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Science April 27 2012, Vol.336


火星の火山谷(A Volcanic Valley on Mars)

火星の赤道付近のネットワーク状の谷地形であるアタバスカ谷の地形の形成については、溶岩と水の氷の両者の関与が示唆されており、10年以上も議論がなされていた。いくつかの研究によれば、この地域の多角形状の模様をした地形は、氷が豊富に含まれる土壌の凍結ウェジング(frost wedging:訳注:凍結・破砕作用による風化作用の一種の構造土の形成作用)が原因であるとされていた。火星リコネサンス・オービターに搭載された高解像度科学実験装置(High Resolution Imaging Science Experiment)により得られたアタバスカ地域の画像を用いて、 RyanとChristensenは (p. 449)、多角形状の模様をした地形上に、多数のらせん状の地形を発見した。このらせん状の形態は、ハワイの溶岩流の表面に形成された溶岩コイル(lava coil)のものと非常に良く似ており、氷による作用ではうまく説明することができない。(Uc,tk,og,nk)
Coils and Polygonal Crust in the Athabasca Valles Region, Mars, as Evidence for a Volcanic History

ブロックをうまく使う(Getting Around the Block)

二元コポリマーは、ポリマーブロックの長さや、個々のブロックの全体的割合、及びその化学的差異に依存した豊かな、多様な形態を与える。新しい合成法により、3乃至それ以上の成分を、かつ化学的構築体内の一定範囲でコポリマーを合成することが可能になった。しかしながら、設計上の選択の幅が増えるとそれだけ多くの様々な化合物が合成され、研究の対象とすることが難しくなる。特に、小スケールの生成物を意図した有用な商品に変換しようとする際には、合理的な設計が重要となる。Batesたち(p. 434)は、広範なブロック共重合体の場で研究する際に存在する魅力的な機会と複雑さをレビューしている。(KU,ok,nk)
Multiblock Polymers: Panacea or Pandora’s Box?

腸の反応(Gut Reaction)

腸は数兆の微生物を内部共生生物として抱えている必要がある。免疫系はこの問題に多面的なアプローチを進化させてきたが、そのなかには腸管粘膜内での免疫グロブリンAの大量産生を含んでいる。このプロセスの中で、良くは解ってないが、腸内ミクロフローラに対する特異的免疫グロブリンA(IgA)を産生する形質細胞が、腸内のパイエル板内で選択される。Kawamoto たち(p. 485)は遺伝的操作をされたマウスを使って、抑制型共受容体であるPD-1(programmed cell death-1)が、腸内でのIgA-分泌細胞の適切な選択に必要であることを示した。しかし、PD-1欠失の効果は、IgA免疫を産生するB細胞には影響しなかった。それかわり、PD-1欠失はT濾胞性ヘルパー細胞の分化に影響する。このヘルパー細胞はB細胞に重要なシグナルを与え、B細胞がミクロフローラに特異的なIgAを産生出来るようにB細胞を導く。マウスにおけるPD-1欠失により、ミクロフローラの成分に変化が認められ、このことから、IgAの欠陥性の選択は、免疫系と常在性細菌の間に存在する微妙な平衡状態を乱すものであろう。(Ej,KU,nk)
The Inhibitory Receptor PD-1 Regulates IgA Selection and Bacterial Composition in the Gut

同期した時計(Synchronize Watches)

原子やイオンにおけるエネルギー遷移を用いた時間標準は、もっとも正確で精度の高いとされている。複数の実験室で行なわれる測定には、同一の時間標準を用いて実験されたことを保証するために同期・校正された時計を用いる必要がある。しかしながら、そのような時計は国立計測学研究所の様な場所に設置されているものであり、基本的に移動させることができないものである。Predehlらは(p.441; Warringtonの展望記事参照)、900キロメートル離れた2つの光学式時計を光ファイバーを用いてリンクさせ、2つの時計を3.7 x 10 -19以上の周波数安定性で同期させることができることを示した。このような長距離同期の実現により、一般相対性理論や量子電磁力学といった基本物理学の実験検証が可能となるであろう。(NK)
A 920-Kilometer Optical Fiber Link for Frequency Metrology at the 19th Decimal Place

化学結合の角度を求める(Working the Angles on Chemical Bonding)

化学結合で生じる力は原子間距離だけでなく、それらの角度にも依存する。WelkerとGiessiblは(p.444; 表紙参照)、原子間力顕微鏡と走査型トンネル顕微鏡 (STM) の両者を用いて、原子レベルで平らな Cu(111) 表面の銅原子上に吸着した CO 分子の角度依存性を調べた。3つの異なるチップ-原子-対称性環境下でのプローブチップが用いられた。3つのすべてのチップ条件下では同様なSTM 画像を生じたが、フォースプローブは表面に対する CO の結合の角度依存性を明らかにし、結合エネルギーの変化のモデルに関するデータを提供した。(Sk,KU,nk)
Revealing the Angular Symmetry of Chemical Bonds by Atomic Force Microscopy

宇宙の有機物(Space Organics)

隕石および惑星間塵粒子中に見出される有機化合物の起源は、論争の種となっている。実験室での実験は、これらの有機物は星間物質から受け継がれたものであり、太陽系の存在以前の出来事であることを示唆している。Ciesla と Sandford (p.452, 3月29日付け電子版; Nuth と Johnson による展望記事を参照のこと) は粒子追跡モデルを用いて、その有機物が、太陽系の惑星の源である原始惑星円盤の外郭内で生成された可能性を調べた。原始惑星円盤内の粒子は不規則な軌道を取る。このような軌道の推移は、モデル粒子を、実験室での実験で有機化合物を生成することを示したような紫外輻射と温度に曝すこととなった。(Wt,tk,nk)
Organic Synthesis via Irradiation and Warming of Ice Grains in the Solar Nebula

内部に保存する(Keep It Inside)

ある種のシアノバクテリアは、光合成で固定された CO2 から固相の炭酸カルシウム析出物を形成する。通常、そのような炭酸塩は細胞表面近くの細胞外に作られ、時にはストロマトライトと呼ばれる構造を生み出す。Couradeau たちは(p.459; Riding による展望記事参照)、メキシコのアルチチカ湖に堆積した炭酸塩上で成長したバイオフィルム中で、細胞内部にもアモルファス炭酸塩粒子を析出させる、シアノバクテリアの一種を発見した。これらの炭酸塩の構造や化学組成が細胞外で形成されるものと異なることから、石灰化の過程における細胞のコントロールが存在すると思われる。これらの析出物は、細胞の浮力や、光合成によって生じる過剰なアルカリ性の隔離といった、生理的なプロセスに影響を与えるであろう。(Sk)
An Early-Branching Microbialite Cyanobacterium Forms Intracellular Carbonates

もっと早く湿っぽくなる(Getting Wetter Faster)

気温と大気中に保持できる水蒸気量との関係に基づく、理論的予測(theoretical projections)では、地球温暖化によって、大気水蒸気サイクルが、熱力学や気候モデルが予想している速度よりも約2倍強まることを示唆している。Durackたち (p. 455)は海面塩分の50年にわたる観測を精査し、塩分データの変化パターンは、こうした気候モデルよりも理論的予測と一致することを結論付けた。それゆえ、地球の水サイクルは、将来の世界平均気温が2〜3℃上昇することで、16%〜24%強まるであろう。(TO,KU)
Ocean Salinities Reveal Strong Global Water Cycle Intensification During 1950 to 2000

農民がヨーロッパ狩猟民に置き換わった(Farmer Displaced European Hunters)

古い時代の人のDNAの分析によって、有史以前の人口統計やヒトの進化に関する理解が深まってきた。Skoglund たち (p. 466) は、現在のスウェーデン内のヨーロッパ北部の新石器時代の個体(〜5000年前)からのゲノムDNAを抽出・分析したことを記述している。これらDNAには、 Pitted Ware Culture地層(horizon )から得られた3人の狩猟採集者のDNAと、新石器時代中期における北中部TRB 文化に属している1人の農業者のDNAを含んでいる。狩猟採集者は、現存する北部ヨーロッパ人の遺伝子と類似した明瞭な遺伝子特性(genetic signature)を示している。それに対し、農業者の遺伝子特性は、南部ヨーロッパ人に極めて類似している。このことは農業が広がる期間に南部ヨーロッパ系の人の移住と混血があったことを示唆している。(TO,KU,og)
Origins and Genetic Legacy of Neolithic Farmers and Hunter-Gatherers in Europe

アセチル化と自己貪食(Acetylation and Autophagy)

自己貪食とは、細胞がストレス条件下で生き延びようとする際に、自分自身の成分を消化することである。Linたち(p. 477)とYiたち(p. 474)はそれぞれ、哺乳類の細胞と酵母においてタンパク質のアセチル化により自己貪食を制御しているそのシグナル伝達のメカニズムに関して記述している。血清を奪われた哺乳類の細胞において、アセチル基転移酵素TIP60はタンパク質キナーゼGSK3(グリコーゲン合成酵素キナーゼ3)によるリン酸化によって活性化された。TIP60の標的は自己貪食制御の中心であるタンパク質キナーゼULK1である。この活性化の経路は、血清の非存在下における自己貪食に必要であるが、グルコースを奪われた細胞での自己貪食には必要でなかった。窒素飢餓状態の出芽酵母において、別のアセチル化のメカニズムが明らかにされた。飢餓によりヒストンアセチル化酵素Esa1(この酵素は自己貪食メカニズムのキー成分であるタンパク質Atg3を活性化する)の活性化が生じ、結果として他の自己貪食タンパク質Atg8との相互作用が強まる。(KU)
GSK3-TIP60-ULK1 Signaling Pathway Links Growth Factor Deprivation to Autophagy
Function and Molecular Mechanism of Acetylation in Autophagy Regulation

微生物への暴露:幼児期に、そしてたびたび(Microbes: Early and Often)

疫学調査によれば、世界各地に見られる喘息や炎症性疾患の発生率の増加は、幼児期の早い段階で微生物に曝される経験が少ないためではないかと思われる。Olszakたち(p. 489, および、3月22日発行の電子版)は、マウスにおいて、共生ミクロフローラが結腸や肺のナチュラルキラーT(NKT)細胞の数と機能の制御を助けていることを示した。無菌のマウスではこれらの組織中でNKT細胞の数が増加し、化学的に誘発させた大腸炎やアレルギー性喘息に対し、より強い感受性を示した。無菌マウスの新生児にミクロフローラのコロニーを再形成させると、大腸炎や喘息になりやすかったのが防がれた。しかし、成体になった無菌マウスにミクロフローラを再形成しても効果は無かった。従って、幼児期に微生物に曝すことは重要で、炎症に対する免疫系の感受性に関する効果は継続する。(Ej,KU,nk)
Microbial Exposure During Early Life Has Persistent Effects on Natural Killer T Cell Function

宗教を考えすぎると?(Overthinking Religion?)

人間における認知についての多くの理論は、ヒューリスティクス(試行錯誤)や経験則に頼って、すばやく働きがちなシステムTと、より熟慮し、分析的になりがちのシステムUとを区別している。2つのプロセスが同時かつ競合的に作用するこの二重処理の枠組みは、意思決定に対する多様な状況的影響を説明するために用いられてきた。GervaisとNorenzayanは、宗教不信に対して、二重処理の枠組みの適用を研究し、多様な実験的操作を通して分析的思考プロセスを引き起こすことにより、被験者にとって、宗教的信念が低レベルになると報告する傾向になると報告している。(p. 493)。(KF,KU,ok)
Analytic Thinking Promotes Religious Disbelief

酸による進化の速度(Acid Rate)

リッチモンド鉱山(USA カリフォルニアのアイアン・マウンテン)における酸性の鉱山廃液内での種の数の少なさは、リアルタイムでゲノムスケールでの微生物プロセスを研究するまたとない機会を提供している。Denef and Banfield(p. 462;DeLongによる展望記事参照)は、様々な場所での8年間に渡って収集された24の微生物バイオフィルムからのメタゲノムデータの更なる解析を報告している。そのDNAの高処理のショットガン配列決定法を用いて、無機栄養性生物Leptospirillum group II(主たる一次産生株であり、かつ鉄を酸化する)の6つの遺伝子型変異体における高頻度の一塩基多型を調べた。5年間にわたる同じ場所から収集された13のサンプルが、他種に依存せず独立な自由生活の生物集団において時間経過と共に一塩基置換の蓄積を推定するために解析された。系統樹において、相同組み換えによって生じたごく新しい一連の分岐ポイントが明らかにされた。(KU,nk)
In Situ Evolutionary Rate Measurements Show Ecological Success of Recently Emerged Bacterial

ニトロソ化のストレスを扱う(Handling Nitrosative Stress)

タンパク質のS-ニトロシル化は真核生物における細胞シグナル伝達の主要な仕組みであるが、微生物ではこれまで報告されていなかった。転写制御因子OxyRは、酸素の存在下において細胞代謝によって産み出される活性酸素種から細菌の細胞を保護するよう働いている。Sethたちは、細胞が硝酸塩の存在下で成長するとき、好気的に成長した細胞内で酸化された同じシステイン残基のS-ニトロシル化によって、OxyRが修飾されることを発見した(p. 470)。しかしながら、ニトロシル化されたOxyRは、過剰なS-ニトロシル化からその細胞を守っているらしい別の遺伝子集合を活性化していたのである。(KF)
Endogenous Protein S-Nitrosylation in E. coli: Regulation by OxyR

インフラマソームの産生(Generating Inflammasomes)

インフラマソーム(炎症反応に関連する生体分子複合体)とは、感染への応答において構築される大きな多タンパク質複合体であり、2型糖尿病や粥状動脈硬化などの種々の病気の病変形成にも関与する。インフラマソーム複合体は、炎症性カスケードを引き起こし、それはカスパーゼ-1の活性化と、サイトカイン、インターロイキン1の産生をもたらすことになる。しかしながら、インフラマソーム複合化を引き起こす、この特異的シグナルについては、ほとんど何もわかっていない。Shenoyたちはこのたび、グアニル酸結合タンパク質5(GBP5)が、結晶性刺激など他のものではなく、病原菌やアデノシン三リン酸などのある種の活性化シグナルへの応答として、NLRP3を含むインフラマソームの組み立てを促進していることを示している(3月29日オンライン発表されたp. 481; またCaffreyとFitzgeraldによる展望記事参照)。GBP5を欠くマウスは、カスパーゼ-1活性化とサイトカインの産生に障害を示した。病原菌や炎症性刺激への、NLRP3インフラマソーム依存の応答もまた、GBP5を欠くマウスで障害されていたのである。(KF,nk)
GBP5 Promotes NLRP3 Inflammasome Assembly and Immunity in Mammals
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