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Science February 28, 1997, Vol.275


シベリアの前哨基地(Siberian outpost)

1982年、東北アジア(シベリア)のディリング・ユリャフ(Diring Yuriakh)古代 遺跡において人工物が発見されたが、年代を決定する適当な物がなかったため、 それが何年前の物か分からなかった。そのため、推定年代は15,000年前から数百 万年にまでばらついていた。この地点は、東北アジアに古代の人間が移住し、そ の後北アメリカにまで移住を果たすことになる記念すべき地点であるかも知れな い。Watersたち(p.1281;およびHolden,p.1268によるニュース解説参照)は、こ の人工物は、風に吹き寄せられた堆積物を伴っており、これによって堆積物と境 界層を熱ルミネッセンスで年代測定した結果、260,000年以上前であることを示し た。(Ej)

バンドギャップの中を満たして(Filling in the band gap)

特定の周波数帯に対し、あらゆる方向に伝播する電磁波を完全に反射することのできる材料、いわ ゆる、フォトンバンドギャップ構造(PBGs)は、パーフェクトミラーや、光導波路、レーザーを製作 ことに対し、潜在的な応用がある。現在は、赤外と可視光領域にバンドギャップを持つ3次元的な PBSsを作成することが挑戦されている。Wanke たち(p.1284) は、気相からのレーザー誘起によ る直接書き込み堆積法により、赤外において伝達性能の極小を持つような周期構造を作成できるこ とを示している。ドーパントや欠損を容易に導入することができ、その構造を既に存在しているデ バイスの周囲に成長させることができる。(Wt)

メタンの化学(I) (Methane chemistry (I))

メタンをより高級な炭化水素へと変換するいくつかの経路が提案されてきた。これらは、酸化を含 んでおり、この酸化はCO と CO2 への完全な酸化と競合する経路である。Choudhary たち (p.1286) が述べている共同反応のように、より高級な炭化水素へ向けてメタンを結合させる低 温の経路(摂氏400度 から 600度) は、アルケンや高級なアルカンを利用している。ある H−ギャ ロアルミノシリケート ゼオライト触媒が、水素移動反応を促進するために用いられた。(Wt,SO)

メタンの化学(II) (Methane chemistry (II))

巨大な外惑星である天王星と海王星は、氷の中間層を有している。この層は、高温(絶対温度 2000〜6000度)、高圧(20〜300 GPa)下で安定であるメタン、アンモニア、水から成っている。こ れらの極限的状況は実験室の中で再現するのは困難であるが、Ancilotto たち(p.1288; Hubbardによる展望 p.1279 を参照のこと) による分子動力学計算によりシミュレートされた。か れらは、メタンが水素と炭素(ダイヤモンドとして沈殿する)に分解する前に、エタンのようなより 複雑な炭化水素を形成することを見出した。このエタンを生成する付加されたメカニズムは、もしこの エタンが対流により海王星の内部から表面へ運ばれるのであれば、海王星表面でエタンが過剰と推 算されていることが説明可能かもしれない。(Wt)

火山からの衝撃波(Volcanic boom)

火山性噴火は、マグマ・チェンバーやマグマ管にガスの気泡が出来、気圧の減少 と共に急速に気泡が膨張することによって生じる。今まで難しかった、このプロ セスの正確な測定は、モデルや理論の評価や、遠隔地での噴火規模を知る上での 鍵となるものである。MorrisseyとChouet(p.1290;表紙、およびVergniolleによる 展望記事p.1278)は、マグマ中のガス濃度と爆発圧力は、爆発で生じた空気中の衝 撃波の遠隔測定によって推定可能であることを示した。(Ej,Nk)

知ることの中に(In the know)

人間は経験によって学習するが、複雑なゲームやパズルのように、新しい状況に 出くわして推理を働かせるときには、勝利への戦略を作り出す必要がある。 Becharaたち(p.1293;およびVogelによるニュース解説p.1269)は、普通の人がギャ ンブル課題を学習する時には、無意識のうちに、金を儲けると言う効果的な戦略 を利用している。トランプの組のどちらから次に引くべきかを知っていながら、 これを言葉として表現出来るずっと以前から(つまり、無意識で)、彼らは、ゲー ム中でリスクの高い動きを決定する前に、既に汗ばんでいた(皮膚電導度の変化 反応が生じる)。しかし、前頭葉前部皮質に損傷を受けた患者は、ゲーム中でハ イリスクの決定を行う時、意識の中ではハイリスクの決定をすることを知ってい ながら 、この予測的皮膚電導度変化を生じない。(Ej)

本来の場所にある心臓(Heart in the right place)

脊椎動物は外観上、左右対称性を示すが、内部においては、心臓のようないく つかの器官は非対称に発生する必然性がある---心臓になる胚の中の管は右方向へ 巻き付いて(loop around)行く。このような巻き付きが生じる前、トランスフォー ミング成長因子ファミリーの1つであるNodalのような情報伝達分子は、胚の片側 でしか発現しない。Isaacたち(p.1301;およびRobertsonによる展望記事p.1280)に よると、ニワトリの胚において、カタツムリ型ジンクフィンガータンパク質であ るcSnRは、Nodalの反対側(右側)で発現する。このタンパク質の発現が妨害されると心臓の発生 が乱されることから、cSnRは,Nodalのような,他のシグナルの流れを操作しているらしい。(Ej, Kj)

タンパク質分解と細胞分裂(Proteolysis and cell division)

最近の証拠によれば、タンパク質分解の調節が、種々の細胞プロセスを制御する中心的 メカニズムらしい。このような制御された分解を仲介するタンパク質の複合体の 1つが後期促進性複合体(APC)として知られており、これは、細胞の有糸分裂を終了させること を制御する役目を持っている。しかし、APCが何を標的としているか,その物質はほとんど知られ てない。Juangたち(p.1311)は、そのような標的の1つが、紡錘体の成分である微 小管結合タンパク質Ase1であると報告している。Ase1の分解は、明らかに正常な 紡錘の、組立と分解に必要であった。この結果は、サイクリン依存性キナーゼによっ て仲介されるリン酸化のように、APCによって仲介されるタンパク質分解は、細胞 分裂サイクルの複数のステップを調節する決定的機構であることを示唆している。 (Ej,Kj)
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