第14回アマチュア将棋団体日本選手権
〜〜〜ジュポン化粧品、初出場対決を制す〜〜〜
年月日:2002年2月16日(土)13時〜18時
場所:東京都大田区「(株)リコー・大森年金会館 2階」
主催:(株)リコー、全日本学生将棋連盟
後援:週刊将棋
(敬称略)
【将棋は判定がさわやか】
おりしもアメリカのソルトレークシティでは、冬のオリンピックまっただ中。前回の長野の大会に比べて、日本勢の活躍が今一歩なので、寂しい。そこへフィギアスケート・ペア競技では審判の採点に不正があったとして金メダルが二組に与えられることになった。採点競技の宿命とはいえ、興ざめである。審判員への圧力という別次元の問題ではあるが、本質的には評価の考え方に起因するものだ。競技の決着を人間の目や主観で決めるものはしばしば後味の悪い思いをする。客観化しやすい技術点はともかくも主観からなる芸術性まで人間が点数を付けて採点をしようというのだからかなり無理がある。
それに比べ、将棋はほとんどの場合、負けたと思った方が自分の手番の時に「負けました」といって決着が付くので判定はさわやかだからいい。それでも、負けたといった側が実は指し続ければ勝っていることもあるし、入玉の判定などの課題は残っている。
【全日本選手権もさわやかに】
今回の社会人代表は、春の職団戦優勝、秋の職団戦でベスト4進出ということで、ジュポン化粧品となった。リコーは秋こそ優勝したものの春はベスト4への進出ができなかったため残念ながら代表にはなることができなかった。ジュポン化粧品が職団戦S級に上がってきたのはつい最近である。主軸の3人は、94年青柳敏郎、95年・96年桐山隆、97年渡辺健弥といずれもアマ竜王になっている。渡辺・桐山はアマ名人にもなっている。大将の嘉野満は赤旗名人2回・朝日アマ優勝といった実力者、副将の池田将は奨励会を三段で退会して間もない強豪である。
学生代表は12月の王座戦(第32回学生将棋団体対抗戦)で、勝ち点9で優勝した明治大学となった。昨年全日本選手権でプロセス資材を破り初優勝した立命館大学は今年も下馬評が高かった。実際通算でも55勝8敗と明治の通算47勝16敗を上回りながら、直接対局を2勝5敗で負けたため、連続出場は果たせなかった。明治は馬上勇人、清水上徹、伊藤享史と3人も全勝者が出たのが大きかった。
ラグビーの全日本選手権は社会人と学生との実力差が大きいせいかシステムが変わってきたが、アマチュア将棋団体日本選手権は、学生側が追い上げて昨年まで社会人側の7勝6敗と拮抗してきている。学生側が一気に五分に持っていけるか、社会人側が突き放すか興味深い。
【七将戦】
場所は馬込の環七沿い、リコーの年金会館の一室。7人が一斉に対局をしている。持ち時間は90分で使い切ると一手60秒未満というルールである。アマチュアの大会ではじっくり時間を使うことが出きる大会だ。
赤いセーターの上岡淑郎は、日焼けした精悍な顔立ちで角交換型の振り穴を指している。実はジュポン化粧品の代表取締役社長だ。不景気の波におそわれているこの時代に、毎年30%以上の増収増益を果たし、今や年商60億、従業員約200名といった躍進を遂げている。それも上岡さんは会社更生法を受けていた会社に私財を投じてここまで成長させてきた敏腕家である。ただし、将棋の方は蒲田将棋クラブで四段というから、このような大会では少し家賃が高いと思われる。
学生側は皆スーツ・ネクタイを着用している。上田正彦は選手紹介にモテモテ男とあるが、いかにももてそうな甘いマスクをしている。王座戦では0勝3敗ということなのでここで踏ん張らないと、学生側は厳しくなる。
前日特訓で秘策を授けられたという上岡は後手番ながら角交換し四間飛車に構えた。更に向かい飛車にしてからさっさと玉を穴熊に囲う。これに対し先手の上田は、銀冠に組もうとしているが、まだ完成しないうちに、38手目単騎△25桂と跳ねてきた。どうやらこれが秘策の正体のようで、▲25同飛と桂を取ると△24歩から飛車先が受からない仕掛けになっている。
馬も作られ、苦戦の先手上田は9筋に狙いを付けて反撃するが、上岡が着実に勝ちきった。
ここの棋譜を取っているかわいらしい女性は最近女流プロになった坂東香菜子さんだ。
【六将戦】
第七回アマ竜王の青柳敏郎は、かつてアルゴリズム研究所にいたので、この大会にはそのときに出て東大と戦っている。今は宇都宮の工場勤務という。
斎藤雅弘はやはりハンサムな顔立ちで、もてそうにみえる。王座戦では7勝2敗と健闘している。
局面は先手青柳の矢倉に対し、後手斎藤が6筋を突き右四間飛車をにおわせる。43手目の▲24歩が機敏で、一方的に飛車先の歩を切って先手優勢になる。後手は9筋から反撃するが先手は79手目の角切りからうまく寄せきった。
女流プロの野田澤彩乃さんが棋譜を取っている。殺風景な会場に2輪の美しい花が咲いている。
【五将戦】
ジュポンの渡邉徳之は、アマ竜王戦ベスト16、朝日アマ準優勝など、全国代表クラスのアマ強豪だ。
一方の白田大地は長髪に黒い眼鏡をかけ、頼もしい風貌をしている。二年生ながら一番年上のようにも見える。王座戦でも7勝2敗と好成績だ。序盤でかなり時間を使うので、団体戦では最後に残ることが多いと選手紹介にあるが、今日も、ここが最後まで残った。
別室に控え室がある。豪華な検討陣が一番熱心に検討していたのがここの対局だった。それにしても、アマ将棋界のエース遠藤正樹、現朝日アマ名人山田敦幹、学生界の長きエース細川大市郎、リコーの野山知敬、菊田裕司、山田洋次などがつついている姿は豪華だ。
後手渡邉が向飛車で、先手白田は玉頭位取り。後手が美濃から銀冠に組み替えようと金銀の連携が離れた瞬間に先手が果敢に仕掛けた37手目の▲65歩の局面。検討陣は角交換から△52金右や△52金左を試しているが後手が良くなる順が見つからない。
しばらくして後手の着手は角交換から△62飛で、なかなかうまい受けだった。67手目双方、桂・香を拾い馬を作り合った局面は、後手が歩切れのため、先手が指しやすい。その後も2転3転したようだが、最後は白田が寄せきった。
【四将戦】
渡辺健弥がアマ名人になって、テレビで時の名人と角落ちを戦っていたのを見たことがある。スポーツ刈りでやや小太り。
伊藤享史は、二年生で、王座戦九戦全勝と優勝の立役者だ。個人戦では関東新人王になっている。
局面は先手渡辺のひねり飛車。途中後手の隙を見逃さず仕掛けた先手が、敵玉を中原に引っ張り出し、うまく寄せた。
【三将戦】
桐山隆は小柄で、律儀な印象だが、その棋歴は輝かしいアマ強豪だ。宇都宮工場勤務という。
藤井佳久はやはり小柄で、チャボというあだ名がかわいい。王座戦6勝3敗ながら、個人戦では学生王将を獲得している。
お互い矢倉に組んでさあこれからというとき先手が角を切って攻撃をしていったが、何か誤算があったのか攻めが続かない。先手藤井にとっては意外な拙戦となってしまった。
【副将戦】
ジュポンの池田将は、挨拶をきちんとするアマ将棋界では珍しいタイプ? 奨励会を退会して新しい人生行路をジュポンで歩み始めた。
一方清水上徹は明治の主将で、今年度団体戦34戦全勝とすさまじい戦績である。
後手清水上の四間飛車に先手は左美濃。53手目に▲32歩と手裏剣が飛んだ。先手の桂得に後手は2筋は放棄しての焦土作戦で、5筋の位で対抗。控え室では先手優勢だったが、67手目の▲16歩の評判が悪く、後手ばかりが指しているようだという。そして76手目の△57歩成の局面では後手が指しやすいということになった。しかしながら、そこからの先手の指し回しがうまいと好評で、いつの間にか先手が優勢になっている。最後は先手に勝ちがあったようだが、寄せ損なって後手が接戦をものにした。清水上はこれで団体戦35連勝となる。
【大将戦】
嘉野満さんは、インターネット上で別冊サロン・ド・将棋「かのまん」を発行していた。それによれば奨励会で修行していたようだ。
馬上勇人は王座戦で全勝し、全国オール学生も優勝している。この4月からリコーに入社が内定している。どうやら無事卒業できそうということで一安心。来年は社会人側でこの大会に出ていればいいと思う。
後手嘉野の中飛車穴熊に対し、先手馬上銀冠。先手はと金ができて駒得を果たし中盤で優勢になり、そのまま押し切った。
【社会人突き放す】
結局ジュポン化粧品が4勝3敗となって、優勝が決まった。これで社会人側の8勝6敗となった。学生側の奮起を期待したい。
最後に、リコー側はもちろん、両対局チームや観戦に来てくれた方々の中で後かたづけを手伝ってくれたみなさんに、お礼を申し上げたい。有難うございました。また、来年お会いしましょう。
(完:記02年2月20日)
(改訂:02年2月21日、指摘してくれたみなさん有難う)
参考:
ホームページ:明大将研OnLine、リコー将棋部棋譜鑑賞
ジュポン化粧品選手プロフィール、
明治大学選手プロフィール
第14回の結果(2002年2月16日) |
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ジュポン化粧品 |
勝敗 |
明治大学 |
大将 |
△嘉野 満 |
● ○ |
▲馬上 勇人 |
副将 |
▲池田 将 |
● ○ |
△清水上 徹 |
三将
|
△桐山 隆 |
○ ● |
▲藤井 佳久 |
四将 |
▲渡辺 健弥 |
○ ● |
△伊藤 享史 |
五将 |
△渡邉 徳之 |
● ○ |
▲白田 大地 |
六将 |
▲青柳 敏郎 |
○ ● |
△斎藤 雅弘 |
七将 |
△上岡 淑郎 |
○ ● |
▲上田 正彦 |
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C --- 3 |
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過去の結果 |
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社会人 |
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学生 |
第1回 |
リコー |
E --- 1 |
東京大学 |
第2回 |
リコー |
D --- 2 |
早稲田大学 |
第3回 |
東芝 |
3 --- C |
京都大学 |
第4回 |
リコー |
D --- 2 |
東京大学 |
第5回 |
リコー |
C --- 3 |
東京大学 |
第6回 |
アルゴリズム研究所 |
3 --- C |
東京大学 |
第7回 |
富士通 |
C --- 3 |
東京大学 |
第8回 |
リコー |
D --- 2 |
東京大学 |
第9回 |
プロセス資材 |
3 --- C |
早稲田大学 |
第10回 |
リコー |
3 --- C |
東京大学 |
第11回 |
リコー |
D --- 2 |
早稲田大学 |
第12回 |
リコー |
3 --- C |
慶應義塾大学 |
第13回 |
プロセス資材 |
2 --- D |
立命館大学 |
第14回 |
ジュポン化粧品 |
C --- 3 |
明治大学 |
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8 ---6 |
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