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Science September 25, 1998, Vol.281


小惑星が地球と交差する理由 (How Did the Asteroid Cross the Earth?)

地球と交差する小惑星(ECAs: earth-crossing asteroids)はどこかの 地点で地球の軌道と交差している小惑星群である。これらの小惑星群は 火星と木星の間にあるメインの小惑星帯から、小惑星同士の衝突や主に 木星により引き起こされる軌道の摂動等により飛んでくるものと考えら れていた。しかしながら、一般的な、シミュレーションによる研究では、 他の惑星との強力な軌道共鳴は、実際に、小惑星を地球型惑星の軌道と 非常に短いタイムスケールで交差させ、その後太陽に向かわせることを 示している。Miglioriniたちは(p.2022、Greenbergの展望も参照)、 シミュレーションの中で、直径数Kmの小惑星から火星と交差する小惑 星群と地球と交差する小惑星群(ECAs)の両方を生じさせる、わずかに 異なるメカニズムを発見した。彼らの発見したメカニズムの鍵はメイン の小惑星帯内の弱い共鳴軌道であり、この共鳴の中にある小惑星を火星 と交差させ、最終的には地球と交差する小惑星(ECAs)へと移行させる。 このように、弱い共鳴は、大きな小惑星群が太陽系の内側でより長い寿 命を持ちえることと、いくつかの地球に衝突した隕石の起原を説明する ことが出来ると考えられる。(Na)

細胞死のミトコンドリア経路 (Mitochondrial Route for Cell Death)

多数のタンパク質と細胞内細胞小器官は、アポトーシスという過程で細 胞を殺す。プロアポトーシスのタンパク質であるBaxは、ミトコンドリ アへ移動し、ミトコンドリア透過性細孔を形成するタンパク質複合体と 共にミトコンドリア膜から単離される。Marzoたち(p 2027)は、Baxが 特定的に細孔複合体のアデニンヌクレオチド輸送体に結合することを発 見した。この相互作用は、再構成膜の透過化処理に必要十分条件である。 このように、Baxがミトコンドリアの透過性細孔に結合し、細孔の機能 を変化することによって、アポトーシスを誘発するようである。(An)

刺激され過ぎては学習できない (Too Overstimulated to Learn Anything)

高い頻度の刺激によって誘発されることがあるニューロンの長期増強 (LTP)と、学習によって引き起こされるシナプスの可塑性の長期的変化 との関係を実験的にはっきりさせることは困難なことであった。LTPが 学習過程の一部であるのなら、高頻度の刺激による海馬のニューロンの 飽和は動物の学習の能力を妨害することになるわけだが、飽和を起こさ せることは実験的にはきわめて難しいことだったのである。Moserたち は、ラットの海馬の一部を除去し、多電極の刺激用配列を用いて、歯状 回への入力領域にあるニューロンを飽和させた(p. 2038; Blissによる 展望記事参照のこと)。刺激を長く続けた後で、ラットは水迷路テストの 訓練を受けた。ラットのうちには迷路を学習できたものも、学習できな かったものもいたが、迷路学習の能力のなさは、LTPが飽和したままで いる程度と関係していた(迷路テスト終了後の、学習の劣ったグループに おける誘発されたLTPの量は10%以上であった)。この結果は、海馬にお けるLTPの飽和が空間学習の障害となっていることを示している。(KF)

同じように分ける(Separating Equally)

動物の発生過程で、胚性細胞は多様な分化の経路を経て,グループある いは区画(compartments)に分けられ、これらが更に様々な経路を経て 分化していく。Papayannopoulos たち(p. 2031) は,眼と羽ほどに結 果が違っているのであるが,細胞のあるグループを他とは異なるものと して定義する分子メカニズムは共有できることを示した.ショウジョウ バエを使ったこの研究では,眼を通る中心分割線(central dividing line)はノッチ情報伝達系(Notch-signaling system)によって定義さ れており,それは羽の上部をその下部と異なるように定義する情報伝達 系とよく似ている.(TO)

菌類のグルメ(Fungi Gourmets)

アリは,ヒトやシロアリのように,菌類を畑で栽培をする農業を営んで いる。Muellerたち(p. 2034,Diamondによる展望記事を参照)は,分子 遺伝的アプローチによって,アリが行う栽培の全容を明らかにした.多 種の菌類の栽培品種が見つけられていることから,栽培用に品種化が何 度か行われていることがわかる.実際,新たな栽培品種の獲得が現在進行 中であることも証拠に示されている.アリの間では,ある種の折衷主義 もあり,ある1つの(アリの)種は,多様な菌類を栽培していて,しか しそれでも単一品種がアリの異なる系統(distinct lineages)で共有さ れていることがある.(TO)

PDK1によるPKC制御(Regulation of PKCs by PDK1)

PDK1というタンパク質リン酸化酵素は、ホスホイノシチド3リン酸化酵 素(PI 3-リン酸化酵素)に結合する多様な受容体が惹起する情報伝達経路 に関与する。PI 3-リン酸化酵素の活性化は、ホスファチジルイノシトー ル3,4,5-三リン酸の産生とそれによるPDK1活性化へ次第に導く。PDK1 は、その後、プロテインキナーゼPKBとp70s6リン酸化酵素を活性化す る。Le Goodたち(p 2042)は、PDK1がプロテインキナーゼC(PKC)のイ ソ型の制御にも機能することを示している。PKCは、多数の細胞過程の 制御に関与し、いくつかのイソ型がジアシルグリセロール結合によって 制御されている。PDK1によるリン酸化は、PKCファミリーメンバーの制 御に機能するもうひとつの脂質依存調節機構を明かにしている。(An)

小人国の風景に学ぶ(Learning from a Lilliputian Landscape)

蘚類に覆われた岩石という複合的な生態系は、生態学においてもっとも 一般的に見いだされる関係の一つ、種の分布とその局所的な豊富さとの 間に成り立つ正の相関、を検証するのに使われてきた。Gonzalezたちは、 岩の表面を掻き取り裸にすることで、蘚類の小さなパッチに分断され断 片化された風景を作り出した(p. 2045)。こうして分断されたそれぞれの パッチの中では、微小な節足動物の種の豊かさが減少することが観察され たが、パッチの間をつなぐ狭い通路を残しておいた場合には、ほとんどの 種の豊かさは保たれていた。この実験は「救出効果」、すなわち複数の生 息地パッチに分散していることが、たとえば局所的な数の低下の緩衝とな ることで多くの場所にわたっての占有を許し、局所的集団のサイズを大き くするのに役立つという説を支持するものである。(KF)

ゲノムの算術(Genome Arithmetic)

J. M. Freeman たちは(20 Mar. 1998の技術的コメントを参照)、塩基組 成とコード配列(CDS)の方向性に関する積分された関数が、9つの完全な 細菌ゲノムにおける、複製と他の鍵となる特徴の起源を明らかにできる可 能性を示すデータを与えている (
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/279/5358/1827a 参照)。 A. Grigorievは、鍵となるサイトの「同定に否定的に影響する可能性のあ る」ゲノム中の変化を述べている。そして、彼は、配列逆位のような「AT と GC のスキューに別々に影響するように見える進化の力」について手短 に議論している。Freeman たちは、返答の中で、以前研究された9つのゲ ノムに対して異なる6種の異なる解析を適用して、「使用するのに最適な 関数は...あらかじめ明らかではない」ことを見出している。彼らは、「これ らのプロットの...定量的な解析は、異なる生物の異なるゲノムのダイナミク スの理解に役立つであろう。[しかし]、何か固有の問題に取り組むためにい くつかの方法を組み合わせることもまた賢明な道であろう」と結論している。 これらのコメントの全文は http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/281/5385/1923a で見るこ とができる。(Wt)
[註]ATスキュー=(A-T)/(A+T); GCスキュー=(G-C)/(G+C)でそれぞれ定義 されるが、ここでの塩基A,T,G,Cはある区間の積算値である。積算区間の幅は、 10kb程度。

溶かして、私をもう一度(Melt Me Twice)

海洋の地殻がマントルに沈み込む領域の上部には、弧状の火山群を形成する。 マントルへ地殻が沈むときの地殻の加熱により、流動性成分が解放される。 この流動性成分は、今度は、マントル上部領域で溶けて流出する。これはマグ マを産み出し、上昇して火山を形成する。このプロセスは、マントルから溶融 物中に分留された元素を枯渇させる。これらの元素の一つがレニウムである。 同位体レニウム-187 は、オスミウム-187 に崩壊する。かくして、溶融現象は、 レニウムを奪い去るのであるが、これはオスミウム同位体の異常に記録される 可能性がある。Parkinson たち(p.2011) は、伊豆-小笠原-マリアナ弧状系の 一部に保持されていたマントルの断片のオスミウム同位体の組成を確かめた。 この弧状系は、最初は西部太平洋でおよそ4千万年から5千万年前に形成され たものである。驚くべきことに、そのデータは、これらのマントルの断片はずっ と初期の、およそ10億年前に遡ることのできる溶融事件を記録しているらし いことを示している。対照的に、多くの海洋の地殻は、連続的に滑り込みによ り破壊されているため、1億5千万年より若い。これらのデータは、上層マン トルは非常にさまざまな要素からなっているか、あるいは沈み込み帯は非常に 古いマントルの断片を含んでいる可能性のあることを示している。(W.Ogt)

生物学的検知としてのナノドット (Monodots for Biological Detection)

半導体ナノ粒子の量子閉じ込め効果により、広い波長範囲で同調する狭い発光 スペクトルが得られる。その輝度、低い毒性そして単一の励起波長を使用出来 る利点は、生物学的標識として有機色素に代わる魅力的方法である。しかし、 水への低い溶解性によりその応用が限定されていた。二つの異なった方法がコ アとしてCdSe,シェルとしてCdS,又はZnSからなる改良コア-シェル型ナノ結 晶に関して現在報告されている(Serviceによるニュ-ス解説参照)。Bruchez たち(p. 2013)は、粒子表面をシリカでコートし、それからその表面を生体分 子で誘導体とした。Chanたち(p.2016)は、メルカプト酢酸を用いてZnS表面 に直接タンパク質を結合させ、トランスフェリンを担持したナノドットがヒーラ 細胞の中に受容体介在のエンドサイトシスを経由していることを示した。(KU)

2つの星の尻尾(A Tail of Two Stars)

最近、プレヤデスなど、星の生成領域のいくつかで、孤立した褐色のわい星が 発見されている。若い星の塵の円盤が衝突し、その結果、個々の円盤内で重力 凝集が起こり成長するモデルで、これらの微惑星の起原を説明できそうである。 Linたち(p.2025)は、他の潜在的に可能性のある星の誕生機構をモデル化した、 それには、比較的大きな円盤を持つ2つの若い星が衝突することで、両方の星 から飛び出した物質で尻尾を形成するというものである。著者は微惑星がこれ らの尻尾に集まり、どちらの若い親星にも関係がなく、恒星のように水素を燃 やすほど巨大でない、孤立した褐色わい星を作り出す可能性のあることを発見 した。(Na)

ユーロパ:四回の出会い、三つの層 (Europa:Four Encounters,Three Layers)

木星の最も小さいガリレイ衛星の1つであるユーロパと探測機衛星ガリレオと の四回の接近した出会いの間に記録された電波ドップラーのデータは、この衛 星の内部構造を決めるための最も正確な重力データを提供している。 Andersonたち(p. 2019)は、重力データに良く合致するのは、厚さ80− 170Kmのウオ−タアイスと液体水の混合した外殻と、中殻は岩石、或いは 岩石−金属の混合物、そして中心核は最大半径約780Km(ユーロパの半径 の約50%)で鉄、或いは鉄−硫化鉄の混合物という三っの内部層であること を示している。ユーロパの中心核はこの衛星の進化の初期に、岩石マントルか ら鉄を分離するためにユーロパの内部は高い温度を必要としている。ガリレイ 衛星のモデルは、このような分化を考慮にいれてより完全なものにされる必要 がある。(KU)
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