2009-2010 トップリーグ 対 NECグリーンロケッツ

2009.09.24

 リコーブラックラムズ(リコーラグビー部)は、今年2月の日本選手権でNECグリーンロケッツに勝利(24対23)した。その瞬間は、昨シーズンのクライマックスであり、集大成だったが、今シーズンのスタート地点でもある。

「リコーのスタンダード(基準)はNEC戦のラグビー」という言葉が、選手とコーチ陣双方から聞かれた。大舞台でトップリーグ(TL)5位のチームに競り勝った試合で見せた力こそが、リコーが本来持つ力と位置づけ、それを可能な限り毎試合発揮すること。そして、新メンバーを加えたトレーニングや試合で、上積みを目指していく――。今シーズンのチームの目標を決める基準として、NEC戦は意識されてきた。

もちろん、自分たちのラグビーをすることが最優先される今、リコーラグビー部がある相手を特別視する様子はない。ただし、「持てる力を出し切れば、TL上位のチームとも十分渡り合えるのだ」という思いがチームに共有された試合という意味では、NEC戦は新たな歴史をつくりあげようとするリコーラグビー部にとって、重要な1試合だった。相手にとっては、雪辱を果たす機会となる。そんな相手とリコーラグビー部はいかに闘ったのか。

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 19:00。北から南へ、少し冷たい秋風が吹く中、前半がキックオフ。陣地は風上にNEC、風下がリコーラグビー部となった。1分、相手陣内中央やや左、22mライン付近でペナルティを得ると、SO河野好光がゴールを狙い成功。リコーラグビー部は、TL開幕戦より3節連続となる先制点を奪い3対0。

「ウォーミングアップの時から気迫を感じた」(HO滝澤佳之)。先制点の後はNECが果敢な攻撃を見せる。3分には、22mライン付近でSO河野のキックをチャージ、あわやというシーンをつくる。9分には自陣でペナルティを得るとボールを展開し、左サイドを突き大きくゲインした。

12分、リコー陣内右サイドに蹴り込まれたボールを22mライン付近で拾ったFBスティーブン・ラーカムが、キックせずランで攻め上がろうとする。そこに出足鋭く飛び出してきたNECのWTBがタックル。ラーカムはWTB小吹祐介にパスを出すが通らず、こぼれたボールを奪われて左中間にトライを許す。コンバージョンはラーカムが鬼気迫るチャージをかけ、見事にブロックして3対5。

18分、NECが追い風を活かし、左サイド10mライン付近から距離のあるペナルティゴールに成功。3対8と点差を開く。その後もNECはショートパントでディフェンスラインの突破を図るなど、リコーラグビー部のアグレッシブな守備をかわしつつ攻めたが、得点には至らない。

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 その後相手の攻撃を守り切ると、リコーラグビー部が反撃。29分には、相手陣内中央やや右、22mライン付近のスクラムから出たボールを受けて飛び出したSO河野がインゴールエリアに達する。グラウンディングはできなかったが、相手の反則を誘いゴール真正面で再びスクラム。31分、スクラムが左に回り、目の前が開けたNO8ロッキー・ハビリがスクラムの右を突いて飛び込みトライ。コンバージョンも決まり、10対8とリコーラグビー部が逆転した。

34分、中央センターライン付近のスクラムからSH池田渉、FBラーカムを経て、ボールはSO河野へ。縦に抜けた河野は、22mライン付近で左に駆け込んでいたWTB小松大祐にパス。小松は左サイドからインゴールエリアへと達し、回り込んでゴール中央付近にトライ。コンバージョンも決まり17対8。点差を9点に広げた。

前半終了直前の41分、NECは、リコー陣内右サイドから再び距離のあるペナルティゴールを決め、17対11と点差を縮めた。

 後半は、前半40分に危険なプレーでイエローカードを受けたFBラーカムが一時的退出を課され、14人でのスタート。SO河野を後ろの位置に下げ、NO8ハビリをSOの位置にして対応した。

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 2分、SO河野が不安を吹き飛ばす。10mラインを超えたあたりからドロップゴールを狙うと、ボールはゴールに向かって一直線。成功を確信したNO8ハビリがピッチ中央で両手を挙げると、一瞬の間をおきフラッグが上がる。20対11。

6分にはWTB小吹の右サイドを破るゴロキックでゲインしてチャンスをつくると、ラインアウトから攻撃。ゴールライン間際でラックに持ち込んだが、NECの必死のディフェンスに阻まれた。10分にFBラーカムが復帰、リコーラグビー部は15人でのプレーに戻る。

13分、NEC陣内左22mライン手前のスクラムから、NECは右にボールを出しショートパント。これをCTB金澤良が直接キャッチしてターンオーバー。そのまま独走してゴール中央にトライ。コンバージョンも決まり27対11。リードは16点に。

ところが、ここからリコーラグビー部は苦しんだ。

22分、LO田沼広之にイエローカードが出て一時的退出。23分には左サイドゴール前のラインアウトからモールで押し込まれてトライを許し、27対16。後半の序盤同様、冷静に14人でのプレーに対応していくが、反則の数が増え出し、流れはNECへ傾く。

32分、NECはまたも左サイドのラインアウトからモールで押し込みトライ、27対21と詰め寄られる。だが、決まれば1トライで逆転可能な4点差となるコンバージョンは外れた。

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 残り約7分で6点差という終盤。山場を迎え、プレーが止まると芝生に座りつまさきを持って足の筋肉を伸ばす選手が増え出した。グラウンド上のタフな空気はスタンドにも伝わり、観客の応援も一層熱を帯びてくる。

34分、勢いに乗って左サイドを突いたNECのWTBを、FBラーカムが止めにいったプレーにこの日2枚目のイエローカード。累積警告により退場処分となる。さらに追い込まれたリコーラグビー部だったが、この日3度目となる14人でのプレーへのシフトを行なって対応。ゴールに迫られる場面もあったがしのぎ切った。

ノーサイドの笛と同時に、選手は拳を突き上げ空に向かって叫ぶ。最も活躍した選手に贈られるマン・オブ・ザ・マッチに輝いたSO河野は、スタンドからの声に手を挙げ、笑顔で応えていた。

 「予想通りの展開。NECは勝ちにくると思っていたし、タイトでタフな試合になると考えていました。のべ40分くらいは14人で闘って勝ったわけですから、"Attitude"についてはよかったと思います。90点ぐらい。戦術的な到達度としてはまだ40点ぐらいですが」。試合後のトッド・ローデンヘッドコーチ(HC)は選手を評価しつつ、同時に理想はさらに高いことを示した。

「トッド(ローデンHC)には、『開幕から3週間たつが、まだ良い"Attitude"が感じられない。今週からは本来のものを見せてくれ』って言われていたんですよ」。チームバイスキャプテン・SO河野は言う。

どうしても堅さの出る開幕戦で勝ち点4を確保し、覇者・三洋電機相手に前半はリードするゲームをした。しかし、見ている側がついしてしまう、"まずまずの滑り出し"という捉え方は、ローデンHCの頭の中にはない。"Good"であっても"Great"を求める姿勢を保ち、シーズンを駆け抜ける――。その意識を徹底させるべく、このタイミングで選手たちにハッパをかけたのだろう。

HO滝澤は、「今日? 勝ちましたけど、フォワードはモールでトライを2つ取られました。TL上位とやって勝つには、まだまだ努力しないと」と話す。すでに、次戦いかに修正を図るかで頭はいっぱいのようだった。

かように選手たちにも慢心は見られない。ローデンHCの期待を込めたプレッシャーに応えうる"Attitude"がそこにはある。

この試合で2枚のイエローカードを受けたスティーブン・ラーカムは、次の9月25日(金曜日)の神戸製鋼コベルコスティーラーズ戦は出場できない。このような事態に備え、リコーラグビー部が高めてきた「チーム力」が試される一戦となる。

(文 ・ HP運営担当)

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