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Science August 24 2012, Vol.337


星の爆発(Stellar Explosions)

太陽質量の8倍以上の質量を有する恒星は、超新星として知られる明るく輝く爆発でその一生を終える。過去十年間、改良された天空探査結果が手に入るようになって、以前知られていたどんなものよりもずっと明るい、まれな超新星のタイプが存在することが明らかになってきた。Gal-Yam (p.927) はこれらの超大光度現象をまとめ、それらを観測的かつ物理的に共通な特性を有する3つのクラスに分けた。ガンマ線バーストは巨大星の死に関係し、他とは異なる極端なタイプの爆発で、そしてそれは宇宙のどこかでは一日に一度は発生しており、短時間に大量のガンマ線をバースト状に放出する。Gehrels と Meszaros (p.932) は、NASA のスウィスと(Swift)人工衛星 (2004)やフェルミ(Fermi)人工衛星(2008) の稼動開始以降、これらの出来事について分かってきたことについて論評している。現在の解釈は、ガンマ線バーストはブラックホールの形成に関連しているというものである。Ia 型超新星は、宇宙論的な距離の指標として用いられている。それらは、連星系における白色矮星の熱核反応的な爆発の結果と考えられている。しかし、白色矮星の伴星の性質については、なお、議論が続いている。Dilday たち (p.942) は、超新星 PTF 11kx の高分解能分光の結果を報告している。この超新星は、Palomar Transient Factory survey によって、2011年1月26日に検出されたものである。このデータは、赤色巨星の伴星から白色矮星に物質が移動されたことを示唆している。(Wt,nk)
Luminous Supernovae
Gamma-Ray Bursts
PTF 11kx: A Type Ia Supernova with a Symbiotic Nova Progenitor

粘っこい粘液?(Sticky Mucus?)

例えば、鼻水や咳にからむ痰で経験するように、粘液は、身体が外部からの異物の侵入を排除したり防ぐための方法の1つである。多くの病気において、正常に粘液を制御する系の機能不全が気道の支障や呼吸障害を引き起こす。Buttonたち(p. 937; Dickeyによる展望記事参照)は、既在の液体上ゲルモデル(gel-on-liquid model)を調べた。そのモデルでは、粘液は拍動している肺の繊毛(lung cilia)を取り囲んでいる水を含んだ繊毛周囲層(watery periciliary layer)の上に存在していると考えられており、これが粘液の流れの説明に使われていた。ブラシ上ゲルモデル(gel-on-brush model)が提案され、そこでは粘液はブラシ状の繊毛周囲層上に存在している。この層の重要な要素は膜(membrane)に繋ぎとめられた巨大分子であり、この巨大分子が粘液の正常な流れや除去を引き起こす。脱水して乾燥した時には、この界面が破壊され、正常な粘液の動きを妨げる。(TO,KU)
A Periciliary Brush Promotes the Lung Health by Separating the Mucus Layer from Airway Epithelia

ナノ粒子の成長を詮索する(Interrogating Growing Nanoparticles)

化学反応の反応機構の段階を追跡する手法はいくつか存在するが、小さな種結晶からナノ粒子が成長する過程を追跡することは困難である。Langilleらは(p. 954)、 銀ナノ粒子の成長を調べるために、異なる形状(立方体および八面体)を有するプラズモン性を示す金ナノ粒子を種結晶として用いている。成長過程において、いくつかの異なる粒子形状と内部構造が形成されることが電子顕微鏡観察により明らかとなった。(NK,KU)
Stepwise Evolution of Spherical Seeds into 20-Fold Twinned Icosahedra

パルサーを把握する(Finger on the Pulsar)

パルサーは、ごく一般的には中性子星であると考えられており、40年以上にわたって知られてきた。それらは、非常に強い磁場を有する回転する、高密度の星であり、そのスペクトルは熱的および非熱的由来の連続成分の重ね合わせによるものであると理解されてきた。今回、Kargaltsev たちは(p.946)、通常のラジオパルサーのX-線スペクトルに吸収帯を検出したことを報告している。これらの吸収帯は以前考えられていたよりも多くのパルサーで見られ、中性子星の状況や放射物理を探るきっかけを提供してくれるかもしれない。(Sk,nk)
【訳注】表題は Finger on the Pulse をもじったものと理解しました。
Absorption Features in the X-ray Spectrum of an Ordinary Radio Pulsar

周期的に振動するブラックホール(Oscillating Black Hole)

銀河の中心にある巨大なブラックホールは、たまに、近づきすぎた星を捉え、潮汐力によって崩壊させることがある。昨年、そのような潮汐力による崩壊現象の一つが、人工衛星スウィフトによって検知された。Reis たちによる追跡のX-線観測と分析により(p. 949, 8月2日号電子版; McKinney による展望記事参照)、潮汐力による崩壊現象の直後にブラックホールの周囲に降着円盤が形成されたことを示唆する、準周期的な振動が示された。このようなタイプの振動は、通常、星の重力崩壊の結果生じるずっと軽いブラックホールからのX-線光において見られるものであるが、銀河の中心にある巨大なブラックホールにおいては、これまでに一度しか観測されたことがなかった。(Sk,nk)
A 200-Second Quasi-Periodicity After the Tidal Disruption of a Star by a Dormant Black Hole

金属を操る(Metal Manipulation)

粒子サイズを100ミクロン以下にすることで、金属の特性を大いに改善することができる。しかしながら、このようなナノ結晶の金属は熱的に不安定であり、温度を上げると、結晶粒が大きくなって結合してしまう。結晶粒の成長を遅らせる第二の金属と合金化することによりこの進行を遅らせることができ、試行錯誤的なやり方で、いくつかの成功例が示されてきた。今回、Chookajorn たちは(p.951; Weertman による展望記事参照)、最も優れた熱的安定性を有する可能性のある合金を突き止めるための、安定性の地図を作り出す理論的枠組みを提示している。タングステンの場合、直感に反して、この理論は最も大きな寸法差や最低の溶解度をもつ原子は、合金としての最良の選択とは言えないことを示唆している。実際、タングステンとチタンの合金は、純粋なタングステンのナノ結晶より簡単に加工され、高温でのより良い安定性を示した。(Sk)
Design of Stable Nanocrystalline Alloys

ニューレキシンを保持する(Keep on Neurexin)

シナプスの接着分子であるニューレキシンとニューロリギンの変化している変異体は、自閉症や統合失調症等の幾つかの精神障害と関連づけられていた。しかしながら、これらの変異が神経回路の発生と機能をどのように変化させているかは不明である。線虫の研究から、Huたち(p.980,8月2日号電子版)は、ニューレキシンとニューロリギンが神経筋のマイクロRNA(miR-1)の下流に作用し、これが神経伝達物質の放出を抑制する逆行性シナプスのシグナルに介在していることを見出した。この逆行性のシグナルは、シナプス小胞遊離の速度と持続時間を調節することで伝達を抑制した。(KU)
Neurexin and Neuroligin Mediate Retrograde Synaptic Inhibition in C. elegans

言語のファミリー(A Family of Languages)

英語は、ケルト・ドイツ・イタリア・バルト-スラブ・インド-イランの言語を含む、大きなインド-ヨーロッパ言語族の一つである。この言語族の起源地は何処か、という点は熱く議論の対象となっている。仮説の一つはカスピ海北部に広がるポンティック・ステップに起源地を置くもので、そこから半遊牧的羊飼の一族であるクルガン族によって広められた。二つ目の仮説ではアナトリア地方(現在のトルコ)がその起源地であり、この言語は農業の拡大と共に広がったことを示唆している。Bouckaertたちは(p.957)系統発生学的手法とモデリングを用いて、インド-ヨーロッパ言語族の地理学的広がりを調べた。この知見によれば、この言語族の起源地は実際に7千〜1万年前、農業の拡大と同時期のアナトリアであったという説を支持している。(Uc,KU,nk)
Mapping the Origins and Expansion of the Indo-European Language Family

アラビドピロンを作る(Making Arabidopyrones)

植物は特殊化された代謝系を持っており、彼らの環境に適応する手段として新たな化学的スペースを迅速に開発する。Wengたち(p. 960)は、モデル植物シロイヌナズナ(Arabidopsis)におけるα-ピロン-関連の代謝物であるアラビドピロンのあるクラスの発生の根底にある進化の軌道に関して記述している。アラビドピロン合成経路の第1ステップは、新たな遺伝子重複事象に続く新しく機能付与されたチトクロームP450酵素によって触媒される。この発生がカテコール-置換基質の合成へと導き、これが高度に保存されたエクストラジオール(extradiol)環-切断ジオキシゲナーゼに対する新たな基質となった。このように、植物は新たな生物活性を既存の触媒の枠組みの中に取り込むことで特殊化された代謝経路を迅速に組み立てることができる。(KU)
Assembly of an Evolutionarily New Pathway for α-Pyrone Biosynthesis in Arabidopsis

骨形成タンパク質のシグナル伝達と転写(BMP Signaling and Transcription)

骨形成タンパク質のシグナル伝達(BMP)は、動物の胚における背腹軸決定に広く用いられており、これにはBMPとそれらの拮抗物質との間の特殊な相互作用を含んでいる。多くの動物のゲノムにおいて、遺伝子PinheadはBMPのリガンド遺伝子の一つAdmp(抗背軸形態形成タンパク質)の隣にコードされている。ホヤ類の尾芽胚期段階の胚の研究から、Imaiたち(p. 964)は、PinheadがADMPの拮抗物質であり、そして腹側表皮の鋭い境界の確立に重要であることを示している。Pinheadの転写はシス作動性のメカニズムによるAdmpの転写を阻害するが、このことは二つの機能的に対立する遺伝子の相互排他的な発現を説明するであろう。(KU)
Cis-Acting Transcriptional Repression Establishes a Sharp Boundary in Chordate Embryos

癌ゲノムの移動(Movement in the Cancer Genome)

転位因子はゲノム内部で複製しそして移動する遺伝子配列である。因子を移動性にする要因は不明であるが、一般に動物では稀であると考えられている。Leeたち(p. 967,6月28日号電子版)は、幾人かの人で生じている5っの癌のタイプを分析し、そして上皮腫瘍の3っのタイプが脳と血液の癌に比べ大きな因子の移動速度を示すことを見出した。さらに、これら体細胞に獲得された腫瘍特異的因子は直腸結腸癌における遺伝子を標的とし、この標的遺伝子が崩壊されると、遺伝子発現に影響を与え、癌の進行に関する1つの要因であろう。(KU)
Landscape of Somatic Retrotransposition in Human Cancers

複雑な運動のコード化(Coding Complex Movements)

背面運動前野(dorsal premotor cortex)は、到達運動のプランニングにおいて決定的な領域である。PearceとMoranは、2頭のマカクサルを訓練して、仮想現実課題においてランダムに配置された物体を迂回して目標に辿りつくようにさせ、同時にその際の運動前野での神経活動を記録した(p. 984,7月19日号電子版)。運動前野のニューロン群は、手の運動の方向をコードしつつ、同時に、手の位置と標的の最終的な位置など、他の変数もコードしていた。集団ベクター(population vector)解析によって、神経活動から複数の運動力学的変数が解読できた。1頭のサルでは、集団ベクターはまず標的に向けられたが、障害物が現われると、集団ベクターは回転して向きを変えた。しかし、もう一匹のサルは障害物が現れるまでじっと待っていた。このたびの2頭のサルの間での神経のプランニングの違いは、最適化戦略には異なった複数のものがあることを示唆している。(KF,nk)
Strategy-Dependent Encoding of Planned Arm Movements in the Dorsal Premotor Cortex

抑圧状態の維持(Maintaining Repression)

ポリコーム抑制複合体2 (PRC2)は、後生動物における遺伝子サイレンシングにおいて決定的役割を果たしていて、リジン27上のヒストンH3 (H3K27)をメチル化して抑制的な染色質標識を産生している。触媒サブユニットであるE(z)/Ezh2は、その酵素活性のために、2つの他のサブユニット、ESC/EEDとSu(z)12とを必要とする。Yuanたちは、ヒストンH3のN末端尾部の断片とヒストンH1の双方が、乏しい低密度の染色質基質に対するPRC2酵素活性を刺激していることを明らかにし、染色質の密度とコンパクション状態によってPRC2が制御されていることを示している(p. 971; またPirrottaの展望記事参照)。ヒストンH3の断片はPRC2のSu(z)12サブユニットに結合してE(z)/Ezh2を刺激している。局所的な染色質のコンパクションは、ヒストンH3K27のメチル化の確立に先行していて、PRC2がいかにして抑圧状態を維持できるかを示すこととなっている。(KF)
Dense Chromatin Activates Polycomb Repressive Complex 2 to Regulate H3 Lysine 27 Methylation

代謝のセンサー(Metabolic Sensor)

O-N-アセチルグルコサミン転移酵素(OGT)は、ウリジンジホスホ-N-アセチルグルコサミン(UDP-GlcNAc)から細胞内タンパク質のセリンあるいはスレオニン残基への、N-アセチルグルコサミンの転移を触媒し、細胞の代謝状態に応答している。Yiたちは、ホスホフルクトキナーゼ1(PFK1)のO-N-アセチル化グルコサミン(O-GlcNAcylation)がその活性を減少させ、つまるところ細胞内での解糖速度に影響を与えていることを示している(p. 975; またMattainiとVander Heidenによる展望記事参照)。PFK1のO-N-アセチル化グルコサミンは低酸素に曝された細胞内では上昇し、ヒトの腫瘍由来のいくつかの細胞系列では増加した。つまり、O-N-アセチル化グルコサミンによって仲介される代謝の変化は、同化作用や癌細胞の成長に有利に作用している可能性がある。しかしながら、PFK1の糖鎖付加は、急速に増殖している正常細胞では検出されなかった。(KF,KU)
Phosphofructokinase 1 Glycosylation Regulates Cell Growth and Metabolism
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