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Science August 29, 1997, Vol.277


金星では、テクトニック活動がまだ生きている?(Tectonic activity remaining on Venus?)

金星のサイズは地球と同程度であるが、そのテクトニックの歴史や活動は 地球とは大きく異なっっているように見える。例えば、金星には、コロナと 呼ばれている、長さが2600kmにも及ぶ環状の断層やリッジの集合体が見られる。 Smrekar と Stofan (p. 1289)は、プルームに伴う上昇沸き出しによって 形成された地形形成モデルを示し、これら活動が今でも続いている可能性 を示唆している。(Ej)

リボゾームの切り換え(Ribosomal switch)

リボゾームは、核酸配列をタンパク質に翻訳する間に、 大きな立体配置的な変化を経験させると考えられている。 LodmellとDahlbergたちは(p. 1262)、16SリボゾームRNA(rRNA)の中心領域に おける912領域の変異を作成し、リボゾームのタンパク質S12とS5の変異体に おいて観察した翻訳忠実度の増加あるいは減少と同様の現象を起した。 同定された配列は、rRNAにおける立体配置的な切り換えに従事している。 この切り換えは、S5とS12によって促進し、コドンとアンチコドンの配列および リボゾームのA部位における転移RNAの補正選択に影響しているとみえる。 (An)

結合とねじれ(Binds and winds)

転写活性化因子が転写を刺激していることが知られているが、 この制御の構造上の基礎がよく解ってない。 Uesugiたちは(p. 1310)、単純ヘルペスウイルスVP16タンパク質の活性化領域に おいて、VP16がhTAFII31(ヒトの基本転写因子TFIIDのサブユニット)という 標的タンパク質に複合したことによって誘発された二次構造を記述している。 VP16は、結合されると、ランドムコイルからαヘリックスへの遷移が誘発される。 VP16と他のタンパク質の酸性活性化領域における配列の類似によって、 hTAFII31において酸性活性化領域を認識する一般のエレメントを示唆している。 (An)

加齢の兆候(Sign of age)

人のウエルナー症候群は正常な加齢に見られるものと同等のいくつかの特徴を 示し、ヘリカーゼ遺伝子WRNに欠損がある。酵母内の類似の遺伝子である SGSもヘリカーゼをコードする。Sinclairたちは、(p.1313、 p.1259のBotsteinたちの展望も参照)SGSが存在しないと、酵母細胞は早老の 兆候すなわち、平均寿命の短期化、生殖不能や核小体の断片化などを示すことを 示した。SGSの機能をさらに明らかにすることで、正常な加齢のプロセスの解明に 光を投げかけることになるだろう。(Na)

隕石の中の星くず(Stardust in meteorites)

コンドライト系の隕石(太陽系以前の粒子)の中に見られるダイアモンド、炭化硅素、グラファ イト、コランダム(鋼玉)、窒化硅素の含有物における同位体特性は、その含有物は、我々の太 陽系が誕生する前に生まれた重量の大きな星の中での原子核合成により凝縮したことを示唆してい る。Nicolussi たち(p.1281) は、選択的共鳴光イオン化法を用いた質量分析計を開発した。ジルコニウ ムの質量スペクトルは他の元素からのものによって干渉されないのであるが、この分析計によりジルコ ニウムの同位体の量を決定することができる。Murchison 隕石からの太陽系誕生以前の炭化硅素 の粒子に対して、彼らは 96Zr が枯渇していることを見出した。これは、巨星枝に漸近する星(訳注)の中 で生ずる中性子捕獲による原子核合成のモデルと一致している。(Wt)
訳注:ここで巨星枝というのはHertzsprung-Russell図(H−R図)を指しています。これは星の色 (あるいは表面温度やスペクトル型)と明るさ(あるいは絶対等級)の関係を示した図で、星の進 化により、この図上に軌跡が描かれます。漸近的というのは、星は年を取るにつれて主系列(太陽 は主系列上にあります)から離れて赤色巨星になりますが、この巨星のH−R図上に描く枝(巨星列 )に近づいていくこと。

小氷期を評価する(Assessing the Little Ice Age)

最近8000年間で最大規模の気象現象であり、およそ西暦1400年に始まった小氷期 (LIA: Little Ice Age)の 地球規模的な範囲と原因は不確かである。 Kreutzたち(p.1294)は、南極のSiple Domeコアと呼ばれる最近掘削された氷のコアの中のナ トリウムレベルがでLIAの初期に急激に増加していることを示した。グリーンランド で掘削された氷のコアの中のナトリウムの増加も同時期におきていることから大気 の循環の勢いや程度は南北両極で増加していることを示唆している。氷の掘削コア の記録からLIA期間を通しての大気の循環を特徴付ける気候状態が今なお持続してい ることを示唆しているようだ。(Na)

勝ち目の増加(Increasing the odds)

T細胞がウイルスや細菌に反応するために、感染が起されたことが免疫系によって 認識されることが必要である。細胞の内部環境がMHC (major histocompatibility complex主要組織適合複合体)クラスIタンパク質に よって、連続的に採取されている。そのタンパク質は、日常的なハウスキーピング のタンパク質分解によって作成されたペプチドと結合する。ペプチドは、 TAPタンパク質複合体によって、細胞の細胞質から膜におけるMHCクラスIへ 輸送されている。この複合体の中のタンパク質の一つがtapasinである。 Tapasinは、MHCクラスIとTAP複合体との相互作用に重要である。 Ortmannたち(p.1306)は、tapasinをクローン化し、複合体のタンパク質の化学量論を測定した 。彼らは、tapasinは、ペプチドがMHCクラスI分子に遭遇して結合する確率を増加する ことを提案している。 (An)

多様性対組成(Diversity versus composition)

生態系の機能において、種の多様性と組成はそれぞれ相対的にどのような役割 を果たしているのだろう。3つの報告---その1つは自然の生態系での測定に基づ いたもの、残りの2つは実験操作に基づく報告---が、この問題を扱っている( Grimeによる展望記事参照 p.1260)。Wardleたち(p.1296)は、北部スウェーデンの列島に ある、比較的よく原始状態を保った大小さまざまの50の島の生態系を分析した (p.1296)。植物の多様性は、島が大きくなるにつれ実際には減少していたが、 これは大部分、島が大きくなるにつれ雷によって引き起こされる火事による擾 乱のリスクが増すからで、ただし生態系が相互作用を受ける速度は大きな島の方が高かっ たのである。HooperとVitousek (p. 1302参照)、またTilmanたち(p.1300)は、(p.1300 参照)、複数の種と機能グループをさまざまに組み合わせて、実験区画に植え てみた。彼らが評価したのは、植物の機能グループを構成する種の多様性と組 成が、生産性や栄養分の保持などの生態系の機能のうち、どういったものに影 響するか、である。自然状態での研究と実験系での研究の結果は一致している 。支配的な植物の特性と生態系の機能の組み合わせが決定因であり、一方多様 性それ自体はそうではなかったのだ。(FK)

さらに新しく見つかった地球のプレート(Earth's extra plates)

プレート・テクトニクスにおけるプレート境界の再構成は、ジグソーパズルで すべてのピースを元の位置に置き直すのより難しい。というのも、地質学者は すべての境界の位置を知ってはいないからである。おそらく、再構成するのが いちばん難しいのはインド洋にあるいくつかの境界である。RoyerとGordon(p.1268)は、 海洋底の磁気の異常と地震のデータを用いて、インド-オーストラリア・プレート は単一のプレートではなく、拡散境界をもつ3つのプレートであ ると断定した(p. 1268)。新しく加わり認定されたプレートの分布は、この地域 の変形の歴史を、ヒマラヤ山脈を作りだすことになったインドとユーラシアの 衝突も含めて、詳しく明らかにしていく助けとなるであろう。(FK)

寿命の長いスピン状態(Long-lived spin states)

固体における電子スピンは、磁場に沿うことがあるが、ふつうこの整列状態は 低温であっても急速に失われる。Kikkawaたちは、電子スピンの歳差運動を、 スピンによって引き起こされる光のKerr回転をモニタリングすることでフェムト 秒の解像度で測定した(p. 1284参照。また、Shamによる展望記事p. 1258参照) 。2次元の電子雲を閉じ込めた、負にドープされた半導体のヘテロ構造中で、 彼らが見つけたのは、ナノ秒オーダーのスピンの歳差運動であった。これは、 電子やホールにおける電荷、また絶縁体サンプルでのスピンにおける電荷の寿 命より、はるかに長いものである。長い寿命は、室温においてさえ観察され、 スピンの電子-ホール散乱が不十分なために生じるものとみられる。こうした スピンの干渉性は、超高速の光磁気デバイスで利用できるものかもしれない。 (KF)

運動の複雑さに打ち勝って(Overcoming kinetic complexity)

反応動力学は、通常、個々のステップを同定しその反応速度を測定することによって決定される。 この方法は、いくつかのステップとフィードバックにより制御された(酵素の合成のような)複雑な 経路に対しては非常に困難なものとなる。最近、 要素となるプロセスを決定するため、定常状態の 反応に対する摂動の追跡による理論的な手法が開発された。Arkin たち(p.1275) は、解糖の初 期のステップに適用すると、この方法は確かにその基礎となる動力学を捕らえることができること を示している。(Wt)

チューブの置換(Tube replacement)

窒化ガリウムのナノメートルサイズの構造は、それらの半導体的および光学的特性により、非常な 工学的な興味を引くものである。Han たち(p.1287) は、カーボンナノチューブをテンプレート として用いることにより、窒化ガリウムのナノメートルサイズの棒(ナノロッド)が、酸化物とアン モニアの前駆体から作成可能であることを示している。 ナノロッドは厳密に元のカーボンナノチュ ーブの形態と大きさを保持している。類似の結果が窒化珪素に対しても得られている。これは、よ り広範囲な化合物に対してもこの経路が適用できる可能性のあることを示している。(Wt)

歴史とのデート(A date with history)

若い岩石の年代を放射測定により正確に調べることは数多くの分野で決定的に重要 である、完新世の岩石のサンプルに用いられる最も基本的な分析方法は放射性 炭素による年代測定法であった。Renneたちは(p.1279)アルゴン-40/アルゴン-39法 が歴史的な領域(人類がt誕生して以来の歴史学の分野)においても応用出来る 可能性を示した。彼らは西暦79年の有名なベスビアス山噴火により 流れ出た灰の年代を測定した。(Na)

物理ニュース:光から物質の合成(Conjuring Matter From Light )

物質を光や熱、あるいはその他のエネルギー形態に変換することは 核爆弾一瞬の内に作るように、何ら新しいことではない。今度、 スタンフォードの直線加速器の物理学チームが、その逆プロセスー つまり光から物質を作る初めてのプロセスを示した。直線加速器を 利用してレーザーフォトンを超高エネルギーレベルに励起し、これを 衝突させて物質と反物質;つまり電子と陽電子(反電子)粒子を生成 した(p.1201)。(Ej)

物質科学特集記事(解説)

アメリカ、ヨーロッパ、日本に完成したシンクロトロンX線発生 施設について概観し、X線の物質科学への応用について 解説してある。
MATERIALS SCIENCE: Shining a Bright Light on Materials Daniel Clery
p. 1213 (see also: p. 1183, 1214, 1216, 1217, 1220, 1221, 1225, 1232, 1237, 1242, 1248)

MATERIALS SCIENCE: X-rays Find New Ways to Shine Alexander Hellemans
p. 1214 (see also: p. 1183, 1213, 1216, 1217, 1220, 1221, 1225, 1232, 1237, 1242, 1248)

MATERIAL PROPERTIES: X-rays Go Where Neutrons Fear to Tread Andrew Watson
p. 1216 (see also: p. 1183, 1213, 1214, 1217, 1220, 1221, 1225, 1232, 1237, 1242, 1248)

BIOLOGY: Brightness Speeds Search for Structures Great and Small Robert F. Service
p. 1217 (see also: p. 1183, 1213, 1214, 1216, 1220, 1221, 1225, 1232, 1237, 1242, 1248)

EARTH SCIENCES: New Synchrotrons Light Up Microstructure of Earth Daniel Clery
p. 1220 (see also: p. 1183, 1213, 1214, 1216, 1217, 1221, 1225, 1232, 1237, 1242, 1248)
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