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イベント・レポート

清水女流名人と1万人将棋対決

 1996年11月20日(水曜日)13:00〜16:30

 幕張メッセ会場・赤坂TBS・インターネット参加者サイト


レポータ編
西田文太郎 e-mail : nishida@cs.ricoh.co.jp

解説者編

谷川俊昭 e-mail : tanigawa@int.rdc.ricoh.co.jp

黒子編

菊田裕司 e-mail : Kikuta.01.KEI@nts.ricoh.co.jp


レポータ編(西田文太郎)

【清水女流名人登場】
 TBSがインターネット放送局を幕張メッセのデジタルメデイアワールドに実験的に開局した。
 3日間にわたって「カフェにつどえば」「お天気オンデマンド」など、いろんなプログラムが組まれている。
 その中で将棋ファンにとって見逃せないのが「清水女流名人と1万人将棋対決」だ。放送予定時間は1回目が12:15から13:15まで、2回目が14:45から16:30までだ。

 幕張メッセのTBS特設スタジオでは明るく理知的な紺野美沙子と安東アナが「水戸黄門」の番組の最後を受けてトークしている。
 そして清水女流名人のプロフィールをビデオで紹介する。やがて本人がスタジオに入ってきた。
 明るいピンクの洋服に笑顔が美しく映える。会場からは拍手がわき起こる。
 司会の紺野さんは将棋は「積み将棋」しか知らないと言う。でも将棋のドラマには出演したことがあるとのこと。
 会場でも「将棋ができる人どのくらいいますか?」と聞かれて数人の手が上がる程度だった。この辺のやりとりはカメラで追いかけていたのでインターネット視聴者にも見ることができたのではないかと思う。

【今日のルール】
 司会者が今日の対局のルール説明をする。
 清水女流名人は後手番で1手30秒程度で指す。
 先手は赤坂のTBSに黒子がいてその黒子が30秒以内に3択の候補手を示す。
 インターネットの視聴者はその3つの候補手のどれかにクリックする。
 1手1分の間に集計をして「1万人」の最多得票した手がインターネット視聴者の手として指される。
 むろん、「1万人」というのは仮のネーミングで実際は、1000人かもしれないし、1万人かもしれない。
 その時にアクセスし投票した人の数だ。しかも、海外からもアクセスしているかもしれない。インターネットに国境はないからだ。
 インターネット視聴者は各自のブラウザからこの対局用のURLにGOする。接続されると、将棋盤と候補手が画面に現れる。
 3択のどれかをクリックしてしばらくすると画面でその3択のどれかが選ばれて、視聴者側の指し手が示される。1分ほどで画面が自動的に更新されて、清水女流名人の指し手が画面ででてくる。
 これの繰り返しだ。
 インターネットはご承知のように、新聞・ラジオ・TVに次ぐ新しいメデイアとして注目されている。その中でも際だった特徴が双方向性にある。発信者も受信者で、受信者も発信者なのだ。その特徴を生かして視聴者の反応で番組を構築しようと言う面白い試みだ。

【谷川俊昭さん登場】
 更に将棋の解説者としてリコー将棋部主将の谷川俊昭さんが、谷川浩司九段のお兄さんとして紹介され入場した。スーツ姿も頼もしく、「羽生さんが四段当時にある雑誌の企画で平手で対戦し勝たせてもらった」と自己紹介をする。
 紺野さんがプレゼントのお知らせをする。スタジオの直ぐ前にヘッドホンをした若い女性が画用紙を抱えて色々指示を出している。あれがデイレクターという仕事なのかと思う。Gパンにハーフコートを着てなかなかに格好良いのだ。身振りで写真を撮るポーズをする。紺野さんはそれを見てリコーのDC―2を構えてパチリと取る。「最終手を誰がどう指したか」というクイズでメールで答えた人の中から抽選でDC―2が当たる。
 いよいよ対局が始まる。
 幕張メッセの特設スタジオ前の大きな画面が初めはなかなか動かなくて、清水女流名人と司会者とで局面を口で説明している。スタッフが何回目かのリロードをしたら最新の局面が出てきた。谷川さんは振り飛車を期待していたようだが、丁度先手4八銀の手が指され、相矢倉模様になった。「私はこういう戦形はあまりやらないのでよく分からないのですよ」というと司会者は「それは困ります」「いや、分からないことはないのですが...」等とわけの分からないやりとりを始めた。
 将棋の一回目の放送時間終了の13:15となり、スタジオの司会者は「60時間列島キャラバン」隊に呼びかけている。紺野さんは番組表の「13:15 60時間列島キャラバン」をクリックして下さいといっている。清水女流名人は対局を続けている。インターネット視聴者で将棋を楽しみたい人はそのまま対局ができる。
 スタジオも将棋のおしゃべりの方が白熱していて谷川さんも解説を続けていてでてこない。
スタジオの周りは5重ぐらいの人垣ができている。他のブースに比べ圧倒的人気だ。将棋が呼ぶのか、紺野美沙子や清水女流名人、雨宮塔子等の人気者が呼ぶのか、インターネットの双方向チャレンジが呼ぶのか。

【後半戦】
 第2回目の放送は司会者が交代して雨宮塔子アナと小林アナだ。
 スタジオに向かって左から清水、小林、雨宮、谷川と並びそれぞれノートPCを見ながらしゃべっている。
 清水さんはマウスで指す。
 パソコンで棋譜の整理をしているといい、全く違和感なくスムースに指し進めている。
 小林アナが解説者に聞く。

 小林「さ、この局面はどの手がよいのでしょう」
 谷川「いやあ、よく分からないのですよ」
 小林「分からないじゃ困ります」
 谷川「いやあ、助言になるとまずいので」
 小林「ずばっと言って下さい」

 等ともめている。谷川さんは大盤がないので口だけでは指し手の解説はしずらいのかどさくさにPRを始める。

 谷川「私は将棋を世界に広める会を初めまして、これはインターネットだから世界中に放送されているわけで、英語で解説しなくては...」
 小林「いやいや、英語はいいですから。谷川さんのマイクのスイッチを切っちゃうよ」

 と半分本気におどける。
 雨宮さんも小林さんもほとんど将棋を知らないといい、雨宮さんはつまらないのか、忙しいのかふらふらとスタジオからいなくなったりする。
 清水女流名人は余裕で小林アナの質問にも気持ちよく答えている。

 小林「この相手はどんなタイプですか」
 清水「初めは受けの棋風だったのが途中から攻めの棋風に変わって」
 小林「だいたい歳の頃なら」
 清水「そうですねえ、30代で働き盛りの...」

 清水さんの独り言によれば35位で仕事をばりばりやっている人が好みの男性ということのようだ。
 われと思わん方は、もう遅いかもしれないけれどアタックしてみたらどうだろう。

【局面の動き】
 局面は、清水女流名人が矢倉攻めの手筋の△8六歩から△8五歩と継ぎ歩攻めで▲8八歩と受けさせて、一本取った。
 更に双方五筋に飛車を転回して飛車交換になり、先手が▲7一飛車と先着しいい勝負になった。
 その後▲7三飛成と桂を取った手が疑問で▲9一飛成なら面白かったと思う。

 谷川「赤坂のTBSの黒子は誰でしょうねえ、相当強いですよ」
 小林「TBSの将棋クラブのものですよ」
 谷川「いや実は中原先生じゃないですか」
 清水「まっさかあ。。。(^_^) 」

 この、▲7三飛成の時に画面上で竜が向きを変えてしまい一瞬、レレレとなったが、さすがにスタッフは短時間で修正していた。
 その後は清水さんが飛車打ちから1九の香車を取って鮮やかな寄せがでる。

 谷川「これはインターネットチーム駄目ですね」
 小林「でも清水さん考えてますよ」

 清水さんは本局何度目かの二分程度の長考に入っている。

 谷川「それはきれいに仕上げるために考えているのです」
 雨宮「きれいにというのはどういうことですか」

 清水さんは集中して読んでいて全く耳に入っていない。

 小林「へえ、凄いね、側でこんなにがちゃがちゃいってるのに聞こえないんだね」
 清水「え、え、あ、ごめんなさい、今全然聞いてなかった」

 と、寄せを読み切ったのかにこやかな笑顔に戻った。

 小林「きれいにというのはどうなればきれいなんですか」
 清水「それは ここらへんの面白いところで番組が再開となり、理想的な展開だ。

 再開する前にKEEP ALIVEに改良しようということになった。
 インターネット初心者の私にはよくわからないが、要はつなぎっぱなしで見られるようにするということらしい。
 プログラムの書き換えなど大変だったようだがうまくいったようだ。

 ▲5五銀と取るところでは▲4五桂と跳ねたい気もしたが、いかんせん私の意志に逆らって指し手は進んでいく。
 結局この将棋を通じて私が指したかった手は半分もなかった。
 ▲5六金と出たところで名人が長考に入った。
 今回対局に使用したJAVA将棋では持ち時間を1手10分以内に設定していたのだが、8分を過ぎてもまだ指す気配がない、いや気配まではわからない。
 確かに難しい局面ではあったが、ひょっとしてネットワークのトラブルか、それとも名人は時間制限を知らされていないのではないだろうか、はたまた雑談に夢中なのかとやきもきしたが、ぎりぎりになって△5七歩とこられた。
 この手が好手で全然だめかと思ったが、▲4六銀が粘りのある手でまだ難しいようだ。

 ▲7三飛成と桂を取ったのが疑問のようで、ここで▲9一飛成もしくは強く▲5二歩と打てば面白かったのではないだろうか。
 またこの前後で▲9七桂と跳ねる手もあり、私も後で気付き選択肢に入れたのだが、やはりこれも却下された。

 ところで▲7三飛成の局面でインターネット上の盤面の龍がなぜか逆向きになってしまった。
 これも上記の理由で10分以内に直さなければならないのだが、結構ばたばたしていた。私の方はどういうことなのか理解できないので、ただ待つのみだ。
 その他には1回だけ幕張のサーバーがダウンするというトラブルに見舞われた。

 将棋の方は▲4五桂、▲5八桂と連続疑問手が出て一遍に負けになった。
 負け将棋の選択肢を考えるのはつまらないので、「投了」という選択肢を入れましょうと提案したのだが、まだ少し時間がありこれも却下された。
 番組が終わる数分前になってやっとその選択肢を入れると、一発で投了が選択され負けとなった。
 時間的にはベストタイミングだったようだ。

 黒子の感想としては、やはりインターネットからの参加者が少なすぎたと思う。
 私自身は目標を500人、最低100人を目指してあちこち情報を流したのだが。
 平日の昼間でなかなか見るだけでも大変だったようだ。
 問題はは事前の準備期間の短さと手を考える時間の短さだろう。
 前者はホームページのアドレスが決まったのが当日の朝!だったし、後者は多くの人が自分の手を選ぶ間もなく指し手がどんどん進んでしまったといっていた。これは今後の課題だろう。

 ともあれ面白い企画で、もっと改良してまた今後もやってみたいものだ。

 今度は本当に1万人が参加することを夢見て。




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