第25弾:選手がみせた、その横顔 15

Inside the RICOH BlackRams

2011.12.19

 リコーブラックラムズ(リコーラグビー部)を支える選手たちの、ラガーマンとしての思いや、これまでのキャリアに関するエピソードをご紹介します。リコーというラグビーチームは、彼らの個性と歩んできた道程、積みあげてきた経験が混ざりあって、今の姿があります。

ラグビーとパパ、気持ち切り替え両立(伊藤雄大)

photo

 今シーズンもプロップとしてスクラムの一角を支え続ける伊藤雄大。リコーブラックラムズの一員となって3シーズン目。29才になった。若手の育成を進めるチームにおいては、冷静にアドバイスを送る姿をみかける。そんな伊藤に話を聞くうちに、「気持ちの切り替え」の話になった。

「大学のときは負けたら終わりという気持ちでやっていた。でも、社会人はそうじゃない。負けても続く。卒業という決まったタイミングがあるわけでもない。それに、極端な話トップリーグは4トライ以上挙げて7点差以内で闘い続ければ、1勝もしないでも勝ち点を26点獲れる。順位も真ん中よりちょっと下くらいにはつけられる。勝ち負けだけではなくて、試合の内容も競っている。

絶対に相手に負けたくないという気持ちや、負けたときの反省、修正に取り組む意識は大切です。でも、負けたという1つの事実にとらわれてひきずっていると、またすぐやってくる次の試合や次のシーズンでいい成績は残せない。それが身に染みついていくからか、選手は気持ちの切り替えに取り組む習慣ができるんじゃないですかね」

伊藤は続ける。「フィジカル同様、気持ちの部分でも、どんなアプローチで試合に臨めば、試合でいいパフォーマンスが出せるかは人によってだいぶ違います。24時間ラグビーのことを考えているのがいいという選手もいる。ラグビーとそれ以外の時間を区切りながら試合に向かっていくほうがいいという選手もいる。それぞれが自分にあった方法を考えればいいと思う。

photo

 自分が調整するのは、家族と過ごす時間と、ラグビーのことを考える時間のバランス。シーズン中は週末が近づくのに合わせて、少しずつ変えていきます。ただ、秩父宮で試合がある週は、試合の前夜も自宅にいることになります。これが最近、むずかしいですね(苦笑)」

伊藤には4歳の長女と1歳半の次女、2人の娘がいる。一緒に過ごす時間は最高にリラックスできる時間だ。目一杯かわいがってやりたいが、翌日の大男たちとのぶつかりあいに備え、感覚を研ぎ澄ませることも必要だ。まったく正反対の感情を胸の内に共有させるのは、なかなか大変なのだ。「むずかしい」といいつつも、子供たちの話になると、伊藤は文字通り"眉を下げ"話してくれた。「うちはカミさんも体育会(女子サッカー部)。それもあって、子供にも身体を動かす楽しさを知ってもらえたらと、長女をスポーツに力を入れている幼稚園に入れました。『逆立ちができた』『側転ができた』って話が聞こえてくる。成長が実感できてうれしくて。チアダンスを習っていて、リコーの試合のハーフタイムに踊ってくれるキッズチアに参加する予定もあります。ただ、自分は試合ではロッカールームに戻るので、みられないのが残念ですけど。

(将来は? 今は女子ラグビーもありますよ)うーん、それはちょっと(笑)。観ていられないですね。子供を育ててわかりましたが、ちょっと転んでヒザを擦りむいただけでも、自分のことのように胸が痛いです。大学のときに大きなケガをしたら、連絡なんてほとんどしてこない父が『大丈夫か』って電話してきました。そのときの親の気持ちが、最近ようやくわかりました。だからラグビーはなぁ、と。(笑)。まあ、運動に限らず、やりたいことはなんでもやらせてあげるつもりです。この間はピアノをやりたいと言い出したので、いま娘の新たな挑戦がはじまりました」

photo

 激戦を終えた遠征の帰路。チームバスに乗るなり、電話で家族に帰宅時刻を伝える伊藤をよくみる。屈強な男たちと最前列で闘うプロップから、かわいい盛りの愛娘たちのパパへ――。「ラグビーは自分のためにやっている」ともいう。だがそれは、ラグビーを父の役割を怠る理由にしてはダメ、という思いからの言葉なのかもしれない。

PAGE TOP