフリーの状態でボールを受け取ったFB小吹祐介が快速を飛ばし、そのままトライを奪った。

最初のラックの段階でフローター(ポイントの周辺にいる相手選手)を効率的に一掃できたことでBKラインに数的優位が生まれたと、伊藤主将は振り返る。「あそこはやろうとしていることが自然にできたと思います」。春から取り組んできたゲインラインアタック、つまりは激しいブレイクダウンが結実したトライで、前半を12対0で折り返した。

ところが、「後半はじめ、暑く、疲れたところで(2トライ)続けて取られてしまいました」(伊藤)。

後半9分、グリーンロケッツのSOヤコ・ファン・デル・ヴェストハイゼン(ヤコ)が敵陣22メーター付近のドロップアウトから個人技で大幅ゲイン、これを起点として日高健のトライを許す。さらに後半12分にはブラックラムズボールのラインアウトがターンオーバーされ、ラックからボールを受けた日高に、2つ目のトライを奪われる。スコアは12対14、ついに逆転を許す。

その後、後半29分に途中出場のシュウペリ・ロツコイが豪快な突破からトライを奪い返すが、後半39分のグリーンロケッツ・ヤコにトライを奪われ、再逆転を許す。結果は19対21、ブラックラムズは健闘するも、キック1本差のビハインドでノーサイドの時を迎える。

試合直後に組まれた円陣の中心で、佐藤監督はこう言った。

「キック1本差とはいえ、負けは負け。でも、やろうとしていることはできた。これからフィットネス高めて、もっと精度を高めよう!」

ブラックラムズの合宿は、これで幕を閉じた。

不安はまったくないと言えば、嘘になる。元々複数いた怪我人が合宿中にさらに増え、選手層を圧迫している。合宿中から「みんな本気で日本一を狙っているのかな」と疑心暗鬼になる選手もいた。その選手は言う。

「本来は合宿を超えたところに目的があるはずなのに、“合宿を乗り越える”ことが目的になってしまった。“今日も暑いけど、これ乗り越えたらオフだな”とか。(合宿期間中に)サントリー対トヨタの練習試合を観たんですけど、外から観る限りレベルが高く感じたんです。本当はこのチームに勝つためにやってるのに……自分も含めて、甘かったのかなって」

素直で裏表のないその選手は、さらにこう続ける。

「瞬間瞬間なんですよね、感情が。負けたときはすごく悔しい。本当に悔しいと思う。じゃあ、悔しいから走るのか?って言ったら走らない……」

NEC戦の敗北で芽生えた悔しいという感情を単なる一瞬にしないことが、きっとこれから問われるのだ。

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試合が終わったグラウンドには少し厚い雲がかかっていた。ブラックラムズが試合後に組んだ円陣は、伊藤の言葉で締められた。

「春から“日本一の練習をしよう”って言ってきたけど、今まではそれができてなかったということ。でも、まだ2ヵ月、時間はある。最後まで諦めずに行こう!」

今季はワールドカップの影響でトップリーグの開幕が約1ヵ月遅れる。からっとした声の若き主将たちの“日本一”への挑戦は、これから本番を迎える。

(文・HP運用担当)

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