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第18回アマチュア将棋団体日本選手権

〜〜〜東京大学が8年ぶり3回目の優勝最強決戦を制す〜〜〜

年月日:2006年2月26日(日)

場所:東京都大田区「リコー大森会館」

主催:株式会社 リコー

後援:日本将棋連盟、週刊将棋、全日本学生将棋連盟

レポーター:馬上 勇人

 第18回アマチュア将棋団体日本選手権(主催・リコー 後援 日本将棋連盟、週刊将棋、全日本学生将棋連盟)がNECと東京大学の組み合わせで2月26日に東京都大田区リコー大森会館で行われ、東京大学が5勝2敗で勝ち8年ぶり3度目の優勝を飾った。

【プロローグ】

 今年で18回目を迎える本大会、今年はNECから瀬川四段、東京大学からは片上四段が参戦するプロアマ連合対決となった。思えば、1月の年明けに私の携帯にきた東大将棋部ブータン(鈴木琢光主将)からの携帯メールが発端だった。「片上を日本選手権に出させてやってくれませんか?」片上大輔四段は東大に昨年9月まで在籍し毎日のように部室に顔を出し仲間と一緒に戦ってきた。最後にみんなと戦いたいという思いがあったのだろう。
 片上が出れば片上の対戦相手と言えばあの人しかいない。早速、瀬川晶司四段に電話をしたところ対戦を快諾。NECチームの長岡俊勝主将、高校時代からお世話になっている林隆弘さん、加藤幸男君と田町の焼き鳥屋で打ち合わせを行い片上参加の了承を得る。そして、大学時代からお世話になっている将棋連盟理事の島八段に了解を得て両プロの参戦が決定した。(この後が大変だったんですが・・。)
 瀬川四段、片上四段がチームのために戦う姿が見たかった。
 優勝するのは瀬川四段が加わりドリームチームが復活したNECか?学生王座チームに片上四段が加わった東大か?最強対最強の対決が幕をあけた。会場には学生女流名人4連覇を果たした立命館大学の石内奈々絵さんや将棋教室、棋友館の子供達などたくさんの応援団が見守った。石内さんは、今年で大学を卒業し社会人になるとのことだ。月日の流れの速さを感じた。
 当たりはNEC−東大の順で大将から瀬川―片上、清水上徹―鈴木、加藤幸−山内一馬、林―山内祥敬、加藤徹―小林知直、辻清治―高橋淳、長岡―阿部晃大。熱戦の模様を振り返ってみたい。

【小林学生名人強し】

 まず最初に終わったのが五将戦。昨年、本大会で稲葉聡学生名人を破った加藤さんと今年の学生名人であり次期東大主将である小林君の一戦。加藤さんの四間飛車に小林君の居飛車穴熊で始まった本局は小林君が戦機をうまく捕らえた仕掛けからポイントを稼ぐ。
 ここで▲3二歩と打ったのが実質上の決め手。これで加藤さんはしびれた。以下△3三桂▲3一歩成△2五桂▲3二と△同飛▲2三歩成△3一飛▲2四と、と優位を拡大した小林君が快勝した。加藤さんにとって力の出せない将棋になってしまった。「またこの舞台で借りを返したい。」加藤さんは局後語ってくれた。

【王者清水上、万全の勝利】

 副将戦は瀬川さんが去った今、アマチュア最強と呼び声の高い清水上と、東大将棋部の鈴木君。二人は年が近いこともあり何番も指しているが、私は清水上が負けたことを見たことがない。しかし、何が起こるのかわからないのが日本選手権。そう思って見ていた。鈴木君の居飛車穴熊に清水上得意の藤井システムで始まったこの一戦。
 ここで△4二飛車とまわったのが悪手。▲5六銀△2七歩成▲同金△5四歩▲4五銀の局面は後手が支えきれない。以下も自然な指し回しで完勝。局後、清水上は「がんばって一手違いにさせてあげましたよ(笑)」とニヤリ。「先手番なら秘策があったのに・・。藤井システムはズルイ。」と局後の鈴木君。ブータン、あいかわらずコメントに意味がない。(笑)
 これで東大の1−1。

【高橋、自然流で快勝】

 六将戦は中終盤に力を発揮する実力者の辻さんと一年生ながら今年度団体戦で大活躍した高橋君の一戦。変則的な出だしから辻さんの向かい飛車に高橋君の右玉という力勝負の展開に。
 ここで△8五歩と打った手が強手。▲9七角に△9五歩▲8五桂△9六歩▲7三桂成△同金▲8六角△8五歩▲5九角△8四金の局面は後手陣が手厚く大優勢。以下も自然な指し回しから高橋君が勝利をおさめた。

【山内一、復活の勝利】

 三将戦は前アマ竜王の加藤幸さんと中学時代からアマ強豪として活躍していた山内一君の好カード。昔から仲が良く練習将棋をよくやっている二人だが、意外なことに公式戦は約5年ぶりらしい。
 山内君の筋違い角で始まったこの一戦。加藤幸さんが飛車を展開する巧みな構想で作戦勝ちをおさめる。しかし、攻めを焦りすぎたのが疑問。
 △1四角と打ち先手玉は狭く生きた心地がしないがここで強く▲2四金と打った手が山内君が力を見せた一着だった。ここから△4五桂▲4八銀△5七桂成▲同銀△同銀成▲同玉△5六銀▲4八玉△4六歩▲同歩△2二飛と追撃が続くがここで強く▲6四歩と突いた手が決め手になった。この後も山内さんは鋭い手を連発しあっという間に寄せきった。
 「一馬はしばらく将棋を離れていたようだが別の世界を知って将棋の幅が広がっていた。今日は本当に勉強になった。」と加藤さん。「加藤さんとは高校時代戦って以来でこの対戦を非常に楽しみにしていた。加藤さんは遠い存在となってしまったが、今日は勝てて嬉しい。」と山内君。お互い将棋に対する考え方も立場も違うがこの二人は何か通じあっているなと思った。この大会を一番楽しんだのはこの二人だったのかも知れない。一馬はやっぱり強いと思った。東大にとっては大きい勝利でこれで東大の3−1。

【山内祥、難敵倒す】

 四将戦は「何でもはやい」でおなじみの林さんと粘り強い受けが身上の山内君。
 後手一手損角換わり戦法ではじまった本局だが、林さんの攻めの構想に少し無理があったようだ。
 ここで△3七銀と打った手が決め手。▲6四桂が怖いが、△同金▲3七角に△7五金!で決まる。林さんは局後、「日本選手権は本当に勝てない(学生時代を含め4連敗)」と残念そう。持ち前のスピードは最近将棋以外のことに向けられてしまっているようだ。山内君はチームの勝利を決める価値ある4勝目。東大の優勝が決まった。

【長岡主将、意地の勝利】

 七将戦はNECドリームチーム主将長岡さんと東大の秘密兵器阿部君。阿部君の力戦四間飛車で始まったこの一戦だが、手損が響き長岡さんの軽い捌きの前に苦戦。
 ここで△6六角▲同歩△5七桂右成▲同金△7六角と放ったのが決め手。先手の飛車と金が助からない。「勝ってよかったが、チームが負けてしまったのが何より残念。もう一度このチームで戦いたい。」と局後の長岡さん。

【片上、思い出の一勝】

 最後に残ったのが大将戦。開始前、お互いに瞑想している姿からこの対戦にかける意気込みを感じ取れた。片上の石田流に瀬川さんの居飛車穴熊で始まったこの一戦。作戦勝ちから優勢に進めていた片上が攻めの方向を誤り逆転。瀬川さんが反撃。
 ぎりぎりまで追い詰めるが片上が中段に玉を逃げ出し混戦に。そして再逆転。「今までいっしょにやってきた仲間のために。」その思いが伝わる素晴らしい戦いだった。
 ここで△2七歩成とすれば決まっていた。▲同銀に△2五香と走れば受けがない。本譜は先に△2五香としたため▲3七玉△2七歩成▲4六玉と中段に玉が逃げ出し混戦模様に。最後は片上が瀬川玉に必至をかけ熱戦に終止符を打った。
 「お世話になったNEC将棋部の皆さんのためにも絶対に勝ちたかった。」と瀬川さん。
 「今日ほどみんなを頼もしく、そして誇らしく思ったことはなかった。これからもがんばって欲しい。」片上は後輩にエールをおくった。

【エピローグ】

 こうして今年の日本選手権は東大が5−2で勝ち8年ぶりの優勝、対戦成績は社会人の11勝7敗になった。NEC有利の前評判を覆した東大の強さは見事だった。鈴木主将を中心とした団結力が何よりの勝因だったと思う。
 帰り際に片上四段が私に話しかけてくれた。「今日はありがとう。団体戦はおもしろいね。」
 この一言を聞いて今までの疲れが一気にふっとんだ気がした。
 来年もまた素晴らしい大会になるようがんばりたい。(っていうかそろそろ出たいんですけど。)

 第18回の結果(2006年2月26日)

       【NEC】 2 − 5  【東京大学】
 大 将    ▽ 瀬川 晶司 ● − ○  ▲ 片上 大輔
 副 将    ▲ 清水上 徹 ○ − ●  ▽ 鈴木 琢光
 三 将    ▽ 加藤 幸男 ● − ○  ▲ 山内 一馬
 四 将    ▲ 林 隆弘  ● − ○  ▽ 山内 祥敬
 五 将    ▽ 加藤 徹  ● − ○  ▲ 小林 知直
 六 将    ▲ 辻 清治  ● − ○  ▽ 高橋 淳
 七 将    ▽ 長岡 俊勝 ○ − ●  ▲ 阿部 晃大
 過去の結果
 社会人代表勝敗学生代表
第1回リコー−1東京大学
第2回リコー−2早稲田大学
第3回東芝3−京都大学
第4回リコー−2東京大学
第5回リコー−3東京大学
第6回アルゴリズム研究所3−東京大学
第7回富士通−3東京大学
第8回リコー−2東京大学
第9回プロセス資材3−早稲田大学
第10回リコー3−東京大学
第11回リコー−2早稲田大学
第12回リコー3−慶應義塾大学
第13回プロセス資材2−立命館大学
第14回ジュポン化粧品−3明治大学
第15回ジュポン化粧品−3立命館大学
第16回日本レストランシステム−2立命館大学
第17回NEC−2立命館大学
第18回NEC2−東京大学
11−7

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