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イベント・レポート

「眞智子」と「裕ちゃん」結婚披露パーテイー

リポータ:西田文太郎 e-mail : nishida@cs.ricoh.co.jp

●月日:97年4月19日(月曜日)

●場所:東京 原宿



 春の緑は黄緑がかって美しい。原宿駅から続く表参道けやき並木を眺めると背の高いけやきのてっぺんの方から、萌えるような緑の葉が軽く揺れている。その並木道の途中の南国酒家に吸い込まれる。
 アマ将棋界の羽生といわれ、ふたりっ子の森山史郎のモデルと噂される菊田裕司さんが今月の12日に札幌で小川眞智子さんに投了したのだ。今日は4月19日、東京 での結婚披パーテイーだ。

 受付に行って、びっくり。A3の紙に結婚祝賀曲詰が4題載っているではないか。詰将棋仲間の結婚披露宴では定跡となっているそうだが、新婦の名前を初形とした詰将棋を仲間が造って贈るという。








































 会場には雛壇を中心に丸テーブルが7つほど並ぶ。二人の交友関係の広さを物語る。ひときわ美形ばかりのテーブルは新婦の東京芸大時代の仲間たち、新郎の京大時代の将棋・詰将棋・チェス仲間たちや職場の仲間たちが、それぞれテーブルを囲んでいる。
 私のテーブルではリコーの強豪が多くいて、会話もそこそこに早速曲詰に挑んでいる。「あっ、つまねえや」「えっ、31手詰?」「4番目が一番簡単」などと色んな声が飛び込んでくる。この曲詰に答えれば正解でなくても全員の中から抽選で商品が当たるという。私は一番簡単な9手詰という4番目だけを四苦八苦して答えて、黄色い応募箱に投じた。

 スーツ姿の新郎に腕を組んだ振り袖の新婦が拍手の中、各テーブルを回る。黒っぽい焦げ茶の地に金色の模様がシックで気品がある着物だ。クラッカーがなる。フラッシュが光る。どよめきの声が挙がる。「何て綺麗なんだ」「うーん、美しすぎる」。やや面長で半円に描かれた細めの眉、切れ長の瞳、筋の通った鼻に上品な口元、襟足の白さ。背丈の釣り合いもとれている。そうか、北海道にはこんなに美しい女性がまだまだ沢山埋もれているに違いない。今年の夏は北海道に行こう。残念なことに彼女には女性の姉妹はいないという。筆者の目を通り過ぎたスタイルを数字に勝手に直せば、168センチ、50キロ、85・57・87。正解は新郎に聞いて。

 リコー将棋部の河津部長が挨拶と乾杯の音頭をとった。そして、歓談。曲詰に取り組んでいる人たちは食べる間も惜しんで解いている。中華のコースが次から次へと運ばれてくる。美味しい。

 やがて曲詰の解答発表が行われた。
 「マ」は、詰将棋界の超有名人で京大の助教授という若島正さん。そのお話によると、菊田君は私の講座をとったことがある、しかし一度も出席せずに単位を取らなかったという。菊田さんは「一度だけ出ました」と必死に訂正している。曲詰は、珍しい双玉問題で、詰ます側の王様には点があり、詰まされる側のには点がない。新郎が新婦を詰ますという暗示のようだ。初形で詰ます側の玉に王手がかかっている。私はうっかり王手と金を打ってみたがそれは玉をとられて負けだ。合駒が難しく、延々10手以上の詰手順だった。
 「チ」は近代将棋の特集トライアスロンで菊田さんと一緒に佐藤康光・森内さんを苦しめた山田康平さん。新郎の1年後輩という。全く何も見ずにすらすらと詰手順をいう。途中角の不成りなど仕掛けもたっぷり。
 「コ」も作者の山下雅博さんが、都合で出席できないので山田さんが解説、淀みなく詰ましてしまう。詰将棋に挑戦する人のために手数は伏せておこう。
 「ハート」は作者の穂上武史さんが説明。

 なんと4題とも正解した人がいた。やはり詰将棋で第一人者の橋本哲さん、それにしてもあのわずか30分程度の賑わいの中でよく解くものだ。
 我らのテーブルでは、野山さんが“簡単な”第3問を2手だけ早詰めしてしまい、ほかが全部できていたのですごく悔しがっていたし、谷川さんも”簡単な”第2問を早詰めして惜しくも全問正解とは成らなかった。正解者が三人だったらあの賞品はじゃんけんだろうか。
 抽選は、例によって私をよけて行ってしまった。

 詰将棋解答の余韻の中、エビチリソースやフカヒレスープに舌鼓を打っていると、テーブル対抗クイズが始まった。新郎新婦のプロフィールをクイズで少しずつ明らかにしていこうという謎解き趣向だ。
 二人がつきあうようになったきっかけは「高校卒業後のクラス会」という。高校3年生の時に同じクラスだったというから、受験で、お互い気が付かなかったのだろうか。いやいや、断じてそんなはずはない。あの人が好きだという想いが受験勉強の励みになったに違いない。そして、成就したので、彼女に会うために新郎がクラス会を仕掛けたのだろう。
 初めてデートした場所は、上野公園だか代々木公園だったか、まっ、どこでもいいか。お互いをなんと呼ぶかの答えは、それぞれ感情を込めて「マチコ」「ユウチャン」。初めてキスした場所はという質問に、雛壇上で新郎が新婦にごめんごめんと謝っている。「そんなことをばらしちゃいや」とでも言われたのだろうか。ならば、ここは明かすわけにはいかない。
 プロポーズの言葉は次の3択から。「結婚しよう」「お願いだから結婚してください」「君のハートに王手」。クイズの作者もなかなか沸かせてくれる。ふと谷川さんの方を見ると、怪しげな手つきでトランプをシャッフルしている。
 プロポーズをした場所は行きつけの焼鳥屋。そういえば、我がテーブルでは「2年ほど前から新郎が急に“丸くなった”のは何故だろう」という議論が出ていた。そのころ焼鳥屋でささやいていたのかもしれない。お互いの第一印象は「きれいなひとだなあ!」「しょうぎがつよいひとなんだ!」。
 テーブル対抗に勝ち抜いたのが美形のテーブルと京大将棋仲間のテーブル。代表を3人づつ出してじゃんけんという。勝利の女神は実は男性ではないかと思うほど、ショートカットの、ブラウンのミニスカートの美女に3連勝という粋な計らいだ。

 リコー将棋部からは「規定により」お祝いの品が谷川主将から贈られた。どうやらこの規定をふんだんに使いたいらしいので、権利のある方はどんどん使いましょうね。更に、谷川主将のマジックが飛び出した。3種類のカードマジックで、1局目は手順前後で敗退したが、めげずに、より難しい、2、3局目をうまくまとめて拍手を得た。

 最後に仕合わせいっぱいの新郎が新婦とともに幸せそうに挨拶をしてお開きとなった。こちらも羨ましさはおくびにも出さず、インターネットの窓からお二人の門出を祝福したい。いつまでもいつまでもお幸せに!
 愛の熱気に当てられて外にでると涼しい春のそよ風が気持ちいい。行き交う車のライトとビルの明かりが夜のけやき並木のシルエットをハッピーに浮かび上がらせていた。

(記:97年4月22日)


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