イベントレポート

府中将棋祭り

〜〜〜羽生さんと彰子さん〜〜〜

年月:2000年6月4日(日曜日)10時30〜夕方

場所:府中市「グリーンプラザ6F」

リポータ:西田文太郎 e-mail : nishida@cs.ricoh.co.jp

ナマハブにナマナカクラ

 

 暑くはなってきたけれど、まだまだ余裕の行楽日和、京王線はラフな格好をした学生達や、親子連れが多く、ほのぼのしてくる。府中駅は、広く、大きい。目指すグリーンプラザは直ぐにわかった。歩道橋から、名前が見えるのだ。

 10時半ぎりぎりに会場に着くと、前の二人は、葉書を持って並んでいる。しかし、なにもなくても、同じ入場料の800円で入ることができた。会場は、ざっと150人くらい入れそうだ。前の方は、既に埋まっている。しかたがないから、空いている席で一番前を探すが、まん中辺にぽつんと一つだけ見つけることができた。小学生くらいの子供がちらほら来ている。やはり、子供がいれば将来が明るいので嬉しくなる。

 

 インターネットに熱を上げるのと同時に、95年から将棋に熱を上げ初めて、羽生さんの前人未踏の七冠達成を見て、ますます将棋の魅力にどっぷり浸かっている。羽生さんが近くに来るときは、できるだけナマハブを見ようと、いそいそとでかけていく。

 それに、わりと恥ずかしいので内緒なのだけど、中倉姉妹の隠れファンで、近くで姉妹をみられるときは、やはりいそいそと、出かけていく。

 

 

何故、ここに

 

 羽生善治七冠、堀口弘治六段、中倉彰子女流一級の紹介があり、府中市長や関係者の挨拶などが流れる。私は、今日は挨拶が短くてなかなかよいなあと思いながらも、当然上の空。

 何故私はここにいるのだろうと、もう一人の自分が聞いてくる。なんのためにここにいりのか・・・こんなことをしている場合かよと、聞かれる。そのたびに、じゃあ何をしろっていうのだと口答えしてみる。

 

 自分が本当にやりたいことと、今ここにこうしていることと、違うことだという違和感がつきまとう。どうせ、自分のやりたいことなんかできっこないととぼけてみる。もう五〇年も生きてしまって、何一つ自分を誇れるものがないというのはすこし悲しい。逆に自分の好きなことばかりをやってきたように見えるはっぱふみふみの大橋巨泉の本が売れているという。まあ、ひとはひと、自分は自分、本のひとときでも感動をえることができれば、ここに来た甲斐があるというものだ。

 

 だいたい挨拶などというくだらないことを発明したやつがいるから、こういうくだらないことをぐずぐず考えてしまうのだ。だから、挨拶は短い方がいい。

 

羽生の飛車落ち戦

 

 アマ四段の岡本真一郎さんが席上対局で、羽生さんに飛車落ちで挑戦する。羽生さんは、薄い水色のダブルのスーツ。

解説は堀口六段、聞き手が中倉彰子さん。バイオレットのスカートに、同系統の色のシャツがお洒落だ。

このコンビは、さすがに師弟だけあって、息が合っている。堀口さんから連盟が力を入れているインターネット将棋対局の宣伝を切り出すと、中倉さんが自分も時々ハンドルネームで対局していると応じる。羽生さんがアマ名人の瀬川さんと前アマ名人の田尻さんと二面指しの角落ち戦で勝った話とか、海外普及の話をしている。「さばき」というのを英語でどういったらいいのかとか、「大局観」は、どうやったらつくのかといった話も冗談交じりで、盛り上がる。

実は、対局中の岡本さんは、彰子さんが、妹の宏美さんとともに手ほどきをしてもらった師匠だとのこと。

 局面は、右四間飛車の定跡形に進む。がっちり組み上げて、下手が六筋から桂交換を強要する。やがて右の銀が4六に出て上手が4五歩と押さえる。ここで、候補手は5七銀引き、6五歩、その他の三卓で、次の一手の出題があった。正解はその他の6五銀の進出。6四歩と上手に押さえられるので、無理筋のような気がしたが、6七桂が、好手で、下手優勢がつづく。正解者はわずか10人くらいだった。局後の解説で、この辺は、羽生四冠推薦の所司六段の近著駒落ちの本に出ているという。

 その後上手は、飛車取りに銀を打ち、桂を跳ねてきて成銀と成桂で、ねちねちとやってくる。局後の羽生さんの解説によれば、その後も下手に何度かチャンスがあったが、ことごとくかいくぐって、上手の勝ちとなった。

 下手にとって最善手を続けることは至難の業だ。いつかどこかで間違えると上手はそれを見逃さない。羽生さんは、上手は必ずどこかで図々しいことをやらないと勝てないと言う。

 

羽生さんの名人戦解説

 

 折しも名人戦は、第五局が終わったばかりで、佐藤名人が三勝二敗とリードを奪ったところだ。その第五局を中心に例によって歯切れのいい羽生節を聞くことができた。

 丸山さんは、先手なら角換わり、後手なら8五飛車戦法と決まっている。この二つを駆使して、A級順位戦を勝ち上がり、名人戦に挑戦している。先手佐藤名人で、横歩取りの指し手を進める。8五飛車には、さすがの羽生さんも、最初は、成立する手とは思えなかったという。高飛車というのもあまり良い場合には使わない。

 佐藤名人の対策が注目されたが、三局目は、6八玉で勝ったが、その直後に丸山さんが先手で6八玉をやって負けているから、佐藤さんは、捨てたのだろう。今回は5八玉に構える。さらに、4六歩から4七銀を目指す。

 △7六飛車と後手が横歩を取ったところまでは、一局目と同じ進行。一局目は▲7七桂だったが、今度は▲8八歩の新手。この辺は先手が危ないところだという。△2五飛車と回って、見応えのある難所にさしかかる。歩と金が向かい合ってお互いに、取ると悪くなると言う。

 ▲6八銀を予想したが、これは△3九角という筋の悪い手がかなり有効で、なかなかうまく行かない。しかし、▲4八角と打てば、難しい。更に、△1五桂と打つ手がある。すると先手の飛車が詰んでしまうが、今度は、後手玉が危ない。とまあ、変化の変化が複雑なので、手数は短いがものすごく読みの入っている将棋だという。

 だから、一時間二時間の長考は当然。佐藤名人が二筋で歩と金がにらみ合った状態から▲7六歩と玉の退路を開けたとき、△7三桂と跳ねた。遊び駒の活用で、普通なら良い手だが、この戦形は常識が通用しないと言う。この辺に、丸山敗因ありとの見解。

 そのあとも、王手飛車が二度も出てきて、佐藤名人のいわゆる緻密流の読みが功を奏した。

 次は、角換わりと決まっているが、丸山八段はこの二年半で、先手角換わりを持ってこの前初めて負けた。あの勝率からいくと連敗は相当考えにくいと言う。

 

 羽生さんは、堂々としかもはっきり解説をする。近代将棋七月号で、青野九段が、「実戦青野塾」の冒頭で、解説は難しいとかわからないと言ってはいけないと書いている。それくらいなら、素人でも言える。だから、プロとしてはっきり言うことが大切だという趣旨で、私が普段思っていることを、論旨明快に自戒を込めて書いている。今期二度目のA級順位戦は、青野旋風が吹き荒れると嬉しい。

 

指導対局

 

 指導対局は、事前に申し込んでいる人の中から公開抽選をするという。羽生さんが10面指し、堀口さんが7面、中倉さんが3面指し。何故ここにいるのかという悪魔のささやきから逃れるため、この辺で、引き上げることにした。

 (完:記00年6月4日)

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