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Science May 2, 2003, Vol.300


初期星形成(Early Star Formation)

QSO (Quasi-stellar objects) は、コンパクトで、極度に明るい光の点であり、宇宙で作 られた最も初期の天体のひとつである。それらは、超大質量ブラックホールを含んでいる と考えられており、恒星と銀河の進化に関する情報を与えてくれる。Carilli たち (p.773; Fan による展望記事を参照のこと) は、QSO PSS J2322+1944 のまわりに CO の 放射リングを見出した。この放射は、Einstein リングと呼ばれる完全な重力レンズを作 る。このめったに観測されない現象は、その QSO が星形成の行われている広大な円盤に よって取り囲まれていることを示している。これらの観測は、超大質量ブラックホール形 成(およびその活動)と初期宇宙の星形成との間の直接的なつながりを与えるものである 。(Wt)
ASTRONOMY:
Black Holes at the Cosmic Dawn

   Xiaohui Fan
p. 752-753.
A Molecular Einstein Ring: Imaging a Starburst Disk Surrounding a Quasi-Stellar Object
   C. L. Carilli, G. F. Lewis, S. G. Djorgovski, A. Mahabal, P. Cox, F. Bertoldi, and A. Omont
p. 773-775.

フラーレンの無機の親類(Inorganic Cousins of Fullerenes)

2つの報告の主題(Muller による展望記事を参照のこと)は、C60のような炭素 に基づくフラーレンが有する高い接続性と対称性を示す二つのタイプの無機クラスターの 合成とキャラクタリゼーションに関するものである。Moses たち (p.778) は、単純な溶 液に基づく経路により [As@Ni12@As20]3- アニオン を作り上げた。この構造では、砒素原子は、Niの二十面体の中心に存在し、今度は、それ は砒素の十二面体の中心に位置している。Baiたち (p.781) は、C60 に見ら れるのと同様の5員環および6員環が交互に現れるパターンを示す無機化合物を合成した 。彼らは、ひとつの Fe(η5-P5) 化合物を CuCl と反応させるこ とにより、cyclo-P5 環が P4Cu2 環によって取り囲ま れて、[Cu2Cl3]- と [Cu(CH3CN)2]+ のユニットによって架橋された二つ の半球を形成しているような化合物を作り出した。その全体的な構造は、90個のコアとな る原子を有しており、C60 よりもおよそ3倍大きい。(Wt)
Synthesis of Inorganic Fullerene-Like Molecules
   Junfeng Bai, Alexander V. Virovets, and Manfred Scheer
p. 781-783.
Interpenetrating As20 Fullerene and Ni12 Icosahedra in the Onion-Skin [As@Ni12@As20]3– Ion
   Melanie J. Moses, James C. Fettinger, and Bryan W. Eichhorn
p. 778-780.
CHEMISTRY:
The Beauty of Symmetry

   Achim Müller
p. 749-750.

赤外発光素子としてのカーボン・ナノチューブ(Carbon Nanotubes as Infrared Emitters)

多くの材料系において電荷キャリア(電子と正孔)の再結合は発光のために用いられてき た。電界効果トランジスタ中の半導体単一壁ナノチューブのある箇所では電子を誘起し他 の箇所では正孔を誘起するという方法によってこのナノチューブにバイアスをかけること ができることをMisewichたち(p. 783)は示している。これによる電荷再結合によって極度 に小さいソース領域から偏光された赤外の光を放射させることが可能となる。(hk)
Electrically Induced Optical Emission from a Carbon Nanotube FET
   J. A. Misewich, R. Martel, Ph. Avouris, J. C. Tsang, S. Heinze, and J. Tersoff
p. 783-786.

粘着性の石鹸水(Sticky Suds)

硫酸ドデシルナトリウム(SDS)といった陰イオン界面活性剤は、カーボンナノチューブの 溶解に用いられている。Richardたち(p. 775)は、透過型電子顕微鏡を用いて、多壁カ ーボンナノチューブ表面上でのSDSや他の界面活性剤が示す形状を調べた。彼らは、ナノ チューブ表面上でチューブを取り巻いて拡がっている「半円筒(half-cylinder)」形が形 成されることを見出した。ナノチューブ-水の界面において、不変的ではあるが非共有結 合性の自己組織化構造を持つナノチューブ機能化への基準を得るために、種々の化学構造 をもつ界面活性剤が研究された。(KU)
Supramolecular Self-Assembly of Lipid Derivatives on Carbon Nanotubes
   Cyrille Richard, Fabrice Balavoine, Patrick Schultz, Thomas W. Ebbesen, and Charles Mioskowski
p. 775-778.

鉄分離による底部マントルの不連続(Lower Mantle Lid)

最底部マントルの組成や構造、およびこれが液体状外核とどのような相互作用をしている かを推測することは困難である。Badroたち(p. 789; および表紙を参照)は底部マントル 鉱物であるマグネシオウスタイト(magnesiowustite)を高圧において電気特性を計測し 、60〜70ギガパスカルで低スピン状態から高スピン状態に遷移することを見つけた。この マグネシオウスタイトと、他の底マントルの主要鉱物であるペロヴスカイト (perovskite)間の遷移によって、ほとんどの含有鉄は底部マントル中のマグネシオウスタ イト中に分配(partition)することになる。つまり、最底部マントルは核近傍で2層に分 離しており、下層は電気的・熱的な断熱壁の役割を演じていると推察される。(Ej,Tk)
Iron Partitioning in Earth's Mantle: Toward a Deep Lower Mantle Discontinuity
   James Badro, Guillaume Fiquet, François Guyot, Jean-Pascal Rueff, Viktor V. Struzhkin, György Vankó, and Giulio Monaco
p. 789-791.

南カリフォルニアの地震早期警報システムの可能性(When Every Second Counts)

地震が発生すると強力な地表運動と被害の殆どを引き起こすS波と表面波が到達する直前 にP波が地震測定器により検出される。AllenとKanamoriは(p. 786)、P波の周波数成分を 用いて地震規模と差し迫る表面波の強度を、地表運動の開始から3秒〜10秒前に決定出来 る、南カリフォルニア地区の地震早期警報システムを開発した。このような早期警報シス テムは交通システムや重大な産業活動を自動的に停止させることが可能となるだろう 。(Na)
The Potential for Earthquake Early Warning in Southern California
   Richard M. Allen and Hiroo Kanamori
p. 786-789.

古いDNAを掘り起こす(Digging Up Old DNA)

過去の生態系社会の再構築には、通常、動物や植物、或いは花粉の化石を見つけることが 必要である。Willerslevたち(p. 791)は、大きな化石の必要も無く、堆積物からのDNA復 元を可能とする技術を記述している。シベリアやニュージランドからの堆積物を用いた彼 らの結果では、40万年ほど昔の更新世時代の社会における植物相と脊椎動物相の成分を明 らかにした。この技術では、DNA遺物復元の上限を200万年あたりと彼らは定めている 。(KU)
Diverse Plant and Animal Genetic Records from Holocene and Pleistocene Sediments
   Eske Willerslev, Anders J. Hansen, Jonas Binladen, Tina B. Brand, M. Thomas P. Gilbert, Beth Shapiro, Michael Bunce, Carsten Wiuf, David A. Gilichinsky, and Alan Cooper
p. 791-795.

染色体7の配列(The Sequence (and More) of Chromosome 7)

配列情報は生物学的・医学的情報と結びついたとき最も有用になる。Scherer たち(p. 767)は、配列情報と病気に関連した遺伝的異常に関する注釈を結びつけるデータベース中 のヒト染色体7の配列を示しただけでなく、比較のための遺伝子情報を示した。この解析 によって、自閉症を含むヒト発生時の障害と関連すると思われる候補遺伝子が判った 。(Ej,hE)
Human Chromosome 7: DNA Sequence and Biology
   Stephen W. Scherer, Joseph Cheung, Jeffrey R. MacDonald, Lucy R. Osborne, Kazuhiko Nakabayashi, Jo-Anne Herbrick, Andrew R. Carson, Layla Parker-Katiraee, Jennifer Skaug, Razi Khaja, Junjun Zhang, Alexander K. Hudek, Martin Li, May Haddad, Gavin E. Duggan, Bridget A. Fernandez, Emiko Kanematsu, Simone Gentles, Constantine C. Christopoulos, Sanaa Choufani, Dorota Kwasnicka, Xiangqun H. Zheng, Zhongwu Lai, Deborah Nusskern, Qing Zhang, Zhiping Gu, Fu Lu, Susan Zeesman, Malgorzata J. Nowaczyk, Ikuko Teshima, David Chitayat, Cheryl Shuman, Rosanna Weksberg, Elaine H. Zackai, Theresa A. Grebe, Sarah R. Cox, Susan J. Kirkpatrick, Nazneen Rahman, Jan M. Friedman, Henry H. Q. Heng, Pier Giuseppe Pelicci, Francesco Lo-Coco, Elena Belloni, Lisa G. Shaffer, Barbara Pober, Cynthia C. Morton, James F. Gusella, Gail A. P. Bruns, Bruce R. Korf, Bradley J. Quade, Azra H. Ligon, Heather Ferguson, Anne W. Higgins, Natalia T. Leach, Steven R. Herrick, Emmanuelle Lemyre, Chantal G. Farra, Hyung-Goo Kim, Anne M. Summers, Karen W. Gripp, Wendy Roberts, Peter Szatmari, Elizabeth J. T. Winsor, Karl-Heinz Grzeschik, Ahmed Teebi, Berge A. Minassian, Juha Kere, Lluis Armengol, Miguel Angel Pujana, Xavier Estivill, Michael D. Wilson, Ben F. Koop, Sabrina Tosi, Gudrun E. Moore, Andrew P. Boright, Eitan Zlotorynski, Batsheva Kerem, Peter M. Kroisel, Erwin Petek, David G. Oscier, Sarah J. Mould, Hartmut Döhner, Konstanze Döhner, Johanna M. Rommens, John B. Vincent, J. Craig Venter, Peter W. Li, Richard J. Mural, Mark D. Adams, and Lap-Chee Tsui
p. 767-772.

グループ活動(Group Activities)

インテグリンがどのように細胞接着を制御するのかについては、2つのモデルが知られて いる。第1のモデルでは、それぞれのインテグリンのコンフォメーションの変化によって フィブロネクチンやフィブロノーゲンのようなリガンドとの親和性を増加させるというも のである。第2のモデルでは、原形質膜平面内のインテグリンのクラスター化によってリ ガンド親和性に影響を及ぼさずに細胞接着を増加させるというものである。インテグリン は球状のリガンド結合頭部と2つの柔軟性のある鞭状の茎を持ち、この茎にはインテグリ ンα鎖とβ鎖の膜貫通領域や細胞質領域が含まれる。最近のいくつかの説においては、活 性化に伴い、これらの茎が広がり、受容体のクラスター化に続いてインテグリンが活性化 するという点では一致している。Liたち(p. 795;Hynesによる展望記事も参照)は、βサブ ユニットの膜貫通へリックス中に2つの変異を見つけたことから、βサブユニットはホモ 三量体を形成しており、これがクラスター化を生じさせ、フォーカルアドヒージョンキナ ーゼのリン酸化を誘導することを提案している。ホモ-オリゴマー形成によって活性化状 態が安定化し、同時にクラスター化を誘導することで活性化を促進しているようだ 。(Ej,hE)
STRUCTURAL BIOLOGY:
Changing Partners

   Richard O. Hynes
p. 755-756.
Activation of Integrin alpha IIbß3 by Modulation of Transmembrane Helix Associations
   Renhao Li, Neal Mitra, Holly Gratkowski, Gaston Vilaire, Rustem Litvinov, Chandrasekaran Nagasami, John W. Weisel, James D. Lear, William F. DeGrado, and Joel S. Bennett
p. 795-798.

分子モーターにおけるスイッチング(Switching in Molecular Motors)

細胞中のキネシン・モーターはATP加水分解によるエネルギーを用いて微小管に沿って物 質を移動させるのだが、加水分解を運動に結びつける分子機構ははっきりしていなかった 。Naberたちは、電子常磁性共鳴分光学を用いて、微小管へのキネシン結合が、ヌクレオ チド結合ポケットを閉鎖することになるスイッチ1領域の立体配置の変化の引き金となる ことを示している(p. 798)。この高次構造が、加水分解を促進し、運動を方向づけるのに 必要なスイッチ2の立体配置の変化が可能なようにモーターの用意をしているらしい。類 似のスイッチ1の運動が、ミオシンやGタンパク質においても同定されている。つまり、キ ネシンとミオシン、Gタンパク質は、活性を制御するための高次構造のスイッチングにお いて同種の戦略を用いているのである。(KF)
Closing of the Nucleotide Pocket of Kinesin-Family Motors upon Binding to Microtubules
   Nariman Naber, Todd J. Minehardt, Sarah Rice, Xiaoru Chen, Jean Grammer, Marija Matuska, Ronald D. Vale, Peter A. Kollman, Roberto Car, Ralph G. Yount, Roger Cooke, and Edward Pate
p. 798-801.

分子モーターとALS(Molecular Motors and ALS)

SOD1遺伝子における変異は、致死的運動ニューロン病であるALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)の中でもめずらしい家族性の症例で同定されてきたが 、そこでの運動ニューロン変性の分子的な根拠はいまだにはっきりしていない。運動ニュ ーロン病のマウス・モデルを2つ用いて、Hafezparastたちは、それらのマウスにおける脊 髄運動性ニューロンの進行性変性が、ニューロンの逆行性輸送に関与する重大な分子モ ーターであるダイニンにおける変異によるものだということを示している(p. 808)。(KF)
Mutations in Dynein Link Motor Neuron Degeneration to Defects in Retrograde Transport
   Majid Hafezparast, Rainer Klocke, Christiana Ruhrberg, Andreas Marquardt, Azlina Ahmad-Annuar, Samantha Bowen, Giovanna Lalli, Abi S. Witherden, Holger Hummerich, Sharon Nicholson, P. Jeffrey Morgan, Ravi Oozageer, John V. Priestley, Sharon Averill, Von R. King, Simon Ball, Jo Peters, Takashi Toda, Ayumu Yamamoto, Yasushi Hiraoka, Martin Augustin, Dirk Korthaus, Sigrid Wattler, Philipp Wabnitz, Carmen Dickneite, Stefan Lampel, Florian Boehme, Gisela Peraus, Andreas Popp, Martina Rudelius, Juergen Schlegel, Helmut Fuchs, Martin Hrabe de Angelis, Giampietro Schiavo, David T. Shima, Andreas P. Russ, Gabriele Stumm, Joanne E. Martin, and Elizabeth M. C. Fisher
p. 808-812.

前へ前へと進ませ続ける(Keeping the Line Moving Ahead)

RNAポリメラーゼ分子がDNAテンプレートを「読む」際に、その酵素はしばしば転写率に影響 するブロックにでくわす。そうしたブロックは、たとえば、特異的なDNA配列要素やDNA結 合タンパク質によって生み出されるものである。こうした伸長ブロックは、生体内におい てよりも試験管内においてより効率的なものであるが、EpshteinとNudlerは、生体内での 方がより速い比率であることの説明の助けになる機構の特徴を明らかにしている(p. 801)。生体内におけるように、同じDNA分子における伸長に複数RNAポリメラーゼが関与し ているときには、後続のポリメラーゼの1つが、先導するポリメラーゼによる休止と停止 を、フロント分子が立ち往生したり後戻りしたりしないようにすることで抑制できるので あるこの後続するポリメラーゼは、先導するポリメラーゼをさらに先へと効率的に推し進 めるのである。(KF)
Cooperation Between RNA Polymerase Molecules in Transcription Elongation
   Vitaly Epshtein and Evgeny Nudler
p. 801-805.

プロセッシングの分布(Distributed Processing)

メッセンジャーRNA(mRNA)のターンオーバーは、以下のステージで進行する:(i)その 3'-ポリ(A)テールを取り外し;(ii)5'-メチル化Gを除去し(脱キャップ化);そして (iii)残りの部分を無差別に分解する。これらのステップを触媒する酵素の中には、細 胞質小体(cytoplasmic bodies)に存在するものがあるが、しかし細胞質小体が貯蔵基地 であるのかそれともターンオーバーの中心であるのかということは明らかになっていなか った。ShethとParker(p. 805;WickensとGoldstrohmによる展望記事を参照)は、酵母に おいて、彼らがプロセシング小体(P小体)と名付けたこれらの部位が、ターンオーバ ーの中心であることを示した。初期ステージでのプロセッシングをブロックすることによ り、P小体の萎縮が引き起こされ、一方で後期ステージ(脱キャップ化と同時あるいはそ の後)でブロックすることによりそれらのサイズおよび発生量が増加する。(NF)
MOLECULAR BIOLOGY:
A Place to Die, a Place to Sleep

   Marvin Wickens and Aaron Goldstrohm
p. 753-755.
Decapping and Decay of Messenger RNA Occur in Cytoplasmic Processing Bodies
   Ujwal Sheth and Roy Parker
p. 805-808.

阻害されたら、刺激に対してもっと反応(More Responsive to Stimuli When Inhibited)

加齢とともに大脳皮質機能が衰退する現象は、ヒトだけでなくサルにおいても生じる。こ れらの衰退は、老年期における皮質内阻害の低下により、生じる可能性がある 。Leventhalたち(p. 812;Millerによるニュース記事を参照)は、老年のマカク属サル の初代視覚皮質(V1領域)中のニューロンに対して直接、γ-アミノ酪酸(GABA)または A型GABA(GABAA)受容体アゴニストであるMuscimolのいずれかを適用することにより、こ の仮説を試験した。この処理により、老年サルのニューロンでは視覚刺激に対する方向付 けおよび方向選択性が向上して若年サルの細胞に典型的な反応を示したが、若年サルのニ ューロンではそれらは向上しなかった。(NF)
STEM CELLS:
Oocytes Spontaneously Generated

   Gretchen Vogel
p. 721.
NEUROSCIENCE:
Old Neurons Revisit Their Youth

   Greg Miller
p. 721-722.

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