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Science January 24, 1997, Vol.275


次世代気候モデル(What's next in climate models)

天気予報と気候シミュレーションが成功するかどうかは、一般的な 大気循環モデルにおける大地と大気の相互作用のパラメータ化にか かっている。最近は、エネルギー、水、生物圏と大気との間の炭素 の交換をリアルに表現することが非常に進歩してきている。これは 、フィールドでの実験と衛星による研究に基づく改良されたデータ に助けられている。Sellers たち(p.502) は、初期の第一世代 のモデルから、最近の精緻な第三世代のモデルまでの進歩をレビュー している。そして、気候モデリング、特に、気候変動のモデリン グの将来の展望を与えている。(Wt,Nk)

マントルのデュエット(Mantle duet)

2つの報告が、上部マントルと下部マントルを分離する約660kmの深部での相変化の メカニズムについて探索している。Wangたち(p.510)は、上部マントルのオリビンが、 下部マントルを特徴づけるマグネシオウスタイト(magnesiowustite)とペロヴスカイト (perovskite)に転移することが、約1000度K以下では阻止されることを示唆している。 この結果から、沈み込んでいるスラブの温度を推測することが可能になるであろう。 Funamoriたち(p.513)は、上部マントルにおける大部分のアルミニウムのホスト鉱物 であるガーネットからペロヴスカイトへの相変化を調べた。このデータから、 下部マントルにおいても、ペロヴスカイトはアルミニウムをより多く取り込み、 ガーネットと同様、アルミニウムのホスト鉱物である可能性 を示している。(Ej,Nk)。

鉄酸化物のコア(Iron oxide core)

化学者達は、天然ガスを液体燃料に転換する、より経済的な方法を 探すことを試みているが、細菌性の酵素である メタン モノオキシ ゲナーゼは、毎年、10億トンのこの温室効果のあるガスをメタノール へ転換している。Shu たち(p.515) は、分光学的な証拠によ り、鍵となる酸化する部分は、Fe2.([mu]-O)2 のコアであり、 それはダイヤモンド構造を形成していること示している。(Wt)

初期の地殻を追跡して(Tracing early crust)

大陸性地殻がマントルから形成される時、残りのマントルの組成は 変化する。形成された地殻の量を推測するための鍵となる元素比の 一つは、ニオブ/ウランの比である。これは、大陸性地殻は、ニオ ブよりもウランを残りのマントルに追い出してしまうからである。 Sylvester たち(p.521) は、オーストラリアの27億年前の火山 性岩石中のこの比を測定し、地球の歴史上の初期に形成された地 殻の量を推測した。このデータから、この時代に大量の地殻が形 成されたとする解釈ができる。これについては、p. 498 の展望のな かで、Hofmann によってもまた論議されている。(Wt)

細胞分裂のコントロール(Control of cell division)

転写制御因子NF-κB は、ストレスや感染に対する細胞の応答、ある種の癌の産生、 また、HIV遺伝子発現の制御に関与する遺伝子を制御している。Perkinsたち(p. 523) は、NF-κB の活性化がどのように細胞分裂周期の制御に結び付いているかを示して いる。NF-κBは、p300と呼ばれる転写活性化補助因子に関わっており、このp300は、 次々に、細胞周期を通じて進行を制御するサイクリン-サイクリン-依存性キナーゼ (CDK)複合体と相互作用する。これらの複合体におけるタンパク質の相互作用によっ て、転写の制御と細胞周期のコントロールとが結び付くことは明かである。(Ej, Kj)

腫瘍の治療:血餅を厚く(Tumor therapy:The clot thickens)

腫瘍が成長し続けるためには、適量の血液供給が必要である。この、血液供給を 邪魔することで癌治療に当たろうとする戦略が探索されている。Huangたち(p. 547; およびニュース解説p.482)は、抗体の技術を使って、血餅形成を引き起こすタンパク 質である短縮形組織因子を腫瘍中の血管を狙って標的化した。腫瘍を持つマウスを、 この標的化組織因子で処置することによって、腫瘍中血管に血餅が作られ、その 血液供給妨害の結果、1/3以上のマウスに完全な腫瘍退行が見られた。(Ej,Kj)

有益な感染(A beneficial infection)

根粒菌とマメ科植物の相利共生の相互作用は、植物がバクテリアに感染すること から始まる。これらの感染のいくつかは、窒素固定に必要な小結節(ノジュール) を形成するまで進展する。PenmetsaとCook(p.527)は、根粒菌感染の持続性を 制御する植物の能力を制限するが、明らかに初期感染の感受性には影響しない 変異を同定した。この変異であるsickleを持つ植物はエチレンを認識するのに 欠陥があり、過剰の数のノジュールを形成する。(Ej,Kj)

不能な免疫細胞(Impotent immunocytes)

Mitteruckerたち(p.540)は、転写制御因子IRF4(以前はLSIRFとして知られ ていた)を欠乏するマウスは、体液性免疫応答も細胞性免疫応答も上昇に欠失 が見られ、血清の免疫グロブリンレベルが低く、抗腫瘍性応答に欠ける、こと を示した。この障害の正確な性質はよく分からないが、T細胞、B細胞両方に 影響を及ぼす。若い動物にはリンパ球が正常に発生しているように見えるが、 リンパ球はリンパ様器官に蓄積され続け、リンパ節腫脹を起こし、一方攻撃に 際して活性化されない。以前のIRF4の研究では予想もされなかったこれらの 知見は、リンパ球恒常性に関する困難な問題に新しい機会を与えるかも知れ ない。(Ej,Kj)

活動するStill life(Still life in action)

発生時、軸索はニューロン細胞から、軸索末端が変化してシナプスとなる標的 に伸びて行く。Soneたち(p.543)は、このようなプロセスに欠陥を持つショウ ジョウバエの突然変異をスクリーニングした。Still lifeタンパク質の変異 は、異常な運動性を示したばかりでなく軸索の伸展やシナプス発生にも欠陥が 見られた。Still life遺伝子は、アクチン細胞骨格に影響を及ぼすシプナス 末端に局在しているグアニンヌクレオチド交換因子をコードする。(Ej,Kj)

絶滅の恐れのある生物の分布(Distribution of endangered species)

アメリカにおいて絶滅の危機に瀕している生物種の地理分布は、生物の 多様性が脅かされている危険地域として利用されてきた。この危険地域は 人間活動によって風土の特性の中心地域の自然生息状況が壊されない限り 異なる生物種の間では、ほとんどオーバーラップすることはない。植物の 絶滅危機種の保護活動によって、しばしば他の生物種の保護がもたらされる。 しかし、鳥類や爬虫類の絶滅危機種がいる場合は、その地域の生物種類 の多様性が脅かされている場合が多い。現在、アメリカで絶滅の危機に ある生物を守るために必要な土地の面積は全体から比べると小さな割合 である。(Ej)
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