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Science June 13, 2003, Vol.300


ショットキーバリアを制御する(Controlling Schottky Barriers)

二つの半導体、あるいは、金属と半導体が接合されると、バンドの再配列と電荷移 動が電気的なバリアー中で発生する。しかしながら、ショットキー理論は、常にそ のバリアの電子的な特性を非常によく記述できているわけではない。McKee た ち(p.1726) は、より精密に記述するためには、界面の構造的、化学的、電気的特性 が含まれる必要があることを提案している。彼らのデータは、ショットキーバリア の高さは、界面領域の特性を制御することで調整可能であることを示唆している。 これは、シリコン上に成長した他の酸化物に対しても有用なアプローチの一つであ る。(Wt)
The Interface Phase and the Schottky Barrier for a Crystalline Dielectric on Silicon
   R. A. McKee, F. J. Walker, M. Buongiorno Nardelli, W. A. Shelton, and G. M. Stocks
p. 1726-1730.

フェルミ気体の分光学的キャラクタリゼーション(Spectroscopic Characterization of a Fermi Gas)

電波(Radio-frequency RF)分光は、原子集団のエネルギースペクトルを特徴付ける のに長い間用いられてきた。共鳴遷移の周波数は、原子時計における計時役として 用いることができるが、それらの正確さと精度は、原子間の相互作用と衝突によっ て生ずるスペクトル線の広がりによって限定される。Gupta たち (p.1723; Inguscio による展望記事を参照のこと) は、フェルミオンであるリチウム原子の集 団に、RF分光を行い、フェルミオン間のパウリの排他律が、原子間の散乱率を下げ て、吸収ピークを狭くすることを示している。この結果は、原子時計の改良のため に、冷たいフェルミオン気体が利用できる期待を与えるものである。(Wt)
PHYSICS:
How to Freeze Out Collisions

   Massimo Inguscio
p. 1671-1673.
Radio-Frequency Spectroscopy of Ultracold Fermions
   S. Gupta, Z. Hadzibabic, M. W. Zwierlein, C. A. Stan, K. Dieckmann, C. H. Schunck, E. G. M. van Kempen, B. J. Verhaar, and W. Ketterle
p. 1723-1726.

隕石衝突と生物絶滅(Impact and Extinction?)

地球規模の生物絶滅の原因を同定することは困難であるが、特に地球初期の歴史上 のイベントに関連つけることは難しい。Ellwood達はモロッコの砂漠で発見されたデ ボン紀中期(3億8千万年前)の海洋炭酸塩岩から隕石衝突による放出物層の証拠を発 見した。その噴出物は、当時生息していた海生動物の40%もが消滅した Kacak/otomari絶滅イベントと関連つけることができ、火球(bolide;隕石様物体)衝 突がその絶滅の原因だった可能性を示唆している。(Na,Tk)
Impact Ejecta Layer from the Mid-Devonian: Possible Connection to Global Mass Extinctions
   Brooks B. Ellwood, Stephen L. Benoist, Ahmed El Hassani, Christopher Wheeler, and Rex E. Crick
p. 1734-1737.

モンスーンの変化(Changing the Monsoon)

インド洋モンスーン(IOM)は10,000年前は今よりも激しかったことが知られている。 このIOMが突然弱くなった理由を理解したり、あるいは、IOMがどんな風に10年単位 や100年単位で変動するかを理解することは、モンスーンの挙動と過渡期における気 象学的変動と結びつけるためには同じくらい重要である。Fleitmann たち(p. 1737) はアラビア半島南部における酸素同位体記録を提示し、水循環が過去10,000年のほ とんどの期間変動してきたことを示した。この記録によって完新世におけるIOMの強 制メカニズムの変化が明らかになり、氷河境界条件の影響から、北半球における太 陽照射による影響へと変動し、これが過去5,000年にわたってIOMの強度を漸減させ た。(Ej)
Holocene Forcing of the Indian Monsoon Recorded in a Stalagmite from Southern Oman
   Dominik Fleitmann, Stephen J. Burns, Manfred Mudelsee, Ulrich Neff, Jan Kramers, Augusto Mangini, and Albert Matter
p. 1737-1739.

水素燃料電池は魔法の解決案かと思われたが、、、(Silverish Bullet)

水素は多くの応用への完全な燃料として歓迎され、そして我々の化石燃料消費の多 くは水素燃料電池に取って代わられると思われている。このようなことになるであ ろうか?Trompたち(p. 1740)は、いくばくの水素H2は燃焼することなく 燃料電池からもれ逃げているはずであると仮定した大気モデルを使って水素の環境 への影響度(水素経済)を研究し、彼らは成層圏の水素分布を計算した。彼らは大 気圏中の水素が4倍に増えた場合の成層圏の水素分布を計算し、成層圏の水の組成が 百万分の1ほど増加することを示した。その影響は広範囲に渡り、下部成層圏は寒 冷化し、夜光雲が増加し、不均一反応が活発になって多くのオゾンが破壊され、対 流圏化学、大気圏・生物圏相互作用が変化するであろう。(hk,Nk)
Potential Environmental Impact of a Hydrogen Economy on the Stratosphere
   Tracey K. Tromp, Run-Lie Shia, Mark Allen, John M. Eiler, and Y. L. Yung
p. 1740-1742.

踏み車で体型を整える(Shaping Up on the Treadmills)

動物や真菌細胞においては、中央にある細胞オルガネラから核生成した微小管がポ リマーを組織化して極性化した配列をつくる。Shaw たち(p.1715; Wadsworthによる 展望記事も参照) は植物細胞系における単一の微小管の動力学と振る舞いを解析し た。この系では微小管形成中心が分散している。植物細胞皮質上に分散して新しい ポリマーが核生成し、次に微小管は開始部位から離れ運動性を利用して再配列を組 織化する。このように、ポリマーが踏み車となるハイブリッド型は、植物細胞の皮 質配列中で微小管運動性の主要なメカニズムを表現しており、これが微小管が新し い組織状態へと再配置するための効果的手段となっている。(Ej,hE)
CELL BIOLOGY:
Persistence Pays

   Patricia Wadsworth
p. 1675-1677.
Sustained Microtubule Treadmilling in Arabidopsis Cortical Arrays
   Sidney L. Shaw, Roheena Kamyar, and David W. Ehrhardt
p. 1715-1718.

ショウジョウバエの性的二形性(Fly Sexual Dimorphism)

比較マイクロアレイ分析により、Rangたち(p.1742)は、ショウジョウバエの二種の 近縁種における遺伝子発現のあり方を性が決定していることを見い出した。例え ば、キイロショウジョウバエのオスでは嗅覚機能が亢進しており、一方シュジョウ バエのD.simulansのオスはメスでは視覚機能をが亢進しており、交配行動における 差異の進化に関するヒントを与えるものである。更に、オスに偏った、或いはにメ ス偏った遺伝子は特異的な染色体の位置を持っており、遺伝子座決定が以前考えて いたよりも機能的にもっと重要なものである可能性を示唆している。(KU)
Sex-Dependent Gene Expression and Evolution of the Drosophila Transcriptome
   José M. Ranz, Cristian I. Castillo-Davis, Colin D. Meiklejohn, and Daniel L. Hartl
p. 1742-1745.

チャネル間の相互干渉(Interference Between Channels)

化学反応における一般的な概念図は、十分なエネルギーを持った反応物が遷移状態 を経て生成物をつくるというものである。しかしながら、分子におけるエネルギー は量子化しており、似たようなエネルギーを持つ様々な回転‐振動状態の出現により 干渉効果が生じて、状態から状態への幾つかのチャネルの反応性を減少させる。Dai たち(p.1730)は、分子線装置を用いて水素原子と重水素分子の反応を研究し、更に 高度な計算手法を用いて、この反応の後方散乱方向での微分断面積における振動が 観測された。(KU)
Interference of Quantized Transition-State Pathways in the H + D2 -> D + HD Chemical Reaction
   Dongxu Dai, Chia C. Wang, Steven A. Harich, Xiuyan Wang, Xueming Yang, Sheng Der Chao, and Rex T. Skodje
p. 1730-1734.

パートナー発見(Find Your Partners)

別個の細胞内オルガネラが、正式な標的となる膜とのみ融合しなければならない小 胞のキャリアを介して連絡しており、そして小胞および標的となる膜上のいわゆる v-SNAREとt-SNAREは、これらの反応の特異性を調節すると考えられる。これらの SNAREが細胞内膜融合反応を判断していることを確認するため、Huたち(p. 1745) はSNAREタンパク質を操作して、それによりそれらの相互作用性ドメインを細胞表面 に発現させた。これらの"はじき出された"SNAREは、実際に効率的で、自発的な細胞 -細胞融合を引き起こすことができた。(NF)
Fusion of Cells by Flipped SNAREs
   Chuan Hu, Mahiuddin Ahmed, Thomas J. Melia, Thomas H. Söllner, Thomas Mayer, and James E. Rothman
p. 1745-1749.

スタートラインに立つ(Entering at the Start)

遺伝子治療を受けた子どもの白血病についての最近の報告では、レトロウィルス組 込みの基礎について理解することの重要性について焦点が当てられている。Wuた ち(p. 1749;Tronoによる展望記事を参照)は、HIVまたはHIV-ベースのベクターが 選択的に遺伝子を標的としたが、プロモーター領域近くでのマウス白血病ウィルス の組込みが促進されたことを示した。(NF)
VIROLOGY:
Picking the Right Spot

   Didier Trono
p. 1670-1671.
Transcription Start Regions in the Human Genome Are Favored Targets for MLV Integration
   Xiaolin Wu, Yuan Li, Bruce Crise, and Shawn M. Burgess
p. 1749-1751.

コドン、アミノ酸、tRNAの関係を明らかに(Making Sense of It All)

コドンの数はアミノ酸数の3倍もある。tRNAのいくつかが複数のコドンを認識し、ひ とつのコドンが複数のtRNAによって認識されることもある。アミノ酸は、タンパク 質中の出現数が個別に異なるが、同一アミノ酸を特定するコドンは、遺伝子中の出 現数が個別に異なる。Elfたち(p. 1718)は、負荷tRNA(アミノ酸を運ぶtRNA)の相対 比率を、アミノ酸の入手可能性の関数としてモデルする。どのtRNAがアミノ酸濃度 変化に対して最も感受的であるかを解明したが、その対応コドンは確かに、アミノ 酸の生合成酵素をコードする遺伝子の上流領域において利用されるコドンであ る。(An)
Selective Charging of tRNA Isoacceptors Explains Patterns of Codon Usage
   Johan Elf, Daniel Nilsson, Tanel Tenson, and Måns Ehrenberg
p. 1718-1722.

LTDにおけるプロテインキナーゼC基質(The Substrate for Protein Kinase C in LTD)

小脳の長期抑圧(LTD)は、プロテインキナーゼCによって制御されるグルタミン酸受 容体サブユニットGluR2と他のシナプス後タンパク質との相互作用を必要とす る。Chungたち(p. 1751)は、GluR2欠乏マウスの培養プルキンエ細胞において、LTD を誘発することができなかったことを発見した。このマウス細胞からのLTD は、GluR2を用いると回復されるが、プロテインキナーゼCリン酸化部位を欠乏する 変異体GluR2を用いると回復できなかった。(An)
Requirement of AMPA Receptor GluR2 Phosphorylation for Cerebellar Long-Term Depression
   Hee Jung Chung, Jordan P. Steinberg, Richard L. Huganir, and David J. Linden
p. 1751-1755.

法外な提案(Outrageous Offers)

一方にとって公平に思えることが、もう一方には不公平に思えることがあ る。Sanfeyたちは、この型の定量的評価による意思決定について、Ultimatum Game の参加者の脳イメージング研究を行なうことによって調べた(p. 1755; またCamerer による展望記事参照のこと)。このゲームは、一方のプレイヤーがもう一方のプレイ ヤーが提案する分け前に同意したときに限り、壺一杯のお金が二人の間で分け与え られる、というものである。50%ずつに分けようという提案が通常受け入れられるも のであり、受け取れる割合がより少なくなればなるほど、相手の提案は魅力を失う ことになる。拒否の尤度が、情動性反応に関与する前島(anterior insula)の、冷静 な判断を下す側背前頭葉前部皮質に対する相対的な脳活性に相関している、という ことがわかった。(KF)
PSYCHOLOGY AND ECONOMICS:
Enhanced: Strategizing in the Brain

   Colin F. Camerer
p. 1673-1675.
The Neural Basis of Economic Decision-Making in the Ultimatum Game
   Alan G. Sanfey, James K. Rilling, Jessica A. Aronson, Leigh E. Nystrom, and Jonathan D. Cohen
p. 1755-1758.

知識とニューロン(Knowledge and Neurons)

視覚野におけるニューロンの反応は、将来の標的についての情報が得られたときに は変わりうる。Sharmaたちは、刺激の位置が試行を繰り返すごとに徐々にわかって いく場合とランダムに変化する場合とについて、標的固定化パラダイム実験を行 なった(p. 1758)。サルとヒトの双方で、固定化の潜時は、標的があらかじめ特定さ れた場所に出現する確率と相関していた。電気生理学的記録によると、固定化の間 に生じるスパイク数の増加は、標的の出現確率の変化に密接に従うのである。(KF)
V1 Neurons Signal Acquisition of an Internal Representation of Stimulus Location
   Jitendra Sharma, Valentin Dragoi, Joshua B. Tenenbaum, Earl K. Miller, and Mriganka Sur
p. 1758-1763.

抗SARS薬剤の設計(Designing an Anti-SARS Drug)

Anandたちが、2つの結晶構造を提示している(p. 1763)。ヒトのコロナウイルス229E (一般的なカゼを引き起こす病原体の一つ)から得られたタンパク質分解酵素と、ペ プチド阻害薬との複合体となっているブタのコロナウイルスから得られたタンパク 質分解酵素とである。彼らはこのデータを用いて、最近同定され配列決定された SARSコロナウイルスから得られた相同的なタンパク質分解酵素のモデル化を行い、 発現した組換え型SARSコロナウイルス・タンパク質分解酵素が予測された通りの酵 素活性を示すことを確認したのである。モデル化された構造から、彼らは、現在ラ イノウイルス(一般的なカゼの原因となる別の病原体)の治療に向けて臨床試験され ている、すでにある小さな分子AG7088が、SARSの薬物療法を開発するための良い出 発点になる可能性のあることを示唆している。(KF)
Coronavirus Main Proteinase (3CLpro) Structure: Basis for Design of Anti-SARS Drugs
   Kanchan Anand, John Ziebuhr, Parvesh Wadhwani, Jeroen R. Mesters, and Rolf Hilgenfeld
p. 1763-1767.

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