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Science February 14, 1997, Vol.275


酸化酵素モデル(Oxidase model)

ミトコンドリアの中でチトクロムC酸化酵素は、アデノシン3リン酸を生成 するサイクルの1部分として、チトクロムCによってO2から4電子を還元して H2Oに変えるための触媒作用をする。Collmanたち(p.949)は、Cu(I)原子の近傍に存在する Co(II)ポルフィリンを含むようなモデル化合物を合成し,架橋過酸 化中間体を通じて電気化学的にこのような還元をすることが出来た。酵素のように 、この システムは生理学的pHで作動し、H2O2の漏洩はない。このモデルは、上記触媒作 用のプロセスの律速のステップをはっきりさせるのに有効であろう。(Ej,Kj)

隕石中の左旋性分子の過剰(Excess left-handed molecules in a meteorite)

炭素質コンドライトはおよそ45億年前に形成され、初期の有機物質の化学進化の記録を表現して いると思われている。Cronin と Pizzarello (p.951; Badaによる展望 p.942も参照のこと) は 、Murchison 隕石中に、僅かではあるが明白な左旋性のアミノ酸の過剰を発見した。これは驚くべ きことである。なぜならば、多くの非生物的起源のアミノ酸はラセミ状(左旋性および右旋性の鏡 像異性体が等量含まれていること)であると予想されるからである。このような鏡像異性体の過剰 は、恐らくは初期の星間物質中で生じたプロセスの結果であろうが、地球の生命発生以前の化学プ ロセスに影響を与えていた可能性がある。(Wt)

Fasと甲状腺障害(Fas and thyroid disorders)

自己免疫性障害であるハシモト甲 状腺炎(HT)の患者は、加速された細胞アポトーシスによって甲状腺 の破壊を受け る。Giordanoたち(p.960;およびWilliamsによるニュース解説p.926)は、正常な甲 状腺もHT甲状腺も共にFasリガンド(FasL)を発現し、FasLは、T細胞を破壊するた めにFas細胞表面分子と相互作用する場所である免疫の及ばない部位においても発 現されることを見つけた。正常な甲状腺細胞と異なり、HT甲状腺細胞はFasを発現 し、これはアポトーシスによって死に至る。著者たちは、また、激烈な炎症中に 発現するサイトカインインターロイキン-1βも、正常な甲状腺細胞上でFasの発現 を誘発することを見つけた。(Ej,Kj)

アレルギー反応とIL-4(Allergic response and IL-4)

ナチュラルキラー(NK)- 様T細胞は、インターロイキン-4を分泌することが出来る。これは、T細胞から、 アレルギー反応を開始するタイプ2ヘルパー(TH2)細胞へ分化するのに必要なサイ トカインの1種である。Smileyたち(p.977)は、CD1を欠き、その結果NK-様T細胞 を欠くマウスは、IL-4の初期群発が出来ないことを示している。しかしそれでも、 免疫グロブリンDに対する抗体に応答して免疫グロブリンE抗体を産生することに よって、マウスはアレルギー反応を開始出来る。(Ej,Kj)

血管前駆細胞?(Blood vessel progenitor cells?)

成人における新たな血管の産 生は、既存血管からの内皮細胞(EC)の増殖と再造形によって生じると思われてき た。Asaharaたち(p.964)は、ヒト末梢血から EC前駆細胞と推定されているものを単離し、 in vitroで、これらがECに分化することを示した。この細胞はいくつかの動物モ デルにおいて活性化血管形成部位に遊走するが、この細胞の挙動は、血管形成を 刺激したりあるいは抑止したりする治療薬を目的部位に配送するのに利用出来る かも知れない。(Ej,Kj)

ペースを設定して(Setting the pace)

線形動物の遺伝子 clk-1 は、泳動や排便のようなリズム性の行動の周期と同様に、発生と寿命の 速度をコントロールするものであるが、この遺伝子が同定され、またクローン化された。Ewbank たち(p.980; Guarenteによる展望 p.943も参照のこと) は、CLK-1 蛋白質の配列は、真核生 物中において非常に良く保存されており、酵母の代謝調整を司る Cat5p に類似していることを示 している。これらの結果は、細胞の代謝と寿命の間の関連を示唆するものである。(Wt,SO)

レプリコンのサイズ(Replicon size)

DNA複製の開始は、体細胞よりも胚細胞内のゲ ノム部位において生じ易い。WalterとNewport(p.993)は、アフリカツメガエルの 卵からの抽出物の核原形質比を変化させると、添加された精子の染色質(クロマチン)のレプリ コンのサイズを変えることが出来、中期胞胚変移の時期に生じる自然状態のレプ リコンサイズの変化をまねることが出来る、ことを見つけた。複製開始点を認識 し結合する複 合体の量には変化が見られないことから、レプリコンのサイズを 制御している未知の要因が依然として存在していることが考えられる。(Ej,Kj,SO)

触媒性抗体の投げ縄(Lassoing catalytic antibodies)

望み通りの反応性を有す る触媒抗体を、直接スクリーニングする戦略が開発された。Jandaたち(p.945) は、触媒反応に特異的な基 質を官能基へ付けて触媒作用中に活性化されるようにすることができた。この活性化さ れたグループは、ポリマーの支持体にも坦持されていて、抗体にも結合する。 ライブラリーから取り出された触媒的に活性のある 抗体は、活性を保持ている間に固定化されるが、不活性な抗体は洗い流される。( Ej,Kj)

生命の不安定性(Life's instabilities)

ヒトの大腸癌の一部は、ヌクレオチドのくり返し配列における遺伝子的な不安定性によって特徴づ けられる。Rampino たち (p.967) は、この不安定性は頻繁に、BAX中のくり返し配列に影響を 及ぼすことを示している。 BAX は、通常、コード化されている BAX 蛋白質の機能の失活から予想 されるような方法で、細胞の死を促進する遺伝子である。BAX の突然変異による大腸癌の細胞は、 大腸での腫瘍形成の期間に選択されたのかもしれない。なぜならば、これらの突然変異は、癌細胞 が死を免れることが可能となるようなものであるからである。(Wt)

アルゴンの衝撃波溶融(Shock wave-induced melting in Argon)

衝撃波実験は、小規模な実験環境で出来るため、分子動力学のシミュレーション 手段として特に適しているが、Belonoshko(p.955)は、アルゴンの個体-液体状態 変化のHugoniot方程式を調べるため、衝撃波エネルギーによる3次元分子の動力 学シミュレートを実施した。シミュレーション結果は、衝撃波による実験および 高靜圧実験によい一致を見せた。シミュレーションによるアルゴンの溶融点の変 化は、オーバーシュートを示さなかった。(Ej)

20世紀の海面温度の傾向(20th century sea surface temperature trends)

地球温暖化について議論伯仲する中、地表面温度が100年間に0.3-0.6度C上昇し たことについては、意見が一致している。しかし、その原因については良く分かっ てない。解析によると、この期間に海面温度からも地球温暖化の証拠が出てきた が、赤道近くの東太平洋は冷却化し、局地的海面温度勾配は大きくなった。理論 的研究によれば、このような現象は、熱帯の大気が外因性の加熱を受け、海洋と 大気の相互作用によって生じるものとして説明されているが、複雑な大洋大気循 環モデルでは再現されなかった。(Ej)

外来種防衛隊(Call for exotic species task force)

ニュース記事(p.915)によると、アメリカの生態系が外来種によって脅威ににさら されており、年間数十億ドルの被害が見積られている。例えば、ハワイに侵入し たBrown tree snakeによって、生物の種類が減少し、オーストラリアから侵入し たmelaleucaはフロリダを乗っ取ろうとしている。副大統領のゴアは、政府各部局 の協力による早急な対策が必要であるとして、タスクフォースの設置を呼びかけ ている。(Ej)
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