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Science April 23 2010, Vol.328


良く調整された転写と翻訳の関係(Transcription and Tlanslation in Train)

細菌において、リボソームによるメッセンジャーRNAのタンパク質への翻訳は通常、リボソームの結合部位がRNAポリメラーゼから出現した後すぐに始まる。この度、細菌において転写と翻訳の間の直接的な結びつきの証拠が報告された。Proshkinたち(p. 504;Robertsによる展望記事参照)は、トレーリング(trailing)リボソームがRNAポリメラーゼの自発的な逆戻りを阻止することで転写の速度を調節し、これにより様々な増殖条件下での翻訳のニーズに対する転写量の正確な調節が可能となることを示している。Burmannたち(p.501;Robertsによる展望記事参照)は、転写制御因子NusG (この因子はそのアミノ末端領域を通してRNAポリメラーゼに結合している)が、そのカルボキシ末端領域を通してリボソームタンパク質か、或いはRho転写終結因子のいずれかに競合的に結合することを示すことで、転写と翻訳の結びつきに関する可能なメカニズムを与えている。Rhoの結合はメッセンジャーRNAからのリボソームの遊離後に生じているようで、かくして転写の終結と翻訳を繋いでいる。(KU)
Cooperation Between Translating Ribosomes and RNA Polymerase in Transcription Elongation
p. 504-508.
A NusE:NusG Complex Links Transcription and Translation
p. 501-504.

メカニズムとしての三角関係(Triangulating to Mechanism)

様々な基質に対する細胞の取り込みと遊離は二次的な輸送体によって媒介されているが、この輸送サイクルの3つ総ての基本的な状態に関する結晶構造は知られておらず、このことが提唱されたメカニズムに関する説明を限定させている。Shimamuraたち (p. 470) は、細菌のナトリウム-ベンジルヒダントイン輸送タンパク質Mhp1の内向きの高次構造に対する3.8オングストロームの構造を報告しており、これは以前報告された残り二つの構造を補うものである。これらの構造の相互変換に関する分子モデルはその構造の残りの部分に対する4個のらせん体の単純な剛体回転を示しており、これによりこのタンパク質は外向きから内向きへと可逆的に切り替わる。(KU,sk)
Molecular Basis of Alternating Access Membrane Transport by the Sodium-Hydantoin Transporter Mhp1
p. 470-473.

習慣を破る(Breaking Convention)

対称ギャップ関数は超伝導体の特徴的な特性であり、これによりサンプルの中でどのように電子対が移動するのか、またペアリング(対形成)の強さを知ることができる。これらの知見により、超伝導体が超伝導状態を維持できる上限温度を知ることができる。従来の超伝導体は、対称またはs波のギャップ関数を持ち、通常転移温度は低い。一方、新たに発見された鉄系超伝導体はs波対称性を持つものの、比較的高い転移温度を示すだけでなく、その他の特性もこれまで知られているものと大きく異なる。Hanaguri らは(p.474;Hoffmanの展望記事参照)走査型トンネル顕微鏡を用いて、鉄系超伝導体中の超伝導キャリアの型破りなs波ペアリングを実験的に直接確かめることに成功している。(NK)
Unconventional s-Wave Superconductivity in Fe(Se,Te)
p. 474-476.

製造のためのマイクロキャパシタ(Microcapacitors for Manufacture)

キャパシタは少量の電荷を蓄える事ができ、急速に充放電ができるため、ハイブリッドカーの回生ブレーキのように、バッテリーと共に電力を回復するためにうまく機能する。非常に小さな電力が必要とされる場合には、キャパシタはマイクロバッテリーに勝てなかったが、Chmiola たちは(p. 480)、電荷を蓄積するためにモノリシックカーボン膜を用いてそのような応用も可能であることを示した。カーボン膜の微小な孔は電解質を輸送させるのに十分大きく、現在のチップ製造と互換性のあるプロセス技術を用いて作る事が可能である。したがって、そのようなマイクロキャパシタは自律センサや生体埋め込みデバイスを作るために、電子部品と一体化させることができる。(Sk,nk)
Monolithic Carbide-Derived Carbon Films for Micro-Supercapacitors
p. 480-483.

ねじれのないナノ合成(Nanosynthesis Without a Twist)

多くのナノスケール材料の合成は、生成物の産生によって反応物の濃度が減るために、飽和状態が変化する条件のもとで起きている。Morinたち(p. 476)は流通反応器を用いて、酸化亜鉛のナノチューブとナノワイヤー成長中で低過飽和条件を維持した。これらの条件のもとで、チューブの成長は応力の解放によって制御され、このことが結晶軸に沿った結晶のねじれ発生を防いでいた。異なった飽和条件での成長が予測通りになったということで、これが大量生産と低価格化に向いた合理的で制御可能なナノ材料合成を開発する方法として有望視される。(hk,KU,ok)
Mechanism and Kinetics of Spontaneous Nanotube Growth Driven by Screw Dislocations
p. 476-480.

太陽の原料(Sun Stuff)

彗星は、太陽が過去に有していた原始惑星円盤の残骸であると考えられている。それゆえ、それらは太陽系を生み出した過程の重要な手がかりを有している。Matzelたち (p.483, 2月25日号電子版) は、NASA Stardust 探査計画によって Wild 2 彗星から回収された難揮発性粒子上の Al-Mg 同位体のデータを与えている。放射性起源の同位体 26Al の消滅に対する証拠がないことは、この粒子が太陽系内で最も古い固体が形成された後、170万年後に結晶化したことを示唆している。また、同様にこの観測を説明するには、太陽の近くで形成された物質が太陽系の外側の領域に輸送され、少なくとも200万年以上の期間に渡って彗星に取り込まれたと考える必要がある。(Wt,tk,nk)
Constraints on the Formation Age of Cometary Material from the NASA Stardust Mission
p. 483-486.

モンスーンそして大規模干ばつ(Of Monsoons and Megadroughts)

アジアモンスーンは、全世界で最も多くの人口に対して最も強い影響を与える気候システムである。 従って、気候変動がこのモンスーンに対してどのように影響を与えるのかを理解することは極めて重要である。しかし、モンスーンの過去に関しては我々の知識が乏しいことが将来の気候状態を調べるた障害の1つになっている。Cookたち(p. 486;WahlとMorrillによる展望記事参照)は、このギャップを埋めるために、アジア全域から得られた木の年輪のデータに基づき、700年間に渡ってモンスーンを復元(reconstruction)した。この復元では、降水量のパターンとともにモンスーンの減衰や大規模な干ばつを記録しており、そして、この復元と他の気候記録と比較することができ、それにより将来の気候を理解できる海水面温度との関係が示される。(TO)
Asian Monsoon Failure and Megadrought During the Last Millennium
p. 486-489.

隆起に関する対立見解(Separated About Lift)

南アメリカアンデス山脈隆起の歴史について、長く引き続いている議論がある。それは、約1000〜700万年前に急激な隆起があったという仮説と、過去4000万年の殆どを費やして発生した、もっと穏やかな隆起であった、という二つの対立的な仮説を伴っている。従来、土壌炭酸塩の酸素同位体組成が海抜高度の代替特性値に、また、隆起時期の評価として使われてきた。Poulsenたちは(p.490,4月1日号電子版)、以下の点を明らかにするために全球大気大循環モデルを適用した。すなわち、後期中新世に形成された炭酸塩の酸素同位体組成の変化は、降水が起こった場所の高度よりも、降水量の変化に、より強く影響を受けるという点である。つまり、酸素同位体は古高度計(paleoaltimeter)として用いるには適切ではなく、アンデス山脈の隆起は従来考えられてきた程は急激ではなかったのかもしれない。(Uc)
Onset of Convective Rainfall During Gradual Late Miocene Rise of the Central Andes
p. 490-493.

多くの珍しい形質のための、ささやかな淘汰(A Little Selection for a Lot of Rarity)

淘汰がいかに作用しているかについての研究は、単一の形質に対する淘汰の影響に焦点を当てる傾向があった。これは必然的に、淘汰が作用している対立遺伝子で、高レベルの頻度依存的淘汰を経験するものがまれらしいことを意味する。しかしながら、淘汰は同時に複数の形質に作用している可能性がある。DoebeliとIspolatovは、複数のまれな形質がどのようにして持続され、かつ潜在的に種分化を促進しているかを検証する理論的枠組みを提示している(p. 494)。それは、自然界において観察される対立形質の多様性のレベルの高さを説明するには、レベルの低い頻度依存的淘汰だけが必要だ、ということを明らかにするものだ。(KF,KU)
Complexity and Diversity
p. 494-497.

レプリソームの機構解明(Forking Replisomes)

レプリソーム(Replisome)とは、DNAを複製する多タンパク質の複製マシンである。この作用に関する有益な洞察は試験管での実験から得られたが、これが実際の生体内でどのように組織化されているかはよくは解っていなかった。Reyes-Lamotheたち(p. 498)は、ミリ秒単位の時間分解能を持つ単分子蛍光分析法を用いて、生きている大腸菌細胞内でのレプリソームを観察した。10個の異なるレプリソーム成分の蛍光誘導物を発現している細胞から、大腸菌の活動的複製点において、その成分の化学量論と空間分布の両方が明らかになった。同様の手法は、他の分子機械が作動しているところを研究するのにも使えるだろう。(Ej,hE,KU,sk)
Stoichiometry and Architecture of Active DNA Replication Machinery in Escherichia coli
p. 498-501.

HIV(ヒト免疫不全ウイルス)とサルモネラ(HIV and Salmonella)

サルモネラ菌の非チフス系の系統に感染したHIV陽性の個人は、しばしば罹患率も死亡率も高い。その理由についてはいまだ知られていない。MacLennanたちは、サルモネラ属に対しての調節不全の抗体応答が犯人らしいということを明らかにした(p. 508; またMoirとFauciによる展望記事参照のこと) 。HIV感染者の血清は、抗体価が驚くほど上昇しても、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)を殺す役割を果たさない。HIV感染者の血清では、実験によって、サルモネラ属を殺す正常な血清の力が抑制されていることが示された。この抑制は、サルモネラ属の細胞壁成分であるリポ多糖(LPS)への抗体に対して特異的であった。ゆえに、HIV感染した血清は、サルモネラ属のうち、LPSを欠く系統を殺すことはできたし、感染した血清からLPS免疫グロブリンGを除去すると、サルモネラ属を殺すことが可能になった。つまり、HIVは、細胞性免疫の欠陥の原因となるだけでなく、体液性免疫に障害を与えることで、多重感染に対する重大な結果をもたらしうるらしい。(KF)
Dysregulated Humoral Immunity to Nontyphoidal Salmonella in HIV-Infected African Adults
p. 508-512.

読書能力への影響と学力について(Reading Influences and Achievement)

読むことを覚える時期になると、子供は様々な影響を強く受けるようになる。どんな点が影響力が大きいか、遺伝的な影響や良い教育法、使われるツール、家族環境等にどのような重要性があるのかなど議論は白熱するところである。Taylorたちは(.512)、小学校第五学年を通じて、様々な人種の一卵性と二卵性の双生児の学力を分析した。その結果、より良い先生につくことによって、子供達は自分の遺伝的な能力を十分に発揮できるようになることが示された。(Uc)
Teacher Quality Moderates the Genetic Effects on Early Reading
p. 512-514.

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