2011-2012 ワイルドカードトーナメント 対 神戸製鋼コベルコスティーラーズ

2012.02.26

ノックアウト方式、リコーはいかに闘うか

 日本選手権出場まであと1勝。昨シーズンのラストゲームと同じ状況にリコーブラックラムズは進んだ。結果の面でも成長を明らかなものとしてシーズンを終わるためには、必ずワイルドカードに勝利し、次のステージでのラグビーに触れておく必要があった。

これまではボーナスポイント確保のために4つのトライにこだわった闘いを続けてきたが、ここからはノックアウト方式。形にこだわらず点数を積み重ねる闘いとなる。

「トライだけではない闘いとなりますよね」
トップリーグ最終節のトヨタ自動車戦終了後、SH池田渉は戦い方の幅が広がり、経験や判断力が勝敗に響くポストシーズンのラグビーに勝ち抜く決意を語っていた。

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 12時、近鉄花園ラグビー場に試合開始の笛が鳴る。

SO河野好光が左サイドにキックを蹴り込み試合が始まる。22mライン付近で神戸製鋼がキャッチ。逆サイドまでボールを回すが、パスが乱れWTBの選手が転がったボールを前方に蹴る。これがリコーの手に渡り、SO河野がボールを持って密集のギャップに身体をねじ込む。これに絡み、河野を倒したあとも手を離さなかった神戸製鋼5番にノットロールアウェイ。リコーは右中間30m付近からペナルティゴールを狙い、向かい風の中SO河野が成功。2分、3対0とリコーが先制した。

試合が再開すると神戸製鋼が粘り強く攻める。リコーはよくディフェンスしたが、マイボールラインアウトを2度失い神戸製鋼の攻勢を断ち切れない。ゴール正面の位置でノットロールアウェイを犯すと、8分に神戸製鋼がペナルティゴールを決め、3対3の同点に追いつかれた。

続く左サイドに飛んだキックオフボールを、神戸製鋼がキャッチできずノックオン。さらに神戸製鋼はスクラムで反則を犯す。11分、リコーは左サイド22mライン手前の位置からペナルティゴールを狙い、見事成功。6対3とする。

神戸製鋼は再び攻勢。追い風を生かしたキックでリコー陣内に侵入。さらにラインアウトを奪うと、22mライン付近から展開しアタックをかける。

だが14分、CTB山藤史也が右中間で猛烈なタックルを決めると、ボールがこぼれる。これを出足よく飛び出したWTB横山伸一がうまく拾い、相手のアタックラインの裏に抜け出る。一気に加速し独走すると、70m近くを走りきり左隅にトライを決めた。角度のあるコンバージョンは右にそれ、惜しくも外れる。

20分、ボールをキープしてフェイズを重ねてくる神戸製鋼に対し、22mラインの内側の密集でターンオーバー。ブラインドサイドをFBタマティ・エリソンが突くという場面があったが、わずかにタッチラインを踏んだ。

神戸製鋼が主導権を奪い、2トライ1ペナルティゴール

 ボールをキープし、堅実なアタックをみせる神戸製鋼に対し、隙をつきうまく得点につなげるリコーという構図で前半序盤は進む。

20分を過ぎ、22mラインの内側のラインアウトから神戸製鋼がモールでトライを狙う。リコーも必死に守るが、集中力を維持ししつこくフォワード戦をしかけた神戸製鋼は24分、左隅に8番がトライ。コンバージョンも決めて7点追加。10対11と点差を詰めた。

ボールキープを重視した神戸製鋼に対し、あまりアタックの機会をつくれないリコーだったが、28分、ハーフウェイライン付近で神戸製鋼にオフサイド。タッチキックを蹴り、22mライン付近のラインアウトのチャンスをつくる。

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 しかし、手前に走り込んだSH池田にパスするサインプレーを見せるものノックオン。神戸製鋼ボールのスクラムとなりチャンスは潰えた。

神戸製鋼はこのボールを大切にキープして攻め、再びリコー陣内に侵入する。ボールを回し、密集の近場のギャップに繰り返し潜り込んでいく泥臭いアタックを見せ、じりじりゲインしていくと、13番が縦に抜ける。最後は10番へのパスでディフェンダーを交わしトライ。コンバージョンは外れたが11対15と神戸製鋼が逆転した。

リコーはキックオフ後のアタック以外は、ほぼ自陣でのプレーとなる苦しい展開が続く。35分にはキックオフ後の相手のハンドリングミスで、神戸製鋼陣内でのスクラムを得たが、最初のフェイズでターンオーバーされると、追い風を生かしたキックで再び自陣に押し戻された。

40分、自陣でのディフェンスでリコーにオフサイド。ほぼ正面からペナルティゴールを決められ、11対18となり前半は終わった。

入りでトライ許すも、アタックの形見せはじめるリコー

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 流れを変えたいリコー。PR伊藤雄大に替えて高橋英明を入れて後半を迎える。

だが立ち上がりの2分、神戸製鋼はリコーのキックをうまく処理し、蹴り返さずカウンターからいい形でラックをつくり攻撃のチャンスをうかがう。右中間リコー陣内10mライン手前のラックサイドを9番が突く。パスダミーを入れてラインブレイクすると、外を走った14番にパスし、右中間にトライ。逆転を狙うリコーの出ばなをくじく。コンバージョンは外れたが11対23となる。

リコーは、キックオフボールを奪取され、8番のゲインを許すがなんとかアタックを食い止め、自陣のラインアウトをキープするとモールをつくる。そのブラインドサイドをSH池田、WTB横山伸が突くアイディア。ディフェンスにあったが、ポイントをつくるとバックスから追い風を生かしたキック。神戸製鋼にハンドリングミスが出てリコーボールに。

リコーは攻撃の形をつくっていく。ハーフウェイライン付近のスクラムから8、9でアタック。NO.8ジェームス・ハスケルが縦に突き、SH池田へパスを通すと、池田が軽めの浮かせたキックでライン裏ボールを飛ばす。しかし神戸製鋼が冷静に処理しボールを獲得。逆風の中、キッキングゲームを仕掛け神戸製鋼がリコー陣内に入っていく。

それでも、後半10分過ぎからリコーがリズムをつくりはじめる。12分、ノットリリースザボールで相手のアタックを食い止めると、ペナルティキックで前進。右サイド22mライン手前のラインアウトを奥のNO.8ハスケルに合わせる。CTBマア・ノヌーからのパスを受け真っ直ぐにLOカウヘンガ桜エモシが突進するも、ボールが手につかず神戸製鋼ボールに。だが、神戸製鋼4番の自陣からのランニングをFL覺來弦が止めると、NO.8ハスケルがボールを奪う。パスをPR長江祐介に出すが、これを前に落としノックオン。

しかし、神戸製鋼にもノックオンがあったとして右サイド10mライン付近のリコーのスクラムに。これを起点に、リコーがワイドにアタックを見せ、フェイズを重ねていく。そして中央をCTBノヌーが、右サイドをFBエリソン、FL覺來が突く。トライの予感が漂うリコーらしいアタックが続く。16分、神戸製鋼にノヌーに対するホールディングのペナルティ。点差を考え、リコーは正面からペナルティゴールを狙い成功。14対25とした。

試合再開後もリコーはアタックのリズムを保った。ボールをキープし、動かしながらランナーたちがギャップを狙って鋭く突いていく。神戸製鋼のディフェンスも固いが、自信を持ってアタックを見せていく。頃合いを見て、CTBノヌーらがキックでエリアを獲りにいき、いい流れで試合が進む。63分、神戸製鋼はリコーのノット10mバックの反則で正面やや左、10mにも達しない位置からゴールを狙うが、これは届かず外れた。

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 65分、右サイドのラインアウトからラックをつくると、WTB小吹祐介が左へ出しリコーがアタック。CTBノヌーからFBエリソンへのパスが乱れ、こぼれ球をWTB小吹がキック。転がったボールは神戸製鋼の手に入りかけるが再びこぼれる。交代したばかりのNO.8ブロードハーストが再びキック。さらに前に転がす。後ろから小吹が飛び出す。拾ってゴールラインを超えればトライかに思われたが、キャッチの寸前に前に向かっていて弾んでいたボールが後方に弾み、スピードを上げて詰めていた小吹は、ボールを追い越してしまう。ボールを確保した神戸製鋼はタッチに逃れる。

67分、ラインアウトで試合再開。HO森のスローは一番奥のFL覺來に通り、そこにLOカウヘンガ、NO.8ブロードハーストが体を寄せ、すぐさまモールを組む。HO森が最後尾でボールを持ち、モールは右中間を順調に進む。ゴールラインを越えグラウンディング。アシスタントレフェリーへの確認後トライが認められた。コンバージョンは外れたが19対25。ワントライワンゴールで逆転できる点差にリコーが詰め寄った。

膨らんだ逆転への期待。しかし、最後は神戸製鋼が経験見せつける

 日本選手権へのチケットは、ラスト10分の両チームのパフォーマンスに委ねられた。

71分、リコーは自陣右中間10mライン付近のスクラムから展開。ノヌーからのフラットなパスが大外の横山伸一につながると加速。ライン際を走る。正面のディフェンダーを抜くゴロキックを放とうとするが、これが相手に当たり、神戸製鋼にボールが渡る。

リコーにとって、これがこの試合最後のチャンスだった。リコーのトップリーグ陥落からの成長の歩みと同じ期間、日本選手権出場を続けてきたのが神戸製鋼。最後はその経験で上回った。

ボールを得るとすぐさま攻撃に移りフェイズを重ねながらじりじりゲイン。中央リコー陣内10mラインに達するとラックでリコーが反則を犯す。73分、抗議する選手を横目に9番がすかさずリスタート。ディフェンスの対応が一瞬遅れタックルが決まらない。9番はラインブレイク。内側の6番、さらにその外の14番へとパスをつなぎ正面にトライ。コンバージョンも決まって19対32となる。

この日、徹底してボールキープを意識してきた神戸製鋼は残り時間も確実にマイボールを保ち、隙を見せないまま時間が流れる。ついにホーンが鳴り、タッチに蹴り出しノーサイド。リコーは、一度は逆転に向けた状況を整えたが、最後の最後で届かなかった。

「最後の試合で最低の試合をしてしまった」
記者会見で責任感の強いキャプテンの滝澤佳之は後悔の言葉を残した。日本選手権出場のかかった試合だけに、勝敗が大きな印象を残してしまうことはしかたがない。だが、後半などはリコーらしいアタックを見せ、今シーズンを戦い抜き、現在の立場に立っている理由をしっかり証明した。

山品博嗣監督も評価は冷静かつポジティブだ。
「セットプレーについては、神戸製鋼がよくプレッシャーをかけてきた。ボールを回された? 回ってはいたけれど、そんなに前には出られていない。横に、横にという印象でした。リコーとしてはラインスピード保ってプレッシャーをかけ、ミスを誘うプレーはできていたと思う」
今シーズンは初の監督としてのシーズンでもあった。
「いろいろありましたよ。チームは成長し、今日の試合にだって手応えを感じるものはあり、それはうれしい。優勝しない限りは、どのチームも何か悔しい思いを残して去る。最後は笑って、というわけにはいかないですが」

レオン・ホールデンヘッドコーチも淡々と振り返る。
「インターバルの2週間は選手にリフレッシュを求めました。それは成功していたと思います。向こうは宿題をしっかりやってきたという印象ですね。リコーのアタックを無効化することに成功していたと思う。それに対処し、アタックのリズムをつくっていくことができませんでした。獲るべきところで獲り切れていれば、今日の試合はどちらに転んでもおかしくはないものだったと思います」
来季への期待も――。
「現状に加え、新しいシステムも加えていく。ジェームス(ハスケル)やマア(ノヌー)とプレーした経験のプラスもある。選手にはまだ若い選手も多い。そう考えると来シーズンは今から楽しみです」

献身的なプレーを続けたFL覺來弦は、ほぼ、シーズンフル出場を果たした。
「今日の試合中は、嫌なところを突いてくるなという印象はありました。ディフェンスばかりしていたような感じ。それでも、今シーズンは以前より自分たちで考えてラグビーができるようになりました。それが一番の成長だと思う」

日本でのプレーをこの試合で終えたノヌーがバスに向かうとファンが駆け寄る。ノヌーは握手をしながら "See You Later ! (またいつかお会いしましょう)" と繰り返していた。

ハスケルもこの試合をもって日本を離れる。
「誰も知り合いのいない自分にとって、仲間はチームメイトというより、家族だった。自分を受け入れてくれたリコーというチームに感謝したい。また日本に来たいか? ぜひ来たいね。できることならまたリコーに」

果たせなかったトップ4入りという目標。その再チャレンジのシーズンとなる来シーズンに向かい、すでにチームは歩きはじめている。

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(文 ・ HP運営担当)

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