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イベント・レポート

アマ名人戦奮戦記

月日:98年9月4日〜7日

場所:東京 晴海 『ホテル浦島』

リポータ:田尻 隆司 e-mail : tajirita@ku.magma.ne.jp

近況報告

9月4日

9月5日

9月6日

9月7日



近況報告

 リコ−を退職して早4年、すっかり田舎者(?!)になってしまった私ですが、 せめて年に2回位は上京して、”魂の洗濯”をしたいと,アマ竜王戦、名人戦 の熊本県予選だけは、出る(ひとくちに”出る”と言っても、試合会場までは 車で2時間半たっぷりかかるので、ビジネスホテルに前泊せねばなりません) ことにしています。

 あたりまえながら、出たからといって必ずしも代表になれるとは限りません が、幸いアマ名人戦の熊本県予選は、”肥後名人戦”という名称のタイトル制 (三番勝負)になっており、1度獲得すれば、次回からは挑戦者を迎えて2勝 すれば防衛(=県代表)と、他県に比べれば連続代表になりやすいシステムにな っています。(このへんのことを四国の某県代表経験者に「熊本の分際で防衛 制とは生意気!」と”素面(しらふ)”で噛みつかれ、往生した覚えがあります)

 平成6年の12月に、リコ−を退職して熊本に帰った私は、翌年平松伸男肥 後名人(当時)への挑戦権を獲得。三番勝負を幸い連勝して初めての肥後名人位 (熊本県代表)を得ました。
以降連続3期防衛を果たすことができ、今年も東京晴海のホテル浦島へお邪 魔できた次第です。

9月4日

 前夜祭の3時間程前に、ホテル浦島へ到着。とりあえずシャワ−を浴びて喫 茶室へ直行するのが毎度のパタ−ンではあります。
 一服してくつろいでいると野山さんが登場。(今回は5年ぶりの大阪代表と いうことで、これ程の人にしてそうなのですから、やはり熊本は恵まれ過ぎて いるのでしょうか?!)持参のノ−トパソコンで、リコ−将棋部や正棋会のホ −ムペ−ジを見せてもらっている内に、あっという間に前夜祭の時間です。

 学生時代や、東京時代の仲間達と久々に再会し、旧交を温めることができる のは全国大会ならではの醍醐味であり、これこそ私の言う”魂の洗濯”です。

 楽しい時間が過ぎてゆき、酔いが回ってきた頃に、会場の一角へ人ごみがで きます。明日の予選リ−グの組合せが貼り出されたのでしょう。ちなみに今の 私は絶対にこの場では表を見ないことにしています。だって、酔いは冷めるし 胃は痛くなるし、眠れなくなるしで、ちっともいい事ないじゃないですか。 まったく将棋連盟は悪趣味?!な事をするもんです。(笑)

 中締めが終わって、逃げるように外に出ようとすると、いるんですねえ、お 節介な人が!!中村知義君がつかつかと寄って来て、「いやあ、田尻さん、1 局目、当たっちゃいましたよ!」だって!(この男、許せ−ん!)

 おかげで、深い眠りにつくためにはと、小島さん,田村さん,天野君の4人で 夜の銀座で痛飲する羽目になってしまいました。

9月5日

 いよいよ予選リ−グの開始であります。いつもながら、開始直前のこの静け さは、キリキリと胸を締付けてくれるものです。

 第1戦の相手は、と、いうわけで(?!)京都代表の中村氏。彼とは現役学生時 代西日本大会の団体戦が初顔合わせで、その時は居飛車党だった氏に相矢倉で ボロ負け。2局目は平成最強戦で当たり、氏が振飛車党に転向していたため、 今度は相振飛車で対戦し辛勝しています。いずれにせよ、二人の対戦では縦の 将棋が基本になっているようで、本局もやはり相振飛車となりました。

 序盤は三間飛車側の私が3筋の歩を交換したのに対し、向飛車側の中村氏は 3七歩と受けずに大模様を張る展開。勢い気合いで3六歩と垂らしてみたもの の、後でこの歩をタダ取りされる羽目になり大苦戦。ところが楽観したのか、 やや中村氏の指し手が荒くなって決め損ない、私の自玉頭からの逆襲が成功し て一瞬の内に逆転してしまいました。最後は逆に差がついた形で中村氏投了。 冷や汗ものの勝利ながら、やはり緒戦の白星は気分がいいものです。

 野山さんはと見れば、大分代表の安藤耕平氏(牧野君の九州大の先輩)の陽動 振飛車によもやの敗戦。安藤氏は大学卒業後,20年近く全国大会でのブラン クがあったにもかかわらず、大したものです。やはり大分名人戦3番勝負で早 咲君を倒してきた自信の成せる業でしょう。

 さて第2戦は,栃木の高野清澄氏が相手です。初顔合わせですが、以前アマ 連の機関紙で彼の将棋を見たことがありました。”栃木県グランドチャンピオ ン戦”の記事だったと思いますが、相穴熊の将棋で、振穴側を持った高野氏が 快勝していた様です。

 局面はやはり相穴熊に進み、振飛車の左銀を5四に腰掛けるタイミングが若 干遅かっため、6六歩と角道を止めずに銀を7六まで引っ張り込んで指す形と なりました。難しいねじり合いが続いた後、先手玉の3枚穴熊に対し後手玉は 2枚の穴熊だったため、中盤後半過ぎに角損でと金を作る強襲をかけ、これが うまいことヒットしてくれて、難局を制すことができました。

 これで内容はともかくも2連勝。予選通過を決めました。まずは、第1目標 達成といったところですが、やはり気分のいいものです。
 野山さんも第2戦を勝ち、第3戦,新潟の北村俊氏とサバイバルマッチを戦 う事になりました。

 応援する側も、胃が痛くなるようなこの一戦,北村氏の四間飛車に、野山さ んは例によって”至高の棒銀”を採用。完全な定跡形の仕掛けです。目下プロ 棋戦でありそうななさそうな展開となったのですが、野山さんの船囲いは例に よって(?!)固く、急所の端攻めを厳しく決めて快勝。貫禄の決勝ト−ナメント 進出を果たされました。

 この夜は、応援に来てくれたリコ−将棋部の牧野君,豊岡さん,藤原君,岩 手代表で藤原君の棋友である永田さん,そして野山さんと共に、再会と予選通 過を祝し、銀座のサントリ−館でビ−ルをいただきました。(普段飲まない(?!) 私でも、全国大会期間中は毎晩美味しいお酒が飲めるのです(笑))

9月6日

 さて、これからは1発勝負の決勝ト−ナメント。一瞬たりとも気の抜けない 神経戦の始まりです。
 ちなみにアマ名人戦に限っていえば、ここ3年間、実は全て1回戦負けを喫 しており、(相手は新井田,樋田,北村(公)の3氏)この朝イチの対局が私にと って鬼門となっています。

 その鬼門である1回戦の、今年の相手は、奈良の篠田氏。東大将棋部で活躍 し、学生王将,全日本選抜戦(100万円大会)連覇等素晴らしい戦績を持った 強敵です。氏とはリコ−VS東大戦等で数局対戦し、当時は多少分が良かった 様ですが、あれから数年,こちらは弱くなり、向こうは強くなりで、ハッキリ いって今回は分が悪いかな(?)などと考えていました。

 本局は久々に立石流を採用。かつて、将棋ジャ−ナル紙のアマプロ戦で佐伯 八段,森九段を連破したことのある(知ってる人は殆どいない(?!))恐怖の(笑) 田尻式立石流ですが、最近はトント使った事がなく(居飛車側の対策が進歩した せいです)、なんでこんな大切な将棋に採用するのか、我ながら不思議です。
 篠田氏の対策はやはり優れたもので、あっという間に作戦負け。苦しまぎれ に飛車交換を挑めば、アッサリ交換されて猛攻をくらい、たちまち土俵際まで 追い込まれてしまいました。

 今年も1回戦負けかあ!と半ば観念して受けに回っていたところ、篠田氏, やや急ぎ過ぎて、逆に攻めが重くなってしまい、瞬時をぬって馬を急所に引き つけ、なおかつ玉頭に2枚香を並べる手順が回っては流石に逆転。

 予選リ−グに続き、不思議な事にまたも逆転勝ちで1回戦の壁を突破しまし たが、この辺りでは、”今年は多少つした。この場を借りて、お詫び申し上げます。

 いよいよ対局開始。準決勝に続き、振駒で先番を引き当てたため、迷わずひ ねり飛車に。といっても、リコ−将棋部の皆さんはよくご存知の通り、別にこ れが得意戦法というのではなく、いみじくもテレビ解説の塚田八段が指摘され ていた通り、”後手側が個性を出しにくい戦型”という1点が、採用した理由 です。

 仕掛け直前までは、手順は違えど数年前の羽生−深浦の王位戦第3局とまっ たくの同型となりました。但しその直後、私の6八金と寄ったところでは、当 時の羽生王位は8六飛と指しています。(その理由は内緒です(笑))
 先手6八金が私の工夫(?)なら、その後の,後手2四角から9三桂のコンビ ネ−ションが吉澤氏の工夫でした。

 過去実戦例のない(単に私が知らないだけ?)局面に出くわし、思わず大長考 に沈んでしまいました。この約15分余りの考慮時間は、恐らく我が生涯最長 だった筈です。(何を考えていたかは、今となっては思い出せません(笑))
後手4六角に対する、6五歩から8四歩の手順は、どうやら最善の応対だっ たようです。局面は大決戦へと突入しましたが、この辺りから、少しずつ指し 易さを感じていました。

 手数が進み、指し易いから優勢へと変わるにつれ、正直なところ”2度目” の言葉がチラつき出します。この精神修業の未熟さは、結局のところ,一生直 らないんだと今回悟った次第です。

 終盤に入って持時間も僅かとなり、案の定,緩手が飛び出て、差が一辺に縮 まりました。尚且つ、そのタイミングで恐怖の秒読みに!
 敵玉は寄りそうでいて、その実簡単には寄せが見えません。”10秒”の声 が肺腑をえぐります。瞬間,ある筋が閃きました。とはいえ、正直に言えば、 ”とりあえず、詰めろ!”ただそれだけの読みでしかなかった4三と,から5 一角だったのです。

 私にとって幸いだったのは、恐らく”4三と”捨てが、吉澤氏の読みから偶 然抜け落ちてたのではなかったかということでしょう。
 この手を見て、残り5分位あった筈の吉澤氏が秒読みに!ここが勝敗の分か れ目になりました。
 秒読みに慌てた,後手3五歩が最後の敗着!ここ5四飛なら私は読み切れて なく、この後ドラマが起こり得たかもしれません。

 後手5八馬の局面を前にして、私は屋敷師範の自戦記のワンフレ−ズを思い 出していました。

        「他人が主人公ではないのか?」

 了

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