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イベント・レポート

リコー‘98夏合宿

   〜〜〜将棋のユートピア〜〜〜

月日:98年8月8日、9日

場所:湯河原 杉の宿

リポータ:西田文太郎 e-mail : nishida@cs.ricoh.co.jp


【渋滞の先頭は何をやっているのか?】

 以前同僚の一人がぼそっと言った言葉だ。事故や工事で車線規制されているということもたまにあるけれど、渋滞を抜けていくと、たいていなぜ渋滞していたのか痕跡が見つからないことが多い。NHKテレビで、渋滞の謎を解明する番組をちらっと見たことがある。高速道路などで、車が流れているときに、どれかがカーブなどでブレーキを踏むと、後続の車が次々とブレーキを踏み、渋滞が作り出されるというものだった。確かに、赤信号でとまると、渋滞の小さな萌芽が芽生える。何とか「交通の集中による渋滞」のない道作りはできないものだろうか。

 

【愛車ビーン登場】

 10年10万キロを一緒に走ってくれたカムリ・ルミエールに別れを告げて、シャリオに換えた。我が家の人気者で、ニックネームはビーンだ。キーにビーンのぬいぐるみをつけた。たまたま、ビデオで家族の人気者になったミスター・ビーンだ。いたずら好きで変な奴だが、いたずらを思いついたときのほくそ笑むような顔が、ちょうど我が相棒がいたずらをするときに見せる表情とよく似ているのだ。車は彼が愛用しているローバーミニとは全然ちがうけど。

 8月8日の土曜日だから混雑を予想して早めに家を出ることにした。高井戸あたりから環八内回りに入ろうとする。すでに渋滞していて、環八にすらなかなか入れない。少し裏道を走り途中で環パチに戻った。瀬田の東名入口までびっしりだった。子供達から無断借用してきたミスチルやカーペンターズのMDやナビが気を紛らわしてくれる。いっそ詰将棋でもと思うのだが、さすがに危ない。

 東名に入っても、渋滞は続いている。町田の先の27キロポスト付近まで渋滞だという。こういう情報はかなり精度が高く、ずっと、ゆっくり進むしかなかった。

 そのさきは普通の高速らしく走った。小田原・厚木道路も好調だ。と思ったら、真鶴道路の入口の石橋料金所からの渋滞が長い。

 結局、100キロ足らずを4時間以上かかってしまった。湯河原の海は色とりどりのビーチパラソルや水着で賑わっている。

 

【恒例の部会】

 野山主将が恒例の部会を進めている。

 今年もいろいろあった。全日本選手権の惜敗、牧野の結婚、菊田の都名人戦優勝、春の職団戦Aクラスで、S1が優勝。関西の☆(星)立命館から期待の大型新人山田洋次入社。学生王座戦で竹中、蛭川、菊田とアマ名人3人を連破したことがあるという。背が高く、お洒落な人気者だ。

 アマ竜王戦では、ライエルの健闘、田尻隆司ベスト8など。アマレン交流関東県対抗団体戦では、神奈川代表で、谷川、牧野、山田で優勝。

 また、アマ名人戦には、野山が5年ぶりに大阪代表になった。田尻も熊本で代表になった。9月が楽しみだ。

 安宅さんの定年退職ご苦労様。そして豊島英の退職が寂しい話題だ。前途に幸あれと祈る。

 

【山田九段のユートピア】

 Aクラス17人、Bクラス16人、Cクラス16人全部で49人となった。屋敷師範を始め、林まゆみ女流二段、中倉宏美女流1級が参加してくれた。また、小野三枝子さん、浅野法子さん、棚田真由美さん、小野三千代さん、佐々木真澄さんといった魅惑のマドンナたちも晶ちゃんの活躍で参加してくれた。藤森さんの子息で小学5年の哲也君が来てくれたので、老若男女、幅広く集まった。

 山田道美九段が昭和45年に書いた「近代将棋」掲載の著作が嬉しい。北八ヶ岳に行ったときのことから美しい文章が続き、プロの山男達がアマの自分を山の仲間として暖かく迎えてくれる感動を表現している。その先を少し引用させてもらう。(山田道美著作全集第5卷より)

 

 「この親切、この精神を将棋の世界でも生かすことができないだろうか。自分たちの将棋の世界では、プロとアマチュアのへだたりがあまりに歴然としている。技術の高低は致し方ないとしても、盤をはさんだときには、お互いに将棋の仲間として将棋の友として、ともに楽しみともに学ぶことができたらどんなに楽しいだろう。」

 

 当時に比べればはるかにアマとプロの交流が盛んになっているのだろう。まだまだ越えるべき垣根はたくさんあると思う。しかし、いま山田九段が生きてこの場の光景を見てくれたら、「こういうユートピアもいいよね」と、きっと喜んでくれるのではないだろうか。

 

【Cクラス優勝安宅(やすみ)さん】

 49人が最新のリコーレーテイング順にA,B,Cクラスと分かれてスイス式リーグ戦を各々4局行う。勝ち同士、負け同士で対局していくので4連勝すればほぼ優勝だ。持ち時間は20分、そのあと30秒の秒読みだ。

 Cクラスでは、羽二重殿や真澄さん、晶ちゃんも4枚落ちや6枚落ちで、強者どもと戦っている。

 緒戦羽二重殿を4枚落ちで破って勢いに乗った安宅さんが、今井、奥田、土肥と連破して見事に優勝、還暦祝いに自ら花を添えた。準優勝から5位までは3勝1敗で、土肥、宇田津、小川、矢口と続いた。初参加の奥田2勝、羽二重殿1勝と健闘した。

 

【Bクラス優勝小野三枝子さん】

 私は今年になって職団戦、社団戦、三愛会と負けがこみレーテイングを200点近く落としてしまい、かすかにBクラスの端っこに引っかかっている。居飛車穴グマを捨ててから勝率が落ちているような気もするが、まあ、こんなもんかなとも思う。そのうちまた勝てるようになるだろう。

 

 またも初戦が吉中さんだった。最近はほとんど毎回当たる。昨夏勝ち、昨冬負けで公式戦は確か2勝2敗だ。

 振り駒で先手となり吉中さんの四間飛車に新鷺宮を選ぶ。定跡通り進んで角交換のあと、△55歩を効かせようとしてきたため無視して角を先着して少し指しやすくなった。しかし、定跡を思い出すのに時間を使いすぎて中盤戦では秒読みになった。何度か間違えている内に形勢は混沌としてきて、うっかり考えていたら、時計を押し遅れて「0」になってしまった。牧野直伝の1秒止めの練習不足がたたった。この前の社団戦でも「0」にしてしまった。いうまでもないが「0」になればその瞬間に負けとなる。

 

 2局目は、アマ女王、女流アマ名人とアマ女流2冠王の棚田真由美さんだ。ペアで仲良く勝ち進んだことはあるが、公式戦ははじめてかも知れない。2度目かも知れない。棚ちゃんが四間飛車で、5筋の歩突きがやや早かったので、山田流の97角から、引き角で少し指しやすくなった。しかし棚ちゃん得意の「ハアあ」というため息に戸惑いを隠せないでいるうちに窒息してしまった。やはり棚ちゃんとは盤をはさむよりも隣で指したほうが良さそうだ。

 あとで記念に色紙を書いてもらった。本当は「あなたの奴隷になりたい」と書くつもりだったらしいが「女王様とお呼び」と書かれていた。まずい、次は打ちのめさなくては。

 

 3局目高田、4局目鈴木と勝たせてもらって2勝2敗。体調もよく、優勝もできそうなくらいに思っていたのに、、、mmm おかしい。

 

 結局、小野三枝子さんが冬の合宿Cクラス優勝に続いてBクラスでも優勝した。夕べはお花のお稽古で若い人達と夜更かししてあまり眠っていないといいながらお見事。優しいナイトは伊藤、徳増、宮崎、槙。そう、私と当たらなかったから・・・。槙さんは惜しくも準優勝。庭野、哲也、田中と3勝1敗で3位〜5位。

 

 特筆すべきは、徳さんが緒戦で藤森ジュニアの哲ちゃんに勝ったことだ。そこで全精力を使い果たしてそのあと3連敗もうなずける価値ある1勝だ。棋譜を再現しようとしてなかなかうまく行かずジュニアに手伝ってもらって完成した。

 また初参加の浅野法子さんが2勝をあげ、特別賞を贈られた。<写真24>

 

【Aクラス優勝 野山さん】

 屋敷師範は声がゴワゴワにかすれて、調子が悪そうだ。まさか、ボートレースで声をからして応援していたわけでもないだろうに。そして4局目を3連勝同士の野山さんと指している。私の目には形勢不明のまま終盤に流れ込み、野山攻めきれるかどうかと思ってみていると、盤面ほぼ中央から押し返し、見事に詰ましている。

 久しぶりのリコーの金星だ。最近の野山さんの充実ぶりがよく現れた一局だ。九月のアマ名人戦は面白くなる。

 将棋は、階段状に強くなるゲームのようだ。階段を上がるまでに相当時間がかかる。でも駒にさわっていれば必ず強くなると思う。



 準優勝牧野、屋敷、谷川、藤森、山田と続く。結婚して牧野さんは一段と強くなったようだ。部屋の汚さはあまり変わらないという評判だが。

 

【杉の宿の舟盛り】

 テーブルの上に乗り切らないほどの料理が並んでいる。刺身の舟盛り、天ぷら、鍋、えびの焼いたやつ・・・豪華だ。



 となりに座った庭野さんと村山八段の不戦敗について、勝ち残っているのくらい指させてやりたいよねとか、来期のA級陥落は年の順かなどといっていたら、翌日の新聞で、そのころには村山八段が病気で亡くなっていたことを知った。将棋にうとい我が家でもあの愛くるしい顔、あのしゃべり方、あのスタイルがテレビを通じて人気だった。「終盤は村山に聞け」ということから終盤にすごく強い人なのだとこれからを期待していた。とても残念だ...ご冥福を祈る。

 哲ちゃんは元気にデジカメであちこちパチパチ写して遊んでいる。だいぶリコーの合宿にも慣れてきたようだ。

 林さんや中倉さんは超人気、あちこちで写真が撮られている。どさくさに紛れて、私もちゃっかり色紙を書いてもらった。

 

【ペア将棋】

 食後のデザートはペア将棋。谷川さんが、手合い付けの隠れた才能を発揮して24組によるトーナメント開始。私は、小野三枝子さんとペア。これはなかなかバランスのとれた強いペアだ。優勝候補ナンバーワンだ。

 

 一回戦、山田・神山ペア。振り飛車に対し、ウィンク一つで、居飛車穴グマにした。途中苦しかったが、相手のミスに助けられ逆転勝ちになった。

 

 二回戦は椋木・土肥ペア。相居飛車から角交換して一気に有利になった。なったが、私が再三決め手を逃す。あげくに悪手まで指して、温泉から地獄へ直行してしまった。小野さん、ごめん。

 

 かくして有力ペアが敗れたこともあって、マドンナ入りのペアは2回戦までですべて消えてしまった。棚田・吉中ペアを一回戦で破った五味・安宅ペアが優勝した。準優勝は牧野・伊藤ペアだった。

 それにしてもなんと心優しい将棋部だろう。退職祝いに安宅さんに二つも優勝をあげちゃうなんて。まさか、退職してから2週間毎日毎日将棋ばかり指していたのでは?

 

【自由対局】

 皆てんでんに相手を捜して対局している。私は浅野さんにお願いした。四間飛車党で、はじめてから4年ぐらいだという。フェアリープリンセスのポイントゲッターだ。優しいお顔とは正反対の攻めの気風だ。数局指してほぼ互角だった。

 

 今回は野山さんに飛車落ちを指してもらった。ぱくぱくと銀で歩を食べ歩いていたらその銀を銀ばさみで仕留められ、もうダメかというときに、うまく緩めてもらった。実は右四間飛車の本定跡がなかなか勝ちにつながらないからその辺を教えてもらいたかった。やはり右四間は複雑すぎるとのこと、「平手で出てこない局面は役に立たない。定跡知らずといわれようとも、平手ででてくるような棒銀がいい」ということだった。

 そのあと先程引用した山田九段の全集を読んでいて発見した。山田九段も「本定跡は営業用に作ったものではないか」と一時は疑ったそうだ。そして調べている内に、先人の英知と苦労の結晶だということがわかったという。

 そして、私の疑問は駒落ちが上達のために役に立つのかということだ。プロを目指す人はともかくも、アマは駒落ちを勉強する時間があるなら、平手の定跡を勉強するべきではないのかといつも思う。反面、駒落ちででもプロに勝ちたいとも思う。

 

 最後に合宿委員の小林君と伊藤君ご苦労様でした。おかげでみんな楽しめたと思うよ。

 

(記:‘98年8月15日)


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