Black Rams - RICOH RUGBY FOOTBALL TEAM -

トッド・ローデンHC、伊藤鐘史選手 開幕直前インタビュー

2008.09.09

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 各地でトップイーストが開幕。リコーブラックラムズも2008年9月14日、秋田市・八橋陸上競技場の秋田ノーザンブレッツ戦からシーズンをスタートさせる。トップリーグ降格から約7ヵ月。チームの中心には新ヘッドコーチ(HC)のトッド・ローデンと伊藤鐘史主将 がいた。ふたりの軌跡と秘めたるものはいかに――。

 9月1日、東京・日本青年館の会議室。関東ラグビー協会主催の新陣容説明会が行われた。同協会に所属する大学、社会人トップイースト、クラブチームの監督やコーチが、メディアなどに向け今季のチーム状況等をプレゼンする会合だ。リコーの代表で出席したローデンHCは、これまでの取り組みと今後の決意を端的に述べた。

「去年のリコーは自分たちに負けている所があった。今年はコンディショニングを整え、ELV(今季から導入される試験的実施ルール、概して選手の運動量がより求められる)を理解し、しっかり闘っていきたい」

 春。来日前は日本人スタッフとメールで連携を図り、走り込みで選手にフィットネスを身に付けさせた。6月からチームに合流、さらにハードトレーニングを課す。肉弾戦を制し、常に走り勝つ――。ELVも考慮に入れつつ、ラグビーに必要な資質を多彩なメニューで鍛え上げたのだ。彼はチームの成長度合いを「ステージ」と表現するが、この地点を「10ステージ中2」と言った。

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 チームの一体感向上にも 気を配る。特に7月6日、スタッフを含めたチーム全員で富士登山を敢行。「シーズンを一歩、一歩確実に前進する決意」を共有するためだった。8月の夏合宿では、"attitude(気持ち、姿勢、態度)"をテーマにする。いかなる時もベストを尽くす姿勢を全選手に求めた。その終盤、トレーニングを行うグラウンドにわざと遅れて行くと、選手が自主的に練習を開始していた。確かに個々の意識が、同じベクトルに集約されていた。「ステージ」は「5.5」にあがった。

 ローデンHCは指導のレベルを自ずと引き上げた。初期は「個人スキルの発展、ユニットスキルの向上」に尽力し、夏以降は「チームがよりチームらしく」という視点を持ち込んだ。具体的にはエリア毎の闘い方、キックを蹴る位置とそこへのプレッシャーのかけ方を細かく指示する。名付けて"スマートラグビー"。「ゲームコントロールがよくできている。実際にシーズンを闘わないと完全には理解できないと思うが、現時点では満足」。「ステージ」は「6.5~7」で、現在に至る。「しかし、まだまだ道は長い。残りのステージは一番難しいものになると思う」。

――開幕直前の心境は。

「すごく楽しみ。ハードにやってきたことを見せられるし、まだまだチームはよくなる」

――不安、恐怖心は。

「コーチングしていれば皆、抱くよ。特に怪我が怖い。他のコーチとは違うプレッシャーもある。ただ、どんな日でも"attitude"がしっかりしていれば勝てる。このチームでも、"attitude"を大事に闘ってきた」

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――"attitude"。合宿時のスローガンであると同時に、HC自身の心得になっているのですか。

「そうでもあります。とにかく、このまましっかりやっていければいい結果が得られる」

 ちなみに「ステージ」の完全達成はシーズンの終盤とのこと。その瞬間、さらに先も、ひるまず強い"attitude"でベストを尽くす。

 何のためにラグビーをしているのか――。この問いに対し、伊藤は「勝ったときの喜び」と答えた。

「チームスポーツの醍醐味である一体感が大好きなんです。今年は勝って喜びたいです」

 4月。失意のトップリーグ閉幕から約2ヵ月が経っていた。

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 リコー本社事業所で行われた2008年度のスタート会で、 伊藤は「今年も自分の意思で主将をやることになりました」と所信表明をする。主将3年目をスタートさせた。そもそも主将を続けるか否か――。昨季終了直後は態度を保留していたが、「休んでいる間にゆっくり考えて、落ちたままで次の人に引き継ぐことはできない」と決意したのだ。

 心身共に強固なチームづくりを理想に掲げた。組織は生き物だ。 ひとりの気力低下が全体に広がることもある。ここ数年、リコーでもその傾向が多少あった。伊藤は言う。

「選手一人ひとりが自立してカバーし合う。もちろん自分も(軸が)ぶれないようにします。チームのことを本気で考えている選手が沢山いればカバーできると思うし、チーム力は落ちない。そういうチームにしたい。ひとりの浮き沈みくらいで左右されるようではまだまだです」

 主将としてのみならず、選手個人としても心中期するものがあった。2011年の次回W杯に出場すべく、1年でも早く日本代表に選ばれたかった。「このオフ、(ウエイトトレーニングの効果が出て)体重が100キロになった。体重を落とさず、フィットネスが上がっていくように・・・」 。身長190センチ、体重100キロ――。現在におけるFW第3列の世界基準を見据え、目標を定めた。

 HCのいない時期を大量の走り込みで乗り越え、夏を迎える。待っていたのは過密スケジュールだった。

 7月6日の富士登山から休む間もなく、伊藤は若手日本代表のような位置づけである日本選抜の合宿に参加する。7月10日夜に国立競技場で行われたフランス学生選抜戦に、主将として出場するためだった。試合は20対19で日本選抜が勝利。

 準備期間が短いチームが団結できた要因は――。薫田真広・日本選抜監督はこう問われ「優秀な主将です」と即答、伊藤は笑った。そして2日後。東芝グラウンドでの、リコーと東芝ブレイブルーパスの練習試合に参戦する。中1日での試合出場は異例だ。その事実だけでも、この選手の価値を高めるには十分だった。

 走りっぱなしのシーズンゆえ、体重は落ちた。9月時点で「95キロくらい」。ただ、と本人は説明する。「トッド(ローデンHC)が『身体より大きさが必要なのはハートだ』と。それに、春に100キロだったから今95キロで止まっている。そういう意味では失敗ではない」。シーズンが充実していたから、当初の計画を苦にせず書き換えられた。

 自身の充実と共に、チームも成長曲線を描く。夏合宿。成長した選手を問われた主将は「全員」と答えた。「個人だけが取り上げられるようじゃだめ」。厳しい練習の直後にも関わらず居残り自主練を始める選手たちを見て、目を細めた。

 帰京後は選手のコンディションなどの問題で、予定された練習試合がキャンセルに。「だから、(最近は)目に見える成果は得られていません」と伊藤は言った。が、「レベルは間違いなく上がっている」。

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 口癖は「勝つためにどう貢献できるか」だ。ポジションの細分化傾向が進む今のラグビーでは、同じ第3列でも背番号で言うところの6、7、8番で、求められる役割がかなり違う。結果、ひとつの番号しか付けない選手も増えてきたし、どのポジションになっても同じプレースタイルを続ける選手も数多い。 そのなかで伊藤は、7番を付ければタックルやサポートなどの下働きに精を出し、8番の時は積極的にパスをもらう突破役となる。各位置の教科書通りに動く印象を抱かせるのだ。

 これもチームへの貢献から逆算された意識なのか。伊藤は答える。

「そういえば、そう見られたことはないですね。ただ、いつも『(ポジション毎の)切り替えが大変だ』と思っている。それだけ考えているってことかもしれませんね。今度から、それを売りにします」

 チーム目標にはまず、トップリーグ復帰を掲げる。さらにはトップチャレンジ(各地域下部リーグの上位チームによるリーグ戦)を1位通過して日本選手権に出場したい。無論その先、中長期的な目標として日本一獲得も志す。

 そして、そのために必要な自身のプレーをこう説明する。

「今年は6、8番で使われることが増えると思うので、インパクトが求められますね。ファーストフェーズ(セットプレーの次の接点)は大体ボールが出る。(攻守とも)セカンドフェーズ(セットプレーから数えて2つめの接点)でどれだけインパクトを与えられるか。ディフェンスでインパクトを与えれば、相手ランナーがサイドアタックを仕掛けられない恐怖感を与えられる。アタックで前に出られれば攻撃がスムーズになる」

 あくまで、チームでの役割から割り出した課題を口にしたのだ。

 実は、下部リーグの選手は代表に選出されにくいという噂を耳にしている。しかし「腐らずやっていくしかないですよね」。大好きな一体感を味わい、自身の悲願を叶えるため、黒いジャージの主将はフォア・ザ・チームを突き詰める。

 開幕戦のメンバーは『試合2日前』の発表だが、チーム内ではすでに知られている。対戦相手の目を気にするより自分たちのラグビーを貫く意識の現れか。HC、主将ともそれを周囲に対して隠さない。ただ、実際にグラウンドで確認してほしい。

(文 ・ 向 風見也)

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