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Science September 28 2012, Vol.337


変化をもたらす(Making the Change)

キョウチクトウ科の植物は、有毒なカルデノリドを作り出す。しかしながら、多くの昆虫はこれらの化学物質の有害な作用をうまく避けてきており、場合によってはそれらを自分達の防御のために利用することさえある。Zhen たちは(p. 1634) 広範囲の昆虫分類群を調べ、そしてATPαファミリー(カルデノリドの毒性を中和する標的タンパク質を持つファミリー)のメンバーの中で、複製と同様に変化の方も並行して進行しているいくつかの例を見出した。それは、昆虫たちがこれらの植物の有毒な作用を回避できるように変化した現象を説明すると思われる。このように、特異的な生息環境に適合するため、関係の遠い種が遺伝子の複製やタンパク質の進化、適応進化を組み合わせる際に、類似の結果を産み出すよう自然選択によって制御されているのである。(Sk,KU,nk)
【訳注】カルデノリド:炭素数23のステロイド系化合物
Parallel Molecular Evolution in an Herbivore Community

幼稚園の科学者たち(Kindergarten Scientists)

科学者になるためには、長い年月の研鑽が必要である・・ように思える。そのためには、データをどのように獲得するのか、そのデータを仮説にどう取り入れるのか、そして次にその仮説を新しく得られたデータに対してどう検証するのかを学ぶ必要がある;統計的な分析を冷静に考察し、適用するにはどうすればよいのかを学ぶことが必要である。Gopnikは(p.1623)最近の認知能力の発達に関する知見についてレビューし、未就学児童が日常生活を探索して行きながら、幼い科学者のように振る舞って、この世界を直感的に把握していくことを実証している。(Uc,KU,ok,nk)
Scientific Thinking in Young Children: Theoretical Advances, Empirical Research, and Policy Implications

変化する降雨(Changing Rains)

米国西部の降雨のサイクルは、更新世の氷期のサイクルを通じて著しく変化してきているが、これはおそらくは、この地域に降水をもたらしている嵐の行路が変化しているためである。Lyleたちは(p.1629)、最近の2万年を通じて水面の高さが上昇していることを示す、グレイトベイスン湖から収集された証拠について報告しており、これは西へ進む嵐の進路が南へ移動したためではなく、熱帯太平洋地域からもたらされた降水による。更に、グレイトベイスン湖の水面が高くなるタイミングは南から北への進行を示し、湿潤期の北方への漸進とは一致しない。(Uc,KU,og,nk)
Out of the Tropics: The Pacific, Great Basin Lakes, and Late Pleistocene Water Cycle in the Western United States

恒常なる私たちの太陽(Our Constant Sun)

太陽の正確な形は、その内部構造に関する情報を与えてくれる。NASAの Solar Dynamics Observatory に搭載された Helioseismic and Magnetic Imager によって得られたデータに基づき、Kuhn たち (p.1638, 8月16日付電子版; Gough による展望記事参照) は、太陽黒点活動の極小から極大までの2年間の間の太陽の形を計測した。予想に反して、太陽の扁平形状は一定で、11年間の太陽活動周期では変化していないことが判った。(Wt)
The Precise Solar Shape and Its Variability

シグマ錯体の固体観(Solid View of a Sigma Complex)

数十年にわたる速度論的研究により、飽和炭化水素も、また共有結合が開裂する直前に弱配位子として振舞うことが明らかになった。電子がシグマ対称性を持つC-H結合から供与されることから「シグマ錯体」と呼ばれているこの短寿命の中間体は、分光学的には観測されているものの、構造学的特性は十分に解明されていない。Pikeらは(p.1648、8月23日号電子版)、アルケンを含むより安定な結晶性前駆体を直接水素化することで構造解析をする新たな手法を駆使してロジウムに結合したアルカンの結晶学的特性について明らかにしている。(NK)
Synthesis and Characterization of a Rhodium(I) σ-Alkane Complex in the Solid State

可逆的な人体埋め込み装置(Reversible Implants)

シリコン電子回路は、通常、安定かつ頑丈に設計される。もし、あなたのコンピュータや携帯電話の主要部品が、使用するにつれてゆっくり分解されてしまったとすると、困ったことになるであろう。人体埋め込みに用いるための短期埋め込み型の電子装置を開発するため、Hwang たちは(p.1640, 表紙参照)、標準的な装置を作るのに必要とされる完全な一揃いの道具と材料を作り出した。装置は特定の寿命を持つように設計され、その後、多孔性シリコンや絹糸などの構成材料は体に吸収される。(Sk,ok)
A Physically Transient Form of Silicon Electronics

穏やかなカップリング(Gently Coupled)

繋がったアリール環は、広範囲の市販の化学製品に見られる。現在、この構造体への最も汎用性のある合成経路は、ハロゲン置換基を有する一つの環と、ホウ素または金属ベースの置換基を有するもう一つの環とのクロスカップリングを含んでいる。最近の研究は、これらの活性化置換基の一方または両方を不要にすることに焦点を当ててきたが、提案される方法は、たいてい、高温を必要としたり、一方のカップリング相手が高濃度でなければならなかったりした。今回、Ball たちは(p. 1644)、シリル活性化した芳香族炭化水素と非活性の芳香族炭化水素を、同程度の濃度で、室温下でカップリングできる金触媒を提示している。(Sk)
Gold-Catalyzed Direct Arylation

若者の攻撃性を越えて(Beyond Youthful Aggression)

20年前、パプアニューギニアのエンガ州における、若い男性の人口急増と、さらなる殺傷力の強い兵器とが重なり、度重なる種族間の戦争と戦争による死亡者の急増が引き起こされた;ごく最近になって、戦争と死亡者の両方が減ってきた。Wiessner と Pupu(p. 1651)は、地域社会制度の歴史的な記録だけでなく、20年に渡る紛争のデータを利用することにより、若者が引き起こす暴力による伝統的な階層構造への影響と、そしてその後に続く、争いをコントロールし流血騒ぎを減らす政治構造への土着制度の進化について分析した。(TO,KU,nk)
Toward Peace: Foreign Arms and Indigenous Institutions in a Papua New Guinea Society

まどろんでいると失うよ(You Snooze, You Lose)

睡眠は身体の回復や記憶機能を助けているが、しかし必ずしも種を超えて同じように作用しているとは限らない。自然淘汰が強力に覚醒状態を好ましいとするきには、睡眠の一時停止が起こり得る。Leskuたち(p. 1654,Siegelによる展望記事参照)は、イソシギ鳥( pectoral sandpipers)が死なずに、また機能障害も起こさずに、睡眠が一時停止することを示している。これらの鳥は高緯度の北極で集団で繁殖し、オス同士の競争は激烈である。メスにたいする競争と、メスへのディスプレーは、肉体面でも表現力の点でも厳しい要求がなされるものであるが、にもかかわらず最も睡眠の少ない鳥がこれらの活動を行う能力の点で何等見劣りしなかった。実際に、最も睡眠の少なかった鳥が最も多いメスを獲得し、そして最も多い子孫を残した。(KU,ok,nk)
Adaptive Sleep Loss in Polygynous Pectoral Sandpipers

選択肢を狭める(Limiting Your Options)

多くの種は特異的な資源に依存しており、それが宿主の範囲を少数の、あるいは単一の種のみに狭めている。ショウジョウバエの一種pacheaのサボテンのsenitaへの宿主の限定は、生態学的特殊分化に関する古典的なケースである。Langたち(p. 1658)は、neverland 遺伝子における複数のアミノ酸の置換が、どのようにしてショウジョウバエpacheをサボテンのsenitaのラソステロール化合物に依存するようにしたかを明らかにしている。。このように、比較的わずかな遺伝子変化が種の環境適所の決定に大きな役割を果たしている。(KU,nk)
Mutations in the neverland Gene Turned Drosophila pachea into an Obligate Specialist Species

きつく締め付ける(A Tight Squeeze )

細胞内輸送の際に、プロコラーゲンはあまりにも大きすぎて、通常のコートタンパク質複合体Ⅱ(COPⅡ)で被膜された輸送小胞中に収まらないゆえに、プロコラーゲンの搬出は興味深いものである。最近の研究から、プロコラーゲンの搬出には受容体TANGO1が関与していることが示唆された。今回、Vendittiたち(p. 1668)は、TANGO1がSedlin(酵母のTRAPPサブユニットTrs20の相同体であるTRAPPC2としても知られている)を補充し、そしてCOPⅡ-被膜されたキャリアがプロコラーゲンを取り込むことが可能なほど十分に大きく成長することを報告している。(KU)
Sedlin Controls the ER Export of Procollagen by Regulating the Sar1 Cycle

ラジカルの反応機構(A Radical Mechanism)

細菌の酵素ニトロゲナーゼは、N2のアンモニアへの還元を触媒することで地球規模での窒素サイクルに重要な役割を果たしている。この酵素の心臓部は、最近になって炭化物として同定された侵入型の軽元素を含む金属-イオウのクラスターである。この同定により、この酵素のメカニズムにおける炭化物の役割と炭化物が金属クラスター中にどのように挿入されているかに関する疑問が生じた。Wiigたち(p. 1672,Boal and Rosenzweigによる展望記事参照)は、この炭化物がS-アデノシルメチオニン(SAM)から生じており、そしてラジカルのSAM酵素NifBによってコア中に挿入されることを示している。(KU)
Radical SAM-Dependent Carbon Insertion into the Nitrogenase M-Cluster

もうジャンクなDNAではない(No More Junk DNA)

ヒトゲノムの大部分は、何らかのレベルで転写されているが、遺伝子発現あるいは遺伝子のコードを制御していない領域におけるその機能と進化的制約は一般には知られていない。「1000ゲノムプロジェクト」および「ENCODE」プロジェクトから得られたデータを調べる中で、WardとKellisは、哺乳類中に保存がみられないヒトゲノム領域を検討し、ヒト系列に特異的な制約が、生化学的に活性ではあるが、直接的に遺伝子に付随してはいない、ゲノムのおよそ4%にもわたって広がっている証拠を発見した(p. 1675,9月5日号電子版)。興味深いことに、そうした領域は一塩基多型や異型接合性の数が少ない。それは、それらが束縛されていて、かつ機能をもっていることを示唆するものである。(KF,o,nk)
Evidence of Abundant Purifying Selection in Humans for Recently Acquired Regulatory Functions

癌細胞を寄せ付けない(Keeping Cancer Cells At Bay)

癌細胞はしばしば異数体である。つまり、染色体の数が異常なのである。ところで、このことが腫瘍化の表現型にどの程度寄与しているのかは不明である。Senovillaたちは、癌細胞の四倍数化(tetraploidization)によってそれらが免疫原性になり、免疫系によって身体から一掃されるのを助けていることを発見した(p. 1678; またZanettiとMahadevanによる展望記事参照)。染色体が過剰な細胞は小胞体にストレスをかけ、それが細胞表面へのタンパク質カルレティキュリンの移動をもたらすことになる。カルレティキュリンに曝されると、マウスでは、次に、宿主の免疫系による癌細胞の認識が引き起こされる。つまり、免疫系は、癌細胞の無制限の増殖を可能にするために克服されなければならない高倍数体細胞の除去を行なうことで保護的役割を果たしているらしい。(KF)
An Immunosurveillance Mechanism Controls Cancer Cell Ploidy

結核ワクチンの難題(Tuberculosis Vaccine Conundrum)

子供たちの中には、通常はヒトに対して結核のための毒性の弱い生ワクチンを接種すると、重い臨床的病いにかかるものがいる。この感受性を説明するいくつかの生殖細胞系列変異が同定されてきているが、このたびBogunovicたちは、そのリストに新たに1つ、ISG15を付け加えた(p. 1684,8月2日号電子版)。常染色体劣性様式で受け継がれるこの変異の解明は驚きだった。というのも、ISG15を欠くマウスの研究は、細菌性感染ではなく、ある種のウイルス性感染への感受性増強を明らかにしたからである。にもかかわらず、ISG15を欠く患者は、細菌の除去にとって決定的なサイトカインであるインターフェロンγの適切な量を産生することができなかったのである。(KF)
Mycobacterial Disease and Impaired IFN-γ Immunity in Humans with Inherited ISG15 Deficiency

用意! 組立て始め! 折りたため!(Get Ready, Assemble, Fold)

外膜タンパク質複合体LptD/Eは、大腸菌の細胞表面へのリポ多糖搬出をもたらす。LptDは、非連続システイン間の2つのジスルフィド結合を含む必須βバレルタンパク質である。Chngたちは、生細胞におけるLptD/Eの酸化的折りたたみと 組立て経路の特徴を記述している(p. 1665,8月30日号電子版)。定常状態とパルスチェイスの測定の組み合わせを用いて、異なったジスルフィド結合状態をもつ7つの中間物が、酸化的折りたたみ経路に沿って同定された。折りたたみと組立ての際に、外来のジスルフィド結合LptD中間物が蓄積し、βバレル組立ておよびリポタンパク質LptEとの会合がトリガーとなって、リポ多糖搬出にとって必要とされる自然なジスルフィド結合への再編成が行なわれた。つまり、ジスルフィド結合-依存的な折りたたみは、ジスルフィド結合の再配列を促進するために2つのタンパク質複合体部品をきちんと取り込んでいるのである。(KF,KU,ok)
Disulfide Rearrangement Triggered by Translocon Assembly Controls Lipopolysaccharide Export

細菌の遍歴(Bacterial PERegrinations)

生命のうち、細菌の領域での多くの分岐は、メタゲノム解析で明らかになる配列によって知られるだけで、いまだにアクロニム(acronym:数字やアルファベットの組み合わせで作られる語)で名付けられるだけである。たとえば、「門」レベルのグループBD1-5、OP11、OD1、さらにはPERのように。親である生物体はおそらく広まっているが、培養されたこともなく、その代謝や、自然環境における彼らの寄与、および機能については殆ど知られていない。Wrightonたちは、コロラドの帯水層に酢酸塩をポンプで注入し、自然に生じている細菌に活動を起こさせ、そして流出物から、さらに分析対象になる、より小さな微生物細胞を篩い分けた(p. 1661)。質量分析に基づくプロテオミクスが機能活性をテストするために用いられ、49種の異なったゲノムが回復されたが、そこには驚くべき機能をもたらすものが多くあった。回復された生物体はすべて完全な解糖系を備えた厳密な嫌気性菌であり、アデノシン三リン酸合成酵素へプロトンポンプ活性を結び付けることによってエネルギー産生を増大させることができた。いくつかのヒドロゲナーゼ(hydrogenase)は、利用可能な基質に依存して、水素産生とポリスルフィド還元との間での切り替えができることが発見された。注目すべきは、多くの遺伝子が古細菌のそれと類似していて、炭素同化があたりまえの特色だったということである。(KF,KU)
Fermentation, Hydrogen, and Sulfur Metabolism in Multiple Uncultivated Bacterial Phyla
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