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Science April 25, 1997, Vol.276


テロメラーゼ はレトロになる(Telomerase goes retro)

テロメラーゼは真核生物の染色体の末端やテロメアを複製をするリボ核タンパク 酵素 である。RNA 成分や、いくつかのテロメラーゼ-付随タンパク質は単離されてはいるが、 触媒作用の タンパク質 サブユニットは未だによく分かってない。 Lingner たち (p. 561; Barinagaによる ニュース 物語, p. 528)は 繊毛性 原虫 Euplotes からの 123-キロダルトン テロメラーゼタンパク質の性状決定を行い、 このタンパク質は、 RNA中間体を通じて、レトロウイルスのゲノムや転移性DNAエレメントを複製する酵素である 逆転写酵素(RT)のシグネチャーモチーフを含んでいることを示した。 p123の酵母における相同体が、テロメアの維持に必要なタンパク質Est2pと同定された。 Est2pの中のRTモチーフの変異原性は、酵母中でテロメアを短縮させ、老化させる。 このことは、これらモチーフはテロメアの伸長に決定的な役割を持っているとともに、 酵素の活性部位を構成しているらしい。(Ej,Kj)

氷の下の景観(Landscapes under ice)

構造地質的作用や風化作用の相対的効果によって出来る高地の形成や 地形の起伏への影響についてははっきりとは分かってない。これらの作用の強さを 知るテストの1つとして Brozovicたち(p.571)はヒマラヤの丘陵地帯の標高や傾斜の 分布をしらべた。丘陵の傾斜は、氷河作用が起きている所で極小値に近づくが、標高は 明らかに地質構造的な侵食作用とは相関関係が成り立っていない。このことと他の観察 から、氷河作用は標高の上限を与えていることが考えられる。(Ej,Nk)

氷の下の構造地質学(Tectonics under ice)

南極大陸の周囲の海底は、過去のプレートの動きを再構成するための鍵となるものである。 なぜならば、それは、太平洋と大西洋のプレートを結び付けるものであるからである。しかし、海 底の最も重要な領域は氷で覆われている。McAdoo とLaxon (p. 556)は、氷で覆われた領域につ いて、詳細な衛星からの重力データを採取した。そのデータにより、リニエーション(線構造) や過去のプレートの拡大パターンが明らかになった。そのデータは、南極大陸はおよそ 6,100万 年以前は二つの分離された2つのプレートから形成されていることを示唆している。(Wt,Og,Nk)

同定された自己抗原(Autoantigen identified )

原発性ショーグレン症候群は、免疫系が、涙腺とか唾液腺とかの水分を産出する腺を 攻撃し破壊する病気である。この攻撃の正確な標的ははっきりとは分かってない。 ショーグレン症候群のマウスモデルを使って、Hanejiたち(p.60 4)は、その候補を捕まえた; 細胞骨格の成分であるα-fodrinを。彼らはα-fodrinに対す るT細胞と抗体反応について 報告し、このタンパク質の組換え型を静脈注射することによって、マウス の病気の進行がはばまれる ことを示した。そして、原発性ショーグレン症候群の患者もまたα-fo drinに対する抗体とT細胞 の反応を示すが、自己免疫疾患でない患者はそうではないことを示した。 (Ej,Kj)

視覚と音を結合する(Connecting sight and sound )

感覚信号の処理は、一般に入力信号が、脳におけるより高度な統卒センターに 流れていく一方通行の経路であると思われている。視覚による画像感覚によって 一次視覚野にトップダウンの活性化を促すと示唆されている。また一次視覚野は 点字を読んでいる間にも活性化していると思われている。Calvertたち (p. 593) は、一次聴覚野は、予想されるように誰かがしゃべるのを聞いているとき に活性化されるだけでなく、無音で唇の動きを読んでいるときにも活性化される。 このことから、異なった様式間のコミュニケーションは、感覚信号処理や知覚において 極めて容易に生じていることが推察される。(Ej,Kj)

吸い尽くす(Sucking up )

初期の植物の進化の段階において、地球の大気に顕著な影響を残したと思 われおり、 殊に、大気中のCO2レベルを顕著に下げた。Retallack(p .583、およびBernerによる展望 p.544)は、南極の化石土壌に見つかった証拠から、約3億8千万年前の デボン紀中頃までには よく水はけの効いた森林が発達したことを報告している。この進化は、C O2が激減したという 他の予想や測定値によい一致を示す。(Ej,Nk)

膀胱炎を止める(Stopping cystitis )

18才から 40才の女性に、大腸菌の感染による膀胱炎が高い頻度で発 生しており その結果、年に数百万人が病院を訪れている。Langermann たち( p. 607; Service によるニュース解説参照, p. 533) は、大腸菌の線毛と呼ばれる構 造の末端にある adhesin(FimH)がマウスを免疫化するのに使うことが出来、その結果、感染 の動物 モデルに於いて、バクテリアが 膀胱にコロニーを形成することを防止することを見つけた。(Ej,Kj)

電荷の断片の像を作る(Imaging fractions of a charge)

単一電子トランジスタを鋭いガラスの走査プローブの先端に結合することにより、電気的ポテンシ ャルのごくわずかな変化を検知することができる。Yoo たち (p. 579)は、小さな金属の島状領 域 (直径100nm) を通過するトンネル電流を測定した。外部の場は、電流の振動を誘起し、その周 期性をモニターすることにより、彼らは1個の電子の電荷のちょうど1%の量を検出することがで きた。彼らはこのデバイスを用いて、 シリコンをドーピングしたヘテロ構造をなす GaAs/AlxGa1-xAs の表面の電場をマッピングした。(Wt)

信頼のおける 伝達(Reliable transmissions)

神経から筋肉へ信号を仲介するシナプスは高い信頼性を持っているが、そ の理由の 1つは、シナプスを横切って信号を輸送する神経伝達物質であるアセチル コリン受容体 の濃度が筋肉で十分高いためである。Sandrockたち(p.599)は 、筋肉中のチロシンリン 酸化酵素受容体の細胞外リガンドであるneuregulinはアセチルコリ ン 受容体を 維持する上で必要であることを示した。 免疫グロブリン様の領域を含むneuregulinのサブタイプのみが欠失 している ノックアウト マウス は筋無力症であり(この筋肉は急激な 、高頻度の刺激を 維持できない)、アセチルコリン 受容体の濃度は減少していた。 (Ej)

結晶工学(Crystal engineering)

広い範囲のゲスト分子と結合するために変形することができる、ある層状の分子材料が作らた。 Russell たち(p.575) は、グアニジニウムカチオンとアルカンあるいはアレン置換された一硫化アニオ ンとは、2次元の水素結合したネットワークを形成することを見出した。層間の水素結合は、2次 元のシートにしわを寄せ、柔軟な蝶番として働く。アニオン上のアルカンあるいはアレンのグルー プは、層間の空間の内部で柱のように作用し、その空いている空間に収容されうるゲスト分子の型 を制御することに役立つ。[表紙と Zimmerman による展望記事を参照のこと] (Wt)

培地におけるニューロンの再生(Neuron regeneration in culture)

脊髄の障害が起きるとニューロンは再生されないから、極めて深刻な事態 となる。 Kehlたち(p.586)は、出生後のラットの脊髄には増殖能力を持った細 胞が含まれており、 実際のところ、試験管内で分化し、機能的ニューロンに分化することを見 つけた。この結果は、脊椎の 損傷を治療する新たな方法を示唆している。(Ej,Kj)

トリパノソーマ 染色体(Trypanosome chromosomes)

トリパノソーマ類 が興味あるのは、これが病気を起こすからだけで なく、原始的な 真核生物で、異常な生物学的な特徴を示すからである。たとえば、2つの まったく異なる 染色体の組を持っている:1つは比較的標準的な大型の染色体と、さらに 同齢集団の 100個くらいのミニ染色体である。Ersfeld とGull (p.611)は 、 分裂するトリパノソーマ中での染色体の 分離を研究し、2つの集団が異なった機構を利用していることが分かった 。大型の 染色体は動原体微小管によって分離され、一方ミニ染色体は中 心紡錐体に よって分離する。ミニ染色体は忠実に分離するように見えるが、これは生 物学的には 重要な機能である。この発見は直ちに健康への脅威に結びつく。ミニ染色 体は、 寄生虫が定期的にその表面のコートタンパク質を変えることができるだけ の遺伝子コピー数 を保持しており、その結果宿主の免疫応答を避けることが 可能になっている。(Ej,Kj)

マグマ時間(Magma times)

島弧の火成岩は水を含んだ海洋地殻が沈み込み帯においてマントルに 戻っていく 地域の上部で生成される。この沈み込む地殻からの流体や他の成分は、マ グマ生成に 携わっていると思われており、鍵となる元素や同位体の分布は、この一連の手続 きの追跡に 利用できる。中でもウラニウムの崩壊生成物は、これら進化の速度が推測 出来ること から、これら進化を追跡する鍵である。Hawkesworthたち(p.551 )はいくつかの海洋性島弧 から得られたウラニウム系列と他の地球化学データ全体を調べた。そのデ ータによると 、流体は引き込まれた物質から、その上のマントルを透過して運ばれて来 るのに30,000 年から120,000年かかっている。 マントルから脱ガス化した稀ガスもまた地球進化の鍵となる情報を与えて くれる。なぜなら、 他の物質が何度もリサイクルされるのと異なり、ほとんどは大気中に失わ れるから。しかし、 実際のマントル中のガス成分を決めることは容易ではない。Burnard た ち(p.568)は、ポンポン石 として知られている海嶺玄武岩の試料の中の高圧気泡から採取された稀ガスの 測定を報告して いる。彼らは、これらの岩石にさえもアルゴンやヘリウムの大気からの混 入が認められ、 測定した鍵となる同位体比率はマントルのエンドメンバー(最終構成員)を代表していること を 示している。また、重い稀ガスは宇宙での存在比のパターンに似ている。 (Ej,Og,Nk)

免疫を制御する(Regulating immunity)

BCL−6をコードする遺伝子中の異常は、非-ホジキンリンパ腫の もっとも一般的な 遺伝子的変化である。BCL−6の機能を調べるために、Dent たち (p.589)は、BCL−6 遺伝子がホモ接合破壊したマウスを作り出した。これらの動物は、炎症を 制御出来ない とか、免疫感作に応答して免疫グロブリンG(IgG)抗体を生成出来な いとか、などの 一連の免疫学的欠陥を持つことが特徴である。前者は、インターロイキン ー4、ー5、ー6 と言った2型Tヘルパー細胞に付随する炎症誘発性サイトカインのレベル が上昇することに よるし、後者はIgG抗体の産生が始まる構造体である胚中心が欠如し ていることによる。どうして BCL-6の破壊がこのような現象を生じさせるのか? Dentたちは、B CL-6が、2型Tヘルパー細胞の発生 を制御している転写制御因子Stat6を通じて、インターロイキンー4 が情報伝達するのを阻止 していることを示した。STAT転写制御因子が、複数のサイトカイン によって情報を仲介するので 、BCL-6はT細胞もB細胞応答も制御する中心的因子であろう。( Ej,Kj)

Blimpの機能(Function of a Blimp)

活性化したB細胞が増殖に行くか、分化の道をたどり抗体を分泌する形質 細胞と なるかについては、どんな因子が制御にたずさわっているのであろうか? 分化の手順の中心となって いる1つの分子が、Znフィンガータンパク質のBlimp-1である 。もう1つのタンパク質である c-Mycは分裂する細胞中に存在して、多数の細胞型の末端での分化をブロッ クする;形質細胞腫瘍 (プラズマ細胞腫)は脱制御c-myc遺伝子を持っている。Linた ち(p.596)はこれら2つの因子を 結び付ける鍵を見つけた:Blimp-1は、c-mycの発現を抑制す る未だクローン化されてない因子 であるプラズマ細胞腫リプレッサ因子と同一である。従って、c-mycを 直接抑圧することは Blimp-1の機能の1つであり、言わばB細胞分化のマスター制御装置となっ ている。(Ej,Kj)

連続的化学進化(Continuous chemical evolution)

進化の原理は、今や試験管を使った分子集団に観察することが可能である 。 Wright とJoyce (p.614)は、反応を触媒することが出来るかどうか の基準によって、一連のRNA分子が増幅され選択されるようなシステム を作った。約300の継続した集団が、中断されることなく52時 間の後に得られた。 RNA分子に生じた突然変異は、その後自然に淘汰され、その結果触媒作 用 が顕著に改善された。(Ej,Kj)
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