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イベント・レポート

第9回 社会人将棋団体戦 第3日

   〜〜〜東大パイナップルに完敗〜〜〜

月日:98年9月13日(日)

場所:東京都港区:長谷工体育館

リポータ:西田文太郎 e-mail : nishida@cs.ricoh.co.jp

 

【秋の匂い】

 残暑。白い雲におおわれて太陽は姿が見えないけれど何となくまぶしい。最高気温は29度という予報。半袖の蓬色の綿シャツで出かける。冷房の効いた電車の中ではやや寒く、外へ出て少し急ぎ足で歩くと汗ばむ。もやもやした歩道も、街路樹の下にはいると、ひんやりとした空気の塊に出会うと、さわやかな秋の匂いを感じる。

 

 JR田町駅で降りると、改札付近には待ち合わせ顔のそれらしき人達が大勢居る。Gパンやコットンパンツに簡単なシャツをひっかけただけで、手にはラケットなどは持っていない。将棋を指すには荷物など入らないのだ。思いのほか若い人が多い。これは嬉しかるべきことだ。

 

【道場盛衰】

 朝のNHK「お早う日本」で将棋道場に人が集まらなくなっているという特集を10分近く流していた。渋谷の高柳道場が閉鎖したという映像や、羽生七冠王を生んだことで一躍有名になった八王子道場や新宿のザ・将棋が映り、ある道場は一ヶ月の収支が10万ちょいとという苦しさだという。

 一つにはネットワークでの対局ができるようになったからだという。そしてパソコンで対局する人の姿が映る。

 

 はたしてそうだろうか? !!!

 

 ネット対局以前から道場の集客力は落ちていたのではないか。確かに、繁盛している道場とそうでないところとの格差は広がっている。普通の企業と同じように、単なる経営努力の違いなのだろうか? 新宿のザ・将棋は、近いこともあってたまに顔を出すのだけれど、経営者は、あの手この手で新手を繰り出し、考えられる限りの努力をしているようだ。それでも苦しいらしい。

 私は、過去の将棋連盟が、女性や子供に対する普及活動を怠ったために、そのつけが、今回ってきたというところだろうとみている。何年も前のデシジョンや施策が後年大きな欠陥として現象に現れることがよくある。デシジョンメーカーはもってめいすべしであるが、そのころにはそのデシジョンメーカーはその結果を評価する立場にいないことが多い。

 

 そういう視点で見れば最近の普及活動はだいぶ進んできたのだろうが、まだまだ日本将棋連盟は、独占企業体なので、井の中の蛙的な体質は抜け切れていないと思う。もっとアマプロの交流を盛んにし、アマの上達に資する体系的な指導方法を考え実行すべきである。そして、何よりも、将棋連盟のあるべき姿のビジョンを描き、進むべき方向の指針を打ち出せばいいと思う。

 

【パイナップルの若大将】

 我がリコーの2軍は、今年は3部にでている。ここまで6勝6敗と長島流にいえば♪♯イーブンだ。今日は好調な小林が欠場なので少し苦しい。初戦の相手は東大パイナップルだ。東大の2軍とのことだが、ネーミングが洒落ている「パイナップル」は、スーパーで売られている緑の葉っぱを連想させるので若々しく、「東大」という伝統ある格式の高さとの組合せによる乖離が意外性があり微笑ましい。

 

 ふと大将を見ると整った顔立ちに目元が涼やかなハンサムガイだ。つい先週のアマ名人戦全国大会に千葉県代表として出場し、予選を突破し、決勝トーナメントの2回戦で、我らが英雄、野山知敬と対戦した堀井淳之さんだ。

 そのときの将棋は、先手堀井の四間飛車穴グマに対し、後手野山が△6六角から機敏に2筋の歩を切り、十分な穴グマに組ませないで、8筋から飛車が成り込み、優勢に進めていた。しかし、その後穴グマを捨てて血路を開いた先手玉が活躍しかなりきわどい勝負になった。さすがに野山はしっかりと寄せきったがかえって堀井さんの強さが目に付いた。

 感想戦が終わると、応援にきていた神秘のマドンナはじめ仲間達に「折角きてくれたのにワルイワルイ」と元気に挨拶している。途中大差だったこともあって心の整理がついていたのかも知れないが、気持ちのいい男らしさだ。

 

【将棋界ホームページの功労者】

 パイナップルの六将で指しているのは、香山健太郎さんだ。仲間内ではヤケンと呼ばれているようだ。三年前から、東大将棋部のホームページを作っている。

 いまでこそ、あちこちに将棋のホームページも素晴らしいものが沢山できているが、しにせはNTTと東大とリコーだ。NTTの伊藤智子さんとリコーのウエブマスターの小川博義と時を前後して、インターネットの将来性にいち早く着目し、多忙を極める中で、営々と素晴らしい文化を築き上げている。香山さんは「ストレス解消に」と謙遜するが、多くの将棋ファンが恩恵に授かっていることだろう。私自身もたぶん仲間達もこうして少しでも協力できることは光栄であり喜びでもある。

  

 東大将棋部のホームページは多くの特徴を持っている。

 

 まず目に付くのは、ホームページを持っている部員が多いことだ。そして、それぞれ個性的で文章もうまいし、それ以上にそこに語られている日常がそれぞれの青春を雄弁に物語っていて、つい引き込まれるのだ。

 また、常に革新的で、冒険を恐れないところがいい。掲示板を作り、人気投票を企画し人気を博している。インターネットが既存のメデイアと一線を画す双方向性の特長を引き出そうと言う野心的な実験だ。

 掲示板という悪用されかねないオープンな広場を提供しうまく運営している。人気投票という人権に関わりかねない出しものもさらりと展開している。

 更に最近は棋譜アーカイブをのせはじめた。データベースはデータの入力が大変労力が要る。テンキーで入力しているとのことなので、まともに入力するよりは早いのだろうが、数が多いので頭が下がる。

 

【パイナップルの華】

 パイナップルにはどんな花が咲くのだろうか。昔々新婚旅行で行った沖縄でパイナップル畑に行ってぬるいけれど甘あいパインを食べたことは覚えているけれど、花は全く記憶にない。

 確実に言えることは、東大パイナップルの華は神秘のマドンナだということだ。千人近く集まっている中で、今日神秘のマドンナと対局できるのはわずか四人だけなのだ。

 そして私の目の前には、白のGパンにオレンジっぽいチェックのシャツが座っている。肩まで伸びたカーリーがかった髪が真っ黒で、かえっていまどき新鮮だ。

 

 振り駒でリコー奇数番先手となり、七将の私は深呼吸をして▲7六歩と指す。顔は火照り、指はふるえを隠せない。後手は四間飛車に構える。対して、▲5七銀左から急戦を狙うが、どうも仕掛けると悪くなりそうだ。

 神秘のマドンナは、私のイベントレポートの二回目から初登場し、ヨチヨチ歩きのレポーターに勇気とやる気を与えてくれた。私にとってかけがえのない人だ。盤面に集中しなくてはと思っても、白くたおやかな指が駒を動かすと、心が揺れる。

 仕方がないので、しばらく目をつぶり、記念すべき対局の揺れる想いを楽しむことにする。ところがすぐに、もったいないから目を開けろというコマンドが飛んでくる。いやいや目を開けるがいくら何でも対局中の相手をじろじろ見るわけには行かない。

 ふと、テーブルの下に黒いヒールのおみ足がある。幽霊でないことに安心したのか、急に将棋に集中できるようになった。どう仕掛けても不利だけど、ここで行かなきゃ先手が泣く。△6四歩を保留したままなのに、▲4六銀から▲3五歩と行く。角・銀と飛・銀との交換になり、△4四角と打たれ困る。

 それでもごちゃごちゃやっている内に、双方秒読みになり、あろう事か、敵の龍がこちらの角筋に入ってきた。いつもなら喜んで有り難くいただくところだが、今日は気が引ける。時間もないし、そこまでが悪すぎたので、龍を取らないと、勝ち目がない。仕方なく龍を拾って申し訳ない大逆転になった。

 

 チームは他全員が負けた。

 結局、2勝2敗で通算6勝6敗の11位と、残留も厳しい状況に追い込まれた。今日も大将神話が生きていて大将の勝ち負けとチームの勝ち負けの同期がとれている。最終日はよほど頑張らなくては。

 

【ベールを少し】

 3軍も2勝2敗で、通算5勝7敗となった。

 

 2度目のインド長期出張から帰ってきたばかりの菊田が午後から参加したが、結局1勝2敗で通算3勝6敗と8位。どうやら入れ替え戦に出ることになりそうだ。

 

 最後に神秘のベールを少しだけはがしてみると、東大のホームページの人気投票で、関東女性アマの部で第1回、第2回と連続一位に輝いているマドンナだ。そして写真も公開させていただくことにした。





 

(完:記98年9月21日) 


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