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Science May 6 2011, Vol.332


環を傾けるできごと(Ring-Tilting Events)

土星のC環と木星のリングは、両方とも、縦のシワからなる予想外のパターンを示す(Salo による展望記事を参照のこと)。Hedman たち (p.708, 3月31日付電子版) は、土星の場合は、2009年8月の Cassini 宇宙船により観測されたパターンは、おそらくは 1983年の事象によって生成されたことを示している。この事象は、リングのある部分を土星の赤道面から傾けさせた。Showalter たち (p.711, 3月31日付電子版) は、Galileo 宇宙船によって1996年と 2000年に観測され、また、2007年に再び New Horizon 宇宙船により観測された木星のリングの特徴は、運動学的には土星のC環のそれと同一のものであることを示している。木星においては、リングを傾けた事象は1994年に発生した。そして、これは Shoemaker-Levy 9 彗星の衝突に帰することができる。分断された彗星の主要部がリングを横切ることはなかったが、付随するダスト状の破片がリングを傾けた可能性がある。(Wt,nk)
Saturn’s Curiously Corrugated C Ring
p. 708-711.
The Impact of Comet Shoemaker-Levy 9 Sends Ripples Through the Rings of Jupiter
p. 711-713.

足場タンパク質上に構築するシグナル応答分子(Building on Scaffold Proteins)

細胞のシグナル伝達メカニズムにおけるの最も基本的な洞察の一つは、足場タンパク質の重要性に関するその認識であった。これらの足場(scaffold)タンパク質は関連するタンパク質を物理的に収集して、一括りとして機能することが知られている。このような連結した分子相互作用によって、特異的で効率的なシグナル伝達機構に多大な効果を発揮している。Good たち(p. 680) が、そのレビュー記事で説明しているように、足場タンパク質は結合タンパク質として以外の効果も持っており、シグナル伝達応答の感度や時間経過に対して影響を及ぼしている。足場タンパク質はこのように、複雑な制御機構を進化させており、現在、治療として役立つ足場制御因子と成り得る分子設計を目指している。(Ej,hE,KU)
Scaffold Proteins: Hubs for Controlling the Flow of Cellular Information
p. 680-686.

マスサイトメトリーとフローサイトメトリ(Mass and Flow)

通常のフローサイトメトリ(流体による細胞分析法)による各々の細胞における複数のパラメータ測定は、検出されるフルオロフォア(蛍光発色団)マーカーのスペクトルが重なっていることから実用上の制限がある。Bendall たち(p. 687;および、Benoist and and Hacohenによる展望記事参照)は質量分析器によって、識別可能な同位元素を利用して30個以上の測定が可能な手法を紹介している。この手法は1秒間に数百個の細胞を測定することを可能にする。各細胞は5500ケルビンで蒸発し、各マーカーは誘導結合されたプラズマ質量分析器(ICP-MS)によって追跡観察される。本手法はヒト造血系中の多様な細胞型のシグナル伝達の性質の分析に利用されたが、これは他の系にも利用できるであろう。(Ej,hE,KU)
Single-Cell Mass Cytometry of Differential Immune and Drug Responses Across a Human Hematopoietic Continuum
p. 687-696.

ナノアンテナ・フォトダイオード(Nanoantenna Photodiode)

アンテナは電磁波を集め、そして信号が読み取られる点に電磁波が集中するように設計されている。アンテナをナノメートルスケールのサイズに縮小すれば、光の波長を集め、フォーカスすることが出来る。表面プラズモン(金属の表面近傍を伝搬する集団電子励起である)は、光を電気信号に変換できる。Knightたち(p. 702; Moskovitsによる展望参照)は、シリコン表面に直接金のナノアンテナのアレイを形成し、次にナノアンテナと半導体の間にポテンシャル障壁を形成する。このアセンブリが偏光-感受性光子吸収をすると、電子はそのアンテナ-半導体障壁を越えて半導体中に注入され、光電流を生成する。同一のナノスケールデバイスにおいて集光性とホットエレクトロン注入を組み合わせることで、半導体バンドギャップ以下のエネルギーでのスペクトルと光子検出に関するメカニズムが提供される。(hk,KU)
Photodetection with Active Optical Antennas
p. 702-704.

銅酸化物表面を調べる(Probing the Cuprate Surface)

正電荷キャリア密度を変化させることで、層状の酸化銅は絶縁体から高温超電導体に変化することが知られている。バルク体の内部挙動を調べるために、Sakuraiらは(p.698)非弾性X線散乱法を用いて、化学組成を変えながら銅と酸素の電子軌道を調べた。また補完的研究として、Scagnoliらは(p.696、4月7日電子版)共鳴X線散乱法を用いて、酸化銅サンプル中の軌道電流を画像化している。これまで理論的にのみ予測されていたループカレントの観測と関連させて、化学的組成の変化がバルク材料の電子挙動にどのような影響を及ぼしているかを詳細に調べることは高温超伝導のメカニズムを明らかにする鍵となるかも知れない。(NK,nk)
Imaging Doped Holes in a Cuprate Superconductor with High-Resolution Compton Scattering
p. 698-702.
Observation of Orbital Currents in CuO
p. 696-698.

闇の中の恐竜(Dinosaurs in the Dark)

従来の知見では、生理学的な制限によって恐竜や翼竜は日中の間だけ行動的であり、夜間を小型の原始哺乳類の自由にさせてきたと長い間とらえられてきた。既知の行動パターンを持つ現存種の眼の構造の特徴を用いて、SchmitzとMotani(p.705,4月14日号電子版,表紙参照)は、このような主竜類(archosaurs)が実際には日中も夜間も活動的であったことを示している。多数の類似点が現存する群と絶滅した群の間で観察された;鳥類はほぼ日中、肉食獣類は殆どが夜間、そして草食動物はカテメラル(24時間を通して活動は散発的)である。すなわち、古生代の主竜類は哺乳類や鳥類のように、環境によって形成される一日の活動パターンに適応したことが示唆される。(Uc,KU)
Nocturnality in Dinosaurs Inferred from Scleral Ring and Orbit Morphology
p. 705-708.

単独で食べたり、食べられたり(Eat or Be Eaten-Alone)

今日、単細胞のゲノムや、そして勿論のことその細胞上や細胞内にあるであろう他のものも配列決定可能である。Yoonたち(p. 714)は、最近発見され、野外環境から直接得られた単細胞の海藻 picobiliphyte のショットガン-配列決定を行なったが、これは異なるゲノムの補体を示す個々の細胞と共に、起こりえるウイルス感染と推定上の細菌の食事に関する魅力的な一瞥を与えるものである。更に、この推定上の光合成の属は明らかに完全な色素体を持っておらず、おそらく従属栄養性生物であろう。(KU)
Single-Cell Genomics Reveals Organismal Interactions in Uncultivated Marine Protists
p. 714-717.

細胞内兵器庫を点火する(Priming the Intracellular Armory)

免疫サイトカインであるインターフェロンγは、インターフェロン-誘導性の65-キロダルトンのグアニル酸-結合タンパク質(Gbbs)等の幾つかのGTP分解酵素のファミリーを含めた、ほぼ2000の宿主遺伝子を誘発することが可能である。Kimたち(p. 717)は、マウスにおけるGbbsのファミリーの個々のメンバーの失活の影響を系統的に評価し、そしてこのメンバーの幾つかが細胞内の細菌感染に対して酸化作用による殺害、食作用、及び自己貪食によって戦うべきマシーンを立ち上げる際に重要であった。(KU,nk)
A Family of IFN-γ-Inducible 65-kD GTPases Protects Against Bacterial Infection
p. 717-721.

興味をそそる昆虫の介在ニューロンの基準化(Intriguing Insect Interneuron Normalization)

ワタリバッタの脳から伸びているきのこ体において、触角ローブからの高密度シグナルはきのこ体の内在性ニューロン(the Kenyon cells)内で低密度のシグナル表現に変換される。Panadopoulouたち(p. 721)は、この系に或る基準化の機能を適用することで低密度コード化の分布に挑戦したが、そこにおいてはそのネットワークは平均的入力の振幅に比例して系自身を抑制する。ワタリバッタにおいて、基準化は個々のきのこ体における単一の巨大なGABA作動性ニューロンによってなされており、このニューロンが実質的に総てのKenyon細胞からの入力を受け取り、それによってその系のダイナミックレンジと全体的なコード化能力を増すように作用する。この研究は哺乳動物の感覚表現の根底にあるメカニズムの理解に示唆を与えるものである。(KU)
Normalization for Sparse Encoding of Odors by a Wide-Field Interneuron
p. 721-725.

感染性のタイミングの測定(Timing Infectiousness)

口蹄疫ウイルス(FMDV)は、感染制御に付随する物流や動物の福祉についての大きな問題を言うまでもなく、家畜産業にとって大きな経済的損失の源である。Charlestonたちは、感染性を検出する基準がどうあるべきか、そして動物福祉を最大化しつつコストを抑えるために感染制御政策を変更する余地がどれだけあるか、を確認するために、ウシでの実験を行なった(p. 726)。彼らは、ウイルスが血液サンプル中に検出できても、そのウシが感染性であるとは限らないことを発見した。感染が成就するには、ある種の症状も顕れている必要があり、FMDVウイルスが粘液中に排泄されている必要がある。しかし、感染性のあるのは短時日、すなわち1.7日間だけで、それは免疫応答が生じて、ウイルスの複製を制限するからである。今やもっとも重要なのは、感染制御政策を見直すために使える、すばやい正確な診断法を開発することである。(KF)
Relationship Between Clinical Signs and Transmission of an Infectious Disease and the Implications for Control
p. 726-729.

感染性の行動(Infectious Behavior)

線虫(Caenorhabditis elegans)では、3種の感覚性ニューロンが、あるシグナル経路の活性化を調節し、特定の病原体に対する回避行動を促進することで、病原性感染症に対する抵抗性を制御している。それら3種のニューロンは、環境の酸素や細菌、神経回路内のその他の生物に対する行動性の応答を統合しており、その結果、免疫応答の制御におけるそれら個別の役割を評価するのが難しくなっている。このたびSunたちは、それらのうち環境に曝されている化学受容性器官内に位置している2種のニューロンが、病気あるいは炎症に関連する分子を感知し、非折り畳みタンパク質応答(unfolded protein response)として知られる経路を介して自然免疫を制御している、ということを明らかにしている(p. 729、4月7日号電子版; またTraceyによる展望記事参照のこと)。(KF)
Neuronal GPCR Controls Innate Immunity by Regulating Noncanonical Unfolded Protein Response Genes
p. 729-732.

応答の再モデル化(Remodeling Responses)

単細胞における細胞性シグナル伝達系の応答を測定できれば、研究者たちは、外部からの手がかりに対するそれぞれの細胞の応答を最適化する方法を特徴付けることができる。酵母細胞におけるマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)のシグナル伝達の研究において、Peletたちは、浸透圧性の刺激と、核に転位置された活性化MAPK(この場合は、Hog1)の量および核中でのその保持時間との間にリニアな関係があることを発見した(p. 732)。Hog1はストレス応答遺伝子の転写の原因となるが、そのキナーゼによる期待された応答とは違って、遺伝子活性化は二峰性であり、同じ細胞内においてさえ変動があった。さらなる実験と数学的モデル化によって、この変動がクロマチンリモデリングに対応していることが示された。(KF)
Transient Activation of the HOG MAPK Pathway Regulates Bimodal Gene Expression
p. 732-735.

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