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Science May 25 2012, Vol.336


パッと花が開く(Spring Into Flower)

春になると、日中時間が伸び、太陽光スペクトルがシフトするのに対応して、植物はFLOWERING LOCUS T(FT)タンパク質の発現を含む開花誘導経路を開放する。。Songたち(p. 1045)は、FKF1(FLAVIN-BINDING KELCH REPEAT,F-BOX 1)タンパク質がFT遺伝子の発現に三種類の制御を課していることを確認した。PKF1は、(1)抑制因子を除去し、そしてまた、(2)春季に太陽スペクトル中で高まる青色光成分によって増強されるPKF1とCONSTANS(CO)タンパク質間の結合作用を通じて、活性COタンパク質を午後の間に安定化する。次いで、(3)FKF1自身がCO遺伝子の転写の活性化を助ける。(NK,ogs,nk)
FKF1 Conveys Timing Information for CONSTANS Stabilization in Photoperiodic Flowering
   

私を引っ張れ、もとい、あなたを押しだす(Pull Me-No!-Push You)

ショウジョウバエの背腹(dorsal-vental:DV)の軸は、卵母細胞の後側末端から前側の縁への核の移動によって極性化される。前側-後側(AP)軸を規定している極性化した微小管の細胞骨格に沿って、卵母細胞の核は分子モーターダイニンにより前側に引き寄せられると、長い間想定されてきた。生きた卵母細胞のイメージングを用いて、Zhaoたち(p. 999,4月12日号電子版;Bowerman and O'Rourkeによる展望記事参照)は、後側に打撃を加える成長中の微小管によりもたらされる力によって、核が前側に向かって押されることを実証した。かくして、DVの極性は、APの軸ではなく、微小管の形成中心の後側の位置決めに依存している。(KU)
Growing Microtubules Push the Oocyte Nucleus to Polarize the Drosophila Dorsal-Ventral Axis

地下の火山噴火のてがかり(Subterranean Eruption Clues)

火山活動のモニタリングは、例えば地震頻度の増加や地形の変化などの活動源周囲の物理的な状況の変化を検知することに依存している。しかしながら、地下のマグマの活動とこのような挙動とを関係づけることは、依然として困難が伴っている。結晶成長と冷却の間で形成された化学的に異なる領域を含む、火山噴出マグマの結晶の地球化学的特徴によって、噴火前のマグマだまりに関する手がかりが得られる。斜方輝石結晶の化学的分析と拡散によるクロノメトリー測定を組み合わせることで、Saundersたちは(p.1023)、1980年から1986年までの間の一連の米国のヘレン山脈の噴火に至るまでに起こったマグマのプロセスと地震現象とを関連づけることができた。この地震現象は、マグマの脱気と地盤の移動--これらの事象は地球物理学的計測装置により日常的に検知されている--によっ引き起こされた地震に対応していた。(Uc,KU,nk)
Linking Petrology and Seismology at an Active Volcano

小さな錫のバンプ(Tiny Tinny Bumps)

3次元集積回路の構築に向けての挑戦課題の一つとして、隣接する層間を整列した形で接続することが求められている。Hsiao たち (p.1007) は、直流による銅の電気めっきに急速攪拌を適用して、高密度のナノ双晶(nanotwin)欠陥を有する結晶方位の揃った銅粒子からなる膜を生成した。その結果として得られた物質は、潜在的に電子部品のはんだ付けに適したマイクロバンプの配列した形状で銅と錫の金属間化合物の成長にとっての優れたプラットフォームとなるものであった。(Wt,KU,ogs)
Unidirectional Growth of Microbumps on (111)-Oriented and Nanotwinned Copper

マヨラナの到来(Majoranas Arrive)

マイナス電荷をもつ電子がプラス電荷をもつ反粒子であるポジトロンと衝突すると、ガンマ線を放出してお互い消滅する。一方、マヨラナフェルミオンは中性粒子であり、自身が反粒子となる。これまで、素粒子学の世界ではマヨラナ粒子を観測されたことはないが、近年固体系の中に存在することが提唱され、量子コンピューティングプラットフォームへの応用が期待されている。Mourikたちは(p.1003、4月12日号電子版;表紙参照、Brouwerの展望記事参照)、その両端を金属電極と超伝導電極に接続された半導体ナノワイヤーを用意し、マヨラナフェルミオンの形跡を明らかにした。(NK)
Signatures of Majorana Fermions in Hybrid Superconductor-Semiconductor Nanowire Devices

液中での成長(Growing in Liquid)

ナノメータースケールで材料の成長を制御する能力は、ナノテクノロジーの鍵である。しかしながら、液中での材料の成長においては、成長の間、一粒子ごとに追跡することは困難である。二つの研究が、in situ の液体セルを用いて、溶媒中で成長するより大きなナノ粒子やナノロッドの形成を、高分解能の透過型電子顕微鏡で追跡した。Liao たちは(p. 1011)、結合したナノ粒子のねじれた鎖から形成される鉄白金のナノロッドを観察した。それはしだいに再配向し、まっすぐになって強固なロッドを形成した。Li たちは(p. 1014)、指向性のある付着メカニズムによる、鉄オキシ水酸化物ナノ粒子の結合を観察した。それによって2つの相似の粒子は、対応する結晶格子が整列するまで回転することがわかった。(Sk)
Real-Time Imaging of Pt3Fe Nanorod Growth in Solution
Direction-Specific Interactions Control Crystal Growth by Oriented Attachment

分子の細孔径の最大化(Maximizing Molecular Pore Diameters)

活性炭のようなアモルファス材料は数ナノメーターの細孔径を持つことがあるが、非常に大きな細孔径を有する整列した構造体を合成しようとすると、互いに入り込んだ網目になったり、ゲスト分子の除去が困難であったりして、うまくいかないということがたびたび生じる。Deng たちは(p. 1018)、短い結合基と非常に長い結合基を組み合わせて用いることにより、非常に大きな径(3ナノメーターを超える)を有する有機金属系構造体(MOFs)の合成において、これらの問題を回避した。その化合物は電子顕微鏡で可視化できる、直径およそ10ナノメーターの細孔を形成し、それはタンパク質分子を収容するのに十分な大きさであった。(Sk)
Large-Pore Apertures in a Series of Metal-Organic Frameworks

新たな棲みか(New Digs)

多くの研究から、気候変動に反応して生物種の間の分布域変動(range alteration)が予測されている。しかし、全ての種は相互作用しあう生物コミュニティーの一部として存在しているため、種は真に独立した存在(entities)として考えることはできない。こうした相互作用に関するほとんどの議論は、それが分布域拡大への潜在的制約となり得ることに焦点が当てられている。しかし、Patemanたち(p. 1028)は気候変動には、相互に作用し、分布域拡大を促進する種の数を増加させる潜在能力もある事を示した。 一般市民によるブラウン・アーガス蝶とその宿主植物の観察によって集められたイギリスのデータから、その蝶と、以前はほとんど使われなかった植物グループ間での協力関係の増加が明らかになった。夏の気温が上昇したことで、新たな宿主と結びついた集団は、より「伝統的な」従来からの宿主と結びついた集団よりもより繁殖が大きかった。そのことが、ブラウン・アーガス蝶の新規な領域に拡がることを促進した。(TO,KU,ok,nk)
Temperature-Dependent Alterations in Host Use Drive Rapid Range Expansion in a Butterfly

結晶解析を用いる(Finessing Crystal Analysis )

タンパク質結晶学は、極めて多様な生物学的プロセスに関する我々の理解を一変させた(Evansによる展望参照)。結晶学において、データと計算モデル間の一致の尺度は、データ品質の評価基準と同一の基準上にはなく、高分解能限界の最適値(その限界を超えるとそのデータは破棄されるべきである)を選ぶことが課題になっている。今回Karplus とDiederichs (p. 1030)は、同一スケール上でモデルとデータの正確さの一致を評価する統計的モデルを導入している。x線結晶学による生物学的巨大分子の構造を決定するには、位相問題を解決することが必要である。位相評価を支配する二つの技術(多波長および単波長の異常回折)は、取り込んだ重原子からの元素-特異的な散乱に頼っている。Liuたち(p. 1033)は、重原子取り込みのない未変性タンパク質に関するルーチンの構造決定に対する手順を報告している。その技術(複数の結晶からのデータの組み合わせに依存する)は、1200-残基の複合体を含む4つの未変性タンパク質の構造決定に用いられた。(hk,KU,ok)
Linking Crystallographic Model and Data Quality
Structures from Anomalous Diffraction of Native Biological Macromolecules

もっとグリシンを下さい。(More Glycine, Please)

ガン細胞の代謝の性質をより良く特徴づけるために、Jainたち(p. 1040; および、TomitaとKamiによる展望記事参照 )は、60種の異なるガン細胞株が増殖している細胞培養培地において、何百という代謝産物の濃度を系統的に測定した。最速で増殖するガン細胞はグリシンを消費する傾向が強く、一方よりゆっくりと増殖する細胞はグリシンを排出する。急速に増殖するガン細胞は、DNAの連続した合成に必要なプリンヌクレオチドの合成にグリシンが必要である。グリシンの代謝を妨害すると、急速に増殖していたガン細胞の増殖が遅くなる。従って、急速に増殖するガン細胞によるグリシンへの強い依存性は、潜在的な治療介入のための標的となり得る。(Ej,KU,ogs,nk)
Metabolite Profiling Identifies a Key Role for Glycine in Rapid Cancer Cell Proliferation

素性(Who's Who)

異なる言語は、英語における母系の祖父などのような親戚を分類するのにそれぞれ違う用語の体系に頼っているので、言語使用における正確さこそが、コミュニケーション成功の主要な要素になる(Levinsonによる展望記事参照のこと)。KempとRegierは、単純さと正確さの双方を最適化する、またはほぼ最適化するために、血縁分類体系のすべてを見渡せる整理の枠組みを提案している(p. 1049)。親族に適用されるラベルは、単純な単位から構築され、コミュニケーションに用いられる際の混同や曖昧さを減らすのにじゅうぶんなほど正確なものになっている。FrankとGoodmanは、単純さと正確さがまた、人について言及するコミュニケーションの文脈で、聞き手がいかにして発話の意味を正確に推測しているかを説明するものになっていることを示している(p. 998)。(KF,ok,nk)
Kinship Categories Across Languages Reflect General Communicative Principles
Predicting Pragmatic Reasoning in Language Games

磁気の感覚(Magnetic Sense)

多くの生物種は方向を定め、進路を決定するのに、地球磁場の向きを利用している。磁力の受容体は、鳥の眼や耳やくちばしに発見されているが、磁力の信号を方向へと翻訳する神経機構の存在の明瞭な証拠はこれまでなかった。意識のあるハトの脳幹からの情報を記録することによって、WuとDickmanは、ハトの脳中に、地磁気の傾きと強度をコードするニューロンの存在を明らかにしている(p. 1054,4月26日号電子版; またWinklhoferによる展望記事参照のこと)。つまり、ハトは、おそらく他の種も、磁気受容に基づいて空間での向きと進路をたやすく決められるように地上に対する位置決め能力(磁場の強さや向き、および極性)に関する内的モデルを発達させることができるのである。(KF,KU,ok)
Neural Correlates of a Magnetic Sense

ヒトのAgoタンパク質が解明される(Human Argonaute Revealed)

RNA干渉(RNAi)は、 Argonaute(Ago)タンパク質によって仲介されるが、このタンパク質はサイレンシングされる運命にある標的RNAに対する配列相補性を有する小さな調節性RNAに結合する。 Agoタンパク質の細菌における相同体と真核生物のAgoタンパク質のフラグメントの構造は、Ago機能についてのまず最初の洞察を提供してくれた。このたび、SchirleとMacRaeは、一本鎖(ss)ガイドRNAに結合したヒトAgoタンパク質の、全長にわたる構造を決定した(p. 1037,4月26日号電子版; またKayaとDoudnaによる展望記事参照のこと) 。この二葉構造内で、ssRNAの8個のヌクレオチドが、RNAガイドの鎖結合部位中に可視的に配置されていた。このssRNAの「タネ(seed)」領域は、溶媒に曝されたワトソン・クリック塩基端を有しており、それが標的認識を助けているらしい。Piwi領域中の2つの自由なトリプトファンの位置は、Ago相互作用タンパク質の補充が可能な部位を示唆している。(KF)
The Crystal Structure of Human Argonaute2
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