2008-2009 トップイースト11リーグ第9節 対 セコム

2008.12.24

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 ドアは閉められた。

大人数が身を寄せるには決して広くないその空間、背番号6の黒いジャージを身につけたリコーブラックラムズ伊藤鐘史主将は、選手らと円陣を組み、檄という名の意思確認を施す。まもなく、皆でグラウンドに向かった。

2008年12月21日、秩父宮ラグビー場。リコーは、セコムラガッツとのトップイースト(TE)第9戦に臨む。勝てば1位通過が決まり、トップリーグ(TL)昇格がより現実的になる。

グラウンドへ飛び出す直前、ロッカールームでのやりとりには、いつも以上の緊迫感があったという。が、SH池田渉曰く、チームは「試合の位置づけはいつもと違う。そのなかで、いつもと同じようにやる」ことを志す。

トッド・ローデンHCが、先のNTTコミュニケーションズ戦前から特に強調していた「ファイナルラグビー」を、TLセコム相手にも見せつける。

スコアは53対12。リコーが勝利した。

試合2日前、ローデンHCは言った。「(セコム戦が)最終戦と思っています」と。実際はその後にも試合は残されていたが、少しでも早く果たすべき目的を叶えたいとの思いを込めたのだ。伊藤も口を揃えた。「(TE1位はすぐに)決めようと思っている」と。

焦点は守備だった。そう、TEクライマックスのテーマは「ファイナルラグビー」。ローデンHC曰く「ファイナルで勝つには守備が必要」。攻撃を仕掛ける敵前に敷く「壁」の隙間を埋めるため、隣の選手同士でどうコミュニケーションを取るか――。すなわち守りきるための組織づくりを、もはや習慣になりつつある厳しい練習で徹底したのだ。

そして当日の朝、指揮官はある「意思確認」をしたという。

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「今日は本当にグランドファイナルだ。勝ったらTLが見えてくる。しかし、負けたらTLに上がるのは厳しくなる」

セコム戦に敗れて、TE最終戦の結果等によりTE1位を逃せば、TLへの自動昇格はなくなる。それでも昇格への挑戦権こそ残されるが、今季TLで強豪相手に揉まれた相手との入れ替え戦を強いられるなど、前途は一転、厳しい道のりとなるのだ。ローデンHCはその旨を確認し、数時間後の決戦の意味合いを強めたかったと考えられる。

その思いはおそらく、含めたすべてのプレイヤーにとって、共通の認識だった。

秩父宮では通常、併設のテニスコートでウォーミングアップをし、終わり次第メインスタンド下の通路を通ってロッカールームに入る。その通路で、チームスーツを纏った試合に出られない選手が待ちかまえていたのだ。湯気でも出そうな顔で薄暗い路を歩くメンバーに向かって、ありったけの拍手と声援を贈るのだ。

ベテランの田沼は、年下の選手に呼び捨てで激励されながらも意気に感じた。

実は前日、東京・大森の東京ガスグラウンドで控え選手主体の『ホワイトチーム』が闘った東京ガス戦に同行していた。「すごくいい試合で励みになった」。日々、彼らがレギュラー主体である『ブラックチーム』の練習相手とし、"仮想対戦相手"を務めていることも認識している。

だから、「多分みんな、グラウンドでプレーしたいと思っているはず・・・。期待されている。いいプレーで応えなければ」と心底思った。

一部の人間しか立ち入れぬ、直前のロッカールーム。

伊藤は言ったらしい。「ここで絶対に決める!」。実は「コンディションは良くなかった」というルーキーWTB星野将利も、「(伊藤)鐘史さんの言葉で気合いが入りました」。

12時、晴天。キックオフ。

 立ち上がり、風下陣地のリコーは前半1分にWTB小松大祐のトライで先制、11分に河野のPGで8対0としたが、その後は防戦一方。予想以上の強風に煽られるなか、黄色いジャージに攻め込まれた。

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 得点者はセコムSO長井達哉だった。反則を奪えばすぐさまPGを蹴り込む。13分、28分とスコアを刻み、8対6に。ほとんどのプレイヤーがボールの奪い合いに視線を注ぐなか、離れた位置からDGを成功させる。8対9。リコーはリードを許して、ハーフタイムを迎える。

が、伊藤曰く「あれだけの風下であの点差、(プレーする側としては)点差にはならない」。

むしろこの間、ノートライに抑えた守備に、チームの誰もが手ごたえを感じていた。

特に前半終了間際は耐えた。ゴールラインの数センチ手前まで攻め込まれたが、練習で作った隙間なき壁で、見事跳ね返したのだ。次から次へと走り込んでくる攻め手にまとわりつく守備を、河野は「きっと相手も嫌だったと思う」と振り返る。

「フィットネスがあるから、"湧いてくるような"守備ができる」

後半、5分にCTB金澤良がゴールエリアを陥れたのを皮切りに、リコーは得点を重ね続けた。

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 11分にはゴール前ラックから右への展開で最後は伊藤が決め、21分にはPGを決められたが、その後のキックオフでの綻びからLO相亮太が抜け出し、追走した河野がタックラーをはじきながらグラウンディング、26分には前半途中からグラウンドに立ったFBスティーブン・ラーカムが相手をひらひらとかわして滑り込む。

徐々にセコムもミスをするようになった。29分には、そのミスでこぼれたボールを星野が拾い、約70メートルを独走、33分、リコーのプレッシャーから苦し紛れに放たれたパスを、途中出場のWTB池上真介が手中に収めた。36分には、こちらも試合途中に投入されたLOフィリポ・リヴィーが力走を見せた。

前半の肝となった守備は、後半も崩れなかった。ボール保持者を常に囲い込み、ターンオーバー、もしくは相手の反則を奪い続けた。一瞬、前を向かれたところも、運動量に長けたFL後藤慶悟らが彼らの足元に喰らいついた。

結果、ワンサイドゲームとされる終焉を迎える。

ノーサイド。

スタンドからは、『ホワイト』と呼ばれる選手からの声が飛んだ。田沼は拳を突き上げる。「みんなのおかげだ!」。伊藤も試合後の会見で「強固な守備の要因」を聞かれ、こう強調したものだ。「うちのホワイトチームは強いですから」。練習では彼らの猛攻を跳ね返している。その事実が、公式戦で守備を強いられるうえでのバックボーンになっている。

ローデンHCも1試合を通しての守備を評価しつつ、残された最終戦、27日の三菱重工相模原ダイナボアーズ戦についてはこう示唆した。

「次のモチベーションはひとつしかない。TEを無敗で終えること。しっかり協力していきたい」

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 きっと最終戦は総力戦となり、来年に行われるチャレンジシリーズ(国内3地域リーグ上位同士で行われる、TL昇格を争う最後の闘い)に向けた、各選手のアピールの場ともなるのだ。決して、明確な目標を立てにくい試合でこそ、ローデンHCの口癖である"attitude(姿勢、態度)"が問われるのか――。

ちなみに試合前、試合後の会見とも、主将の声はかすれていた。「風邪ひいているんで」。シーズン中常に引きずっていた右膝の負傷個所は80分も酷使すれば、真っ赤に腫れあがる。

が、グラウンドにいるうちは、きっと当然ながら手を抜かず、記者会見でも卒のないやり取りをこなす。笑顔を交えて。

主将はどうあっても主将だというメッセージを、無意識的に伝えていた。

(文 ・ 向 風見也)

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