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イベント・レポート

第9回 全国障害者将棋大会

日時:1996年11月10日(日曜日)

場所:東京都都議会「第2会議室」

リポータ:西田文太郎 e-mail : nishida@cs.ricoh.co.jp
参加申込みへの思い
会場までの二つのコントラスト
ボランテイア
大会結果

参加申込みへの思い

 久しぶりの秋晴れに新宿中央公園の緑はまだ色づくものかと頑張りを見せています。
 今日は全国障害者将棋大会が新宿で開かれました。

 全国に障害者の方は何人いるのでしょうか?ある資料によれば270万人となっています。
 その中で将棋に楽しみを見いだしている方の年に一度の全国大会です。
 私はこの大会を見るのもお手伝いをするのも初めて。

 参加申込書は115通に及びました。
 初めにそこに書いていただいたコメントをいくつかご紹介させて頂きます。

・今年も将棋が出来ることは一番の生き甲斐です。

・毎年参加を楽しみにしています。重度の身体障害者施設を経営しながら入所者にもサークル活動の中で親睦を深めています。主催者並びに実行委員の皆様にお礼申し上げます。

・いつもご苦労様です。今回も成功裏に終了するものと思っております。よろしくお願い致します。

・仲間達に会えることを楽しみにしてます。

・毎年この大会を楽しみにしております。

 数が多いので全部のコメントを載せることは出来ませんけれども、こんな具合にみなさん楽しみにしている様子が伝わって来ます。
 それも文字が震えていたり、不揃いだったりするのを見ていると、一生懸命書いてくれている姿が肉筆の向こうに浮かび上がってくるのです。
 また中には次のようなものもあります。

「実は私の息子は6年前になくなったのですが、次第に障害が進む中、将棋をライフワークとして生きていこうとしていたということもあって事務局からのお誘いがくると毎年仏壇に供えておりました...」
 美しい書体で胸を打つ名文が続くのです。
 他にも、日程の都合がつかなかったりお体の具合が悪かったりして、残念だけれど今年は参加できないから来年を楽しみにしているといったお手紙もいくつかいただきました。


会場までの二つのコントラスト

 新宿の西口から都庁への動く歩道が始まる辺りの広場にあるホームレスの段ボールの方から異臭が漂います。
 その横を目の見えない人や車椅子の人、いろんな障害をお持ちの方々が将棋大会を目指して営々と通って行きます。何というコントラストなのでしょう。

 新宿副都心は高層ビルが建ち並び道路も広い直線が配置され地図で見ると簡単に目的地に行けそうなのに、実際は道路が立体的に交差しているので車はぐるぐる回ってしまいます。
 北は岩手県、南は宮崎県からと広範囲の地域から集まってきます。
 車の方も2割ほどいらして連絡の手違いもあったため近くに来てから苦労された方がかなりありました。

 車に限らず、新宿駅からバスや徒歩で来る人達も入り口が判らずにうろうろします。
 そこでJR新宿駅西口改札付近や都バスの新宿駅乗り場、バスの停留所、議会堂出入り口付近、駐車場入り口と大勢の裏方で万難を排したにも関わらず障害者の方にも介護者にも色々と大変でした。

 日曜日ということもあったのでしょうが莫大な総工費をかけた都庁舎・都議会議事堂の建物は身体障害者にとってまたその介護者にとってスロープやトイレはとても立派な設備が完備しているのに対し、それを利用する運用面では砂をかむような素気なさでした。
 この豊かなハードと貧しいソフトとのコントラストには障害者・介護者への思いやりは感じられません。

 ただ、貴重な休日に都庁の職員の方が朝早くから来て手配をしていただいたことは有難いことでした。

 議会堂の駐車場を見つけられなくてやむなく第1庁舎の駐車場に止めた方で歩行に難儀をされている方がいました。
 第1庁舎の駐車場から議会堂の2階まで、200メートルぐらいでしょうか。この方は約20分かかりました。それも大汗をかいてハアハア息を切らせています。

 健常者の常識には考えられないご苦労を初めて知りました。 同時に会場までの万全の準備の大切さを思い知ったのです。


ボランテイア

 今回は、これまでの主催者の方が余りにも大変なのでやめたいという意向だったのを、東京アマチュア将棋連盟、女性将棋同好会のフェアリープリンセス、日本アマチュア将棋連盟などが全面的にバックアップして開催にこぎつけたという経緯があったため、会場の申込み時期が遅く、従来の場所を使えないということになってしまったようです。

 大雑把な役割分担は、対局の運営を東将連、道案内と受付と対局のサポートをフェアリー、会場手配と大会案内や申込み受付と駐車場管理をアマ連が担当しました。

 実際やってみると、主催者の方がもうやめたいと思われる気持ちは十分に分かります。
 参加者の気持ちを思えば続けたいし、運営の大変さを思えばやめたいという葛藤は、今後も続くものと思います。

 参加費千円の他善意の寄附を入れても僅かの総予算でやりくりしているので、当然ほとんどが、ボランテイアの力で成り立っています。
 前述の三団体の他に、加藤一二三九段が審判長と指導対局と色紙の寄附、谷川女流三段が指導対局と色紙の寄附、リコーの手話サークルの藤岡さんと中山さんが手話の介助等多くの人に支えて貰いました。
 またリコー将棋部の安宅さんやアマレンも兼ねて谷川さんや私もお手伝いさせて貰いました。
 ちょっぴり不安はボランテイアの平均年齢が高いのでこの先も続けることが出来るのだろうかということです。

 ボランテイアという響きは美しいのですが、実際はかなり大変な労働力の提供です。
 いつまでもボランテイアにばかり頼っていては継続は難しいのではないかと思われます。

 谷川さんがぎりぎりまでかかって準備したインターネットのデモコーナーは、障害者の多くの方が興味深そうに見たり聞いたりしていました。
 なかなか外出が思うようにならない方には格好のコミュニケーション媒体だと思います。


大会結果

 大会は自己申告の棋力に応じて三部に分け、それぞれ4試合をめどとしたスイス式リーグ戦で行われました。

  一部は、約20人で熱戦が繰り広げられ、リコーの椋木陽一郎さんが5連勝で見事に優勝しました。
 
決勝戦の棋譜解説を書いてくれることになりましたのでお楽しみ下さい。
 相手の福岡繁さんは3位になりました。
 全盲で将棋盤は線の部分が盛り上がっていて手探りで配置が分かるようになっています。
 付き添いの人が駒を動かしたり棋譜を読み上げたりしています。
 昔石田検校という盲人の名棋士がいたとか聞きましたが頭の中だけでよく指せるものだと感心してしまいます。
 準優勝は沢野正一さん。

 二部は、約40人で岩手県から参加の熊谷貞夫さんが優勝、準優勝が鈴木富男さん、3位は五十嵐敏夫さんです。

 三部も参加者は、約40人で大矢義男さんが優勝しました。野手政明さんが準優勝、石川利夫さんが3位です。

 車椅子を顎で巧みに操作する人、目の見えない人、駒を自分で動かせない人などが介助の人の力を借りながらも将棋を指す姿には感動します。

 思うように勝てなくて早めにお帰りになり参加賞だけという方もいますが、かなりの方に善意の商品がでました。
 前述の色紙に加え将棋ライターで有名なの湯川博士さんから寄贈の自著のサイン本や棋書、伊勢市の浦口さんから寄贈のパールタイピンなども成績優秀者に贈られました。

 ささやかなお手伝いをさせていただいたものとしてインターネットの小さな窓から、大勢の参加者と介護者の方にご苦労様、そして協力をして下さった全ての方と共に大会の成功をお祝いしたいと思います。


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