イベント・レポート

ザ・ロンゲスト将棋デー

〜〜〜02年度A級順位戦最終日〜〜〜

年月日:2003年3月1日(土)19時〜22時

場所:渋谷区「将棋会館」

リポータ:西田 文太郎 e-mail : buntaro.nishida@nts.ricoh.co.jp

【チケットがゲットできて】

 将棋の大盤解説会はここのところ盛況のようだ。いつの間にか、入場料も3000円まで上がっている。今年は東京、大阪以外にも解説会が広がっている。将棋界はこの上昇気流を見逃してはならない。同時に大入り満員で立ち見まで満杯という状況を、どう打開してファンの満足度を向上させていくのか、ファンとして期待してやまない。
 今年は2月の平日にチケットの発売があるということで、ライブでの観戦はあきらめていた。ところが、このところ親しくおつきあいしている武蔵野夫人が、購入に行くというので、ご厚意に甘えて買ってもらった。おかげで、前から4列目のいい席をゲットできた。

【中村八段の新機軸は最高】

 七時半頃から中村八段の解説会が始まった。間近で見る中村さんは、顔の色つやもよく、舌もなめらかだった。何よりも、「今日は、わからないとか難しいとかいいません。私なりの結論を出していきます」という。そうだ、そうだ!そういう解説を聞きたいのだ。
 そこへ、米長永世棋聖がカメラマン達とはいってきたので、客席から拍手がわき起こった。グレートマザーとかいうテレビ番組の収録ということだった。米長さんが「ではちょっと盤面を(三つ)作って・・」というと、すかさず、中村さんが「今日はお客様が大勢で、(小さい大盤だと)後ろの方が見えないので、これ(大きい大盤)でやりましょう、すぐに並びますから」といってくれた。会場には、大盤が3台有るのだが、確かに二つは小さく、後ろからは見えないのだ。

 そして、丸山対森下戦の局面が、奨励会員の手で、瞬く間に大盤に再現される。丸山得意の後手番横歩取り85飛戦法で、▲89飛△54角▲86飛と森下飛車が上下運動をしたところ。

 米長さん「これは難しいね」
 中村さんがすかさず突っ込む。
 中村さん「今日は、難しいは禁句です」
 米長さん「ほう、じゃ、中村さんの見解はどうなの?」
 中村さん、照れながら、大盤を見つめ直し、しゃべり始める。
 中村さん「これは、後手番の丸山さんの方がいいです」
 米長さん、にこにこして突っ込み返す。
 米長さん「ほう、じゃあ中村さんは、後手の丸山九段が勝つとこう言ってる訳ね」
 客席から笑いが出る。しかしどっちが勝つかという予想を聞きに来ているわけではない。
 中村さん「ええ、はい、まあ。ただし、この7時45分現在ですが」
 と、堂々と受ける。客席は大喜び。中村さんは、客席を向いて、
 中村さん「ええ、理由はですね。この(森下陣の▲39銀▲38金を指し)壁が窮屈で、何か技がかかりそうな局面だからです」
 米長さん「ほう、中村さん、あなた強くなったね」
 会場爆笑。中村さんも、遠慮気味に
 中村さん「ええ、まあ、有難うございます」
 会場爆笑。
 米長さん「確かに、中村さんの言うのは正しいと思います。この森下陣の銀を見てください。▲39と▲79に最初にならべたままの位置にいる。銀が動かない将棋はたいがい勝てないとしたものです」

 こうして、中村さんは次から次へと、明快な決断を下していく。胸のすかっとする解説だった。観客は別に、勝負の行方を聞いているわけではなく、この局面をどう見るのかということに関心があるわけで、難しいことはわかっているのだ。その見解が、結果的に振り返ってみたときに間違えていたとしても、それはいいのだ。その導き出す過程の解説を聞きたいのだ。そして、とっさに具体的な指し手で解説し局面を評価することができるというのは、不断の精進のたまものだと思う。中村八段の棋戦での活躍も応援したくなる。

 島対三浦戦は、▲75歩△84飛▲35歩と行ったあたりで、先手の三浦さんがよいといっていたが、次の指し手が△35同歩に対し予想の▲45歩を指さなかったので、今度は島さんのほうがよくなったという。突然解説に加わった森内名人も、三浦構想には疑問を呈していた。

 羽生対青野戦は、米長さんは「ここが一番早く終わるでしょう」といい、中村さんは「いやいや、こう言うのが案外長引くんですよ」といっていた。局面解説では青野さんのほうがよいといっていた。

 谷川対藤井戦は、藤井さんの金が中央に出ていき、振飛車がさばけそうということだった。谷川さんの棒銀がやや取り残された感じになっている。

【木村六段も名調子】

 次の回は木村六段だった。奨励会員が局面を作っている間、面白い話をしてくれる。昨年の四月から九月にかけてNHKの講座を担当したときのこと。「必勝法なんて無いのだけど、それでもなんとか居飛車をよくしなくてはいけないので、苦労したけど、わかりやすく解説することにつとめた。また機会が有れば、是非やってみたい」という。是非頼みたいものだ。「だけどネタがないといけないので・・・」と、謙虚だ。
 実は、私は四間飛車に対して急戦を用いることが好きなので、この木村講座の熱心なファンである。といっても月に二回くらいしか見ることはできなかった。だから、いまだに、去年の六月号くらいの解説を追っかけているのだが、とてもわかりやすい。羽生の頭脳の第一巻と第二巻、そして青野さんの「新鷺宮定跡」等を読んでは、頭の中がおもちゃ箱をひっくり返したように、ごちゃごちゃになっていた。そこに、木村さんの解説は、うまく頭の中の積み木を立て直してくれるのだ。

 木村解説も、明快に、優劣を出していく。佐藤対郷田戦は、郷田さんがうまく指しているという。今回はわりと優劣がはっきりした戦いが多かったともいえるが、「わからない」「むずかしい」では、解説を聞きに来たかいがない。だから、中村さんと木村さんの解説は、それぞれユーモアたっぷりで客席は笑いの渦だし、解説も明快でとてもよかった。

 丸山・森下戦の解説の時、木村さんが、観客に「どっちがいいとおもいますか?」ときいた。
 「森下さんが良いと思う人」・・・しーん。「丸山さんが良いと思う人」・・・はーい。
 木村さんは、鳩が豆鉄砲をくったようなきょとんとした顔をしていた。ここでも観客は爆笑だ。木村さんだけは知らないだろうけど、観客は中村節をきいて、丸山が良いと見ているのだ。

 明日は職団戦なので、早めに、引き上げることにした。外はざあざあぶりの大雨だった。ユニクロで買った傘は面積が小さくて、千駄ヶ谷駅に出るまでにずぶぬれになってしまった。500円だから、それなりということだ。靴下も濡れていたが、解説会のすがすがしい気分が雨を吹っ飛ばしてくれた。

(完:記03年3月4日)


【前のレポート】 【次のレポート】 【イベント・レポート】

Copyright (C) 1999-2003 Ricoh Co.,Ltd. All Rights Reserved.