イベント・レポート

リコー冬合宿 2001

〜〜〜豪雪と温泉と将棋〜〜〜

年月:2001年1月27〜28日(土・日曜日)13時〜

場所:箱根 ホテル花月園

リポータ:西田 文太郎 e-mail : nishida@cs.ricoh.co.jp

【雪のあたり年】

 天気予報では暖冬ということだったが、時に自然は人間の予報をせせらわらう。久しぶりに今年の東京は雪が多い。1月8日の成人式も雪化粧だった。1月末の箱根ということで、車組は皆警戒はしていた。金曜日夜半から降り始めた雪は朝になってもやまず、家の周りは数センチもつもる一面の銀世界となった。雪国で育った私は雪が好きである。雪の校庭で遊んだ「宝取り」というゲームや、吹雪の桜並木を真っ白になりながら父にお弁当を届けたことなど雪の思い出は沢山ある。だから雪は歓迎である。しかし、生活には大きなハンデとなる。まして雪の少ない東京では、雪の日に履くものにさえ困ってしまう。

 幸い交通機関は、ほぼ順調だ。新宿から小田急のロマンスカーに乗った。窓の外を眺める。雪をかぶった商店街や住宅の家並みがどんどん飛んでいく。駐車場の車の上には10センチ以上も雪が積もっている。コンビニから出てきた男が傘をさして、すぐに転んだ。電信柱には、片面だけ、雪がこびりついている。新百合ヶ丘のあたりでは遠くの深い緑の木に、白くまぶしい雪が映えて美しい。

 車内の電光掲示板で、山手線新宿駅でホームに落ちて3人死んだとか、インドとパキスタンの国境付近で大地震があって、1000人以上がなくなったという痛ましいニュースが続いている。それでも、非劇的なニュースに慣れてしまった私の鈍感な胸を上滑りしていく。また外の雪を見る。雪はただただ降っている。しかし、家に帰って、これらの悲劇の内容を詳しく聞いて、流石に痛ましくなった 。

 列車はおかまいなしにどんどん走る。やがて伊勢原を過ぎたあたりから、雪が雨に変わり、更に進むと、もう何も降っていないし、地面も乾いている。わずか1時間移動しただけで、天気は変わる。

  

【断固として出発すべきだった】

 新田次郎の「八甲田山死の彷徨」ではないけれど、ちょっとしたデシジョンミスがあった為、30人ほどの人たちに不快な思いをさせてしまった。私がもう少し強く出るべきだった。いつも後でしまったと思う。2台目のバスに乗っていたみなさん、すいませんでした。時間的には5時間の苦痛の内の30分ほどのことであるが、時間で計れないものがある。

 次回から、このようなことを起こさないために、少し詳しく書こうと思う。

 ホテルの送迎バスを使う人数が申し込み段階で40人くらいだったので、30人くらい乗れるマイクロバスが2台用意された。そこへ、大雪が降ったので、車組もほとんどバスに集中した。幸い、バスのキャパがたっぷりあったので、これは問題がなかった。

 小田原駅西口集合の定刻は、12時だ。小田原から花月園まで45分ほどの所要時間で、1時からリーグ戦開始、7時夕食、その後ペア将棋という計画だ。雪のため、若干遅れて着くという連絡が数人からはいった。これは、やむを得ないだろう。そして12:15頃には、一人をのぞいて皆そろった。そこで、野山主将が乗っている1号車は、先に出発した。ここで、小さなミスがあった。合宿委員と、ゲストの方は、1号車に乗ってもらうべきだった。

 雪の中で、合宿委員の星出君が、最後の一人の到着を待っている。なかなか現れない。このタイミングで、たとえば12:30までとか時間を切って、出発すべきだった。しかし、「間違えて駅の反対側にいるかもしれないから」と、ラストパースンの顔を知っている人が探しに行った。

 この雪の中で、駅まで来て途方に暮れているのかもしれないし、タクシー代はかなり高い。しかし私が深く反省しているのは、これを強く止めるべきだったということだ。大雪でホテル到着が遅れたことは、これは不可抗力であり、やむを得ないが、出発はもっと早くできたのだ。

 結局見つけることができず、出発したが、予定より45分ほど遅れで、1号車とは30分ほどの差だ。この30分が無益であったため、2号車の人はよけいな苦痛を強いられた。箱根を登る途中、雪のために片側ずつしか通れない箇所が沢山あって、大渋滞となった。時々1号車と携帯で連絡を取り合って、渋滞の状況を聞くが、1号車もちっとも進んでいない。電話では3時に着いたら、スケジュールをこれこれに変更して、という会話をしたがその変更計画は空しく消え、更に4時に着いたら、こうしようという話も消えた。何しろ、2号車が着いたのが5時なのだ。

 むろん第1の失敗はラストパースンにあるのだが、罪は、遅れたということと、連絡を的確にしなかったということと、待っていたバスを探し得なかったということだけで、まあ人間誰しもよくあることである。12:30頃に小田原駅について、遅れたと思いバスが待っているなど夢にも思わず、急いでタクシーに乗ってホテルに向かったそうだ。相当メーターが上がったはずであり、金銭的な制裁は受けている。しかし当然反省はしてもらわなければならない。残念ながらブラックリストにメモメモである。

 第2の失敗は、東口まで探しに行こうとしたことと、それに同調した部員がいたことである。約束を破ったもののために約束を守った多くの人が迷惑を被ったのだ。それは、もう待つ必要のない時間だった。私は断固として、それを止め、出発するべきだった。これが第3の失敗だ。

  

【暖まる温泉と選べる鍋】

 長い道中だった。ほぼ5時間狭いマイクロバスに閉じこめられていたのだ。途中で熱くなって暖房を切ってもらったので、最後の方は汗が引いたりして少し寒くなってしまった。スケジュールは、すぐに風呂などの自由時間とし、6時から夕食、7:30からリーグ戦となった。

 温泉につかり手足を思い切り伸ばす。暖かく、いい気持ちだ。窓の外に、道路からホテルに曲がる誘導路付近に置き去りにされた我々のバスがたたずんでいた。まだ動かせないでいる。雪に染まった夜の景色は不思議な明るさで、温泉を実感させてくれる。

 夕食は、きりたんぽ鍋、山芋鍋、寄せ鍋とテーブルごとに、好きなものを選べるようになっていた。なるほど、これはいい。なぜなら、好き嫌いのある人が混じっていても、これだけバリエーションが有れば、何とかなるだろうから。

 今回初参加は矢内理絵子女流棋士と、アマ強豪の瀬川晶司さんだ。

 矢内さんは、女流棋士としては碓井さんとともに、特例を認められて奨励会に在籍している。NHKテレビの「ふたりっこ」では香車のお香がプロ棋士になっているが、現実世界では、まだ女性のプロ棋士は誕生していない。ずっと男社会だったのだから仕方がない。今、その壁を破ろうと、何人かの女性が果敢にチャレンジしている。矢内さんはその中で一番先頭を走っている。年齢制限の壁が近づいているようだが、頑張ってほしい。それにしても、女流棋士と奨励会の両立を認めないという突然のルール制定は、芳しくないと思う。女流棋士にとって、奨励会での研鑽は役に立つだろうに。

 瀬川さんは、その奨励会を三段で無念の退会をした人だ。その際だった強さは、テレビ銀河戦でつい最近プロ棋士を七人抜きをしたことだけでもわかる。何故こんなに強い人が、プロになれなかったのだろうと思う。あの狭き門は、実力だけではなく運も必要なのだろう。それでも瀬川さんはあの奨励会の制度は良いシステムだとけれんみなくいう。

 日本の大学はアメリカの大学に比べて、入りにくく出やすいといわれている。奨励会システムはもっと入りにくくなっている。それでも四段になってから常に優勝戦線に顔を出しているのはほんの一握りしかいない。だから、私はあまりいいシステムだとは思わないけれど、そういうものがあってもいいとは思う。マーケットが小さいからやむを得ないことだろうとも思う。

  

【リーグ戦】

 S級は、社内レーティング順に上から16人が選ばれる。そのS級の初戦で早くも大波乱が起きた。宮田が野山に対し矢倉戦で勝ち名乗りを上げたのだ。そして、二回戦ではその宮田が矢倉で端からの細い攻めをつなぎ、佐々木修一も破ってしまった。また、最近奨励会をやめたという芦垣さんが矢内陣に切り込み、見事に攻めつぶしてしまった。注目の宮田は、三回戦で惜しくも早水さんにつぶされた。芦垣さんも瀬川さんに一蹴された。最終局、全勝同士の瀬川さんが早水さんを破り、優勝した。最終局で芦垣さんを破った宮田が準優勝した。快挙である。彼は、耳が聞こえないため、秒読みが苦手だったが、野山のアドバイスを素直に受け入れて、克服したようだ。三位以下は早水、野山、矢内の順になった。

 早水さんは、大学受験にチャレンジし、見事早稲田に合格した。この4月からは晴れてフレッシュマンだ。学生生活に女流棋士生活に、ますます活躍が期待される。頭の回転が速く、口も達者で、女帝として君臨している賑やかな小野三枝子さんとの掛け合い漫才はとても面白い。

 S級の瀬良、菊田、山田洋次が参加できなかったのは、残念だ。まあそれぞれ用事があるのだから仕方がない。リコー将棋部は自由でありたい。アマノイワトの神様の故事にあるように、合宿を面白いものしていけば自然に参加者も増えるだろう。外部の方も内部の人もどうか一緒に楽しい合宿になるように、みんなで盛り上げていきましょう。私は、2割くらいは外部の方が居た方が刺激にもなり、異なる文化が流れ込んでくるので、活性化して良いと思う。

 

 A級は小学六年生で、研修会Cクラスにはいっている伊藤康了(やすのり)君が優勝した。田中、佐々木(猛)、樋口、ライエルを破っている。いずれも持ち時間をあまし、あっさり勝っている。準優勝は、ライエル、私はライエルにまたしても負けたため三位、以下吉中、小野三枝子さんという順。伊藤君は、これでリコー内のレーテイングがだいぶ上がるだろうから、次回が楽しみだ。是非みっちり鍛えてこれからも参加してほしい。

 B級は、優勝土肥、準優勝滝山昭男、以下安宅、槙、中沢。

 全部で11人の参加となった女性たちも、大いに活躍し、楽しい合宿だった。夜のペア将棋は、雪のためにできなかったが、お楽しみは次回までとっておくことにしよう。外部から参加してくれたみなさん、どうも有難うございました。

 冬合宿は、雪に警戒しながら計画を立てることにしよう。合宿委員のみなさん、お疲れさま、そして有難う。楽しかった。大雪のハプニングも、すでに懐かしい。

  

(完:記01年2月3日)


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