「人工内耳」ってなんですか?



人工内耳友の会[ACITA]の会長さんで、ご自身も人工内耳を装用されている小木さんにお伺いしました。


*はじめに

 健康な耳をお持ちの方は、言葉も音楽も、耳という器官を意識しないまま聞いているものと思いますが、音を聞くには、鼓膜に到達した空気の振動をテコの原理で増幅し、内耳のリンパ液を揺らし、内耳はその波の大きさを電気信号に変換し、聴神経が脳に伝えて、はじめて音として感ずる…というメカニズムを経ているようです。

 音の振動を電気信号に変換する役目の内耳が「故障」して難聴になった時は、感音性の難聴と言われ、これまでは耳鼻科医もサジを投げざるを得ない難病でした。

 しかし、1960年代からはじまった、メルボルン大学のクラーク先生達の研究により、マルチチャンネルの人工内耳が開発され、オーストラリアのコクレア社が製品化し、諦めざるを得なかった感音性の難聴者も、音を聞き、言葉で会話が可能になりました。

 コクレア社のマルチチャンネル人工内耳を1985年に、当時、東京医科大学の教授だった舩坂宗太郎先生が日本で最初に手術されました。そして、1994年には健康保険が適用され、高嶺(高値)の花だったものが、必要な者が必要な物を手に入れられる事になり、徐々に市民権が得られた感じがあります。そして、2000年にはアメリカのアドバンスト・バイオニクス社製の「クラリオン」にも健康保険が適用され、選択肢が出来ました。


*世界と日本の状況

 コクレア社の人工内耳は、研究と試作に15年ほど費やした電極が22個のマルチチャンネルですが、原型とも言える10チャンネルのものが20数年前に、オーストラリアではじめて埋め込まれました。 1999年の集計では、日本を含む59カ国で約23,000名の装用者がおり、その53%が成人です。日本では1985年から手術が行われましたが、 1994年には健康保険が適用となり、それを機に装用者数が増加しつつあります。

 日本の装用者数は、 2001年5月の集計でコクレア社製は、 2,000名弱です。その約69%は成人で、諸外国に比べて、日本は成人の比率が高くなっています。クラリオンは、100名ほど(未確認情報ですが…)の装用者がおります。世界の装用者数は2000年4月の集計で約5,500名おり、約50%が成人です。


*賛否両論はありますが…

 聴覚に障害を持つ人達や関係者の中にも、受障した時期や環境等により「自分の考えで意思決定できない子供に、親の考えで人工内耳を埋め込んでしまうのは、子供の人権侵害ではないか」と言う意見もあります。逆に、子供が成長して「どうして私に人工内耳を埋め込んでくれなかったの」と、質問された時、何と答えよう…。

 しかし、親であれば、我が子に最良のものをと願うのは、極々自然な姿ですから、言葉を覚えられる年齢的な制限なども考慮しながら、子供に人工内耳が最適との判断なら、ここでは大いに「親権」を発揮して良いのではないでしょうか。

 もちろん、何が何でも人工内耳をとの主張ではありません。要はコミュニケーションが出来ればいい事ですから、補聴器・手話・読話・筆談などと同じように、人工内耳もコミュニケーション手段の1つの選択肢と考え、自分に適した方法を選べばいい事ではないでしょうか。


*日本の適応基準

日本耳鼻咽喉科学会では、1998/4に人工内耳の適応基準を以下のように決めています。

< 小児例 >

(1).年齢

適応の年齢は2歳以上、18歳未満とする。ただし先天聾(言語習得期前失聴者)の小児の場合、就学期までの手術が望ましい。

(2).聴力および補聴器の装用効果

純音聴力は原則として両側とも100dB以上の高度難聴者で、かつ補聴器の装用効果の少ないもの。補聴器の装用効果の判定にあたっては十分な観察期間で、音声による言語聴取および言語表出の面でその効果が全く、あるいはほとんどみられない場合。

(3).禁忌

画像(CT·MRI)で蝸牛に人工内耳が挿入できるスペースが確認できない場合。ただし奇形や骨化は必ずしも禁忌とはならない。そのほか、活動性の中耳炎、重度の精神発達遅滞、聴覚中枢の障害など。その他重篤な合併症など。

(4).リハビリテーションおよび教育支援態勢

両親、家族の理解と同意が必須である。また、リハビリテーション、教育のための専門の組織的スタッフ(言語聴覚士)と施設が必要。さらに通園施設、聴覚教育施設などの理解と協力が得られる事が望ましい。

< 成人例 >

(1).年齢

18歳以上とする。

(2).聴力および補聴器の装用効果

純音聴力は両側とも90dB以上の高度難聴者で、かつ補聴器の装用効果の少いもの。補聴器の装用効果の判定にあたっては、通常の人工内耳装用者の語音弁別成績を参考にして慎重に判定する事が望ましい。(具体的には子音弁別テスト、57語表の単音節検査、単語や文章復唱テストなどの成績を参考にする)。

(3).禁忌

画像(CT·MRI)で蝸牛に人工内耳が挿入できるスペースが確認できない場合。ただし、蝸牛の奇形や骨化は必ずしも禁忌とはならない。そのほか、活動性の中耳炎、重度の精神障害、聴覚中枢の障害、その他重篤な合併症など。

(4).本人の意欲と周囲の支援態勢

本人および家族の意欲と理解が必要。

附記

(1).プロモントリー・テストの成績は参考資料にとどめる。

(2).先天聾の成人例は、言語理解の面での効果が乏しく、非使用者となる可能性がある事を十分理解させておく必要がある。また、本人の人工内耳装用に対する十分な意欲がある事が必要。


*人工内耳の仕組み

 世界には、日本で承認されている前述のコクレア社(オーストラリア)、アドバンスト・バイオニクス社(アメリカ)の他に、主なものとして、メド・エル社(オーストリア)、 MXM社(フランス)等がありますが、仕組みは大まかには同じもののようです。

 ここでは、コクレア社の人工内耳の仕組みをご紹介します。

 人工内耳の機器は体外部と体内部に分かれています。体外部には、耳掛けマイク、スピーチプロセッサ、送信コイルやケーブルなどがあり、体内部には、受信コイル、受信器、電極などがあります。

 私達が音として感ずるまでの仕組みは、まず、耳掛けマイク(図中1)から入った音はスピーチプロセッサ(図中2)で分析され、どの電極(図中9)を電気刺激するかを決め、その情報を送信コイル(図中3)に送ります。

  送信コイルの磁石(図中4)は、側頭部に埋め込まれた受信器(図中5)の磁石(図中6)に貼りつき、頭部の皮膚(図中7)を介して無線で情報を受信器に送ります。

 蝸牛(内耳)(図中8)に挿入されている電極は、送られて来た情報により内耳を電気刺激します。これが脳に伝わり音として感じます。


*人工内耳での聞こえの程度

 今世紀最高の発明品と言われる人工内耳ですが、難聴が治ってしまうような魔法でも機器でもなく、相変わらず健聴者と大差があります。でも、耳で聞いて言葉で会話が出来ますので、過度の期待はせず「全く聞こえなかった者から、不自由ですが言葉で会話が出来る者には戻れる」程度と考えた方が現実的です。

 聞こえの程度は、同じ機器を使用しても個人差がありますので、[ACITA]が1996年に行いました実態調査から報告致します。 314名に回答して頂きました「実態調査書U」の人工内耳の「理解度」は、期待値ではない人工内耳の「実力」と思って頂いても結構です。

Q1:会話環境による理解度の変化は?

A1:人工内耳の会話環境は「静かな所で、1対1の会話」が最もよく、会議などのように「少し騒がしい所で大勢が「がやがや」やっている感じの会話」が最悪です。これは補聴器などとも合致する状況かと思いますが、「静かな所で、1対1の会話」の環境が少ないのは困ります。街頭には騒音があふれ、装用者同士で雑談でもしようかと入る各種の店にも常時音楽が流れていて、あれも私達には「騒音の類」です。

【表1】会話環境による理解度の変化
























        会話環境









(1)















(2)















(3)















(4)















(5)














211
(A)
静かな所での、1対1の会話
42.7 23.7 28.4 2.4
2.8
94.8
211
(B)
家族の団らん等、静かな所で2〜3人が「がやがや」やっている感じの会話 18.0 34.6 26.1 14.2
7.1
78.8
202
(C)
会議など比較的静かな所で、大勢が「がやがや」やっている感じの会話 5.90 22.3 21.3 22.8
27.7
49.8
208
(D)
街頭や職場のように少し騒がしい所で の、1対1の会話 13.9 28.8 35.1 10.6
11.5
77.8
207
(E)
少し騒がしい所で、2〜3人が「がや がや」やっている感じの会話 6.8 21.7 22.2 24.6
24.6
50.7
205
(F)
会議など少し騒がしい所で、大勢が 「がやがや」やっている感じの会話 2.4 13.7 14.1 27.3
42.5
30.2
(注1)表中の数値は%です。(注2)下段数値は、@ABの合計です。

 【表1】は、会話環境による理解度の変化です。(A)項の「静かな所で、1対1の会話」では、(1)+(2)+(3)の理解度が約95%ですが、(C)項の「比較的静かな所での会議」や、(E)項の「少し騒がしい所で2〜3名の会話」では、 (1)+(2)+(3)で理解度が約50%に落ちてしまいます。この辺が、現在の人工内耳の限界のようですが、会話以外の心理的な面では大いに役立っているようで、 92%の人は毎日使い、ほとんどの人は「装用をして良かった」と述べています。

 実用範囲を拡げるには、補助機器等を使用して(A)項「静かな所で、1対1の会話」環境をつくればいい事です。 FM補聴システム、磁気ループ、赤外線補聴システム等を利用し、話し相手にマイク等を持ってもらえば、会話環境の影響はあまり感じなくなります。話者との距離のある会議や講演会・講習会等でも聞き取る事が出来ます。

 この辺は、本人の意欲や努力によるところが大きく、各人で差が出ますので、本人の聞き取りと会話への執念がものを言います。


*日本における人工内耳機器の取り扱い

・コクレア社(オーストラリア製)
鞄本コクレア
113-0033 東京都文京区本郷2-3-7お茶の水元町ビル
TEL:03-3817-0241 FAX:03-3817-0245
HP: http://www.cochlear.co.jp(日本)
HP: http://www.cochlear.com(本社:オーストラリア)

・アドバンスト・バイオニクス社(アメリカ製):クラリオン
潟oイタルリンク:第2営業部
541-0046 大阪府大阪市中央区平野町1-8-8平野町安井ビル9F
TEL:06-6229-1837 FAX:06-6229-1872
HP: http://www.getz.co.jp(日本)
HP: http://www.cochlearimplant.com(アメリカ)


*人工内耳関係の書籍と資料のご紹介

・よみがえった音の世界
人工内耳装用者などの手記に医療や機器の解説を加えた入門書。
全聾の私達が音に巡り会った真実の声。[ACITA]編。
1,600円(送料共)


・人工内耳のはなし
人工内耳の開発のいきさつや仕組み、適用条件などを平易に解説。
音から閉ざされた方や周囲で支える人達の必読書。
筑波大学:中西靖子編訳。
1,500円(送料共)


・グラフで見る人工内耳装用者の実態(実態調査書U)
314人からの回答は、喜びの声も落胆の声もこもごも。
人工内耳の「実力」を浮き彫りにしている。[ACITA]編。
B5版120頁500円(送料共)


・人工内耳装用者と難聴児の学習
豊富な経験を持つ現役の言語療法士達が、実践的な課題をまとめました、家庭で出来る自習書。
国際医療福祉大学:城間将江・虎の門病院:氏田直子・大阪大学附属病院:井脇貴子・国際医療福祉大学:中村淳子 共著。
2,500円(送料共)


・わが子に人工内耳を希望するお母さんヘ
人工内耳装用の先天聾児や高度難聴児が、耳を通して言葉を覚えるのにはどうすべきかなどを解説。
東京医科大学名誉教授:舩坂宗太郎著。
600円(送料共)


・回復する聾
コクレア社の人工内耳が日本に導入されて10年、その研究成果の集成。
一般にも分かり易く解説。
東京医科大学名誉教授:舩坂宗太郎著。
3,800円(送料共)


・人工内耳の質問と回答集
病院の人工内耳ホームページや当会の会報、人工内耳の相談会などでの質疑応答集。人工内耳友の会-東海-編/[ACITA]発行。
B5版60頁500円(送料共)


・[ACITA]創立10周年記念誌
人工内耳の日本における年譜。
治験に取り組まれた5病院、導入期から取り組まれた医師、ST、教育研究者などにご寄稿頂き、日本の人工内耳に関する10年の変遷と、[ACITA]の10年の歩み。
[ACITA]編。
B5版140頁1,000円(送料共)


・めざせ!未来の星
パソコン通信「[ACITA]メーリングリスト」の、子供達に関する部分の合本で、親御さんの人工内耳の効果や選択する迄の紆余曲折などが述べられています。
人工内耳友の会-東海-編/[ACITA]発行。
B5版146頁500円(送料共)


・いんぷらきっずのQ&A
人工内耳装用児と暮らしていて、実際に起こったトラブルとその対処法、日常の中で感じた危険、日頃の工夫をパパ・ママ達から寄せてもらい、専門家のコメント付き。
成人装用者、病院関係者、教育機関、これから手術を考えている方、必読の書。
成人装用者も、汗対策・静電気対策などは、共通の課題です。
[ACITA]+人工内耳友の会-東海-編/[ACITA]発行。
B5版80頁500円(送料共)


(書籍の問い合わせ)
338-0001埼玉県さいたま市上落合9-13-9
 古川さち子宛
TEL/FAX: 048-855-2751
 


*[ACITA]をご紹介します

 [ACITA]は、アシタ(明日)と読みます。
これは Association of Cochlear Implant Transmitted Audition の頭文字をとったもので、「人工内耳を介した聞こえの集い」という意味です。
また日本語の「明日」には未来への希望という意味もあり、会員の明るい未来を願って名付けたものです。
装用者の互助組織として1988年春に発足致し、 2001年4月現在の会員数は約1,100名です。
もう少し詳しく知りたい方は、事務局までご連絡下頂くか、HPをご覧下さい。
・事務局 人工内耳友の会[ACITA]

・HP:http://www.sapmed.ac.jp/acita/