第30弾:選手がみせた、その横顔 20

Inside the RICOH BlackRams

2012.02.03

 リコーブラックラムズ(リコーラグビー部)を支える選手たちの、ラガーマンとしての思いや、これまでのキャリアに関するエピソードをご紹介します。リコーというラグビーチームは、彼らの個性と歩んできた道程、積みあげてきた経験が混ざりあって、今の姿があります。

兄貴、そして仲間のためにやらなきゃ(横山伸一)

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 感情豊かに、グラウンドを颯爽と駆け抜ける、若手らしい若手といったイメージの強かった横山伸一も今シーズンで4年目。26歳になった。

「そうなんです。もう若手でもない(笑)」

今シーズンの序盤はサテライトリーグで切磋琢磨した。しっかり準備を続け、トップリーグの試合に出場するチャンスをつかむと、WTBやFBとしてトライを重ね、チームの勝利に貢献している。

これまでも、ボールを持って加速を始める伸一は、見る者にビッグゲインを、そしてトライを予感させてきた。今シーズンは、そうしたワクワクする感じが例年以上に大きい。
だが、自信をみなぎらせてもいい活躍をしても、本人は一貫して謙虚だ。

「トライを決めたいとも思っていない。先のことは考えない。とにかくチームが勝つために必要なプレーをして、チームが勝てばいい」と。
以前は「活躍してやろう」「トライを決めてやろう」という気持ちもなかったわけではない。だが、双子の兄・健一のケガが、伸一を変えた。

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「兄の健一のケガは、社会人になって4年間で一番大きな出来ごとだと思います。昨シーズンの春、セブンズ(7人制)の大会で、兄が怪我をしました。僕たち双子は日本代表にも選ばれたこともあり、たくさんの人に名前を知ってもらったというのもあってセブンズをすごく大切にしている。だから、その日もすごく気合いが入っていた。そういう場で、自分の目の前でのケガだったから」

今回のケガは、スピードへの影響が小さくない。それを武器にトップリーグの舞台で闘ってきた横山兄弟にとってショックは大きかった。同じ体格、同じグラウンド、そして近いポジションでプレーしてきた伸一にしてみれば、事がわずかにでも違う順序で進めば、ケガをするのが自分だったとしてもおかしくなかった、そんな双子ならではの思いもあったのかもしれない。

「もちろん一番悔しいのは健一。でも、自分も本当に悔しくて。人生で一番泣いたと思います。ずっと一緒にプレーしてきましたし。でも、落ち込んでいたら、大学とリコー両方の先輩のOB、蓼内(博樹)さんに、『健一が頑張って戻ってこようとしているのに、お前がそんな気持ちでラグビーやっているのをみてうれしいと思うか』って言われて。そこから、自分はAチーム入って、そこで健一を待って、いつか2人でやるんだというのが目標になったんです。そこが分岐点でした。絶対やってやろうと思ったし、恥ずかしいプレーはもうできない。それまでは、自分が活躍したいとか、トライしたいというのがあったと思うんですよ。でも違うなって。あいつの分まで走るんだって。
それからもっと考えるようになって、健一だけじゃない。チャンスをもらえている自分の状況は、試合に出られないメンバーに支えられて成り立っているってことに改めて気づきました」

第11節のNTTドコモレッドハリケーンズ戦。この日だけで4つも挙げたトライの話については「周りのおかげです」と冷静だった伸一が、表情を一変させた話題があった。

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「後半の途中、SOに津田(翔太)君が入って、森(雄基)、馬渕(武史)、柴田(和宏)って同じ世代がピッチに立ちましたよね。あの時間帯トライを獲られはしたんですけど、誰も下を向かずに立て直そうと一生懸命声を出していたんですよ。なんだか頼もしくて(笑)。足りない部分はたくさんあるのはわかっています。でも、俺たちでもやれるぞって、すごく楽しくなってきちゃったんですよね」

兄、そして仲間思いの26歳の伸一が、心底うれしそうな表情を見せた瞬間だった。

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