AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 18, 2001, Vol.292


鉱物から鉄分を還元する(Ironing Out Minerals)

酸素欠乏環境にあるとき、異質鉄還元細菌(DIRM)は、その細菌の末端電子受容体として 鉄水素酸化物を用いることによって成長のためのエネルギーを蓄積できる。そしてその ようにすることでDIRMは鉄の生命地球化学サイクルに寄与している。Lowerたち(p. 1360)は、好気性と嫌気性条件下でDIRM(Shewanella oneidensis)と針鉄鉱(goethite) 間の結合力を測定するために原子間力顕微鏡を利用した。嫌気性のもとで引力が増加し 、そしてモデリングは細菌の外膜にある150-キロダルトンの鉄還元酵素が針鉄鉱の中の 鉄を還元することを示している。(hk,Og)

珍しいすい星の最後(Death of an Uncommon Comet)

2000年8月に地球の近傍を通過したC/1999 S4 (LINEAR)すい星は、太陽に近づいた時にば らばらになり消滅した。太陽系の端のオールト雲で生まれたと考えられる、例えば Hale-Boppのような、長周期すい星に比べると、このすい星は一酸化炭素、メタノールな どの炭化水素類が少ないことが初期の観測から示唆されていた。この化学組成により 、C/LINEARすい星は木星と土星の間で創られた可能性がある。その後、このすい星が予想 外に断片化し、さらに完全に崩壊した状況が観測された。すい星崩壊の原因としては太陽 の潮汐力による分裂か太陽熱による昇華が典型的だが、今回の場合はすい星自体の脆弱な 構造が原因であった可能性が高い。このすい星は高エネルギーのX線も放射していたが 、観測の結果、このX線放射は太陽風とすい星ガス間の電荷交換反応により発生していた ことが明らかになった。C/LINEARすい星の特集(pp. 1326-1353、Boehnhardtによる展望も 参照)では、6件のレポートでこれらの観測内容、すい星の起源。太陽系内における動力学 的な相互作用などについて議論している。(Na,An,Nk)

閉じ込められたキャリアの二つの相(Two Phases of Confined Carriers)

理論的研究が示唆するところによると、電荷キャリアが二次元面内に閉じ込められると 、系は絶縁体になるはずである。しかしながら、実験では、このような系は電荷キャリ アがあるレベルを超えると、金属相に遷移することが示されている。多くの実験的研究 は、輸送特性のような巨視測定に焦点をあててきた。Ilani たち (p.1354) は、単一電 子トランジスターを用いて、キャリアの密度が変化するのに伴う二次元電子気体の空間 的構造を探査した。金属および絶縁体の領域が並存する複雑な微視的構造が、金属−絶 縁体遷移の根底となっていることが見出された。(Wt)

化学的乱流を制御する(Controlling Chemical Turbulence)

ある種の化学反応では、定常状態の条件下で反応と拡散が結合して、化学的パターンや 波が発生する。このような「振動的」反応、例えば白金表面(100面)でのCOの酸化反応 において、その反応−拡散パターンは変動や濃度に鋭敏に反応して波が進行し、光電子 顕微鏡で可視化可能な化学的「乱流」を生じる。Kimたち(p. 1357)は、反応物の一つ であるCOのグローバルフィードバック制御の強さを変えることによって、乱流が抑制さ れるだけでなく、安定なクラスター様のパターンや定常波と同じように発生と消滅のカ オス的パターン形状が発生することを示している。フィードバック制御は、このケース では溶液中での反応よりもより容易に行なわれる。というのは、COの濃度変化が全表面 に渡って瞬時に行き渡るからである。(KU)

強すぎる太陽(Too Much Sun)

旱魃の期間が長引くと、原始的な文明に対しては重大な影響があった可能性がある。そ して、地球に届く太陽エネルギー量の増加によって周期性の旱魃が引き起こされうる 。しかしながら、このような太陽による歴史への強制力と前史文明との因果的な繋がり を実際に示すことは、かなり困難である。Hodell たち (p.1367; Kerr によるニュース 解説を参照のこと) は、メキシコのユカタン半島にある Chichancanab 湖からの堆積物 の掘削コアを調査した。そして、過去2,500年間のマヤ文明における三つの主要な断絶 が、長期にわたる旱魃の間隔と相関がある証拠を見出した。これらの旱魃自体は、太陽 活動の208年周期と相関がある。(Wt,Nk,Og)

もっと古いトウモロコシ(Older Corn)

新世界における農業の始まりは、トウモロコシとヒマワリを栽培植物化した証拠が乾洞 窟に良く保存されている、メキシコの半不毛な高地に起源をもつことが明らかにされて きた。Popeたち(p.1370)は、メキシコの湿気の多い低地に沿って紀元前約5100年にトウ モロコシの栽培植物化の証拠を発見した。彼らは、サンアンドレス遺跡(San Andres site)からの土壌サンプルや堆積コアから収集した花粉を分析した。そこは、農耕者が 、Tabasco(キシコ南東部の州)湾岸のGrijalva川デルタの川浜や沼(lagoons)に沿って定 住していた場所でもある。それらの結果は、中央アメリカ(Mesoamerica)におけるトウ モロコシの栽培植物化の時期を約1000年も遡らせ、さらに農作はおそらくより便利な低 地で始まったことも示している。(TO,An)

RNAワールドでうまくコピーを(Making Good Copy in the RNA World)

RNAワールド仮説は、DNAが支配してタンパク質を作るというDNA-タンパク質ワールドを 発展させる際の非常に重要なステップが、DNAの情報蓄積の役割とタンパク質の構造的 機能および酵素的機能との両方を満足した自己複製的なRNA分子により始まったと提案 している。RNAワールド仮説についての決定的な試験は、RNA分子自身が複製可能である ことを示すことである。Johnstonたち(p. 1319;Davenportによるニュース記事を参照 )は、この方向性で重要なステップを踏み出した。彼らは、生体外"セレクション"を使 用して、RNA分子(リボザイム)を進化させた。このRNA分子は、ヌクレオシド三リン酸 とRNAテンプレートとを使用して、RNAプライマーを伸長させることにより、非常に正確 にRNAの短い範囲を複製する。リボザイムは、テンプレート特異性またはプライマー配 列特異性を有しておらず、そしてそのため一般的なRNAレプリカーゼとして機能してい る。(NF,An)

カーゴ選別装置(Cargo Selection Devices)

ライソソームの酵素を認識しそしてそれらをその標的へと運搬するタンパク質であるマ ンノース-6-ホスフェート受容体の道のりはきわめて複雑であり、例えば、ライソソ ームの酵素は、その酵素カーゴと共にロードされるかどうかに依存して、ゴルジ体、細 胞膜、そしてエンドソームの間をほぼ任意の順番で運ばれる。Carrollたち(p. 1373;Segevによる展望記事を参照)は、細胞質のタンパク質であるTIP47の、この道の りを調節する際の役割について調べた。その結果、TIP47が、マンノース-6-ホスフェ ート受容体の細胞質テールに結合してエンドソームからゴルジ体へ輸送される際に必要 とされるだけでなく、低分子のGTP結合タンパク質であるRab9にも結合することを発見 した。結合されたRab9の存在下において、TIP47の受容体に対する親和性は増加し、そ してその結果、TIP47は、受容体がどのような経路を採用するかを決定するための鍵を 握っている可能性がある。(NF)

neddylationを逆にする(Reversing Neddylation)

細胞タンパク質の翻訳後の修飾は、細胞内の過程を制御することにおいて重要な役割を はたしうる。特異的になおかつ急速に逆転する修飾は、制御の柔軟性を起こし、lpれ が正常な細胞の活動についての鍵にもなるであろう。Schwechheimerたち(p. 1379)と Lyapinaたち(p. 1382)の2つの報告書は、signalosomeという粒子とSCFユビキチンのリ ガーゼとの相互作用について延べている(Marxによる5月4日のニュース記事参照)。この システムは、NEDD8というユビキチン様の分子によるタンパク質の修飾に関与している 。共にこの報告書は、neddylationが逆転させられることと、signalosomeがNEDD8の除 去に関与することと、この機構が植物におけるオーキシン応答経路の制御にも重要であ ろうことを示している。signalosomeとSCFは、広く分布しているので、このシステムは 、多種の生物体における多数の細胞内の情報伝達経路の制御にも重要であろう。(An)

極性のランドマーク(Landmark of Polarity)

発生の時期に生物体は、あらかじめ決定された極性マーカーを用い、外部シグナルに応 じ、成長を調節したり、制御したりする。酵母のような単細胞生物であっても、成長の 時期に正確な極性を表す。酵母は、以前の出芽部位の選択決定に応じて、予想可能な部 位を選択する。Kangたち(p. 1376)は、細胞がどのように以前の出芽部位の決定を認識 し、出芽部位の決定を制御するかを研究した。その以前の決定とは、単相体の細胞にお けるアキシャルなランドマークであるのか、それとも、二倍の細胞における双極性のラ ンドマークであるのか。その結果彼らが発見したのは、Bud5という小さなグアノシン三 リン酸とグアノシン二リン酸 (GTP/GDP)との交換因子が、以前の芽部位の認識および将 来の芽部位の選択に重要であることである。(An)

幹細胞の運命を導く(Directing Stem Cell Fate)

胚の幹(ES)細胞は、多様に分化した細胞を発生させる可能性を持っている。一つの課題 は、ES細胞をある一つの特別な発生経路に導くことである。Lumelskyたち(p.1389; Vogelによる4月27号のニュース解説参照)はマウスのES細胞を抽出して、膵臓のインシ ュリン分泌細胞の機能を少なくとも幾つか復元するような細胞をつくりあげた。この予 備実験はES細胞が糖尿病克服に向けての重要な材料となりうることを示唆している。 (KU)

必要なアダプター(Adaptor Required)

循環している低密度リボタンパク質(LDL)の70%以上は、LDL受容体を介したエンドサイ トーシスによって、肝臓において血液から除かれる。まれな障害である常染色体劣性高 コレステロール血症(ARH)を有する患者は、血液中からのLDLの除去の程度が低く、若年 のうちに、冠動脈の病気を進行させてしまう。Garciaたちは、ARHに関与している遺伝 子を同定し、それが、従来記述されていなかった、アダプターに特徴的な配列モチーフ を有するタンパク質をコードしている、ということを発見した(p. 1394; また 、GoldsteinとBrownによる展望記事参照のこと)。アダプタ、エンドサイトーシス受容 体の細胞質の末尾に結合し、受容体の内部移行にとって決定的な役割を果たすタンパク 質である。この新たに同定されたタンパク質は、LDL受容体の肝細胞中での輸送を促進 しているらしい。(KF,An)

高速で上昇するマグマ(Fast-Rising Magmas)

島弧(island arc)とは、サブダクション(プレートの縁が他のプレートの下にもぐりこ む場所)の上に形成された火山の鎖状の連なりである。プレートの下にもぐりこんだ 、液体に富んだ地殻が80から100キロメートルの深さで融点まで熱せられると、融解物 は表面へと上昇して火山を形成する。Turnerたちは、島弧玄武岩中ではラジウム-226が 過剰であるということを測定したが、これはマグマが地表まで非常に高速に(およそ年1 キロメートルの割合で)上昇したことを示唆するものである(p. 1363)。かくて、マグマ が多孔質の岩石中を通って,ゆっくりと地表に染み出してきた、という古くからある見 方を、液体によって強化された流れとして、チャネルすなわち割れ目を通過しての上昇 とを考慮したモデルによって置き換える必要がある、ということになったのである。 (KF,Og)

脂質のラベリングが失効する(Labeling Lipid Lapses)

消化管のある種の異常によって形態的破損となることがあるが、消化系の生理学的異常 は、正常なヒトの生理の研究にとって、より関連性が高いが、研究に利用しやすい小動 物によってこれを解明することはもっと困難である。ゼブラフィッシュと蛍光性タグを 利用して、Farberたち(p. 1385)は脂質の消化プロセスを解析し、リン脂質とコレステ ロール中のプロセスの欠損である、新規な変異である”fat free”を見つけた。蛍光に よってタグ付けされたリン脂質は、消化の他の局面や、消化に関与する化合物のスクリ ーニングに使用できる。(Ej,hE,An)
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