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Science June 27, 2003, Vol.300


ナノチューブをゲルの中に詰め込む(Grinding Nanotubes into Gels)

単一壁のカーボンナノチューブ(SWNT)は、優れた電気的、及び力学的特性を持って いるが、SWNTを他の材料と処理したり、混合させるのが難しく、その応用が限られ ていた。Fukushimaたち(p .2072)は、イオン性の液体を用いてSWNTを物理的に粉末 化することにより、やや硬いゲルになることを示している。このゲルはイオン性の 液体とナノチューブの交差結合に由来すると、彼らは論じている。ゲルは良好な熱 的、及び寸法的安定性を示し、導電性のシート状に加工することが可能であり、力 学的特性も向上した。(KU)
Molecular Ordering of Organic Molten Salts Triggered by Single-Walled Carbon Nanotubes
   Takanori Fukushima, Atsuko Kosaka, Yoji Ishimura, Takashi Yamamoto, Toshikazu Takigawa, Noriyuki Ishii, and Takuzo Aida
p. 2072-2074.

変化する火星表面(The Changing Surface of Mars)

火星探査機、マーズ・オデッセイに搭載された熱放射イメージングシステ ム(THEMIS: Thermal Emission Imaging System)は、1年間にわたり、火星表面の異 なる岩石の構造と表面組成を画素当たり100mから18mの解像度で撮影し た。Christensenたちは(p. 2056、Golombekの展望記事も参照)、これらの画像を合 成・要約することで、火星表面の進化や侵食に関する時間を考慮した、より包括的 な描像を得た。特に、この詳細なマッピング画像は、従来のモデルとは反対に、岩 盤が埋もれている割合よりも、露出してくる割合の方が高いこと、また、かんらン 石に富む玄武岩質溶岩流が他の地層と区別することが出来ることを示している。こ のマッピング画像は衝突過程の風と水による侵食の影響を描写出来るとともに、堆 積岩生成プロセスと火山活動のようなテクトニックな過程による形成プロセスを区 別することが出来る。火星の両極の二酸化炭素の氷の季節による変動のために、 マーズ・オデッセイやマーズ・グローバル・サーベイヤーが氷冠中や隣接する永久 凍土中の水を発見したり、その量を計測することを困難にしている。Mitrofanovた ちは(p. 2081)、オデッセイに搭載された高エネルギー中性子検出器(HEND)と、オ デッセイに搭載されているマーズ・オービター・レーザー・高度計(MOLA)を組み合 わせ、最大50重量%の水が北極付近の浅い地下に含まれていることを明らかにした。 この水の量は、南極付近に見積もられている水の量よりおよそ1/3以上多 い。(Na,Tk,Nk)
CO2 Snow Depth and Subsurface Water-Ice Abundance in the Northern Hemisphere of Mars
   I. G. Mitrofanov, M. T. Zuber, M. L. Litvak, W. V. Boynton, D. E. Smith, D. Drake, D. Hamara, A. S. Kozyrev, A. B. Sanin, C. Shinohara, R. S. Saunders, and V. Tretyakov
p. 2081-2084.

二重の水(Water on the Double)

大気中の水蒸気の温室効果による温暖化は、通常は自由分子に基づいて計算されて いるが、弱く結合した水の二量体も形成される可能性があり、それらは潜在的に は、幾分か温室効果を有している。しかしながら、二量体種の濃度は、それのエネ ルギーバンドの多くがモノマーのそれらと重なり合っているため、その決定はこれ まで難しかった。Pfeilsticker たち (p.2078) は、長経路(18km)にわたる近赤外ス ペクトルを観測し、二量体の信号に対する単量体からの寄与を最小化するために OH 伸縮モードの高調波となる長波長端を用いた。彼らは、20℃における飽和空気におい て、千個の単量体ごと、およそ一個の二量体が存在すると評価している。彼らは、 この発見の地球規模の温暖化に対する影響について議論している。(Wt)
Atmospheric Detection of Water Dimers via Near-Infrared Absorption
   K. Pfeilsticker, A. Lotter, C. Peters, and H. Bösch
p. 2078-2080.

外核の運動への手がかり(Clues to Outer-Core Motion)

外核における流体運動は、地球磁場を生成する電流を誘起する。しかしながら、い かに地磁気ダイナモが作用するかに関する詳細は、なお、十分には判っていな い。Finlay と Jackson (p.2084; Johnson たちによる展望記事を参照のこと) は、 船乗りや、観測所、衛星によって過去400年にわたってなされてきた直接的な観測結 果を用いて、核表面における非軸対称な半径方向の磁場の空間的および時間的変動 を決定した。彼らは、この期間、西方へ流されていた、赤道において高強度の磁場 の特徴的な点を見出した。このような特徴点は、流体核の対流運動よりも、場の波 動的伝播によって生成されうる。この異常ではあるが、一見したところ系統的な最 近の磁場変動に対するモデル化は、地磁気ダイナモがとり得るメカニズムを改良す るのに有用であろう。(Wt)
GEOPHYSICS:
Mapping Long-Term Changes in Earth's Magnetic Field

   Catherine L. Johnson, Catherine G. Constable, and Lisa Tauxe
p. 2044-2045.
Equatorially Dominated Magnetic Field Change at the Surface of Earth's Core
   Christopher C. Finlay and Andrew Jackson
p. 2084-2086.

貴金属を使わないで水素を生成する(Producing Hydrogen Without Precious Metals)

水素燃料は、もし非化石燃料源のみから生成されるならば、温室効果ガスの放出を 削減するという課題に大きな影響を与えるだろう。Huberたち(p.2075)は、プラチウ ム(白金)のような高価な貴金属を使用せずとも、適度な温度(225度から250度ま で)においてバイオマス化合物(水中の過酸化炭素水素)を水素生成に用いることが出 来ることを示した。スズにより活性化される多孔質ニッケル触媒は、必要とされる C-C結合切断(cleavage)反応を促進し、メタン生成を防ぐ。(TO)
Raney Ni-Sn Catalyst for H2 Production from Biomass-Derived Hydrocarbons
   G. W. Huber, J. W. Shabaker, and J. A. Dumesic
p. 2075-2077.

さまよえる水の塊(Wandering Water Masses)

多くの大気や海洋による作用は、その作用の調査に利用可能な全計測記録に匹敵す る10年規模あるいは100年規模の変動を伴っている。こうしたことから、短期間での 変化傾向が自然の変動なのかあるいは人為活動の応答なのかどうかを決定するため には、もっと長期の記録系列が得られるように展開することが重要である。Bryden たち(p.2086)は、1936年に始まるインド洋の層上部の海水変温調査の記録を示し た。この海水は1987年以来より塩分が増え寒冷化してきており、それ以前の30年間 観測されていた塩分が減ってきていた(freshening)傾向とは反している。変温層下 部そして中間における海水の傾向の観測を合わせた結果、著者たちは、こうした変 化は一方向性であり、また気候変動の証拠であるという以前の提案は再評価される 必要があるであろうと論じている。(TO)
Changes in Ocean Water Mass Properties: Oscillations or Trends?
   Harry L. Bryden, Elaine L. McDonagh, and Brian A. King
p. 2086-2088.

ミオシンの歩みを観る(Watching Myosin Walk)

ミオシンVはアクチンフィラメントに沿って荷を運ぶ前進性の細胞モーターである。 このタンパク質は、コイルの巻いた(coiled-coil)茎状部で結合した二つの頭で構成 されており、このような動きがどのようにして起こっているかという実験研究の解 釈には多々議論がなされている。ミオシンVは同じ頭が常に先導するシャクトリムシ のような機構で動いたり、或いは先頭が交互に交代するクロールの抜き手のよう な(hand-over-hand)機構で動いている可能性がある。Yildizたち(p. 2061:表紙と MolloyとVeigelによる展望参照)は、ミオシンVの軽鎖領域に標識を付け、蛍光可視 化技術を用いて1.5nm以下で単一分子の歩みの大きさを測定した。歩みの大きさは交 互に変化し、又、色素の位置に依存しており、このことはシャクトリムシ的機構で はなくhand-over-handの機構と一致している。(KU)
BIOPHYSICS:
Myosin Motors Walk the Walk

   Justin E. Molloy and Claudia Veigel
p. 2045-2046.
Myosin V Walks Hand-Over-Hand: Single Fluorophore Imaging with 1.5-nm Localization
   Ahmet Yildiz, Joseph N. Forkey, Sean A. McKinney, Taekjip Ha, Yale E. Goldman, and Paul R. Selvin
p. 2061-2065.

組になってHIV-1糖タンパクを認識する(Doubling Up to Recognize HIV-1 Glycoprotein)

ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)に対する闘いにおいては、患者から分離された、 広範な中和抗体の相互作用を理解することに強い関心がもたれている。そうした抗 体の1つ2G12は、いくつかの炭水化物分子が抗体との相互作用からそれを遮ろうとす るにも関わらず、外側エンベロープ(outer-envelope)糖タンパクgp120上にある特定 の炭水化物エピトープに結合する。Calareseたちは、単独の場合とオリゴ糖あるい は二糖類に結合した場合についてFab 2G12の構造を決定し、そのFabが、gp120上の 炭水化物エピトープを高いアフィニティーで認識することを可能にする、拡張され た表面と特殊なドメインスワップ型ダイマー(domain swapped dimmer:領域が置換 される二量体:訳注参照)を形成することを明らかにしている(p. 2065)。(KF)
【訳注】
http://www.essex.ac.uk/bs/staff/reync/ds/dimer.html にでその様子がアニメーション化されて見える。
Antibody Domain Exchange Is an Immunological Solution to Carbohydrate Cluster Recognition
   Daniel A. Calarese, Christopher N. Scanlan, Michael B. Zwick, Songpon Deechongkit, Yusuke Mimura, Renate Kunert, Ping Zhu, Mark R. Wormald, Robyn L. Stanfield, Kenneth H. Roux, Jeffery W. Kelly, Pauline M. Rudd, Raymond A. Dwek, Hermann Katinger, Dennis R. Burton, and Ian A. Wilson
p. 2065-2071.

Bixinを生み出す細菌性資源の遺伝子工学(Engineering a Bacterial Source for Bixin)

Bixinは、色材アナットーとして売られていて、米国の食品供給の過程でもっとも多 く消費されている赤い色材の1つである。現在、bixinは、ベニノキ(Bixa orellana) という植物の輝くような赤い色の種子から抽出されている。Bouvierたちはこのた び、bixinの天然の生合成経路を解明し、bixinに関わる遺伝子を発現する Escherichia coliを遺伝子工学的に作り出し、bixinを合成した(p. 2089)。この結 果は、植物の収穫を増やす方向への圧力を減らしつつ、bixinの供給の改善にもつな がるものである。(KF)
Biosynthesis of the Food and Cosmetic Plant Pigment Bixin (Annatto)
   Florence Bouvier, Odette Dogbo, and Bilal Camara
p. 2089-2091.

ナトリウムチャネルを集中させる方法(How to Concentrate Sodium Channels)

ニューロンは、軸索の最初のセグメントとランビエ結節において電位依存的ナトリ ウムチャネルを標的として集中させる。その最初のセグメントは、活動電位が生成 される所であり、ランビエ結節は有髄化した軸索の結節である。この成分はどのよ うにしてこの領域へ選択的にソートされるであろうか?Garridoたち(p. 2091)は、 細孔を形成するサブユニットの細胞内リンカーのひとつが含む27アミノ酸モチーフ が軸策の最初のセグメントにおいてナトリウムチャネルを標的として集中させるこ とができることを示している。このペプチドモチーフは、最初のセグメントへ多種 のタンパク質を導びき、集中させるために十分な条件であった。更に、このモチー フを含む細胞質のキメラタンパク質が過剰発現すると、内在性ナトリウムチャネル が混乱した。(An)
A Targeting Motif Involved in Sodium Channel Clustering at the Axonal Initial Segment
   Juan José Garrido, Pierre Giraud, Edmond Carlier, Fanny Fernandes, Anissa Moussif, Marie-Pierre Fache, Dominique Debanne, and Bénédicte Dargent
p. 2091-2094.

溢流とクロストーク(Spillover and Cross-Talk)

グリシンという抑制性神経伝達物質は、興奮性NMDA型グルタミン酸受容体のコアゴ ニスト(coagonist)として重要な役割をはたす。脳脊髄液と神経の組織におけるグリ シンの高濃度にもかかわらず、NMDA受容体まで届く正常なグリシン量はペリシナプ スのグリシン輸送体によって飽和値未満のレベルに減少する。Ahmadiたち(p. 2094) は、脊髄の後角において、シナプスから遊離したグリシンは、NMDA受容体経由の電 流を増強することを示している。ニューロンの活性が高レベルの時には、グリシン 作動性の抑制性介在ニューロンから遊離したグリシンが溢れ、隣接するグルタミン 酸作動性シナプスのNMDA受容体まで届くことができる。この現象を神経ペプチド nocistatinで遮断すると、後角におけるNMDA受容体経由の興奮を選択的に抑制でき るので、炎症性疼痛の治療となりうるであろう。(An)
Facilitation of Spinal NMDA Receptor Currents by Spillover of Synaptically Released Glycine
   Seifollah Ahmadi, Uta Muth-Selbach, Andreas Lauterbach, Peter Lipfert, Winfried L. Neuhuber, and Hanns Ulrich Zeilhofer
p. 2094-2097.

結びつきを定量する(Quantitating the Ties That Bind)

ロイシンジッパー-を含むタンパク質(ヒト塩基性-領域ロイシンジッパータンパク 質;bZIPタンパク質)のホモダイマーおよびヘテロダイマーを形成する能力によ り、それらの選択性および多様性が増大する。それらの相互作用についての基礎を 調べるため、NewmanとKeating(p. 2097)は、タンパク質アレイを使用して、51種 のヒトbZIPタンパク質のうち49種が、全ての可能性のある2つ1組の組み合わせにお いてダイマー形成する能力を有するかどうかについて解析した。溶液中での相互作 用的結合解析および生物物理学的研究を使用して、相互作用の有効性を確認した。 概日時計の機能と展開した(アンフォールドされた)タンパク質に反応する細胞内 シグナル伝達経路とに関連する可能性がある、新しい結合が見つかった。(NF)
Comprehensive Identification of Human bZIP Interactions with Coiled-Coil Arrays
   John R. S. Newman and Amy E. Keating
p. 2097-2101.

受容体複合体を組み立てられた後・・・(Following the Assembly of Receptor Complex)

Gp130は、前-炎症性サイトカインであるインターロイキン-6(IL-6)を含む4-ヘ リックス・バンドル型のサイトカインのファミリーと、シグナル-伝達性受容体を共 有する。gp130受容体を介したシグナル伝達は、多数のタイプの組織の正常な増殖・ 分化に中心的な役割を果たす。Boulangerたち(p. 2101)は、3.65オングストロー ムの解像度で、ヒトIL-6を含む多成分受容体複合体、ヒトIL-6α-受容体の細胞外結 合ドメインおよびgp130の細胞外活性化・結合ドメインの構造を調べた。その結果、 細胞外シグナル伝達複合体はヘキサマー構造をしており、そのヘキサマー複合体は 連続的に組み立てられる;IL-6RαおよびIL-6の間の二成分複合体がgp130に結合し、 そしてこのステップによりシグナル伝達性-応答性のヘキサマーへの協調的な移動を 促進する。(NF)
Hexameric Structure and Assembly of the Interleukin-6/IL-6 alpha-Receptor/gp130 Complex
   Martin J. Boulanger, Dar-chone Chow, Elena E. Brevnova, and K. Christopher Garcia
p. 2101-2104.

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