イベント・レポート

リコー’99夏合宿

   〜〜〜将棋を心ゆくまで指そう〜〜〜

年月日:1999年8月7日(土)、8日(日)

場所:湯河原 杉の宿

リポータ:西田 文太郎 e-mail : nishida@cs.ricoh.co.jp


【小さな親切大きなお世話?】

 8月7日、土曜日。今度の合宿に同じ職場から二人初参加することになった。湯河原の駅で11時30分に待ち合わせることにした。これが間違いの元だった。

 新田次郎著「孤高の人」の中に加藤文太郎という主人公が出てくる。同じ名前なのと、生き方が好きで、密かに私のアイドルになっている。主人公は山歩きが好きなのだが、いつもひとりで登るので、「単独行」の男として知られている。そのひそみに倣ってというほどでもないが、私も単独行が好きだ。自由がいい。

 今日は、決まった時間に着かなくてはならない。我が家の人気者ミスター・ビーンにむち打って、湯河原をめざす。東名にのるまでの環八渋滞と東名の大和トンネル辺りまでの渋滞と、石槌山の渋滞は計算に入れて、家を出た。しかし、環八の渋滞は去年よりひどくなっていた。瀬田で東名に入って、いつもならしばらくは、走るのに、今日は合流から渋滞だ。

 更に読みにない事故渋滞が二宮で発生していた。そこここで時間を食ったせいか、石鎚山の渋滞は、もうピークを過ぎていた。

 海は手前が緑色に揺れている。その向こうは濃い藍色をしている。水平線から上は白っぽい雲、更にその上はスカイブルーだ。なんて気持ちのいい海と空。右手のこんもりした山には、緑が濃く薄くてんでんに配色されて見飽きない。

 湯河原の海岸は水遊びの人たちで賑わっている。満潮時なのかぎりぎりまで海が迫っている。

 結局30分ほど遅れて、駅に着いた。

【杉の宿】

「杉の宿」は、湯河原の駅から車で10分ほど走った奥まったところにある。周りを木々に囲まれた道の右側に新館ができている。左側に旧館があり、その横に更に新しく建てている最中だ。うーん、そんなにもうかっているのか。囲碁・将棋の設備が整っていて、愛好家には評判がいいから無理もない。

将棋盤も足つきの立派なものだし、駒は「巻菱湖」に、「杉の宿」という名まで入っている。時計もデジタルで秒読みができるし、ちゃんと置き台もある。椅子席と、座る席と半々にあり、ほぼ幹事の出す要件を満たしているから、繁盛するのもうなずける。おまけに、夏は、一泳ぎして帰ることもできる。

ただ、この新館ができた頃から高級化戦略をとっているようで、夕食など、食べきれないほどごちそうが出る。もったいないなあと思う。また、各部屋には「名人の間」などと立派な名前が付いているが、寝るときは、大部屋に雑魚寝とややアンバランスだ。

【恒例の部会】

野山主将が恒例の部会を進める。今年は、「将棋部ニュース」のダイジェスト版を作った。すっきりまとまって、見やすい。

組織体制面では河津部長が定年退職で柳川さんが新任部長になった。嬉しいことに、河津さんが今回参加してくれている。大型新人は宮田暁君の紹介。彼は、耳がよく聞こえないので、周りの人がサポートしてあげるように主将からのお願いだ。…まだ、到着していないが、大丈夫だろうか。

また、来年入社予定の内定者2名の紹介があった。今日来ているのは桑山君だ。同志社大学の現大将だから、野山主将の後輩になる。楽しみだ。

団体戦は、2月に全日本選手権優勝、3月春の職団戦Sクラス優勝と勢いが良かったが、6月7月の社団戦ではぼろぼろになりかけている。

個人戦では4月に山田洋次が神奈川王座戦で優勝しアマ名人戦神奈川代表になった。アマ竜王戦全国大会は6月に行われ、野山、田尻が出場したが、惜敗した。

将棋部のインフラ面では、将棋部フォーラムを関連会社の部員もアクセスできるようになった。これで、OBの方と社外の方を除けば、全部員に情報が速やかに伝わるようになった。リコーの社内情報インフラの恩恵を多大に受けている。

【参加者】

 新しく部員になった人たちの紹介と、初めて合宿に参加した人たちの自己紹介があった。少しずつ部員が増えている。うれしいことだ。また、女性もアマ強豪の足立由美さん、沖電気の徳森さん、シャンチー日本一の柴崎さん、特許庁の新人吉野さんと4人初顔が見える。

 もちろん早水千紗女流プロは元気に来てくれているし、女流アマタイトル沢山の小野三枝子さん、高槻から早駕籠で参加の浅野法子さん、名古屋の脇坂さんといった顔が見える。

 屋敷師範も5月の剃髪が黒髪に変わり、小学生の哲ちゃんもお父さんより強そうな顔をして座っている。

 逆に「なっちゃん」こと藤森奈津子女流プロは東急将棋祭りの為不参加、リコー将棋部のアイドル師範中倉彰子女流プロはNHK衛星放送の「囲碁・将棋ジャーナル」の司会で、同じく中倉宏美女流プロは中国に将棋の仕事で行っており、合宿参加のファンをがっかりさせた。どうも夏場は、プロ棋士も忙しいようだ。

Sクラス16人、Aクラス16人、Bクラス20人全部で52人となった。

 

【Bクラス優勝竹中】

52人が最新のリコーレーテイング順にS、A、Bクラスと分かれてスイス式リーグ戦を各々4局行う。勝ち同士、負け同士で対局していくので4連勝すればほぼ優勝だ。持ち時間は20分、そのあと30秒の秒読みだ。

Bクラスでは、初戦豊饒のマドンナ柴崎順子さんと和らぎのマドンナ吉野裕子さんが対局している。柴崎さんはシャンチーが強いだけあって、始めたばかりの将棋でも、鋭い。昨日飲みがあって寝ていないという。藤原紀香もびっくりというナイスバデイーのようだ。ようだというのは、まぶしくてよく見られなかったためだ。吉野さんも始めたばかりらしいが、将棋を考えるのが楽しそうだ。いかにも女性らしい柔らかで粘りのある話し方が、周りの男性を骨抜きにしてしまいそうだ。

夢二のマドンナ徳森裕恵さんは前にペア将棋のレポートでご紹介しているので、詳しくは触れないが、思ったより指先などふくよかで、竹久夢二の絵と指だけは少し違いそうだ。

決勝戦はその夢二のマドンナ対竹久夢二ならぬ竹中静雄となった。内容は、聞かなかったが、竹中が4連勝で優勝した。準優勝は矢口功次、3位は須田哲夫、4位小川博義、5位徳増貴彦、6位安宅邦夫、7位徳森裕恵となり、なんと6人も3勝1敗がいた。

【Aクラス優勝桑山君】

私は一回戦で合宿委員の伊藤誠と当たった。前回の冬合宿で対局して負けたような気がする。風車にもてあそばれたのだ。今度も似たような展開になったが、中盤で、伊藤君が55で歩の交換を怠ったのが響いた。私の方から薄くなった敵の端を攻め優勢になり、終盤危なかったが、何とか残っていたようだ。

二回戦は鈴木祥充さんだ。何度も大森の月例会で戦っていて、お互い手の内は知っている。また、不思議に私の相性のいい相手だ。ここは椅子席で具合がいいが、隣でたばこをぷかぷかやられて参った。そうか、禁煙じゃなかったのか。そういえばいつも喫煙対策のセンスを持ってくるのだが、すっかり忘れてきた。このごろ、どこの将棋大会も禁煙がはやっているので、ここも禁煙にしてほしいものだ。

矢倉模様から変則的な力戦形に進み、ひどく不利になった。仕方なく秒読みを頼りに、詰めろをかけたら、こちらの即詰みを読み切ろうとして、鈴木さんの時間が「0」になってしまった。ラッキーとしか言いようがない。ああいうとき、いつも投げるべきかどうか迷って、たいがい投げない。すると、10回に1回くらいこういうことが起きる。悪いですね、鈴木さん。

感想戦では、あっさり7手だか9手だかで詰んでいた。ただ、初手に銀を捨てるか歩打ちかが悩ましいところで、歩打ちでは詰まない。我々クラスで、30秒では、間違えても仕方のないところだ。

三回戦は桑山君だ。メンバー表を見ながらここに勝てれば優勝の可能性がでるかなあと思う。最近時々試している菊水矢倉をやってみた。まだこつが飲み込めなくて、この戦型での勝率はひどく悪い。あとで、菊水の名手小野さんに教えてもらわなくてはならない。

とりあえず攻め合いをめざしたが、端歩付きが手ぬるく、弱い桂頭を攻められ、簡単に落城した。感想戦で、端を突かずに攻めてみたが、やっぱり駄目だった。ちょっと手合い違いだ。来年はSクラスでの活躍が期待できそうだ。

四回戦は佐々木猛さんだ。前もどこかで当たって、勝っているが、対局数は少ない。まだ手の内は判らない。途中はやや良くなったと思っていたが、終盤、どうも怪しい。敵玉を追いつめて、受けに回ったが、厳しい寄せを食らった。もやっと自玉の詰みが見え始めたので、脳波が伝わらないように読むのをやめた。

佐々木さんは、詰みなしと見て、一転受けに回ったが、今度は駒がたくさんあり詰ますことができた。感想戦では、やはりあのとき見えた筋で詰んでいた。結果は3勝1敗で準優勝となったが、内容は、ひどいものだ。

Aクラスは、予想通り桑山君が4連勝で優勝した。準優勝西田、3位樋口芳久、4位室井哲也、5位伊藤誠となった。

クルミ割りのマドンナ足立由美さんは2勝2敗、クリスタルのマドンナ浅野法子さんは調子が出ない内に終わったようだ。

【Sクラス優勝屋敷師範】

 しゃきしゃきのマドンナ小野三枝子さんが初のSクラスで注目される。一回戦で、坂下裕水を破って、大勝利だ。そのあと、高橋定光にも勝って2勝は立派だ。

 藤森ジュニアの哲ちゃんは、「もんでやる」という格好で、指していたが、高橋君に敗れていた。





 結局、屋敷師範が順当に4連勝。牧野が3勝1敗で準優勝となった。3位佐々木修一、4位藤森保となった。

 

【杉の宿の舟盛り】









 

 テーブルの上に乗り切らないほどの料理が並んでいる。刺身の舟盛り、天ぷら、鍋、えびの焼いたやつ…豪華だ。実はこのフレーズ昨年のレポートからそのまま使ってみた。

 近くには浅野さん、足立さん、角田先生、徳森さん、吉野さんなどがいる。 

 私とペアを組んでは無敵(いえ冗談っす)の浅野さんは、ご主人の転勤で今年高槻に引っ越しした。正棋会にはいって、練習しているという。社団戦フェアリープリンセスで大活躍していた矢先だけに悔しい思いをしているのだろう。でも、ご主人は、あまり将棋は指さないらしいが、ご理解があって、こうして合宿に気持ちよく送り出してくれる。奥様も我々も、おかげで楽しめて有り難いと思う。

 足立さんは、お子さんが3人いるが、しっかり合宿に駆けつけてくれた。逆に転勤で九州から東京に来ているのだ。また九州に戻るかもしれないので、こちらにいる内に沢山指したいと言い、修学旅行のように楽しいとはしゃいでいる。こちらも楽しくなる。

 角田先生は今は銀座の診療所にいるが、その昔青山にいて、その頃から将棋仲間だ。久しぶりに、合宿に来てくれた。もっとも群馬県に学会か何かがあったようで、夜からの参加となった。将棋よりも中国語に興味があったようだが、開催場所が判らずあきらめて将棋を指していた。浅野さんの四間飛車にひねられていたようだ。

 徳森さんは沖電気の方で、アマ強豪の山中さんという良き指導者に恵まれて、ぐんぐん力をつけている。職団戦や社団戦で活躍している。居飛車本格派で、筋が良い。将棋は、初心者への指導方法が確立していないため、上手な指導者に恵まれるというのは希有なことだ。何しろ教えるというのは忍耐がいる。愛がいる。

 年内に職場の素敵な男性と結婚する予定だという。将棋を指せることが条件ということなので、これからも活躍が期待できる。

 吉野さんは関西の大学を出て、4月から、東京に住んでいる。住んで2日目に、窓ガラスを割られ、下着と写真を盗まれたという。何というひどいことをするんだろう。くるりとした瞳にえくぼがかわいらしい。

【リレー将棋】

 食後のデザートはリレー将棋。私は、徳森さんと樋口さんというメンツで、超人はいないが超弱もいないという平均値の構成なので優勝候補ナンバーワンだ。打ち合わせは、一言、居飛車ならなんでもOK。

 一回戦、グリンベルゲン、鈴木、今井チーム。途中、徳森さんが誰も気づかなかった23桂という王手香取りの強手を放ち、今井さんがびっくりして頓死方向に玉を逃げて、ノックアウト。

 二回戦は高橋、鷹取、高田チーム。鷹取さんのプレゼントを有り難くちょうだいした。

 三回戦(準決勝)は優勝した藤森、竹中、宮本チームにあたり玉砕。

 3位決定戦は、椋木、岡田、柴崎チームに勝って、見事に、3位入賞。

【自由対局】

 

 あとは自由対局。念願の足立由美さんと1局。筋の良い自然な指し手に押され始めるが、終盤の難解な局面で何とか逃げ切った。

 ライエルと指した。最近放映したNHKテレビの「コンピュータは将棋を超えられるか」の話題で盛り上がった。必勝法があるといっていたが、まだ実は判らないと言う。千日手や持将棋が解明されていないから。

 ライエルは振り飛車が多かったが最近は居飛車も多い。矢倉模様で、2つ勝ったら、隣で、椋木さんだったか、「ライエル最近調子悪いね」という。

 脇坂さんと指した。1勝のあと、2局目を温泉気分で指していたら、脇坂さんに、底歩を指さされてしまった。うわっ…2歩か!!!

【高橋リーグ戦】

 高橋君が呼びかけて、1軍入りをめざすメンバーでリーグ戦が始まった。面白い企画だと思う。牧野と桑山君が4勝1敗で優勝した。牧野は宮田に負け、桑山君は牧野に負けとか。

【鬼の集金役】

 朝、合宿委員の伊藤君から、何故かマドンナたちの集金役を仰せつかった。豊饒のマドンナひとりを除いてすぐに集まった。集金は、たとえ火の中、水の中、速やかに正確に行わなくてはならない。うん、…水の中??

 そうか、風呂か! 仕方がない、行ってみるとするか。谷川セクハラ監視委員(?冗談っす)の了解を得て、2階に上がる。風呂場の様子をうかがうが、誰もいないようだ。決して開けてみたわけではない。

 そういえば昨日からというかもう一昨日からほとんど眠っていないと言っていた。マドンナたちの部屋は、『王座の間』だった…

 コンコンコン、ノックは3回だっけ?

 どうぞ中へと誘われる。ドッキドッキ…おそるおそる禁断の間に足を踏み入れる。どうしてか知らないが、何となく抜き足差し足っぽくなる。

 ナナナナなんと、布団の中で腹這いになって、ニコニコお金を差し出しているではないか。ドッキンドッキン。Kurakurakura…

 こんな私のうろたえぶり、あわてぶり、狼狽を始めから終わりまで見ていた人がいる。ああ、恥ずかしい。内緒にしてね。

【2日目自由対局】

 その後、小野さんに菊水を教わる。早めに角交換して馬を作るのが小野流だ。こちらも馬を作って対抗し、千日手模様も無理矢理攻めていき、泥沼の中で勝ちを拾った。2局目も優勢に進めていたが、小野さんの念力にやられて2歩を打ってしまった。

 トホホホ、2日続けて2歩を打つか…

 宮田君と1局。5月の三愛会決勝で惜敗しているだけに、リベンジに燃えるっていうか、なんとか勝てないものかと思う。矢倉37銀戦法を選ぶ。組むまでは組めるがその先が判らない。角と銀を交換して、エイッと角を打ち込んだ。銀も打って飛車をいじめたら、意外に効果があって、うまくしとめることができた。

 宮田君は、昨日公式戦の4局目にぎりぎりでやってきた。哲ちゃんとやったという。聞くと行き先が判らなくなり、熱海まで行ってしまい、馬込の寮まで戻って行き先を確認して来たのだという。

 しまった。なんてことだ。もう少しフォローしておけば良かった。ここは初めての人には判りにくい場所だ。そうなのだ、道に迷っても行き先が怪しくっても、健常者ならどこかに電話したり、誰かに聞いたりできるのだ。電話もできない彼には、気の毒なことをした。元は本人の不注意だろうけれど、私たちも迂闊だった。

 湯河原の海を見ながら、たまたま最後まで残った宮田君と、白い入道雲を見ながら昨日の渋滞が嘘のような高速をすいすい走った。宮田君のお母さんは故郷の山口で、心配していると思うけど、彼は大丈夫、ひとりでちゃんとやっています。お母さんがきっちりしつけてくれたから。お母さん有り難う。

 最後に合宿委員の伊藤君ご苦労様でした。おかげでみんな楽しんでくれたと思う。だんだん手際が良くなるね。盛り上げてくれたマドンナさん、有り難う、また来てくださいね。

(記:‘99年8月10日)

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