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Science September 16 2011, Vol.333


羽毛の特徴(Feather Features)

化石記録中の羽毛は、絶滅した鳥や恐竜の淘汰の歴史や行動を理解するのに役立つ、形態学的な手がかりを与えてくれる。化石になった羽毛の色や構造を決定することができれば、より深い洞察を加えることができるが、保存上の問題により、しばしばその解釈は曖昧になってしまう。( Norell による展望記事参照)Wogelius たちは(p. 1622, 6月30日号電子版版) 、何種類かの鳥や非鳥類である肉食竜の化石化した羽毛について、メラニン色素に関係しそうな微量金属の分布をマップ化し、明瞭な相関パターンを明らかにした。孔子鳥の化石では、金属の分布は、その翼の羽が先端だけが黒っぽくて他のほとんどが白色であったことを示唆している。McKellar たちは(p. 1619)、白亜紀後期の琥珀に埋め込まれた羽の集まりを発見し、そこには羽の構造や羽の色に関する手がかりが保存されていた。(Sk,KU)
Trace Metals as Biomarkers for Eumelanin Pigment in the Fossil Record
p. 1622
A Diverse Assemblage of Late Cretaceous Dinosaur and Bird Feathers from Canadian Amber
p. 1619

抗体の長くて曲がりくねった道(Antibodies' Long and Winding Road)

時間がかかるが、HIV感染者のなかには、多様な系統のウイルスに対して強い作用強度を示す抗体を発生する場合がある。このような抗体の受動的な伝達は、サルにおける感染防止となり、それ故、ワクチン接種した人に抗体を作るワクチンの開発に大きな興味がある(Korber and Gnanakaranによる展望記事参照)。Wuたち(p. 1593, および、8月11日号電子版と表紙を参照)、更に、Scheid たち(p.1633, 7月14日号電子版参照)は異なる手法を用いて、複数の無関係なHIV感染者において類似の特異性を持つ広範囲に作用する中和抗体の存在を実証した。これらの抗体は少数の生殖系列免疫グロブリン遺伝子に由来し、そして似たような形でHIVのgp120エンベロープタンパク質上のエピトープ(抗原決定基)に結合していた。(Ej,hE,KU)
Focused Evolution of HIV-1 Neutralizing Antibodies Revealed by Structures and Deep Sequencing
p. 1593
Sequence and Structural Convergence of Broad and Potent HIV Antibodies That Mimic CD4 Binding
p. 1633

二つの恒星のまわりのひとつの惑星(3.A Planet Around Two Stars)

Kepler宇宙望遠鏡からのデータに基づき、Doyle たち (p.1602) は、連星系中の二つの恒星の周りを回る惑星を検出したことを報告している。連星の二つの星は互いに食を起こしていて、さらにその両方の前面を惑星が横切っているので、3個すべての天体の質量、半径、軌道パラメータを詳細に決定することができる。この両方の恒星は太陽よりは小質量であり、そして、その惑星は土星と似ているが、より高い平均密度を有している。それらの惑星と恒星は、ガスと塵の円盤内部で一緒に形成されたらしい。(Wt,nk)
Kepler-16: A Transiting Circumbinary Planet
p. 1602

アルケンとアルコールの反応(Of Alkenes and Alcohols)

アルケンとアルコールは、より複雑な有機分子やポリマーを作る汎用性の高い原材料である。酸中において、この両者は容易に相互変換する--アルケンの炭素炭素二重結合への水の付加反応によりアルコールを形成する--が、OH基はほぼ常に非対称性アルケンのより水素の少ない方の炭素に付加する。Dongたち(p. 1609)は、水のOH基がアルケンのより置換されていない炭素に付加するという、この位置選択性を逆に変えるように順番に働く3点セットの触媒について報告している。Leeたち(p. 1613)は、種々のアルケンとアルコールの組み合わせによる異なる変換に注目しており、そこではアルコールのOH基とアルケンのH原子の一つが水として脱離しC-C結合を作る。(KU,nk)
Primary Alcohols from Terminal Olefins: Formal Anti-Markovnikov Hydration via Triple Relay Catalysis
p. 1609
Selective Catalytic C-H Alkylation of Alkenes with Alcohols
p. 1613

不明な部分を満たす(Filling a Hole)

ヒドロキシラジカルは、浮遊している多くの汚染物質の除去に中心的な役割を果たしているため「大気の掃除機;atmospheric broom」と呼ばれている。このヒドロキシラジカルは、その大部分を大気中のHONOの光分解によって形成されている。しかしながら、フィールド観測からは、大気中HONO産生に関して発生源のかなりの割合を説明することが出来なかった。Suたち(p. 1616,8月18日号電子版;Kulmala and Petajaによる展望記事参照)は、HONOが土壌中の微生物による亜硝酸に由来することを示しており、これが不明だった大気中HONOの量を満たすものである。低いpHの肥沃な土壌は、特にHONOの強力な発生源である。かくして、陸地の利用における農業の活性化と変化は、HONO産生を促進し、そしてそれによってヒドロキシラジカルの濃度を増すことになるであろう。(KU,nk)
Soil Nitrite as a Source of Atmospheric HONO and OH Radicals
p. 1616

クラゲの隆盛(Rise of the Jellyfishes)

乱獲や生息環境の破壊、気候変化など、人が引き起こす様々な海洋系の変化は、上位の捕食魚を大きく減少させてきた。そうした海洋系では、相対的に大型のクラゲが増加していた。このことから研究者の中には、海洋系に対する人為的な影響の結果、プランクトン食性魚類が支配する栄養的食物網(trophic web)から、クラゲが支配する栄養的食物網へと移行するのではないかという意見もある。このシフトは逆説的に見える。というのも、活発に泳ぎ捕獲する魚は、ゆっくりと漂うクラゲに比べて、獲物を捕獲する効率が良いと思われるからである。しかし、Acunaたち(p. 1627)は、魚とクラゲの相対的な獲物消費率(prey consumption rates)に関して、双方に違いがないことを示した。クラゲは、獲物を追いかける活動の低さを体を大きくして、より多くの獲物と遭遇することで補っているようである。(TO,nk)
Faking Giants: The Evolution of High Prey Clearance Rates in Jellyfishes
p. 1627

ミエリン形成を調節する(Modulating Myelination)

ミエリンの形成を制御する神経のインパルス活性については良く解ってない。Wakeたち(p. 1647, および、8月4日号電子版、また、Araque and Navarreteによる展望記事参照)は、マウス後根神経節から取り出された神経細胞をラットのオリゴデンドロサイト前駆細胞と一緒に培養した。神経細胞による神経伝達物質の放出を阻害すると、ミエリン形成も阻害された。神経活動が、ミエリン形成細胞の抹消にあるミエリン塩基性タンパク質の局在化された翻訳に影響を及ぼした。この相互作用が電気的に活性な個々の軸索上でのミエリン形成を刺激するのであり、活性依存性の発生、情報処理や学習にミエリン関与が決定的に必要である。(Ej,hE)
Control of Local Protein Synthesis and Initial Events in Myelination by Action Potentials
p. 1647

せん断による開環(Shearing Rings Open )

超音波圧によってもたらされるせん断力が、プラスチックに巨視的損傷を誘発させることは以前から知られていた。しかしながら、過去十年以上に渡って、化学者たちはポリマー内部に包埋された共有結合を切断するために(さもなければ非反応性のままポリマー内に残る)、超音波の分子レベルの可能性にかなりの焦点を当てていた。Brantley たち(p. 1606; LeibfarthとHawkerによる展望記事参照)は、この機械化学的な技術によりポリマー内部のトリアゾール環をそれらのアルキンとアジ化物前駆体に戻すことができることを示している。その正反応(アルキンとアジ化物の間での「クリック(click)」反応と呼ばれる非常に用途の広い、かつ簡便なカップリング反応)を用いて、これら他の安定な環を生成するという無数の適用を考慮すると、このプロセスは広範囲の応用を見出すだろう。(hk,KU)
Unclicking the Click: Mechanically Facilitated 1,3-Dipolar Cycloreversions
p. 1606

トランス翻訳で失われるもの(Lost in Trans-Translation)

結核の化学療法を受けている患者の成功を保証、促進するには、経口摂取されるべき薬剤の混合物中にピラジナミド(プロドラッグであるPZA)が必須の成分である。この薬剤は結核の制御にとって意味があるが、それは、非複製的で静止状態にあるにもかかわらず、他の多くの薬剤による種々の猛攻撃の下でも生存可能である持続型の結核菌の除去をもたらすからである。Shiたちはこのたび、PZAがいかにして作用するかを究明した(p. 1630、8月11日号電子版; またColeによる展望記事参照のこと)。まず最初に、RpsAと呼ばれるマイコバクテリアのリボソームタンパク質(このタンパク質は、二重目的の細菌のトランスファー-メッセンジャーRNA(tmRNA)に結合する)が、PZAの活性型に結合できる能力によって同定された。それに引き続いて、PZA-抵抗性のめずらしい型の分離株が発見されたが、それはRpsAのC末端にあるアラニンが除去され、結果的にtmRNAに結合しなかった。しかしながら、この結合活性は持続型の結核菌の生存にとって重要であり、その理由はtmRNAはタンパク質合成にとって必要なだけでなく、例えば薬剤に曝されたことによるストレス誘発性のダメージによる翻訳妨害をこうむったリボソームを救う際にもまた重要なのある。この作用様式の解明は、世界中の何百万もの人たちを苦しめている結核の治療のための薬剤開発の、新しい標的の可能性を開くものである。(KF,KU)
Pyrazinamide Inhibits Trans-Translation in Mycobacterium tuberculosis
p. 1630

転写を追跡する(Tracking Transcription)

古細菌と真核生物におけるRNAの合成(転写)は、RNAポリメラーゼ酵素とそれらの鍵となるヘルパータンパク質の構造に驚くべき類似性のある、類似した仕組みで生じている。長期にわたる一つの謎は、RNAポリメラーゼI(Pol I)によるリボソームDNAの転写が、鍵となる転写因子TFIIBあるいは構造的に関連したタンパク質なしで生じているらしい、ということだった。TFIIB様因子は、前開始複合体形成やプロモータ開口、開始などの段階での、他の重合酵素による転写には必須である。KnutsonとHahn(p. 1637)およびNaiduたち(p. 1640)はこのたび、酵母およびヒトの一般的転写機構のためのTFIIB様因子を同定したが、それは転写におけるTFIIBの基本的役割と、真核生物のPol I、II、IIIと古細菌の転写機構の間の並行性について、光を当てるものであった。(KF)
Yeast Rrn7 and Human TAF1B Are TFIIB-Related RNA Polymerase I General Transcription Factors
p. 1637
TAF1B Is a TFIIB-Like Component of the Basal Transcription Machinery for RNA Polymerase I
p. 1640

腸の反応(Gut Reaction)

グアニリルシクラーゼ-C(GC-C)は、腸において産生されるペプチドホルモンの受容体として機能する膜タンパク質である。刺激されると、それはシグナル伝達の二次メッセンジャーであるグアノシン3′,5′一リン酸を産生する。Gongたちは、GC-Cが、マウスの中脳においても機能していると報告している(p. 1642,8月11日号電子版)。この領域のニューロンは神経伝達物質ドパミンを用い、GC-Cの活性化は、神経伝達物質グルタミン酸やアセチルコリンに対するニューロンの応答性を増強した。GC-C発現を欠くマウスの行動異常は、注意欠陥多動性障害をもつヒトに観察されるものとある程度類似したものだった。(KF)
Role for the Membrane Receptor Guanylyl Cyclase-C in Attention Deficiency and Hyperactive Behavior
p. 1642

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