イベント・レポート

女流棋士親睦会2002

〜〜〜一皮むけた親睦メニュー〜〜〜

年月日:2002年3月17日(日)10時30分〜16時30分

場所:品川区総合区民会館「きゅりあん」

リポータ:西田 文太郎 e-mail : buntaro.nishida@nts.ricoh.co.jp

【ほかほか陽気にのほほん船出】

 今年の東京は暖冬だ。ついに雪も見なかった。桜の開花も平年よりかなり早そうだ。善福寺川緑地公園の桜もほころびだしている木がちらほらある。
 ほかほかする陽気の中に、のほほんと自転車をこぎ出した。昨日、今日と都ホテルでは朝日アマ名人戦の全国大会が開かれている。私の足は、「♪きのうみやこほてる、きょうきゅりあん♪(藤圭子の夢は夜開く)」だ。そこがアマ強豪で我がリコーの主将N山との大きな違い、彼は某女流棋士からの誘いを断って都ホテルに行っている。私のアマ強豪への道は険しく遠い。
 大井町のホームで近代将棋社の夜さんに出会った。午前中は、取材という。ずいぶんと忙しいそうだ。いえ、私だって忙しいのですけど。きゅりあんの近くで、ネットの有名人に出会った。いつもにこにこしている方だ。会場では、もう一人のネット有名人にもあった。デジカメの良さそうなのを首からぶら下げている。ああいうのを欲しいなあと、横目で、眺める。また、イラストレーターの加賀さやかさんにも会った。こんなに沢山メニューがあると、どう見ていったら良いやらとこぼしている。

 私が、女流棋士の親睦会に初めて行ったのは、第6回の96年3月31日。そのときは千駄ヶ谷の郵政会館だった。ちょうど、インターネットが盛んになる兆しが見え始めた頃で、会場の隅にインターネットコーナーを作ってもらい、谷川、小川と三人でインターネットの説明をしていた。
 第7回は97年3月16日、きゅりあん。夜来の雨だった。
 第8回は記録が残っていないので、行かなかったのだろう。
 第9回は99年3月20日、日本青年館ホール。女流棋士会25周年だった。土砂降りの冷たい雨の中を、濡れながら歩いた。姉妹ペア席上対決というのがあって、大庭姉妹と中倉姉妹がペアで対局している。なんと言っても忘れられないのは、中倉姉妹と本田小百合、船戸陽子の団子4姉妹による、レット・イット・ビーと、ヘイ・ジュードだ。このバンドをもう一度みたい。
 第10回は00年4月1日、きゅりあんで、女流棋士がみな着物を着ている。とても天気が良かったことを覚えている。その陽射しの中で美しい着物姿を写真に納めている。カメラマンに徹していたようだ。
 第11回は、やはりきゅりあんだ。指導対局で、高群三段に逆転負けを喫した。

【第12回は意欲的】

 ここ2年ほど、ややマンネリ気味だった親睦会のメニューだったけれど、今年は、意欲的だ。まずは、午前の部と午後の部とに分けて、午後だけ参加というコースもある。午前は指導対局で女流棋士32人が多分6〜10局位ずつ受け持ち約300人を満足させる。
 午後は6種類のイベントがほぼ同時に進行するという画期的な試みだ。席上対局は、従来からやっているもので、今回はフレッシュ対決で、上田対坂東戦。新たに「詰将棋早解き競争」「女流棋士とリレー将棋」「10秒将棋に挑戦」と、面白そうなメニューが並んでいる。
 さらに、CDを出したばかりのユニット「原宿将棋通りの写真撮影会」、石橋三段と矢内三段のチャリテイーサイン会などもある。
 そして、4時からはチャリテイーオークションがある。
 ちょっと粋なのが、「親睦会実行委員を探せ」というスタンプラリーで、比江嶋2級、島井1級、藤森三段、大庭美樹1級、船戸2段、上川1級といった6人の女流棋士のシールを本人からもらって回るというのも斬新だ。こういうきっかけで、普段話すことのできない女流棋士と話ができるのだ。

【指導対局】

 私は、くじ箱の中に手を突っ込んだ。黄色い紙に書かれている人の名前は、多くの人に羨ましがられる人だった。にこにこ。
 その席で、待っていると、突然、「ここは私が座らせてもらいます」とおじさまに声をかけられた。「どうしてですか?」ときく。「私は6番だから、この人の隣です」という。5人ずつしかできないので、6番以降の番号の人は、1番から5番の人が終わるのを待っていなければならないのだ。場内でアナウンスはしているが、なかなか徹底しないものだ。

 私は、平手でお願いした。駒落ちは違うゲームと思っているからだ。でも、その女流棋士は快く(腹の中はどうかはわからないけれど)応じてくれた。3間飛車に対し、流行の緩急両用の駒はこびから、居飛車穴熊に組んだ。途中、上手が少しミスをして、かなり押し込むことができた。しかしそこからの我慢の仕方がすごい。双方桂馬を奪って飛車が成込んだ。穴熊対美濃だから、こちらがよいと思っているが、穴熊の弱点の玉頭を攻めてきた。良さそうだが、具体的な手が見えない。この辺りで、胃が痛くなってきた。強い相手に勝てそうになると、胃が痛くなるのだ。5面指しとはいえ、下手ばかりが長考するのも失礼だ。自信のないまま、詰めろをかけた。その瞬間上手には、こっちの詰みが見えたようだった。さっと、角を打ってきた。詰手順を読み直しているうちに一手飛ばして着手してしまったようだ。ぎりぎり、詰を逃れて、勝たせてもらった。感想戦では、簡単に負かされた。中盤あれだけ優勢だと思っていた局面からずるずると、敗勢に傾いていったのが納得できない。
 とはいうものの、女流棋士に勝てた嬉しさはこみ上げてくる。すると胃はますます痛くなってきたので、薬屋に走って、胃薬を飲んだ。将棋も大変だ。

【写真撮影会】

 豊富なメニューの中からどれにするかと聞かれれば、中倉姉妹を追っかけるしか能がない。撮影会というのは何をやるのか分からなかったけれど、始まったら分かった。ユニットの清水市代・山田久美・中倉姉妹が背後に立ち、その前の椅子にちんまり座り、即席仕上げの写真を撮ってもらうというものだった。
 もらった写真を見ていると、じわじわと映像が浮かんでくる。左端の中倉彰子さんはワインレッドにフリルの付いた上品な袖無しワンピースドレス、清水さんは黒のスカートに紅いブレザー、久美ちゃんは黒のシックで色っぽいドレス、宏美ちゃんは黒っぽいスカートに白のブレザーと、皆それぞれ素敵な出で立ちで、前の椅子にぼーっと座っているおっさんの間抜けな顔が見るに耐えない。貴重なそして風采のあがらなさを再認識する記念品になってしまった。

【10秒将棋とリレー対局】

 これは高群三段、碓井二段、竹部(木村)二段、久津初段、藤田初段、山田朱未1級、伊藤2級などの女流棋士が、挑戦者の一人一人と対局している。たいがい強い方が勝つが、10秒将棋なら、女流棋士でも間違える確率は高くなるから、面白そうだ。なかなか近くで見ることができなかったが、どんな戦果だったのか知りたいものだ。

 蛸島五段、山下五段、谷川四段、多田三段、宇治二段、神田初段、古河初段、安食2級などの女流棋士一人をまじえた5人が一チームとなって、大きな将棋盤を挟んで、立ったまま対局していた。ここも、あまりじっくり見ることはできなかったが、面白そうだった。

【詰将棋コーナー】

 ここには、横山二段、高橋二段、野田澤2級、村田2級の女流棋士が4人と、会場の有志2人の合計6人が、机の上に裏返しに置かれた詰将棋の問題の束に挑む。
 最初の問題は、紙をひっくり返したとたんに会場から選ばれた有志の一人の手が上がった。この前の障害者将棋大会で優勝した北川さんだ。詰将棋の専門誌「詰パラ」の猛者らしい。早速、大盤の前で、解答を披露する、見事な正解だ。
 第2問も、会場の有志が正解した。お名前は忘れてしまったがやはり詰パラの有名人のようだ。
 ここで、有志交代で、なんと、詰将棋界のヒーロー山田康平さんと、リコー冬合宿に来た8歳の伊藤沙恵ちゃんが選ばれた。そして、第3問は光よりも早く康平さんが手を挙げて、途中飛車合いの手順での正解を見せてくれた。

 この3人は素晴らしい芸を見せてくれて、とても楽しかった。北川さんは、裏から透けて見えていたからと謙遜していたが、裏から見ても私には、ますます難しくなるだけだ。山田康平さんは、詰将棋は覚えているかどうかだという。確かに、詰将棋作家はあらゆる既成のものを覚えていないと、同作や類似作になってしまうから必要なことだろう。しかし凡人には実行はできない。このへんは、康平さんのページの日記に詳しく解説されている。

【席上対局】

 上田2級と坂東2級のフレッシュな対局を中井名人・藤花と斎田四段が解説していた。
 対局は、双方振り飛車党ということで、相振り飛車になっている。私が見に行ったところでは坂東有利で進んでいたが、途中なかなか決めに行かず、受け潰す方針だったので、長引いて、引き分けになってしまった。
 次の一手問題で、書いて出したら、当選してしまった。景品がプレステ用の将棋ソフトしかなく、プレステを持っていない私は、困ってしまった。

【素晴らしいイベント】

 いろいろなメニューが満載で、まさにパンフにも有るとおり、百花繚乱という意欲的な企画だった。しかもそれぞれ工夫が凝らされて、面白かった。特に、詰将棋は、新たな親睦会ファンを開拓したし、リレー将棋や10秒将棋も面白そうだった。オークションも本田さんや鹿野さんの元気な声も響いていたし、中倉姉妹がモデルという映画「とらばいゆ」のサイン入り前売り券発売コーナーもにぎわっている。個人的に見逃せなかったのは、「とらばいゆ」の原点になっているという大谷健太郎監督の「アベック・モン・マリ」のトークショーにこの夜中倉姉妹が出るという、張り紙だった。これは行く一手だよね、F原君。

 会場でアンケートも採っていたが、今回ほど、来場者の声を聞きたいと思ったことはない。アンケート結果の公表も期待したい。
 見る側からは、10秒将棋やリレー将棋を見る空間がないため、少し残念だった。ただ、今回のコンセプトが、「それぞれ好きなものに参加してもらう」ということだったと思うので、その点では素晴らしいイベントであった。谷川会長を始め、実行委員の方の企画・実行力に原田流拍手を送りたい。
 今後は、この咲き乱れる美しい花々をどう飾り付けたらよいかが腕の見せ所になりそうだ。具体的には、席上対局が少しだらだらした内容になってしまった、詰将棋コーナーが狭かった、リレー将棋と、10秒将棋の観戦スペースがなかったなど。それぞれの、コーナーの声が錯綜する煩わしさをどうするか、いろいろな運営上の説明をどこまで手際よくスムーズに来場者に伝えられるかなど。
 今回、詰将棋好きな人の開拓に成功したひそみに倣えば、そろそろアマ強豪もターゲットにしても良い時期になったのではないだろうか。たとえば、アマ名人と女流名人対決、アマ王将と女流王将対決とか、それぞれの組み合わせでのペア対決など、面白そうだ。

(完:記2002年3月21日)


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