2009-2010 プレシーズンマッチ 対 クボタスピアーズ

2009.09.04

 横山伸一は前方を見据え、足踏みを繰り返している。

ホイッスル。SOスティーブン・ラーカムが助走し、キックする。その刹那、横山は視界から消える――。試合が始まった。

リコーブラックラムズ(リコーラグビー部)のトップリーグ(TL)開幕前最後のトライアルマッチは、クボタスピアーズ戦。昨季はディフェンス力を発揮してTLを闘い抜き6位となった強豪相手に挑む。「仮想開幕戦」である。

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 網走の夏合宿が終わって、約2週間。リコーラグビー部はペースを落とさずトレーニングを積んでいた。

「高めてきたフィットネスやスキルを、いかに試合で出し切るか。実行力を高めることをテーマにタフにやってきました。それから、誰が出ても同じレベルの闘い方ができるように、様々な選手の組み合わせのテストも。これは、合宿を含めた7月末から開幕戦までの6週間をかけて進めていることですが。まあ、うまく進んでいますよ」と、トッド・ローデンヘッドコーチ(HC)は言う。

TLに向けた最終調整の日々については、選手からも「ブラックチームとホワイトチームが混ざりあっていて、一体感がある。どんな事態にも対応できるよう、チームの誰もが準備している」という声が聞こえてきており、リコーラグビー部は層の厚さを備えつつある。ここ数試合の結果を見ても、それは感じ取れることだろう。

 試合開始直後から、リコーラグビー部がペースをつかむ。1本のキック、1本のパスのどれも一つひとつが丁寧であり、「落ち着いてワンプレーを正確にこなそう」(SH湯淺直孝)という意識がうかがえる攻撃を展開した。

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 最初のトライは7分、リコーラグビー部が獲る。相手ボールのラインアウトを奪って、中央センターライン付近でラックをつくる。そのサイドを突いて相手陣内へ突き進む。ディフェンスに捕まるが、後続の選手が素早いサポートを見せてボールをキープ。さらにアタックを繰り返して中央を前進すると、22mライン付近でFL川上力也が抜け出す。ゴールへ一直線に走りトライを決めた。FB津田翔太によるコンバージョンも決まって7対0。

勢いに乗ったリコーラグビー部はしばらく敵陣でプレー。SH湯淺の冷静な球出し、SOラーカムの変幻自在なパスで相手を翻弄する場面が続く。16分、ゴール前中央付近から、ラーカムは右サイドに駆け込むWTB斉藤敦へキックパス。惜しくも通らなかったが、クリエイティブなプレーに観客は沸いた。

攻勢が15分ほど続き、次のトライが生まれた。22分、ゴール前左サイドのラインアウトからボールをつなぎ、WTB斉藤がディフェンスの整いきっていない右サイドを破ってトライ。コンバージョンは外れて12対0。

さらに27分には、ゴール前で相手のキックをFW陣がチャージ。ボールを奪うと、PR田村和也がゴール左へトライを決めた。コンバージョンは外れ17対0。そのまま30分ハーフの前半が終了した。

 後半が始まると、クボタが流れを引き戻しにかかる。リコーラグビー部は、テンポの早い攻撃にディフェンスが対応したが、するするとかわされてゲインを許す。しかし、決定的なピンチになる前に相手を止めた。得点は許さない。

相手の攻撃ペースが緩むとリコーラグビー部の反撃が始まる。

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 6分、ラーカムがハイパントを上げると、WTB斉藤が落下地点に走り込む。相手のノックオンを誘い、敵陣22mライン付近でスクラムを得る。数メートル押し込んだ後、サイドを突いたが、ゴール目前でミスが出て惜しくもトライはならず。

しかし、この攻撃を機にリコーラグビー部のプレーがテンポアップ。選手は互いに連動しながらシステマチックに動き、ボールが小気味よく回りだす。またたく間に敵ゴールへと迫っていく。

そして15分、22m陣内で攻撃を仕掛けると、SH湯淺がディフェンスラインのギャップを見抜き、空いたスペースへ走り込んだCTBロイ・キニキニラウにパス。キニキニラウは真っ直ぐにギャップを突破し、中央右にトライを決めた。ラーカムに替わりSOに入った武川正敏がコンバージョンを決め24対0。

20分には、リコー陣内22mライン付近で、クボタのアタックをしぶとく守りきるとターンオーバー。CTBキニキニラウが手薄になっていたディフェンスラインを破り、今度は約60m独走してトライした。

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 22分には、ペナルティーから反応が遅れた相手の一瞬の隙をつき、SH湯淺がセンターライン付近からするっと抜けてトライ。26分には、再度リコー陣内で相手の攻撃をターンオーバー。こぼれたボールをキックしたWTB横山健一が自分で追いつき、そのままトライ。それぞれコンバージョンも決まり45対0と大量リードを得た。

28分に1トライ1ゴールを返されたが、失点はそれだけに留め、結局45対7でリコーラグビー部はクボタに勝利した。

ピンチらしいピンチは、ほぼなかったと言える。しかし、相手はTLのチーム。力の差が得点差ほどあったわけではない。勝因はどこにあったのか。

試合後にローデンHCも評価を与えていた、ゲームメイクの巧さは挙げて良いだろう。この日、「今までで一番落ち着いてプレーできた」というSH湯淺は、「ミスなどで簡単にボールを渡して、危険な場面をつくらないように心がけた」と話した。

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 また、いざ相手の攻撃を受けても、集中力を保ってよく守った。集まるべきエリアに、集まるべき人数の選手が即座に動き、効率よく攻撃の流れを断った。後半には、しぶといディフェンスで流れを奪い、隙をついて攻撃に転じる形を何度も成功させ、得点につなげていた。

「ブラックアタックとでも呼んでいただければ良いのでしょうか? 攻撃でも守備でも、ブラックジャージを着たリコーの選手が、どこからともなく現れるイメージ。フィットネスと組織力を活かしたそんな攻撃が、今日は比較的できた方じゃないですかね」。気迫溢れるプレーで存在感を示したLO生沼知裕も言う。

「トッド(ローデンHC)は、『今、チームはGoodだ。でも、Greatを目指そう』って。満足していてはダメ。細かい部分ではミスもありました。まだ磨いていきます」(FB津田)

リコーラグビー部は常に挑戦者。満足感や達成感は決別すべきものでしかない。まだできる――ひたすらにそう信じて、持てるものを出し切ることに集中する。成功はその先にしかない。選手たちはそれがよくわかっている。

そんな選手たちを、誰よりも信じているのが、ローデンHCである。

「10のうち? そうですね。変わらず5、としておきましょうか。だって、そのほうがこれからどんどん伸びていく楽しみがあって、いいでしょう?」(ローデンHC)

(文 ・ HP運営担当)

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