藤井聡太四段 プロフィール

デビュー以来29連勝という前人未到の大記録を達成した15歳の中学生棋士、
藤井聡太四段と職域団体対抗将棋大会で33度の優勝を誇るリコー将棋部との座談会が
東京・千駄ヶ谷 将棋会館にて行われた。
藤井四段の勝負に対する考え方、コンピューター将棋ソフト(AI)の活用法、今後の目標など
話題は多岐に渡ったが、ひとつひとつの質問に対して、
言葉を選びながら慎重に話をする藤井四段の姿が印象的だった。
この様子をお伝えします。

対談シーン
対談シーン2

古島 : こんにちは。リコーの古島です。将棋部の部長をやらせていただいています。今日はお忙しい中ありがとうございます。早速ですが、まずはリコーという会社を知っていますか?

藤井 : はい、知っています。プリンターやコピー機を作られている会社、というイメージです。

古島 : 以前、羽生善治さんが将棋の盤面をどのように覚えているかという話を聞いたことがあります。羽生さんが頭で思い浮かべるときは、白黒になるそうです。

藤井 : カラーだと情報量が多いですからね。

古島 : 私はこれを聞いて、余計な情報を捨てているから、たくさんのことを覚えられるのではないかと思いました。藤井さんはカラーですか、白黒ですか?

藤井 : カラーではない気がします(笑)。

古島 : リコー将棋部は谷川浩司九段のお兄さん(谷川俊昭氏)が立ち上げました。アマチュアタイトル経験者が多く在籍し、団体戦で数多くの優勝を重ねてきました。女流棋戦では、リコー杯女流王座戦というタイトル戦を主催しています。今期のリコー杯女流王座戦五番勝負は、里見香奈女流王座に加藤桃子女王が挑戦するシリーズになりました。藤井四段はこのお二人と将棋を指したことはありますか?

藤井 : 里見さんとは奨励会で指したことがあります。加藤さんとはありません。

古島 : 藤井四段は中学生で奨励会を抜けて棋士になられました。小学生の頃から詰将棋にものすごく強かったというお話をうかがっています。いま、将棋の勉強はどのようにされているのですか?

藤井 : コンピューターを使って、将棋ソフトの形勢判断や読み筋を見ています。

馬上 : ソフトと対戦はするのでしょうか?

藤井 : 対戦もしますが、メインは解析です。対局を振り返って検討してみて、対局中に自分が考えたことと、ソフトの意見の違いを参考にしています。

古島 : コンピューターを使い始めたのはいつからですか?

藤井 : 2016年の5月からです。

古島 : プロになる少し前ですね。どのようなきっかけだったのでしょうか?

ソフトは形勢を数値化して出してきます。明確な指標を示してくれることは、
人間が強くなるうえで大事なことかなと思います。

藤井 : 前々から電王戦を見てソフトには関心を持っていたんですが、関西将棋会館の棋士室で千田さん(千田翔太六段)に勧められたのが直接の理由です。いまは序盤、中盤の精度を上げることを目標にしています。

古島 : 山崎隆之八段に聞いたのですが、藤井さんは三段のときに序盤から中盤がグッと強くなったという話を聞きました。それもコンピューターを活用した効果ですか?

藤井 : 私は序盤や中盤では、漠然とした指標しか持っていませんでした。ところがソフトは形勢を数値化して出してきます。これはいままでの人間の将棋にはなかったことです。

古島 : それが藤井さんにうまくマッチングしたということでしょうか?

藤井 : そんなに抵抗はありませんでした。明確な指標を示してくれることは、人間が強くなるうえで大事なことかなと思います。出てきた数字をこちらがどう解釈するかという問題はありますが。

対談シーン3
THETA写真

菊田 : コンピューター以外ですと、どんな勉強をされていますか?詰将棋は作っていますか?

藤井 : 最近はあまり作らないですね。解くほうも、前に比べると減っています。コンピューターを使う割合が多いです。検討以外でも、中継を見たり。

古島 : これから、コンピューターがどう発展してほしいと思いますか?

藤井 : うーん、いまの将棋ソフトはすごく強いのですが、「なぜその手を指すのか」を言語化して説明することはできない。そこは今後の課題と思います。説明されてしまうと、我々プロ棋士が困ってしまうんですけど(笑)。

古島 : AIの技術には3つの波があって、以前のAIは、人間の考え方を模して、アルゴリズムを明確にする方向で答えを出そうとしていました。この第1次の波ではロジカルに突き詰めようとしたけれど、ダメだった。それが現在の第3次の波では、ロジックを諦めたんです。データをインプットすると答えが出てくるけど、その過程はブラックボックスになっている。つまり、藤井さんには現在の限界を言い当てられているわけです。

古島 : 藤井さんの高校進学が話題になりました。いまも授業に出ながら将棋のプロとして仕事をされています。将棋の時間はしっかり確保できているのでしょうか。スケジュールは週や月単位で管理していますか?

藤井 : スケジュールはあまり意識していません。学校に行くことで時間的な制約を受けることは確かですが、その中で強くなることは十分可能だと思っています。

馬上 : 夜遅くまで対局をすることも多いですよね。負けたときはやっぱり悔しいですか?

藤井 : もちろん悔しいです。そういう感情も大事だと思いますが、いつまでもそれを引きずるのはよくない。内容はしっかり反省して、結果は受け入れることが大事だと思います。

古島 : 将来の計画についてお聞きします。この時期にこれくらいのタイトルがほしいという目標や、そういった意識はお持ちですか?

藤井 : 将棋の実力的なピークは20代前半かなと思っています。なので、これからの3年、4年で、実力としてはトップレベルのものを身につけないといけないと思います。

菊田 : 尊敬している人、目標としている人はいますか?

藤井 : 羽生先生のように、将棋界の内外で活躍されている方ですね。

古島 : 羽生先生は将棋以外のさまざまな分野にも詳しいことがすごいですよね。ぜひ藤井さんにもそうなってほしいと思います。

集合写真

負けた時はもちろん悔しい。でも内容はしっかり反省して、
結果は受け入れることが大事だと思います。

本文・写真 松本哲平