イベント・レポート

全日本選手権Web中継をやって(メイキング編)

年月日:2005年2月11日(祝)

場所:東京都大田区「(株)リコー・大森年金会館」

レポーター:平田 聡

 今年の日本選手権は初のWeb中継を行いましたが、みなさん楽しんでいただけましたでしょうか?初めの構想から対局当日の様子まで、メイキング風景、中継エピソードなどの裏話(?)をお伝えしたいと思います。

【大会28日前:構想】

 1月14日、文体委員(大会運営)の馬上くんから日本選手権の告知があった。今年の日本選手権はほぼ例年通りの2月11日だ。(既にこの時点で日本選手権まで一ヶ月を切っている(^^;)
 これまで日本選手権は仕事の都合などで個人的に忙しい時期と重なってしまい実際に見たことは一度もなかったが、今年は大丈夫そうだ。実は日本選手権のWeb中継をやってみたいという構想は前々からあったのだが、実現するとなると簡単だとは思っていなかった。また、リコーが社会人代表となった暁に合わせる形で実現したいという想いもあった。

【大会25日前:打診】

 ではなぜ今年の日本選手権でWeb中継を実現しようと思ったのかといえば、一つは同郷の友人でもある林くんが所属するNECが社会人代表として初出場を決めたことが大きい。そしてもう一つ、野山さんから「将棋部を盛り上げてもらうことを期待しています。」という年賀状を戴き、この言葉が私の背中を押してくれた。
 17日、馬上くんと主将の洋次さんにWeb中継についてメールで初提案。まずは感触として意見を聞いてみる。すると二人から「ぜひやりたい」との同意をもらい、まずは一安心。
 とはいえ、具体的にどのように発信するかは決まっているわけではない。技術的な懸念もあるが、ひとまずどのような発信方法にするか考えていくことにした。アイデアとしては次の2つ。
 発信方法(1):新聞社の速報ページのようなコンテンツを作って発信する。
 発信方法(2):将棋倶楽部24や近将道場といったインターネット道場と連携して発信する。
 (1)が可能ならばコンテンツの面では制約が少なく、写真を入れることも可能だろう。しかし、実際は技術的に難しい部分がある。リコーホームページ内に限れば、実質的に使えるのは将棋部掲示板ぐらいか。
 さらに、もう一つ考えなければならないのは接続方法だ。社内WANをそのまま利用できれば嬉しいのだが、プロキシやファイアウォールの問題があり、社内WANから外部サーバへ接続するのはかなり厳しい。
 接続方法(1):社内WANから接続する。
 接続方法(2):有線でダイヤルアップする。
 接続方法(3):無線(PHS等)でダイヤルアップする。
 接続方法(4):外部にメール等で連絡して、中継を行う。

【大会24日前:検討】

 今年は初の試みでもあり準備期間の短さを考え、発信方法としては(2)で行こうと方針を固めた。ところが、インターネット道場には社内WANから接続できない・・・。
 社内の担当部署に問い合わせてみると、インターネット道場では通常とは違うTCPポートとは違うポートを使用しているため、プロキシの仕様によりアクセス不可との回答をもらい接続方法(1)はNGに。(余談だが「ぷろきし」を変換すると私のPCでは必ず「プロ棋士」になってしまい微笑ましい(笑))
 よって、接続方法(2)〜(4)のいずれかで検討することとなった。

【大会17日前:不安】

 検討はしてみるものの、メールではなかなか話が進んでいかない。もう1月25日、さすがに残り時間にあせりを感じ、洋次さんと馬上くんに一度打ち合わせできないかメール。でも、みな多忙であるし、私も忙しい・・・ということで結局打ち合わせはできずメールで話を続けることになり、やや不安がよぎる。
 さらに追い討ちを掛けるように、大森会館が祝日は本来使えないことが判明!場所の変更か日程の変更もあり得るとのこと。うーん、それでは対外的に話をすることもまだ無理ということで、さらに不安度アップ。

【大会15日前:文才】

 大森会館の問題はあるものの、今回の対局中継は大将戦のみに限定し、それを補う意味でも「対局中継+速報レポート」の二本立てでWeb中継を行おうと考えをまとめた。
 レポータとしてはこの人しかいない。というわけで早速、西田さんに電話でお願いし「速報レポート」を担当していただくことに。いつも思うのだが、西田さんのように文才のある人は本当に羨ましい。

【大会14日前:原案】

 接続方法については検討の結果、(4)で行こうと落ち着く。(3)も有力ではあるが接続切れが心配だ。(4)ならば、ということで自宅からアクセス可能な水山くんに打診してOKをもらった。さらに、大森会館が予定通りの11日に使えることになって一安心。
 ここまでで一旦まとめたものが、1月28日時点での原案だ。

【日本選手権 Web中継案(01/28案)】
1.概要
日本選手権の模様をWebで中継する。

 [1] 速報レポート → 将棋部掲示板を利用
 [2] 対局中継   → 将棋倶楽部24を利用

2.スタッフ
速報レポーター(現地:1名) 西田さん
指し手入力者(外部:2名)  水山くん、(入力者未定)
指し手連絡者(現地:1名)  平田

3.速報レポート
・将棋部掲示板を利用する
・12:30(対局開始)から速報開始
・対局風景や結果(全対局)をレポート

4.対局中継
・将棋倶楽部24を利用する
・中継開始は15:00(対局開始後2時間半、残り持ち時間の合計が30分のはず)
・対局時間は長考(30分/60秒)
・大将戦のみを中継
・指し手は現地から外部へメールで連絡する(1手ずつ?)

【大会11日前:24】

 Web中継の原案が決まったところで、将棋倶楽部24(以下、24)の久米さんに今回のWeb中継についてメールでお願いし、快諾をいただいた。元々はゲストIDでの自由対局を考えていたのだが、持ち時間が540分(9時間)になる特別IDを提供していただき、R対局を提案していただく。感謝感激!

【大会10日前:再考】

 持ち時間の問題が解消されたので、対局開始と同時の12:30からリアルタイムで中継するように案を変更。心配していた秒読みでの時間切れの問題は一気に解消した。ところが、中継をお願いする予定だった水山くんが急遽仕事のため不可になってしまい、接続方法について再考することに。

【日本選手権 Web中継案(02/01変更)】
4.対局中継
・将棋倶楽部24を利用する
・12:30(対局開始)から中継開始
・特別ID使用(#NEC/#Ritsumei)により、持ち時間は各9時間
・東京道場のR対局室を利用
・大将戦のみを中継
・指し手は現地から外部へメールで連絡する(1手ずつ?)

【大会9日前:協力】

 ここまで決まったところで、将棋部のフォーラムにアップ。初めてWeb中継について部員に告知した。と同時に、あらためて中継スタッフを募集する。
 そして、野山さんが「協力します」と手を挙げてくれた。ノートPC持参でPHS接続可能だと言う。強力な助っ人登場だ。また、西田さんもPHS接続が可能ということがわかった。結果的に接続方法としては(3)で行くことになり、私もモバイル接続できるように古かった携帯電話を機種変更して、ギリギリではあるが中継できる目処が付いた。

【大会2日前:宣伝】

 両チームの紹介文が届いたところで日本選手権の簡単なお知らせページを作成し、将棋部掲示板でも告知。その後、立命館大学将棋研究会の掲示板将棋パイナップルでも宣伝させていただいた。結局、Web中継について正式にアナウンスできたのが2日前になってしまった。
 また、今回は当日までオーダーを発表しないという両チームの合意により対局者を予告することはできなかった。出場チーム側の事情も理解できるが、観戦側からすると事前に対局者を発表したいので次回は検討したい。

【大会当日:準備】

 2月11日、いよいよ大会当日を迎えた。通い慣れた道を通り朝10時前に大森会館に着く。洋次さんと野山さんは既に来ていて、「今日はどうするの?」という声が掛かる。そう、今日は半分はぶっつけ本番なのだ。
 早速、野山さんのノートPCをお借りして接続テスト。大森会館から接続できないとしたら話にならない。24のトップページには「皆様の便り」の欄に今日の予告を掲載していただいたことも確認できて感謝。数分(数秒?)のテストにもかかわらず観戦者が数名入ってきたのにはちょっと困惑した。まだテストですから・・・(^^;
 掲示板には朝一番で今日のプログラムがアップされている。さすが西田さんだ。
 会場では机、椅子のセッティングも着々と進められた。今年は立派な盤駒が用意されている。天気も良いので南側のブラインドを開けておく。会場の隅には鉢植えの花も置かれていて、想像していたより明るい雰囲気だ。大将席の隣にWeb用の中継席を確保して、ノートPCを2台並べ携帯電話もセットして準備完了。

【大会当日:開会】

 12:30からの対局に先立ち、まずはメンバー交換。注目の大将にはNECが瀬川晶司さん、立命館大学は石本優さんが座る。両チームとも誰が大将に座っても遜色ないすごいメンバーだが、なんと言っても瀬川さんは「時の人」。注目度が高まることは必至だ。24のチャットでも瀬川さんが大将であることを伝えると「ほぉお」という声があがった。
 12:30前にログインし先約待で待つ。ところが開会式の進行が予定より若干遅れたため、まだ対局は始まらない。12:35まで待ったところで「トラブルか?」と思われないように、24での対局中継を開始した。観戦者が続々と入室してきて気持ちいい。日本選手権をよく知らない人も観戦に来ていたようだが、これも24のおかげであるし、日本選手権を知ってもらう良い機会になればと思う。対局用IDは1つのPCから2人分ログインし、もう1つのPCでモニタ用(チャット用)のログインをしている。24のチャットでまだ対局開始前であることを伝えるが、程なく対局が開始された。

【大会当日:序盤】

 24での対局は先後が振り駒になるので意図的に決められないのが困ったことの1つだ。今回はそのまま立命館大学の奇数先となり、結果的に対局をやり直さずには済んだので事なきを得た。
 注目の石本さんの初手は7六歩。緊張の一瞬だ。(歴史的一瞬と言ったら大げさ?)
 序盤の数手はパタパタと指し手が進み、少し手が追いつかないこともあった。それでもクリックミスがいちばん怖いので、間違えないようにかなり慎重にマウスを動かす。クリックミスも24での対局では困ったことだ。
 瀬川さんはTV棋戦でも活躍されていてこのような場にも慣れているとは思ったが、序盤はマウスやキーボードを頻繁に操作するので、対局者にとって気にならないか少し心配になった。後で両対局者に伺ってみるとそのようなことは無かったようだ。いずれはプロ棋戦でも対局室にPCが持ち込まれたりするのだろうか。

【大会当日:中盤】

 掲示板には西田さんのレポートがアップされている。本当はもう少しフォローしながら進めていくつもりでいたのだが、対局中継で手一杯ですっかりお任せ状態になってしまった。(西田さんすいません。)
 観戦者は順調に増えていき、中盤に差し掛かったところで24のチャット制限が掛けられた。しまった!2300点以上持っていないとチャットで発言できない!!
 私のIDでは当然2300点には(大幅に)足らず、対局用だけでなく事前にチャット用のIDもお願いしておくべきだったと反省。まぁ今日の会場を見渡せば2300点以上の方々がごろごろしているはずだが、しばらくは様子を見ることに。幸い、チャット上では問題なく解説のやり取りが続けられ、そのまま私は観戦者の一人となった。
 今年から短くなったとはいえ、アマチュアの対局としては対局時間が長い(各々75分)のが日本選手権の特徴と言えるだろう。対局者は少考を繰り返してはいるが、長考といった感じはそれほどない。あまり長考されると観戦するほうも大変になると思うのだが、いいテンポで指し手が進んでいく。
 局面は瀬川さんがスキを見逃さず8六歩から8九歩成を実現させ、瀬川さんのペースに思われた。しかし、石本さんも苦しそうに見えながら的確な指し手で応えている。実はこの時点で、もし、対局が早く終わるようだったら他の対局を中継しようかと馬上くんと相談したのだが、それは杞憂に終わった。4四金に瀬川さんが同角と取ったあたりから流れが変わり、その後石本さんの6二角が好手で流れが傾いていったようだ。

【大会当日:終盤】

 チャット解説の予想では石本さんの手はほぼ当たっているが、瀬川さんの手はなかなか当たらず、見ていて面白い。また、対局の生の緊張感とチャットのお気楽さが私のディスプレイの表と裏で対照的に同居しており不思議な感覚だった。
 対局はヒートアップし、終盤になるにつれて観戦者もさらに増えていく。大将戦に相応しい熱戦だ。今回は目標人数を特に設定しなかったが、最大時では500名を超え、日本選手権をアピールするという目的は充分達成できたと思う。
 局面は石本さんが踏み込みよく攻め続け、瀬川さんが受け切れるかどうか際どい展開だ。最終盤、瀬川さんが1五歩と突いたところではかなり怪しくなったように見え、実際1六香にチャットで指摘のあった1五桂ならば難しかったようだ。しかし、秒読みの中さすがの瀬川さんも1五桂は見えなかったようで、最後は石本さんが121手目2七玉まで手厚く寄せきった。

【次回に向けて・・・】

 感想戦も終わったところで、対局中継も終了!
 今回は特に大きなトラブルも発生せず、評判もなかなか良かったようです。対局中継を大将戦に限定したことが成功の要因の1つかもしれませんが、「日本選手権を語るには大将戦だけでは寂しい」という声もあり、今後は中継する対局数を増やしていきたいと思案しているところです。
 また、速報レポートのほうもシステム上の制約で、写真が載せられなかったり、アップがしずらいなど改善していく余地は大いにあると思っています。
 次回、Web中継を行う際には皆さんご協力をよろしくお願いします。最後になりましたが、NECの皆さん、立命館大学の皆さん、24の久米さん、レポーターの西田さん、ほかご協力いただいた皆さんどうもありがとうございました。


【前のレポート】 【次のレポート】 【イベント・レポート】

【Photo Gallery】 【棋譜鑑賞】

Copyright (C) 1999-2005 Ricoh Co.,Ltd. All Rights Reserved.