イベント・レポート

第13回アマチュア将棋団体日本選手権

〜〜〜立命館大学強し、黄金時代の兆し〜〜〜

年月:2001年2月11日(日)13時〜18時〜

場所:滋賀県草津市「立命館大学びわこ・くさつキャンパス リンクスクエア2階」

主催:(株)リコー、全日本学生将棋連盟

後援:週刊将棋

リポータ:西田 文太郎 e-mail : nishida@cs.ricoh.co.jp

【初の関西地区開催】

 これまで出場した延べ24チームの中で、関西からの参加は第3回の京都大学だけであった。したがって、開催場所も東京で行われていた。今年は、学生強豪揃いの立命館大学が下馬評通り王座戦で優勝し、初名乗りを上げた。そこで、初めて関西地区での全日本選手権が実現した。王座戦優勝記は、近代将棋三月号に立命館主将の佐野善弘君が書いている。今回の関西での開催は、彼の力に負うところが大きかった。

 社会人代表は、春・夏職団戦連覇を果たしたプロセス資材がリコーの四年連続出場を阻み二回目の出場となった。

 場所は、立命館大学将棋研究会が、奔走してくれて、立命館大学のびわこ・くさつキャンパスが提供された。京都駅からJR東海道線で約20分の南草津駅下車、バスで約8分。1週間前に立春を迎えたこの日は、お日様も機嫌良く、さわやかな日差しの中、キャンパスに着いた。

 立命館大学は、京都の金閣の近くに衣笠キャンパスがある。びわこ・くさつキャンパスは理工系、情報系の学部があるという。正門前から長いエントランスがあり、広々とした、これぞ最高学府、真理の探究はこの広い空間からという、素晴らしいキャンパスだ。

 折しも、入学試験の真っ最中で、キャンパスの、そこかしこの日だまりに、コートを着たままお弁当を食べる受験生が沢山居た。仲間と楽しそうにおしゃべりしながら食べている人たちや、一人ぽつんと食べている人たち。

【対局開始】

 居室によっては琵琶湖も見えるというが、会場となったリンクスクエアの2階からは、湖は望めなかった。会場の設営は立命館大学の将棋研究会が、七夕生まれの次期会長笠原わかなさんはじめ皆さんできちんとしてくれていて、有難かった。それぞれのチームの控え室もあり、検討陣用の和室には7面並べた将棋盤が、対局開始を待っていた。

 対局は1時過ぎに、プロセス資材大将の遠藤さんの振り駒で始まった。プロセス資材が奇数番先手となった。

 今回のプロセス資材は、苦しいだろうというのが大方の予想だ。秋の職団戦でも13勝12敗というぎりぎりの勝ち星を重ねてきわどく優勝していたほどで、戦力が落ちているからだ。層は厚いものの超有力選手が抜けた穴をいかに埋めるかが課題である。その穴埋めに今大会に向けて、内部でリーグ戦を行い公平に選出した。結局上位5人に加えて、かつて大活躍した篠原さんと村上さんが実力を発揮して選ばれた。

 一方の立命館大学は、前年度から有力選手がひしめいており王座戦も優勝候補ナンバーワンであった。更に、今期は加藤君と木久君が加わってますます手厚くなった。準優勝となった明治大学との一戦こそ4勝3敗ときわどかったが、他は圧勝であった。しかし内容的には危ない将棋があったようで、佐野主将の手腕が光り、メンバーもそれによく応えたチームワークの勝利だった。特にライバル東大に7対0で勝ったのが大きい。

 武田君が9戦全勝、鰐渕君は7戦全勝だった。また、十傑戦のベストテンに加藤、鰐渕、木久の3人が入っている。学生女流名人戦には、立命館大学将棋研究会の伊藤、笠原、吉田の3人がベストテンになっており、まさに立命黄金期である。

 また、同じ学生女流名人戦で6位に入賞した同志社大学の諏訪景子さんが応援に駆けつけてくれた。ホームページ「202号」の管理人Keyさんである。彼女のホームページにも、この日の様子が描かれているので、是非行ってみてほしい。

【副将戦:△河上良彦 対 ▲金堂晃久】(以下、プロセス側を左に記載)

 真っ先に投了の声が聞こえたのは、副将戦である。プロセスの河上良彦さんは中部地方に在住ということだが、アマチュア大会では全国大会にしょっちゅう出ている元奨励会の強豪である。昨年のアマ名人戦全国大会でベスト8に入っている。ベージュのブレザースーツにマイルドな顔立ちであるが、将棋は辛い。

 立命の金堂晃久(かなどう)君は大柄なスポーツマンタイプである。黒のセーターに精悍な顔をしている。福岡県出身、理工学部2回生で、王座戦は5勝3敗であった。95年中学生選抜優勝、98年には高校竜王をとっている。

 戦形は相居飛で、先手金堂君が8筋の飛車先を▲77角と受け、△31の引き角に対し▲66角と手損をして角交換をさけた。後手はゆうゆうと矢倉城を築き、機を見て飛車先の歩を切った。更に、先手の突出点である6筋から△64歩と仕掛け、銀交換から手を作っていく。8筋の歩の合わせから手持ちの歩を使って相手の銀を▲98の僻地に追いやった。うまいものだ。

 金堂君の頬に赤みが差してきた。たっぷりある時間を使い、必死に挽回策を考えている。河上さんは余裕の表情で、他の戦局を眺めたりしている。会場のリンクスクエアにも、外の明るい日差しが漂っている。

 飛車角両取りに出た89手目の▲65銀にかまわず△77銀と打ち込んで大勢が決した。河上さんの的確な寄せを見て金堂君は潔く駒を投じた。因みに、アマ初段くらいでは投了図から▲63銀成と入玉を見せられて、勝ちきれないかもしれない。

 序盤の駒組み段階から河上さんの地力を見せつけられた。さすがに強い。

【七将戦: ▲石田 宏 対 △金築克祐】

 出入り口に、一番近い場所で七将戦が行われている。プロセスの石田さんは小柄だが、いかにもガッツがあるぞというタイプで、団体戦の貴重な戦力である。厚手のセーターで、用意万端という感じである。赤旗準名人になったことがある。八王子将棋クラブで子供時代の羽生さんと数多く対戦したことがあるという。

 金築克祐(かねつき)君は山口県出身、産業社会学部二回生、黒のブレザーで、茶髪のアイドル系。王座戦は8勝1敗と大活躍だ。

 先手の石田さんは四間飛車から穴熊に囲う。後手の金築君は注意深く、居飛穴熊に組み上げる。46手目の△86歩▲同歩の突き捨てから△75歩▲同歩もいれて、△56歩と、角交換を強要し△86飛と走ったところでは、居飛車優勢となった。

 その後、石田さんの辛抱強い応接に金築君に緩手が出た。それを見逃さず、急所に引きつけた馬をバッサリ▲14馬と捨て穴熊玉頭の端に猛攻を加える強烈な勝負手を放ち、形勢は一気に縮まった。91手目の▲14歩をみて、金築君は長考に沈んだ。

 しかし時間もたっぷりあるせいか表情には、余裕が見られる。どうやら、即詰があると直感しているようだ。やがて、静かに△28龍と切って、詰ましに行った。20数手詰の長手順ではあるが、見事に勝ちきった。

【六将戦:△青野 功 対 ▲佐伯紘一】

 プロセスの青野さんはいつもお洒落である。ダンデイ青野というのは我がリコーOB南さんの命名である。今日もグレーのブレザーを粋に着こなしている。かつて、関東学生名人をとっている。

 立命の佐伯紘一君は愛媛県出身、理工学部の2回生で、4月から副会長兼主将になる。前年学生王将をとっている。王座戦は6勝2敗と、好成績だった。縦縞のシャツをさらっと着流し、ダンデイ同士の対決となった。

 佐伯君の四間飛車高美濃対、青野さんの居飛車穴熊となった。4筋で小競り合いがあり、先手佐伯側から見て銀と桂交換プラスと金の分かれとなり、その銀を美濃囲いの小鬢に埋めて4枚美濃の堅城となった。

 やむを得ず、後手は飛車角交換から76手目△78角と打ち込んだが、攻めさせられている感じで、ここではすでに居飛車苦しいようだ。感想戦では△78角の代わりに△69角▲97飛なども検討されたが、居飛車が良くなる順が発見できなかった。

 しかし、苦しいながらも青野さんは辛抱を続け、穴熊城を再構築しながら反撃の機を待つ。飛車と角が何度も交錯し、やや盛り返した青野さんのカウンターに対し佐伯君も受けるべき所は手厚く受けている。

 終盤受けに打った桂馬を△43桂と攻撃に使って穴熊玉の腹が素通しになったのが敗着か。急所につきだした△66歩を、▲61飛の王手から抜かれて万事窮した。見応えのある熱戦だった。

【五将戦:▲篠原和久 対 △木久敬章】

 プロセスの篠原さんは、強烈な攻め将棋で、朝日アマ東京代表にもなっている。数年前の主力メンバーで、超強豪の加入で控えに回っていたが、ここへ来て復活を果たした。

 木久(ききゅう)君は長身に、ジーンズのシャツをラフに羽織ってスマートだ。地元京都府出身、理工学部工学科一回生、王座戦は5勝1敗と活躍した。モーニング娘が好きだという。

 相矢倉で後手木久君の銀がスルスルと進出し、△75歩の交換をした。その間に先手も、▲37銀から▲46銀、▲37桂、▲38飛と、攻撃態勢と築き上げた。篠原さんは膝を組みややはすかいに座り、熟考後、▲15歩から▲35歩と仕掛けていった。対する後手は交換した銀を△27銀と飛車取りに打ち、敵の攻めごまを攻める。

 形勢は、微妙に揺れて、後手が切らせに成功したかと思えば先手はうまく細い攻めを繋ぎ、先手がうまく端を食い破ったかと思えば後手玉は軽妙に大海に脱出する。一進一退の攻防が続き、後手の入玉模様になった。

 しかし、124手目後手が△75桂と反撃したのが、次の好手をうっかりした悪手。▲42銀の王手を食い、詰むや詰まざるやの難しい局面になった。134手目△44同玉の局面は、▲45歩から詰んでいたが、時間に追われた篠原さんは▲45金と豪快に捨てていった。これが痛恨の敗着で、プロセスは1勝3敗の窮地に立たされた。

【四将戦:△村上 均 対 ▲武田俊平】

 プロセスの村上さんも、朝日アマ東京代表になっている。最近控えに回っていたが、ここへ来て復活している。やや色黒でとぼけた味の役者さんのようだ。

 立命の武田君は秋田県出身、理工学部三回生で、秋田工業高専時代から注目されていたが、王座戦では九戦全勝と優勝の立役者となった。黒っぽいスーツにからし色のネクタイがよく似合う。

 横歩取りから△85飛の中座飛車となった。玉は41に居るのが普通だが、なぜか村上玉は52の地点にいる。先手武田君は中住まいに構え、角交換から▲77歩とあっさり77の地点にふたをする作戦を採用した。変な手だが、この戦形では時々見かける。

 後手の村上さんは△15歩から△44角と、攻撃をする。それに対し武田君は銀を進出させ逆に44の角を攻撃目標にして、玉の真上53の地点で角銀交換に成功した。その角で飛車をいじめながら53の銀と差し違え、敵玉を裸にした。

 その後は、後手に勝負手の出しようもなく端の突き捨てを逆用しやんわりと包囲していった。まさに玉は包むように寄せよという格言を絵に描いたような寄せだった。

【三将戦:▲小林庸俊 対 △加藤幸男】

 プロセスの小林さんはアマタイトルを沢山とっているが、朝日アマ名人三連覇が特に輝かしい。また週刊将棋アマプロ戦でプロに四連勝し、「蒼き狼」と異名をとっている。きっちりしたスーツ姿はいかにも頼もしい。

 立命の加藤君は、岐阜県出身、理工学部の一回生。王座戦では8勝1敗の大活躍をした。1月の全国オール学生個人戦でも明治大学の清水上君を決勝で破り優勝したばかりで、近代将棋3月号に自戦記が載っているので、ご存じの方も多いだろう。また、98年度全国高校将棋選手権個人優勝、99年度の高校竜王にも輝いている若手のホープである。目がくりっとして、愛くるしいが大学生になって活躍が続き、スーツ姿には若きエースの風貌が備わってきた。

 対局中は、小林さんが盤上没我でわき目もふらないのに対し、加藤君は余裕からか、観客をしっかり確認している。

 相矢倉で、先手小林さんの▲37銀に対し、右銀を△42に引きつけ、△95歩とのばしカウンターをねらう。小林さんの▲16香があまり見ない手だ。

 先手は64手目の△37歩の飛車取りにかまわず▲44歩と金取りの攻めだが、やはり、一旦▲48飛と逃げておくべきだったようだ。飛車損の猛攻から▲43金とべたっと張り付く。これに対し、後手は△32銀と普通に受けたが、これは甘かったようで、正着は△34銀打ちと、上から打ち▲44歩には△32歩と空間を塞いで、切れている。これは局後の野山の指摘だった。

 このミスに救われて、逆に先手優勢となった。89手目の▲34桂が強烈な決め手で、勝負あったと思ったが、勝負は最後までわからないもの。99手目▲52飛と打ったが33から打っていれば、決まっていた。その後103手目に▲34馬と銀を取った手が詰めろになっていない敗着。ここは▲14歩と突いておけば、後手は駒を渡さずに詰めろをかけられないので、先手が残していた。

 その後も小林さんは真摯に指し続け頑張ったが、146手目の△67金を見て投了した。難解ながら、小林さんの若々しい攻撃精神と、加藤君の勝負強さを見せてもらった。

【大将戦:▲遠藤正樹 対 △鰐渕啓史】

 プロセスのエース遠藤さんは、アマ棋界のエースでもあり、アマのタイトルもあれこれ取り、プロをも脅かしここ数年大活躍である。何故か悲願のアマ名人のタイトルにはふられっぱなしだが、いつアマ名人になってもおかしくない超強豪である。堂々とした体躯と堂々とした立ち居振る舞いが、いつも気持ちがいい。

 立命の鰐渕君は北海道出身、法学部の5回生で、押しも押されぬエースである。王座戦では7戦全勝で、優勝を手中にした。これで安心して後輩にバトンを渡せる。彼も94年に高校竜王を獲得している。紺のスーツにエンジのネクタイがよく似合っている。

 体調を崩したのか、開始早々席を外しなかなか帰ってこないので、少し心配になった。遠藤さんは、その間、心を静めるかのように目薬を差したりして、悠然と待っている。

 後手鰐渕君は四間飛車から、先手の居飛車穴熊模様に石田流に組み替える。先手は金が▲56まで力強く出ていったので、玉はうすい。石田流を端から攻めて飛車角交換から龍ができて先手が指しやすそうだが、後手も要所にと金を作り、いい勝負だ。

 ところが、そのと金を角で抜かれて、後手は攻めの手がかりがなくなってしまったが、飛車を打ち、龍を作る。

 美濃囲いで、△82に居た玉がいぶし出されるようにして、宇宙遊泳を始め、2筋あたりから入玉をねらう展開となった。しかし、自陣に歩を残してきたため、合い駒が不自由で、じわじわ上と下から攻められる。最後は、▲19香に仕留められてしまった。

 173手の大熱戦で、さすがに大将同士の好局だった。

【学生側急接近】

 これで、立命が5勝2敗とし、優勝が決まった。昨年の慶応に続き学生側の連勝で、通算対戦成績も学生側の6勝7敗と接近してきた。プロセスも、三将戦と五将戦では勝ちが出ていただけに惜しまれる。

 社会人の単一企業でメンバーを7人揃えるのはかなり厳しいが、日本レストランシステムズやデュポン化粧品など新興チームが着々と戦力を強化してきている。一方、立命館大学の黄金時代は当分続きそうだが、明治や、東大の反撃も侮ることはできない。

 我がリコーも、今年は、新戦力を加え、職団戦優勝と社団戦優勝を果たし、全日本選手権で日本一を奪還したい。

 学生対社会人の対戦成績はここへ来て、急接近している。社会人が優勢だった時代は遠くなり、むしろ学生の攻勢に社会人側が押され気味である。この大会は、社会人日本一チーム対学生日本一チームという図式に意味がある。双方頑張って、これからも、両者の力強い対決を見せてほしい。

 最後に、立命館大学将棋研究会のみなさんの影の力と、遠征を快く引き受けてくれたプロセス資材のメンバー各位、また応援に駆けつけてくれた方々に、お礼を申し上げたい。有難うございました。関西で開催できたことで、一段と大会に幅ができてきた、喜ばしいことである。また、来年お会いしましょう。

 (完:記01年2月17日)

 (改訂:01年3月3日)

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