イベント・レポート

第79回職団戦レポート

〜すべては‘愛’に味方したが・・〜

年月日:2000年10月1日(日)

場所:日本武道館

リポータ:谷川 俊昭e-mail : tanigawa@cspd.ricoh.co.jp


    20世紀最後の職団戦

 10/1、シドニーオリンピックの最終日。そしてこの日は20世紀最後の職団戦でもあった。運悪くというか、六本木でのタイラミー(まあ、セブンブリッジのようなものです)の大会とぶつかっていて、ディフェンディングチャンピオンの娘(小3)はどうしてもそれに出たいと言う。

 前日の土曜日が運動会なのに大丈夫かよと心配しながら(そう言えば私だって、このところ仕事が忙しくて、疲労困憊だ。何とかテンションを高くして乗りきっている)、とりあえず、職団戦の昼休みに武道館から六本木へ娘を送るという強行スケジュールを立てる。

 

    小田急線から都営新宿線

 通いなれた武道館への道である。もう40回くらいになろうか。しかし、娘と一緒に行くのは初めてである。とりあえず2人とも6時には起きる。私は最近、ねこじゃらしさんの谷川浩司九段の応援ホームページをきっかけに、いろんな棋士の応援ページにはまっており、とある掲示板では今日の職団戦のことも話題になり、私も応援していただいているようだ(ありがとうございました(^^))。

 少しネットサーフィンしてから、リコーのロゴの入った緑のポロシャツを来て戦闘モードに入る。コンビニで飲み物を買って娘と小田急線に乗りこむ。祝勝会予定の飲み会も、娘と一緒では遅くまでという訳にもいくまい。8時台のロマンスカーを予約した。今日の午前中はリコーの応援をするんだよと娘に言い聞かせるが、将棋にあまり興味がない娘は、どれだけ判っているのだろうか?

 小田急線から都営新宿線への乗り換えもいつもと違うコースになってしまった。やはり一人ではないので、今日は勝手が違う。行きの電車の中で定跡の復習をするが、週刊将棋表一面の王位戦第7局の解説しか頭に入らず(^^;)。

 

    小さなチアガール

 武道館の入り口がリコーの集合地点だ。娘の今日の計画は、将棋部でも一部の人にしか知らせていない。皆の目に驚きの表情が見える。とりあえず、「小さなチアガール」ということで、紹介する。通常はチーム全員が揃ってから入場だが、娘がいるので、先に入らせてもらう。とにかく、三千人近い人がいるので、迷子になったら大変である。

 ともあれ、私の対局席であるA42に娘を連れて行き、彼女の頭にしっかりインプットさせる。そう言えば、次回は幕張メッセとか言っている。以前も一度そんなことがあったようだが、私はオランダにいて参加できなかった。一体、何時に家を出れば間に合うんだろう・・。

 

     団体戦の難しさ−1

 今回、リコーは7チーム。別に東京リコー、三愛も出ているから45人が出場している。目標はとにかく1つでも多くチームが勝ちつづけること。個人的に勝ってもチームが負けては駄目なのだ。2−3負けに貢献した時は特に辛い。

 やたらテンションの高い私は2軍(A級)の大将。佐々木の欠場は痛いが、組み合わせ的にうまく行けば決勝まで行ける(5連勝が必要)と見た。決勝が東京リコーならベストである。世の中、そんなうまくは行かないが、まあ、最初から負けるつもりで望んで勝てるはずがない。

 

     団体戦の難しさ−2

 さて、トーナメント開始。とりあえず私が大将で行くしかないだろう。副将から5将は出たとこ勝負である。緒戦、相手の5将が遅れているようだ。遅刻10分で不戦敗とのルールをすばやくチェックする。

 はっきり言って、私の対局態度はある意味では良くないかも知れない(気分を悪くされた方がいたらゴメンナサイ)。大体、昔から個人戦でも気分転換と称して、適当なタイミングで席を立ち、他の将棋を勉強しに行ったものだ。特に職団戦のような5人対抗の団体戦ではチームが3勝しなければ意味ないので、なおさら他の将棋が気になる。横で見ている娘に「パパの番だよ」と注意されて、ちょっと苦笑い(^^;)。「とにかく助言だけはしないでね」と、逆にお願いする。

 20分程度で相手の5将が現われるが、当然厳しく時間切れ負けを宣告する。何故なら、目の前の将棋が怪しかったからである。8五飛もどき(朝の予習が多少役に立った)に苦戦中。2五飛と打ったのがうまい手で10分程度の長考(この日最長)を余儀なくされる。何とか2三歩成以下の順をひねり出す。

 その後、娘は同僚の吉中にナンパ(^^;)され、ドングリを拾いに行ったようだ。私は何とか勝ちきると、他の3人も勝って、5−0(うち不戦勝1)と順調なすべり出し。

 さて、気になるのは自分のチームもそうだが、Sで戦う1軍だ。NEC1相手に何となく苦戦を強いられている様子。しかし、私も第2局の開始時間が迫ってきた。後ろ髪を引かれる思いで第2局の席につく。

 

     第2局−難関を突破

 

 さて、順番決め。デビュー戦を無難に飾った桑山の将棋を隣で見たいと、副将の坂下と入れ替え。椋木が不戦勝だったので、四将の濱下と入れ替え。

 相手はと良く見ると、副将、3将と私の同時期に大学将棋で活躍したメンバーが並んでいる。私の相手も最近まで大学将棋で活躍していた人のようだ。これはまずいなと、思い出したように、マジック用のカードを対局前に机の上に出す(これ、おまじないです)。

 本局、対振り飛車に私の欲張った位取りに相手が反発してきたが、うまく切り返して、結果的には快勝となった。時間もあり、感想戦を早々に切り上げて他の将棋を見る。ちょっと危なかったが、時間切れ勝ち2局もあり、桑山が敗れた他は勝って4−1。何とか難関を突破する。

 ただ、対局中、席を立った時にボ−ドに張られた(NEC1が4−1でリコー1に勝利)が気になる。予選突破には、Sはもう一つも負けられない。

 

     たくさんのお守り

 今日の私はたくさんのお守りに守られている。まずは、先に書いた掲示板からの皆さんの暖かい声援。そして娘の無言の応援とお茶のサービス。また、2局目から使ったカード(マジシャンの秋元さん(小林恵子さんの同僚)から買った)は最強(確か負けなし)のお守りである。また、ドングリ拾いから帰ってきた吉中が、ここで新500円玉に両替してくれた。私は実は手にするのは初めて。これも私を守ってくれそうだ(^^)。

 そしてここで、この日にホームページ公開予定の加賀さやかさんに会う。彼女と「geoが調子悪くて(後に復旧)、公開まだうまく行ってないんですよ」「ところで、携帯でここまでできるの知ってる」「え、そうなんですか。便利ですね」など、しばしおしゃべり。彼女からもパワーをもらった。でも、ちょっと後で仕事が増えることに(^^;)。

 娘をここでタイラミーの会場に連れて行く予定だったが、2回戦で終了してしまった西田さんが連れていってくれることになった。ありがとうございました。

 観覧席にて皆で昼食。話題は当然週刊将棋、裏一面の山田斡幹君の快進撃だ。ここまで来たら羽生vs山田戦をぜひ見てみたい。しかし、どうして、YさんもSさんも当たる前に負けてしまうんだろう…・。

 ともあれ、気になるのは1軍の結果だ。慌てて下に降りて応援に急ぐ。何とリコー1は東芝1を完封していた。次のジュポン化粧品も厳しいが、勝てば文句なしの予選突破である。

 

     3局目−エンジン全開モードに

 さて、席順。あまり意味ないが、勘でシャッフル。1回戦の席順に戻す。対局開始時に私にちょっとしたトラブルが発生。大事なカードが見つからないのだ。3手目を指す前にそれに気付く。でも時間がもったいないのでとりあえず指してから探すかと指した手が、最近は指していない手。思わず天を仰いでしまった。カードは無事見つかったので、机の上に出したが、作戦の決定に苦慮。結局、指したことのない種類の棒銀を目指す。

 仕掛けのタイミングが難しかったが、仕掛けてからはバンバン行く得意の展開に。時間も使うことなく、第一勘の手を指せばあっという間に敵陣は寄り筋に。すっかりエンジン全開モードに入った。

 本局もかなりの短手数。他の将棋を見る余裕があった。誰か一人負けたような気がするが、早々と3勝を確保。安心していると桑山のところで時間切れが発生したらしい。見ていないので何とも言えないが、投了優先(少なくとも対局者は時間切れを指摘していない)とのことで良かったのかな? 引き分けでもいいんだけどリコーの内部的には社内レーティングに響いてくるのでこれは微妙で持ちかえって確認(^^)。

 さて、気になるのは1軍。ジュポンとの戦いは人が群がっていて良く見えない。いずれにせよ、敵も全国大会優勝経験があるビッグネームが並んでいるようだ。まだまだ中盤戦らしい。さて、2軍の戦いに戻らねば…。

     4局目−信じられない最後の9分間

 4局目、これを勝てばベスト4だ。ここまで、リコー3は3回戦で敗れたものの、東京リコーは順調に勝ちあがっている。大物新人、星出の加入で、随分と層が厚くなった。

 リコー2の相手は何となく嫌な相手。過去にも苦杯を喫しているが、勝てない相手ではないと見た。とりあえず再度シャッフル。2回戦と同じ順番に戻す。

 私は初めて後手番。何となく作戦勝ちになる。銀冠を目指した相手に気合で4九角を効かせる。相手も1八角と角の捕獲にすべてを賭けるが、飛車をバンバン振りまわしてからは、気合でビシバシ指しまわして、残り15分残しての快勝。会心の一局であった。早めに席を立ち、無言で勝利を知らせる。

 残り4局、副将以外はほぼ勝勢。これはいけるぞと次局に思いをめぐらせながら観戦。しかし、双方残り5分を過ぎてから信じられないことが起こった。みな、寄っている王様を寄せに行かないのだ。単なる時計叩きゲームになり始めた(><)。あっけにとられているまま8人の手が盤上にチェスクロックに交錯する。しょうがねえなあと思いつつ。私もどちらかというとチェスクロックの針の行方を見守る。

 約9分後、2人は詰まされ、2人は時計が切れていた。私は同僚にかなりきついことを言ったような気がする。

 基本的に切れ負けは将棋と異質のゲームだが、そういうルールでの大会に出る以上、それへの対応を練習しておくべきかな。そう思いつつ、張り詰めていた緊張がふっと抜けた。悔しいベスト8だった。結果的にこの相手チームが優勝していただけに、なお悔やまれる。

 東京リコーも残念ながら富士通1には勝てずここで敗退。A級のリコーの戦いは終わった。しかしまだ1軍が残っている。ショックをひきずりながら、1軍の応援に急ぐ。

 

    S級準決勝―念力を送る

 リコーは予選最終戦を3−2できわどく勝ち、準決勝は予選を3連勝でぶっちぎってきた毎日コミュニケーションズ1との対戦になっていた。現在1−1で、瀬良、菊田、牧野が残っているようだ。良く見える菊田は良さそうだが相手が穴熊なのでまだ大変そう。瀬良は少し良さそう。牧野は少し苦しそうといった感じ。

 良く見えないので、菊田の隣に座り、牧野の将棋を遠めに見る。菊田の将棋に視線を戻した瞬間、「あっ」という声が聞こえた。牧野の前に信じられないラッキーな局面があった。7四にいた飛車が8六にジャンプしてきたのだ。どうやら4ニの角で取ろうとして、秒に追われて混乱したようだ。ともあれ、念力を送ったせいでもないだろうが、これで2−1。あと一つだ。菊田は順調に勝ちきり勝利を決める。瀬良はまだ戦っていたが、そろそろ娘を迎えに行かないといけない。

 会場をいったん後にする。そう言えば、ネットで応援下さった皆さんに報告しないといけない。携帯からの書きこみは、チームが負けたこともあり、入力や変換がかなりきついが手短に報告。掲示板には弟がJT杯で決勝進出との書きこみもあった。嬉しいねえ。こういうの(^^)。

    S級決勝−間に合わなかった

 娘を迎えに六本木の会場に。開通したばかりの南北線の六本木一丁目を目指す。途中でニンジンジュースを飲む。おつりに新500円玉をもらう。ジュースは言われた通り、飲みにくかったが、これはまた運を感じてにんまりする。

 敗戦のショックが残っていたか、慣れない南北線で乗る電車を間違えてしまってタイムロス。実はこれが敗着につながったのかも。

 六本木一丁目からタイラミーの会場までは上り坂で結構あってきつい。汗を拭きながらエレベーターで会場に入ると、何と娘の嬉しそうな顔が。「パパ。また優勝したよ(^^)」彼女は、新二千円札を入れた封筒をしっかりと握り締めていた。それにしても、オリンピック閉会式の日に二連覇。親バカながらこの娘は何かやるかも知れない。

 でも、これがひょっとして今日のすべての運を使いきったかという思いも一瞬頭をかすめた。早く会場に戻って応援しなければ・・。

 タクシーを拾って武道館へ戻る。タクシーの車中、娘いわく「最初の試合で、パパが考えてたとこがあったでしょ。あの時、何で早くああ指さないかと思ったよ」「ええ、どこどこ?」「あの、飛車を打たれて、香車を桂馬の側に打ったとこ」「ええ、そんなの判ったの? 後で並べるから教えてね」

 おいおい、そんな手、お前に読めるのか? ひょっとしてお前テレパシー使えるんじゃないのとは口には出さなかったが・・。結局、盤に並べる時間はなかった。

 階段を駆け下りて人だかりに急ぐ。間違いなくこれがS級の決勝戦である。何とか間に合ったとほっとする。人ごみをかき分けて形勢の確認をする。現在1勝1敗。でも残りは1勝2敗の形勢。やはり間に合わなかったか・・。それでも娘の運を信じて逆転を念じるが、実は娘は人ごみの中、手を離してしまっている。牧野が詰まされた。菊田も相手が穴熊では間違える余地がない。野山は残っていそうだけど・・。そのまま、するっと人ごみをすり抜けて反対側へ抜ける。そこには諦めた顔の西田さんと吉中がいた。

 ほどなく菊田の勝負はつきチームの負けが決まったが、野山は延々と指している。気になって見に行くと、ちょうど入玉を果たしたところだった。ちょうど相手も投了。これですべてが終わった。

     戦いの後―すべて終わって

 戦いの後の武道館はがらんとしている。私の心もややうつろ。表彰式のことも良く覚えていない。

 結局プロセス資材に春秋続けて2−3負けしたことになる。プロセス資材は予選で1勝2敗。トータル13勝12敗ながらチームワーク良く勝ち星を重ねた。20世紀最後はやられてしまったが、21世紀はリコーも巻き返さなければ・・。

 さて、祝勝会の予定が残念会になってしまったが、実は今日の打ち上げに今津さんという女性が合流されることになっていた。彼女の携帯に電話したつもりが加賀さんにつながってしまった(^^;)。成績を報告して、掲示板への書きこみをお願いする。今津さんはいらしゃるようだ。

 そうそう、私も掲示板に書きこまなければならない。武道館から飯田橋近くの道すがら、携帯から結果を書きこむ。「S、負け、残念」と。

 全力で戦ったのだから結果は仕方ない。いや、それぞれ悔いはあるけれど、こんなときは飲んで疲れを癒すしかないのだ。

    打ち上げ−華やかに

 打ち上げは飯田橋駅前の居酒屋。ここでやるのが定跡になっている。今日は娘も一緒。飲みすぎるといけないので、今日は彼女が私のお目付け役になっている。ともあれ「乾杯」。

 しばらくして今津さんが現われ、雰囲気が和らぐ。とても明るい女性で、あっという間に場に溶け込んでいく。

 娘は大好きなお刺身を食べてはしゃいでいる。私はポラロイドの写真を見せて喜んでいる。「そうそうネットワークにつながっていないんじゃ、将棋強くならないよ」とか、訳のわからないことを口走る私。今津さんは私のネット友達なのだ。

 あっという間に持ち時間が減っていく。今日は娘がいるので8時過ぎにはテンパイするのだ。娘に催促されて席を立つ。新宿駅に着いたのはロマンスカー発車の5分前だった。

    サブタイトル−「すべては‘愛’に味方したが・・」って

 ロマンスカーの中、娘はすやすやと眠っている。寝顔を見ながら、私は今日一日を振りかえる。まだまだやれるじゃないという闘志が沸いてきた。次回はぜひ1軍で指したいと思いながら外をぼんやりと眺めていた。

 ところで、皆さんはサブタイトルの意味がお判りでしょうか。普通は判らないはずです。

 そう、娘の名前は「愛」。この日、彼女に運がすべて流れたのです。本人は実力で勝ち取ったと思っているかも知れないけれど・・。

    後日談

 この日、運をかなり使った私は、膝が痛くなり、今少しびっこを引いています。きっとこの日の歩き回り過ぎもたたったのでしょう。皆さんも運を使うのはほどほどに(^^)。


【前のレポート】 【次のレポート】 【イベント・レポート】

【前回大会】 【次回大会】

Copyright (C) 1999-2003 Ricoh Co.,Ltd. All Rights Reserved.