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Science August 29, 2003, Vol.301


ほんとうに大きな融合(Really Large Mergers)

我々の銀河系には、過去に小さな衛星銀河が天の川と融合した際の崩壊過程を表し ていると思われる、興味深い恒星流が含まれている。Forbes たち(p.1217) は、 Keck 10メートル望遠鏡と Hubble 宇宙望遠鏡とを用いて、「おたまじゃくし銀河」 と呼ばれる UGC 10214 において、そのような融合過程に対する直接的な証拠を得 た。彼らは、衝突する矮小銀河が回転二体系の重力場特性楕円中に伸びていき、そ して、大きいほうの銀河のダークマターハローから誘起された重力によって、大き な銀河の回りを回転する矮小銀河の後ろに潮汐力で引き剥がされた星の尾が形成さ れることを観測している。彼らの観測は、このような崩壊過程は過去だけでなく現 在も進行中であり、宇宙においてかなり急速に発生しているらしいこと、そして、 小さな楕円銀河が非常に豊富であることをもまた、説明している可能性がある。 (Wt,Nk)
Galaxy Disruption in a Halo of Dark Matter
   Duncan A. Forbes, Michael A. Beasley, Kenji Bekki, Jean P. Brodie, and Jay Strader
p. 1217-1219.

縞状の相を獲得して(Earning Their Striped Phase)

キラルな液晶相の形成は、通常は、キラルな分子が必要であるが、しかしながら、 キラリティを有しない"弓形状"あるいは"湾曲コア状"の分子は、巨視的なキラリ ティを有する領域に分離することが知られている。これらの分子は、異常な構造と 双極性の秩序を有する相からなる豊富な種類のならびをもたらしている。Coleman たち(p.1204; 表紙を参照のこと) は、これらの一つである、いわゆる B7 相におい ては、分子の極性とキラリティの局所的自発的秩序により、それらのパッキングや 双極子の配列が波打つより大きなスケールでの縞状パターンが形成されることを示 している。彼らは、その構造を、理論的な論拠とともに、X線回折、光学的テクス チャ、凍結割断(freeze-fracture)による透過型電子顕微鏡に基づく結果に基づいて 定めている。(Wt)
Polarization-Modulated Smectic Liquid Crystal Phases
   D. A. Coleman, J. Fernsler, N. Chattham, M. Nakata, Y. Takanishi, E. Körblova, D. R. Link, R.-F. Shao, W. G. Jang, J. E. Maclennan, O. Mondainn-Monval, C. Boyer, W. Weissflog, G. Pelzl, L.-C. Chien, J. Zasadzinski, J. Watanabe, D. M. Walba, H. Takezoe, and N. A. Clark
p. 1204-1211.

分子の伝導率を分解する(Breaking Down Molecular Conductivity)

単一分子のコンダクタンスを調べる1つの方法は、金―分子―金のように、電極に挟 まれた単分子との間に結合状態を作り、電極間のギャップを広げることで、“結合の 破断”する様子から計測する方法である。もうひとつ別の方法は、金ナノ粒子ででき た走査用プローブ表面に付着した多数分子を調べることである。Xu と Tao (p. 1221)は、金の走査トンネル顕微鏡チップを使って分子の両端 (4,4'-dipyridine and n-alkanedithiols)を結合させ、両方の手法を組み合わせた実験を行った。この 方法はきわめて単純であり、同時に数千個の測定結果が得られる。このコンダクタ ンスデータのヒストグラムは、多数の分子の架橋に対応するコンダクタンスを示す というよりは、単位コンダクタンスの整数倍のところに特徴的ピークを持つ。(Ej)
Measurement of Single-Molecule Resistance by Repeated Formation of Molecular Junctions
   Bingqian Xu and Nongjian J. Tao
p. 1221-1223.

消化するDNAの動力学(The Dynamics of Digesting DNA )

バクテリオファージλにおける組み換えには、DNAの5’から3’の方位の1つの鎖を消 化していくエキソヌクレアーゼが必要である。この酵素は進化性に富み、転位置の ためのエネルギーはリン酸ジエステル結合の加水分解から得られる。Van Oijenたち (p. 1235)はDNAに沿って動く単一エキソヌクレアーゼ分子の動力学について調べ た。それによると、触媒作用の速度は基質DNAの塩基配列に依存し、また、ワトソン -クリック水素結合を切断し、塩基の積み重なり(スタッキング)を乱すのに必要な エネルギーの違いに応じて変動する。配列依存性の速度変動も観測されることか ら、酵素-DNA複合体のコンフォメーションの違いが反映されているものと思われ る。(Ej,hE)
Single-Molecule Kinetics of lambda Exonuclease Reveal Base Dependence and Dynamic Disorder
   Antoine M. van Oijen, Paul C. Blainey, Donald J. Crampton, Charles C. Richardson, Tom Ellenberger, and X. Sunney Xie
p. 1235-1238.

尾部をつかむ(Grabbed by the Tail)

合成受容体であるCavitandは可溶性の有機化合物であり、荷電した基(代表的にはカ ルボキシラート基)が、疎水性のポケットに沿って並んでいる。通常は電荷による相 互作用が支配的であるが、TrembleauとRebek(p. 1219)は、典型的にはアミン(正に 帯電する)を結合しているCavitandが、又、両親媒性の界面活性剤(ドデシル硫酸ナ トリウムやドデシルホスホコリン)に結合することを報告している。核磁気共鳴によ る研究では、界面活性剤の長鎖アルキル尾部が水の雰囲気を避けて、Cavitandの親 水性のポケットに巻きついていることを示している。(KU)
Helical Conformation of Alkanes in a Hydrophobic Cavitand
   Laurent Trembleau and Julius Rebek Jr.
p. 1219-1220.

アルミニウム部品のラピッドプロトタイピング(Pulling Aluminum Parts Together)

ラピッドプロトタイピングは、青写真段階から部品製造や完全な組み立て作業を直 接行えるために幅広い業界を変革せている。鉄やセラミック、そしてプラスチック などはこのような方法で処理できるが、アルミニウムは急速に酸化膜が生成される ため、この手法でアルミニウムから部品を製作することは非常に困難である。 SercombeとSchafferは(p. 1225)、ナイロン結合剤にアルミニウムとマグネシウムを 混合した、レジンボンド予備形成品を低酸素環境で加熱することで、窒化アルミニ ウムの骨格を形成できることを示している。その骨格は最終的にアルミニウム合金 を浸透させることの出来るほど、十分な強度と精度安定性を持つ。(Na)
Rapid Manufacturing of Aluminum Components
   T. B. Sercombe and G. B. Schaffer
p. 1225-1227.

流れに逆らって並ぶ(Aligned Against the Flow)

音速が一方向だけ速いような地震波の異方性がある場合は、中央海嶺におけるマン トル流が原因と思われる。速度の増加の原因はオリビン結晶軸が流れに平行に並ぶ ことによる。Holtzmanたち(p. 1227; および、Bystrickyによる展望記事参照)は、 オリビン、溶融玄武岩、溶融硫化物、固体クロム鉄鉱などの簡単なせん断応力の実 験を行った。溶解の多い場合のバンド、少ない場合のバンドが観察され、溶解の少 ない場合のバンドは、印加された単純せん断方向(ほぼマントル流方向)に垂直に 並んだ。したがって、もっと複雑な分離液体と固相中では、異方性地震波の高速方 位はマントル流に直交していると思われる。(Ej)
GEOPHYSICS:
Mantle Flow Revisited

   Misha Bystricky
p. 1190-1191.
Melt Segregation and Strain Partitioning: Implications for Seismic Anisotropy and Mantle Flow
   B. K. Holtzman, D. L. Kohlstedt, M. E. Zimmerman, F. Heidelbach, T. Hiraga, and J. Hustoft
p. 1227-1230.

カルベンの置換反応(Substitution Reactions of Carbenes)

カルベン化合物は、通常の8個の価電子というより6個の価電子を持つ炭素原子を有 している。不安定な中間体として昔から見なされていたが、安定なカルベンが合成 されたり、更に遷移金属錯体のリガンドとしても用いられてきている。 Merceron-Saffronたち(p. 1223)は、今回カルベンが求核置換反応を行うことを示し ており、このことは触媒といったこの材料の応用への最適化に必要な一連のカルベ ン化合物の合成を可能とするものである。(KU)
Synthesis of Carbenes Through Substitution Reactions at a Carbene Center
   Nathalie Merceron-Saffon, Antoine Baceiredo, Heinz Gornitzka, and Guy Bertrand
p. 1223-1225.

多様性をつくる(Generating Diversity)

雑種形成(Hybridization)は、新規な適応の発達を促進する新たな遺伝子の組み合わ せを生成することにより、進化の歩みを速くしている可能性がある。しかし、雑種 によって薄められた適応性は進化の袋小路も生み出す。Riesebergたち(p.1211; Abbottによる展望記事参照)は、ヒマワリにおける生態的変化が雑種形成によって促 進されるのかどうかをテストした。3つの極限の生息地(砂丘、不毛の大地 (desertfloor)、塩湿地)で見つかるヒマワリの3種は、2つの親種からの大昔の交配 による派生種であるとわかった。従って、交配による生態的分岐はうまく機能して おり、ヒマワリの原種や分岐を助けてきている。多くの遺伝子の変種を同時に生成 することにより、交配は、他の方法では困難である、大規模で急速な適応進化の変 遷のためのメカニズムを可能にする。(TO)
EVOLUTION:
Enhanced: Sex, Sunflowers, and Speciation

   Richard J. Abbott
p. 1189-1190.
Major Ecological Transitions in Wild Sunflowers Facilitated by Hybridization
   Loren H. Rieseberg, Olivier Raymond, David M. Rosenthal, Zhao Lai, Kevin Livingstone, Takuya Nakazato, Jennifer L. Durphy, Andrea E. Schwarzbach, Lisa A. Donovan, and Christian Lexer
p. 1211-1216.

植物病原体のターゲット(Plant Pathogen Target)

哺乳類や植物の多くの病原体は、その宿主に病原性因子を注入するために、古くか ら保たれている送達システム(delivery system)であるⅢ型分泌システムを利用して いる。しかし、宿主ターゲットはほんの少ししか知られていないし、植物の監視シ ステムがどのように働いているかもよくわかっていない。Shaoたちは、シロイヌナ ズナにおいて、タンパク質リン酸化酵素PBS1が、シュードモナス属syringae病原性 タンパク質であるAvrPphBの宿主ターゲットであることを明らかにしている(p.1230) 。このAvrPphBはPBS1を分解するシステインプロテアーゼなのである。この結果生じ るPBS1断片は自己リン酸化し、おそらくはAvrPphBと結合して、植物の抵抗性タンパ ク質RPS5によって認識されるのである。(KF)
Cleavage of Arabidopsis PBS1 by a Bacterial Type III Effector
   Feng Shao, Catherine Golstein, Jules Ade, Mark Stoutemyer, Jack E. Dixon, and Roger W. Innes
p. 1230-1233.
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単一タンパク質分子の急速な折り畳み(Fast Folding of Single-Protein Molecules)

単一分子タンパク質折り畳み実験は、特定の変性剤条件における平衡状態下で有意 に多く存在している立体配置状態について価値ある情報を提供してきた。このた び、Lipmanたちは、単一分子と混合技法を併用して、非平衡条件下での寒冷ショッ ク・タンパク質の折り畳みをモニターした(p. 1233)。変性剤濃度の急激な変化に よって折り畳みが引き起こされた後、彼らは、Frster共鳴エネルギー移動をモニ ターして、折り畳み過程でのタンパク質構造の分布を追ったのである。(KF)
Single-Molecule Measurement of Protein Folding Kinetics
   Everett A. Lipman, Benjamin Schuler, Olgica Bakajin, and William A. Eaton
p. 1233-1235.

生殖細胞の形成(Making Germ Cells)

哺乳動物における生殖細胞の発生は、他の種における生殖細胞の発生とは大きく異 なっている可能性があり、例えばショウジョウバエ(Drosophila)では母親から供 給される遺伝子Nanosが始原生殖細胞の性嚢への遊走の際に機能するのに対して、マ ウスでは胚の遺伝子が替わりの働きをする。Tsudaたち(p. 1239)は、マウスにお いて2種の保存されたnanos遺伝子、nanos2とnanos3とを見いだし、これらがマウス においても生殖細胞発生に必要とされることを見いだした。興味深いことに、 nanos3は、精子形成および卵形成の両方ともに必要とされたが、しかし関連遺伝子 であるnanos2は、精子形成にのみ必要とされた。このように、ハエからマウスにい たるまで、生殖細胞の発生経路において、機能が保存されていた。(NF)
Conserved Role of nanos Proteins in Germ Cell Development
   Masayuki Tsuda, Yumiko Sasaoka, Makoto Kiso, Kuniya Abe, Seiki Haraguchi, Satoru Kobayashi, and Yumiko Saga
p. 1239-1241.

持続性変異(A Persistent Mutation)

持続性感染は、リーシュマニアを含む多くの寄生虫疾患の伝播および再活性化にお ける主要な因子である。以前の研究では、持続性感染に関与する宿主の因子に対し てもっぱら注目が集まっていた。Spathたち(p. 1241)は、主要な複合糖質経路が 失われているために、急性の病状を引き起こす能力を特異的に欠失している寄生虫 であるリーシュマニア(Leishmania major)の変異型(lpg2-)について記載してい る。しかしながら、変異型寄生虫は、感染した哺乳動物宿主中で無制限に生き残る ことができる。持続性感染のメカニズムを解明するため、そして効果的なワクチン および化学療法を開発するため、この変異体を補助として使用することができる。 (NF)
Persistence Without Pathology in Phosphoglycan-Deficient Leishmania major
   Gerald F. Späth, Lon-Fey Lye, Hiroaki Segawa, David L. Sacks, Salvatore J. Turco, and Stephen M. Beverley
p. 1241-1243.

糖衣(Sugar Coatings)

発酵性の生物体において適切なグリコシル側鎖をもつ糖タンパク質を生成すること は、生物工学にとって重要な進歩となる。Hamiltonたち(p 1244;Serviceによる ニュース記事参照)は、Pichia pastorisという酵母における分泌性経路の遺伝子工 学研究を記述し、この真菌のシステムにおけるヒトの複雑なNグリカンの生成を示し ている。この均一グリカンの修飾は、糖タンパク質の構造と機能との関係の研究に 役に立つであろう。(An)
BIOTECHNOLOGY:
Yeast Engineered to Produce Sugared Human Proteins

   Robert F. Service
p. 1171.
Production of Complex Human Glycoproteins in Yeast
   Stephen R. Hamilton, Piotr Bobrowicz, Beata Bobrowicz, Robert C. Davidson, Huijuan Li, Teresa Mitchell, Juergen H. Nett, Sebastian Rausch, Terrance A. Stadheim, Harry Wischnewski, Stefan Wildt, and Tillman U. Gerngross
p. 1244-1246.

開始と終了をマークする(Marking the Beginning and the End)

前頭葉前部の皮質という脳領域は、我々がスムーズな動作や思考の流れを経時的に 作り出すことができる能力を導き出す、連続的な行動の設計と自動化に関与する。 この流れの連続した構造中に内在することとして、個々のシーケンスが明確な開始 と終了を持つことがある。FujiiとGraybiel(p 1246)は、マカクザルの前頭葉前部の 皮質におけるニューロンが経時的断続性運動の開始時と終了時に位相の揃った群発 性活動電位を発生させたことを発見した。この群発は、イベント境界の神経の特徴 として働くことによって、行動をはっきり区分された有意の単位として切り出すの かもしれない。(An)
Representation of Action Sequence Boundaries by Macaque Prefrontal Cortical Neurons
   Naotaka Fujii and Ann M. Graybiel
p. 1246-1249.

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