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Science January 10, 1997, Vol.275


気象占い?(Climate crystal ball?)

最近の研究によると、北部大西洋地域の大洋 温度や他の性質は10年単位のスケールで変化していることが示されている。こ れらの結果から、もし、この変化のパターンの原因が理解されれば、この地域の 長期気候の予測が可能になることが推察される。GriffiesとBryan(p.181)は地球 規模の気候モデルを使って、大洋が大気の影響による短期間のゆらぎによって、 長期的にどのように反応しているかを調べた。その結果、大西洋の気候の予測が 可能であるかどうかは、高緯度の大洋温度の変動に部分的に依存している。(Ej, Fj)

相対論再訪問(Relativity revisited)

質量の非常に大きい天体は光を曲げることができる。この現象は、 重力レンズとして知られている。Einstein は、1936年のサイエン ス上に、この現象についてショートコミュニケーションを発表し ているが、他者によって、もっと以前に導かれたことも知られている 。現在、Renn たち(p.184)は、1912年まで遡る、重力レンズにつ いての研究ノートを発掘している。これは、Einsteinの一般相対 性理論の仕上げが提出される3年前である。Einsteinは、アマチュア 科学者にせき立てられて、ついには、24年後にその仕事を発表 したのである。(Wt)

ナノチューブと量子効果(Nanotubes and quantum effects)

量子的なワイヤに電子が閉じこめられたことによって生ずる電子的 効果は、単層の壁をもつカーボンナノチューブ(SWNT)において観測 されている。Rao たち(p.187)は、高純度のSWNTからのラマンス ペクトルを測定して、モデル計算により、様々な径のチュープとス ペクトルのピークとを同定している。様々な励起周波数における ピーク強度の変化は、共鳴ラマン散乱のプロセスが生じていることを 示している。電子状態密度は径と共に変化するため、様々なサイズ のSWNTがレーザーの場と結合しており、それらがスペクトル強度を 強めているのである。(Wt)

活動している断層(Rift in action)

大洋のリフト帯がアイスランドでは地表に現れ ているが、そのために測地機器を使ってこれを容易に観察することが出来る。 VadonとSigmundsson(p.193)は、海嶺が上陸している西南部アイスランド において、1992年から1995年までの断層活動と火山活動に伴う地形の変形を衛星 レーダー干渉を使って観測した。その結果、地殻の拡大が新し いマグマの流入によってまかないきれなかったこの期間にプレート境界が 沈降していたことが分かった(Ej,Fj,Og)

さらにマリナーから(More from Mariner)

水星を訪れている唯一の衛星であるマリナー10号は、表面の およそ半分の地図を作成した。Robinson と Lucey (p.197) は、マリ ナー10号の画像を再度校正し、紫外から可視光領域に至るスペ クトルデータの大半を含む画像を生成した。彼らは、より詳細な月の 地図から得られる相関情報を用いて、色の変化について解釈して いる。彗星の平原上の堆積物は火山活動に由来するものであり、太陽 系内の最少の地球型惑星は分化を経験している可能性があることを示唆している。(Wt)

時は刻みつづけて(Keeps on ticking)

高等な生物体においては概日周期はクロッ クタンパク質によって制御されているが、このタンパク質は核に送り戻され、自 分自身の発現を停止させることによって時間調節をする、と言うフィードバック ループを利用している。原核生物は概日性サイクルよりもずっと速く分裂するこ とが出来、かつ、核膜を欠如している。Kondoたち(p.224)は、ラン藻 Synechococcusの野生型と周期変異のあるレポーター株を使い、その中に概日周 期の証拠を見いだした。これらの細胞は5ー6時間もの短時間に倍加しても、そ の生物発光は依然として概日性振動を示した。(Ej,Kj)

1日たった数個のぶどうで、、(A few grapes a day,,,)

癌研究の一つの重要な 目標は、安全に経口摂取できて、発癌の危険を抑える化学物質である化学抑制剤 を同定することである。Jangたち(p.218)は、ぶどうから、化学抑制剤の候補を分 離し、性状決定した。この物質はresveratrolと呼ばれ、実験的モデルでの発癌に 伴う種種の生化学的、細胞的事象を抑制した。このことは自然にできる摂食成分 であるresveratrolが、ヒトにおいて化学的(発癌)抑制効果を持っている可能性 を示している。(Ej,Kj)

タンパク質の転向(Protein turnabout)

ショウジョウバエのdecapentaplegic(DPP)タンパク質はトランスフォーミング 成長因子β(TGF-β)に関連しており、分 化を制御するために発生期間中に機能する。Pentonたち(p.203)は、ショウジョウ バエの目の発生中には、DPPは異なった役目を受け持つことを報告している。通常 の、細胞の運命を決定する役目ではなく、DPPは細胞分裂周期の同調を促進させる。 他の実例においては、TGF-βファミリーのタンパク質はG1期のセルサイクルの停 止を起こすが、DPPは、セルサイクルのG2期とM期を通じて、目の発生の 進行を促進させる働きをしているように見える。(Ej,Kj)

ニューロンにおける取り引き(Neuronal give and take)

1個のニューロン自体が 複雑な計算装置である。この号の2つの報告(Magee and Johnston,p.209; Markramたちp.213)および、Sejnowskiによる展望記事(p.178)にあるように、海馬 と皮質のニューロンは、次の下流のニューロンへの活動電位に伴って、細胞体か ら、樹状突起へ樹状入力シナプスの効力を変化させるフィードバック信号を送 り出していることが示されている。Abbottたち(p.221)の報告、あるいは、 Thomsonによる展望(p.179)で議論されているように、 他の研究では,多数の可塑的なシナプスの 皮質ニューロンに対する全体的効果を、実験的に、かつ、 モデル的に調べている。その結果、ある環境下では、これらニューロンは同期検 出器として作用し、またある時は、入力の頻 度変化に反応する。(Ej,Kj)
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